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亡国の姫


 大樹の村には、馬、ユニコーン、ペガサスがいる。


 獣人族の女の子を中心に世話をしているのだが、数がそれなりに増えたので人手不足気味だった。


 その人手不足を一部の天使族が解消してくれた。


 ありがたい。


 ブラッシングやたてがみの手入れ、蹄鉄ていてつの手入れとなんだかんだ手がかかるからな。


 ペガサスにいたっては、翼の手入れもあるし。


 ユニコーンのなかには手入れを嫌う個体もいるが、基本的には手入れしないと見た目がすごく悪くなる。


 ブラッシングをしないと肌の病気にかかりやすいし、鬣を放置すると伸びて視界の邪魔になる。


 蹄鉄は拒否してもかまわないが、爪や足の裏の手入れはさせてほしい。


 爪をやっちゃうと、走ることにも支障がでるしな。


 手入れは嫌がらせではなく、お前たちのためなんだぞ。


 俺はブラッシングしかできないけどな。


 ブラッシングの腕もそれほど上手いわけでもない。


 獣人族の女の子たちの手伝いとして覚えた程度だ。


 そんな俺のブラッシングでもかまわないと何頭かの馬が寄ってくる。


 よしよし。


 あとで差し入れのメロンをやるからなー。


 ブラッシングではなく、オヤツで釣っているともいう。


 もちろん、俺のところにこなかった馬たちにも渡すけどな。



 天使族は馬の世話に手抜きがない。


 かなり慣れている。


 鬣とか編んでるし。


 なぜだろう?


「綺麗な馬にまたがる美男や美女。

 絵になりますよね」


 ま、まあな。


「そういうことです」


 そっか。


「あと、私たちもメロンを食べても?」


 もちろん、かまわないぞ。


 休憩時間に食べてくれ。


 メロンだけでなく、ほかの果実も用意しているから遠慮なくどうぞ。


「ありがとうございます」



 獣人族の女の子たちの馬の世話は……


 ベテランだな。


 馬がよく指示を聞き、並んで待っている。


 ふざけたりする馬もいるが、それは馬同士で。


 手入れをしている獣人族の女の子たちを相手にふざける馬は、ほとんどいない。


 獣人族の女の子たちが食事を握っているから?


 いや、たしかに獣人族の女の子たちは馬たちに食事を与えるが、馬たちは牧場エリアの草を自由に食べることができる。


 馬たち用の畑もあるしな。


 だから、食事を握っていることだけではないだろう。


 ではなにか?


 それはもう、信頼関係だろう。


 獣人族の女の子たちによる愛情たっぷりの世話と、それを受けた馬との。


 うん。


 そうに違いない。


 ……


 馬よ。


 俺がそう納得したんだから、獣人族の女の子たちの怖さを長々と語るんじゃない。


 叱られるのは、ふざけるからであって……


 そういえば、さっきふざけて水桶をひっくり返していたな。


 だから普段は来ないのに、俺のところに来たんだな。


 俺を盾にしても、どうしようもないぞ。


 あ、逃げるんじゃない。






 屋敷でまったりしている午前。


 俺はヨウコに呼び出され、五村に向かった。


 かなりの緊急らしく、ナナが呼びに来たぐらいだ。



 五村の村議会場に到着。


 村長の執務室……を通りすぎ、謁見えっけんの間の準備室に。


 謁見の間なんてあったのか?


 知らない部屋だぞ。


 わかったわかった。


 偉そうな服に着替えるのね。


 でもって、謁見の間での俺の席はどこだ?


 真ん中の偉そうな席ね。


 そういった席に座るのも慣れた。


 抵抗はしない。


 俺の右隣の席にヨウコが座り、ナナは侍女服に着替えてそのヨウコの近くに控える。


 ……あれ?


 それだと俺の補佐は誰がしてくれるの?


 俺は自由にやっていいのか?


 助けを求めて周囲を見回すが、壁際にいる俺の護衛のガルフ、ダガ、レギンレイヴは目を合わせてくれなかった。


 仕方がない。


 流れに身を任せよう。



 さっきも言ったが、こういった席に座ることにも慣れた。


 謁見の間にやってきた三人組。


 中央の七~八歳ぐらいの女の子が今回の主賓しゅひんで、その一歩後ろの左右に控える三十代ぐらいの男性二人が従者か護衛だろう。


「拝謁の機会をいただき、光栄にございます」


 女の子が頭を下げる。


 対してヨウコが返事。


「遠路の旅。

 ご苦労であった。

 申し出があってから、こうして会うまでに時をかけたこと。

 改めてすまなかった」


 ヨウコが謝る?


 なにか失態があったのか?


 それなら報告があるよな。


 とりあえず、俺は……座っているだけでいいみたいだ。


 女の子とヨウコが二言~三言の会話をして、後ろの男性の一人が出した手紙を……ナナが受け取り、ヨウコのもとに。


 そして、ヨウコは手紙を広げず、そのまま俺に渡す。


 読んだほうがいいか?


