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閑話 美術品を守る悪魔


 我は……悪魔。


 遥か太古を生き、仲間を率いて戦いを続け、そして満たされて死んだ……


 後悔はない。


 ……


 後悔はないんだけど、まだ死んでない。


 体は滅んで失ったが、たましいは残っている。


 不死性がなー……


 なかなか死ねないんだよなー。


 困ったもんだ。


 ただ、我は魂だけになっても力があった。


 それゆえ、我と同じような魂だけになった存在を集めてしまう。


 そういった無数の魂とともに、混ざりあい、けていくことで我は自我を失い、死に行くのだろう。


 数千年が経過して、魂の輪郭りんかくがかなりおぼろげになっている。


 あとどれぐらいだろうか?


 楽しみだ。


 そんなふうに考えながら、のんびりと微睡まどろんでいたら、無理やりにつかまれ固められた。


 わけのわからん石……黒炎石こくえんせき


 強大な魔物のむくろが結晶化したものではないか!


 それを加工し……像を彫っているのか……そこに我の魂を刻みつけている?


 なにをやっている!


 ちょ、そこの人間、我、我の話を聞くのだ!


 聞くのだ!


 聞けっ!


 聞いてっ!


 くそっ、なんて集中力!


 いや、ひょっとしてこやつは聖人か?


 悪魔の声は耳に届かない的な?


 それは種族による差別だと思います!


 どんな相手だろうと、話し合い!


 そう、すべては話し合いから始まるものではないでしょうか!


 ……


 ちょっとは反応しろっ!


 こっちは悪魔が話し合いとか言ってるシュールな状況で気を引こうとしているのに、無視はずるいだろ!


 そっちがこっちを認識できるのはわかっているんだ!


 そうじゃなきゃ、混濁こんだくした魂のなかから的確に我だけを掴めない!


 ほらほら、なんでも言うことを聞くからさー。


 ほしいものはないのか?


 異性にモテたいとか?


 ……


 ふう。


 わかった。


 こっちを完全に無視するわけだ。


 よかろう。


 ここまで我を怒らせた愚か者は久しぶりだ!


 えーっと、何千年ぶりだな!


 後悔してももう遅い!


 我を怒らせたことを悔やんで……


 んー……なにー、その槍ー?


 殺気に反応するのは、ずるくなーい?


 でもって本人は無視のままって……


 わかった。


 殺気は封印。


 槍よ。


 主になんとか言ってくれんか。


 駄目?


 集中してるときは聞いてもらえないと。


 そっか。


 ……


 誰か、助けてぇぇぇっ!


 見知らぬ人間に、なにかされてるのー!



 冷静になった。


 どれだけ助けを求めても、誰も応えてくれないから。


 冷静になるしかなかった。


 くっ、我の精神の強さが恨めしい。


 だが、冷静になることで人間を……いや、人間が彫っている像を観察できた。


 人間が彫っている像は……


 悪くない。


 ふむ。


 強そう。


 腰が細すぎるのがちょっと気になるが、角が大きいのはいい。


 悪魔は角の大きさを気にする。


 大きいほど素晴らしい。


 武器をいっぱい持っているのは好感が持てる。


 いろいろな攻撃ができるからな。


 ……


 ひょっとして……


 そう、ひょっとしてだがこの人間。


 我を復活させようとしているのではないだろうか?


 それは……


 よいことか?


 よいのか?


 我、よみがえっても許される?


 かなり暴れたぞ。


 地上に降りた魔の神が引くぐらいに。


 そんな我を、求めるということか?


 この人間は!


 人間、見どころがあるではないか!


 はははははははははっ!




 美術品を守る悪魔。


 それが我の新しい名だ。


 古き名は捨てたというか、上書きされた。


 もう思い出せない……


 いや、未練みれんはないけどな。


 そんな我の新しい権能ちからは、美術品を守ること。


 我のあらゆる能力が、それに特化して調整されている。


 かまわない。


 使いにくくはあるだろうが、そんなものは使い方次第だ。


 文句はない。


 文句があるのは、我の体に関して。


 我の体は像。


 巨大な黒炎石を彫って作られた像。


 我を蘇らせるには悪くない。


 が、その像。


 出来がよすぎた。


 美術品だ。


 我の新しい権能との相性はとてもいい。


 さらに、美術館にいる状態だとあらゆる攻撃を防ぐ。


 神の攻撃すら防げると言える。


 あ、本気の神の攻撃は無理だからな。


 下のほうの神のたわむれ的な攻撃なら大丈夫。


 弾き返してみせよう。


 これのどこに文句があるのかと?


 動けないことだ。


 我、美術品を守る悪魔。


 美術品を害する者には、あらゆる攻撃が許される。


 美術品を勝手に動かすのは、攻撃対象。


 理解はできる。


 それゆえに、美術品である我は勝手に動けない。


 動いてはいけない。


 なんじゃそりゃっ!


 希望を!


 復活の希望をみせておいて!


 動けない!


 なにこの絶望!


 い、一応、動く方法は……手段はある。


 美術館から出たらいい。


 そうすれば美術品は、我は動ける。


 だが、我を美術館から出すのは厳しいだろう。


 我の位置も、美術品として扱われるから。


 動かそうとすると我は抵抗する。


 してしまう。


 となると、残る手段は我が納められている美術館が壊れることだ。


 美術館が美術館と認識できないほど壊れたら、我は動ける。


 しかし!


 そう、しかし!


 我の権能で美術館を守ってしまっている。


 だって守らないと美術品が傷つくから!


