新しい悪魔
●登場人物紹介
ヴェルサ 古の悪魔族。始祖さんの奥さん。
ブルガ 古の悪魔族。ラスティの侍女ポジション。
スティファノ 古の悪魔族。ラスティの侍女ポジション。
ラナノーン ドラゴン族。ラスティの娘。8歳ぐらい。
ククルカン ドラゴン族。ラスティの息子。2歳ぐらい。
ジークフリートから出てきた女の子の名が決まった。
クリム。
ヴェルサがちょっと長い占いをして決めた。
悪い名ではないと思う。
そして権能は《希望》らしい。
これは、なぜか俺がつけたことになっている。
いやいや、ヴェルサがクリムが《絶望》の娘だって言うから、じゃあ希望だなって俺が呟いただけなんだが。
それで権能を決めるのは安易じゃないか?
一生ものなんだろ?
違う?
いくらでも変わるし、追加もできる?
ヴェルサも何度も変わっている?
その程度のものだから、とりあえずの方向性ぐらいの感覚でいい?
ま、まあ、それならいいか。
名と権能が決まったことで、クリムの姿がはっきりした。
五歳ぐらいの女の子。
髪は黒で足元近くまで伸びているストレートのロングヘア。
頭部には小さい巻き角。
最初は全裸だったが、いまはザブトンが作った服を着ている。
子供用の浴衣。
なぜと思わなくもないが、ちょっと前に俺の浴衣を作ったからかな。
足元もしっかりと下駄だ。
長い髪の毛をポニーテールにして、なかなか似合っている。
ただ、村はこれから冬に向かうので、温かい服も……
言わなくてもたくさん用意されていた。
さすがザブトン。
そしてこのクリムの世話だが、ヴェルサからヨルに変わった。
理由は一つ。
クリムが指を鳴らすと、地面からジークフリートが出てくるから。
ただ、以前のジークフリートが十メートルぐらいだったが、いまは三メートルぐらいになっている。
小さくなった原因は、俺が耕したからだろう。
すまない。
いや、でも、暴れたから。
俺を睨んでも仕方がないだろ。
そしてヨル。
クリムを甘やかすのはいいが、なんでもかんでも受け入れるのはよくないぞ。
とりあえず、室内でジークフリートを呼ぶのは止めさせるように。
ちなみにだが。
ヨルが目覚め、ジークフリートが消えたことを伝えたとき、暴れると思ったのに冷静だった。
とても静かだった。
だが、その後の言動が……なんというか……子を失った大型の獣? みたいな雰囲気だった。
近づいてはいけない。
触れてもいけない。
そう思わせる。
だが、この状態のヨルをヴェルサやクリムと会わせてはいけないと思い、頑張って誘導したのだが……
ヨルは引き寄せられるようにクリムのもとに。
クリムを見た瞬間、ヨルは失った子と再会したかのような喜びよう。
なぜだと疑問に思ったが、ヨルの抱擁から逃げようとしたクリムが小さいジークフリートを呼び出して理解できた。
そして、理解した俺を放置し、ヨルはそのまま小さいジークフリートを抱擁。
クリムは小さいジークフリートのなかに逃げようとしたけど、乗り込み口を閉める前にヨルに捕まり引きずりだされた。
クリムはヴェルサに助けを求めたけど、ヴェルサはそれを無視してクリムの世話をヨルに任せた。
ヨルは喜んで世話を引き受けた。
そのときのクリムの絶望した顔は、直視できなかった。
希望を失った子供の顔は、その、えっと、心が痛くなる。
し、しかし、ヴェルサだと教育に不安があるから、ヨルに任せたのは英断なのでは……………………………………駄目か?
い、いや、大丈夫…………………………という根拠がない。
しかし、不満気なヴェルサより、やる気があるヨルのほうが適任か?