 この場では受け取るだけで、さっと流すのね。


 了解。


 俺はもらった手紙を、いつのまにかいたヨウコの秘書の一人に渡した。


 女の子とヨウコがさらに二言~三言の会話をして、謁見終了。


 三人が謁見の間から出ていった。


 ふう。


 終わった終わったと気を抜いたら、ナナにヨウコの執務室の一つに案内された。


 そこにはヨウコが座っていた。


「急な呼び立て、すまぬ」


 ヨウコが今回の件を説明してくれた。



 まず、女の子を代表としたあの三人。


 人間の国、ゴズラン王国の王族一行だそうだ。


 女の子が第三王女で、三十代の男性二人はその親類。


 従者や護衛ではないそうだ。


 ゴズラン王国は周辺国に比べて大きいが、お世辞にも大国と呼べるような国ではないらしい。


 そのゴズラン王国は他国からの侵略を受け、国を追われて放浪していたそうだ。


 それで五村に来たのか?


「ティゼルのアドバイスでな」


 ティゼルの?


「うむ。

 放浪中に出会ったそうだ。

 あの王族の姫が病気でしているところにティゼルが遭遇して、治療したと」


 治療……ああ、世界樹の葉か。


 旅に出る前に多く持たせた。


「そのときに、逃げるなら魔王国の五村を目指すように言ったらしい」


 それでここに来たわけか。


「うむ。

 それで、さっきの手紙だが……ティゼルからの手紙だ」


 そうなの?


 それなら、しっかり読んでおかないと。


「読んでもらいたいが、それよりも先にあの姫たちの事情を聞いてもらいたい」


 なにかあったのか?


「んー……」


 ヨウコが少し困った顔で説明してくれた。



 ティゼルは治療後、姫たちに逃げるなら五村に逃げるように勧めた。


 治療された姫たちは、その言葉に従いたいと考えたが金がなかった。


 陸路で魔王国に向かうのは厳しく、海路はそれなりの乗船賃が必要となる。


 そこでティゼルは、手紙を五村に運ぶことを条件に金を渡した。


 姫たちは手紙をたずさえ、五村に向かったと。


 ふむ。


 ここまでに困る要素がないな。


 ティゼルは人助けをした感じだ。


「うむ。

 ティゼルに問題はない。

 問題があったのは……五村だ」


 ?



 五村に到着した姫たちは、ティゼルの手紙を渡す相手、五村の村長に会おうと面会予約アポイントメントを取ろうとした。


 姫たちは小国なれども王族であるから、そういった予約をしたなら優先的に処理されるのだが……


 当人たちは国を追われている身であり、さらには五村になにか頼むわけでもなく、手紙を届けに来ただけなので王族と名乗らなかった。


 それゆえ、一般客として扱われ……


 約四十日ほど、待たせてしまった。


 四十日!


 どうしてまた、そんなに?


「我なら数日で会えるのだが、恩人から預かった手紙を渡す相手が村長であったため、我では駄目だと言ったようでな……」


 あー……


 すまない。


 俺がもう少し五村にいれば。


「いや、そこは責めておらん。

 これまで通りでよい」


 そ、そうか?


「うむ。

 それで話を戻すが……姫たちは五村に滞在しているあいだにティゼルからもらった金が尽き、困り果てた」


 もともと放浪中で、頼れる相手のいない魔王国。


 とりあえず、同じ人間がやっているということだけを頼りに、ゴロウン商会に借金を申し込んだ。


 ゴロウン商会は金を貸すなら相手のことを知らねばと姫たちの事情を詳しく聞き、手紙の差出人がティゼルと判明。


 ゴロウン商会が慌ててヨウコに連絡を入れたと。


 あの謁見は、王族に対しての最大級の礼というわけか。


 え?


 村長が一国の王族にあれでよかったのか?


「かまわん。

 それに、手紙を受け取って、はい終わり。

 というわけにはいかんだろ」


 たしかに。


 謁見をしたので姫たちは上客待遇。


 現在の姫たちは村議会場にある客室に案内され、食事をふるまわれている。


「待たせているあいだに、かなり極貧生活をさせてしまっていたようでな……」


 あー……


「それと、謁見に出たのは三人だが、総勢で五十人となる」


 国を追われての放浪中なら……そうなるか。


 残りの者は?


「こちらの手配した宿で休んでもらっている。

 もちろん、代金はこちらが支払う予定だ」


 わかった。


 それで、俺はどうすれば?


「とりあえずは五村から姫たちに報酬を出したいのだが、その額を決めてもらいたい」


 ふむ。


 待たせたからには、できるだけ多く渡したいが……


「そうもいかんであろう。

 あと、姫たちの今後もある。

 五村で生活するのか、それともどこか別の場所を目指すのか。

 姫たちと話し合う必要もある」


 そうだな。


 まあ、それは姫たちの食事が終わったタイミングでだな。


「うむ。

 それと、ティゼルからの手紙に、姫たちのことに関してなにか書かれているかもしれん」


 ありえるな。


 わかった。


 手紙を読んでみるが……ヨウコは読んでないのか?


「娘から父親に宛てた手紙だ。

 先に読めんであろう」


 すまない。


 急いで読むよ。





ゴズラン王国の第三王女 914話の「征服王」で話題になっていた姫のことです。

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― 新着の感想 ―
ひゃっはー!新鮮な文官だ囲め囲め
放浪の文官団か 確保ーーーー まぁ、王族を一ヶ月以上待たせたのはちょっとまずいかねぇ
アルフレートは、ルーとハクレンが大樹の村内での根回しを済ませていてウルザが実質的な婚約者だけど、アルフレートとウルザが認めれば第二夫人の座もあり得るかもね。
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