 だから美術館が壊れることはない。


 絶対に。


 我は我の権能で、我を封じている!


 あああああああああああああああああああああああああああああっ!


 人間っ!


 人間っ! 人間っ! 人間っ! 人間っ!


 やってくれたな!


 人間っ!


 悪魔より悪魔だ!!!


 すごいぞ!


 驚いた!


 ここまで悪魔な者と出会ったのは初めてだ。


 ああ、あの貧弱だった人間が……


 なんたる成長!


 我が死んでいるあいだに、ここまでの者が生まれるとは!


 よかろう!


 人間っ!


 我は万年、この美術館で美術品を守ってやろうではないか!


 はははははっ!


 魂のまま、微睡まどろんでいるよりは刺激がある!


 ん?


 動かずにどうやって美術品を守るのか?


 なに、美術品を害する者の精神には攻撃できる。


 持っている武器を振るえないのが残念だが……



 おや?


 そこにいるのは《金貨》か。


 久しい。


 おお、《箱》に《音》に《文字》まで。


 軟弱な姿になってしまっているが、魂は変わらんなぁ。


 ははは。


 ん?


 悪魔族の祖、絶望さま?


 ああ、そうか我の前の権能は《絶望》だったか。


 ふふふふふふっ!


 それを自身が受ける。


 ふひひひひひっ!


 楽しい、楽しいぞ!


 動けんけどな。


 ああ、お供えは受けつける。


 供物くもつ台を用意せよ。


 からいのは苦手だから、甘いのがいいな。


 にがいのは絶対に止めよ。


 振りじゃないぞ。


 嫌がらせと受け取るからな。




 後日。


《英雄》が《慈愛じあい》と《恩愛おんあい》を率いてやってきた。


 はははははは。


 相変わらずの三人組だな。


 ああ、怯えるな怯えるな。


 我はなにもせん。


 お主らと最初に会ったのは……我が死んだあとだったな。


 それは、会ったと言っていいのかな?


 まあ、細かいことだ。


《英雄》は力を求めておったなぁ。


 懐かしい話でもするか。




 さらに後日。


 魔の神に従った《不変》が来た……


 魔の神がいるときは敵対していたが、いまの我に敵意はない。


 動けぬ姿を笑われると腹が立つがな。


 ん?


 ああ、いまはヴェルサを名乗っている?


 覚えておこう。


 そうだ、《不変》がここに来たのも運命。


 一つ頼まれてくれんか。


《不変》ならできることだ。


 無理にとは言わん。


 断ってもよいぞ。


 いやいや、我は過去の話をべらべらと話す趣味はない。


 そのような卑劣な真似はせん。


 約束しよう。


 ただ、懐かしい者が訪れるとつい口が軽く……


 うむ。


 すまんな。


 なに、そう難しいことではない。


 我を作るに際して、人間が見本サンプルを持っておった。


 ここにはない。


 美術館のなかにあれば、我はわかる。


 ゆえに、見本は我を作った人間が持っていった。


 あれも美術品だが、制作者が持ち出すのは止められん。


 その見本だが、我の近くにあったからか、もしくはあの人間の力か、我の分体が宿った。


 うむ。


 生まれたばかりなのに、動けぬ像に宿ったままでは哀れだ。


 早急に見つけ、人形ひとがたに移してくれまいか。


 可能ならでかまわん。


 無理なら無理で、それは運命。


 ん?


 我を作った人間を知っている?


 世話になっている?


 おお、なんたる好都合!


 では、頼んだぞ!


 報告はいらん。


 我は寝ておるだろうからな。


 ふふふ。


 我はこれまで、ずっと微睡まどろんでいたのだ。


 なのに、急に起き続けるのとか無理だから。


 ゆっくり体を……いや、精神を慣らさないと。


《不変》はいいタイミングで来てくれた。


 そろそろ寝ようと思っていたところ。


 なに、寝ておっても美術品は守る。


 それぐらいの力があるのだ。


 この体には。


 ははは。


 では、また数百年後にでも会おう。


 あ、お供えものは常時受けつけ中だから。


 寝てても大丈夫だから。


 よろしく。




《金貨》 プラーダ

《箱》  カティ

《音》  ルディオ

《文字》 シャルネ


《英雄》 グッチ

《慈愛》 ブルガ

《恩愛》 スティファノ


《不変》 ヴェルサ


今回は出てないけど。

《病魔》 ベトン




●絶望さまの歴史

人や亜人が生まれたころに生まれる。自分の担当を考える。

人や亜人が繁殖しだしたころ。《絶望》担当として頑張る。

魔の神が地上に降りる。魔の神と敵対する。ヴェルサと知り合う。魔の神に破れ死ぬ。魂は残る。

4000年前。《絶望》の概念として頑張る。

2000年前。そろそろ魂の輪郭が薄れてきた。世俗を忘れ微睡む。(プラーダやグッチとはこのあたりでの知り合う)

現在。《美術品を守る悪魔》に新生。

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― 新着の感想 ―
腐変…
村長の隠れ被害者がまた一人 魂を込める(物理)は草はえる 錯乱したり、人間の成長を楽しんだり、 新たなる権能に喜んだり 愉快そうな中の人である まぁ、大分擦り切れておられるから まどろみの中でいら…
古の悪魔族にはそれぞれ《権能》があるようですけれど・・・ヴェルサにメイドとして仕えているエルメやコリー、ハーキンも名前からして古の悪魔族のようですけれど、彼女たちの《権能》はなんなのでしょう?。 エル…
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