あー、クリム。
ヨルが駄目だったら言ってほしいんだが……
………………
クリムがヨルを盾にして俺から逃げた。
ヨルより俺のほうが怖がられていることに、ちょっとへこんだ。
さて。
ヨルがクリムの世話をすることになったが、ヨルには温泉地の転移門を管理する仕事がある。
クリムの生活の拠点をどこにするかの話になった。
屋敷には空き部屋があるから遠慮することはないと誘ったのだが、クリムがヨルのところでと願ったので温泉地に。
当面はいまのヨルの家で暮らしてもらう。
多少、狭いだろうけど家を改造したり建てるのにはちょっとタイミングが悪い。
来年の春以降だな。
ベッドやシーツ、椅子と食器類は予備が大樹の村にたくさんあるので、好きなのを持っていってもらう。
クリムの食事に関しては、ヨルがなんとかするらしい。
大樹の村から食材は渡せるので、大きな問題にはならないだろう。
クリムの勉強に関しては……
姿は五歳で生まれたばかりだが、そこらの大人顔負けの知識を披露。
必要ない。
しかし、他者とのコミュニケーションは必要。
ヨルとだけでは孤立する。
なので、温泉地にいる死霊魔導士と一緒に大樹の村に通い、ほかの子供たちと一緒に勉強することに。
勉強を一緒にする子供たちにはすぐに受け入れられた。
喧嘩をすることもあるが、ちゃんと仲直りしているそうだ。
村の子供たちのリーダーをしているガットの娘のナートからは、暴れないし、爆発もしないし、飛んで逃げたりもしない、とてもいい子との評価。
……
今度、暴れたり、爆発したり、飛んで逃げる子について、教師陣と話し合おう。
その教師陣であるハクレン、グーロンデ、そして死霊魔導士からのクリムの評価は高い。
大人顔負けの知識があるからかなと思ったら違うようで、なんでも生徒に紛れた教師というポジションで、ほかの子供たちの勉強を誘導してくれているそうだ。
もちろん、ほかの子供のプライドを傷つけない形で。
すごい。
クリムは悪魔族に分類されるが、四村のクズデンたちとはちょっと違う。
ブルガやスティファノとも違うが、どちらかと言えばブルガたち寄りらしい。
だからか、ブルガやスティファノにはよく甘えている。
同時に、ブルガやスティファノの近くにいるラナノーンやククルカン、空飛ぶ絨毯とも仲よくやっているらしい。
喧嘩するよりはいいが、ククルカンがクリムを新しい姉と思っているようだとブルガに言われて、どうしたものかと考えてしまった。
ま、まあ、それは問題ではない。
問題なのは……
ヨルに子供ができた感じになり、ベルが嫉妬の炎を燃やしていること。
私にも、と俺にプレッシャーを与えてもどうしようもないと思うのだが?
ヴェルサに言うべきではなかろうか?
あ、俺に悪魔の像のサンプルを彫れということか。
ただ、ヴェルサが言うには、俺が彫ったからってクリムみたいなのが毎回、出てくるわけじゃないらしい。
まあ、出てきても困るから悪魔の像はサンプルも本番もしばらくは自粛なんだが。
そう言ったら、ベルから違うと怒られた。
余談。
悪魔の像のサンプル。
ここにクリムの魂が宿ったようだが、これをどうするかで少し悩んだ。
このまま放置していいのだろうか?
それとも処分?
判断できなかったので、ヴェルサに相談した。
なにかが宿ることはもうないので、普通に飾っておけばいいと言われた。
どこに飾るか迷っていたら、ヨルから悪魔の像のサンプルはクリムの母みたいなものだと言われ、温泉地に設置するように提案された。
たしかにと納得したので、悪魔の像のサンプルはヨルに譲渡。
好きに飾ってほしい。
クリムのベッドの近くに置く?
もちろんかまわないぞ。
女の子の寝室に飾る造形じゃないと思うが……それは言わないでおいた。
太古の悪魔《絶望》 →美術品を守る悪魔としてプラーダ美術館に。
サンプルに宿った魂 →ジークフリートに移り、クリムとして受肉。ヨルのもとに。
ベル 「ヨルばっかりずっこい!」




