小型の飛行船
多目的人型機動重機、一号機、ジークフリート。
部品を全て使って戻っていた。
よかった。
しかし、動かない。
その原因も判明。
奇妙な形の部品と思われていたのは、砕けた部品だったようだ。
つまり、壊れていた。
砕けた部品はかなり重要な部品だったらしく、それを交換すれば動くこともわかった。
交換?
回収した関連部品にはなかった。
ジークフリートを作ったメーカーがいまだ健在ってことはないだろう。
残る手段として考えられるのは、ほかの多目的人型機動重機からその部品を持ってくることだが……
二号機、三号機、四号機、五号機は動く。
ちゃんと動く。
そんな機体から部品は取れない。
部品を自作するのは……
現在の技術では不可能と、山エルフたちは結論を出している。
研究を何年続けたらできるかも想定できない。
基礎となる技術がまったく足りないそうだ。
だから、ティアのゴーレム生成技術で形は真似できても、性能がまるっきり満たせないとのこと。
俺の感覚で考えると、壊れた部品は電気製品の基板。
緑色の板に回路がプリントされて、よくわからないのが載ってるやつ。
基板の形だけ真似したところで、材質だなんだがめちゃくちゃなら基板としては役に立たないということだろう。
そして、いまの俺に、なにもないところから電気製品の基板を作れと言われてもお手上げだ。
知識不足、材料不足、技術不足。
なるほどなるほど。
さらばだ。
ジークフリート。
「諦めるのは早いです」
ユーリがそう言って、俺の前に地図を広げた。
プラーダが持ってきた資源分布図だ。
「私はここに書かれている文字は読めませんが……ここが羽魔水晶の産地で、ここに多目的人型機動重機があったのですよね」
そ、そうだな。
「こちらに、同じ文字があります」
たしかに、そこにも羽魔水晶と書かれている。
遠いから考慮しなかった場所だ。
「こちらにもあるのでは?
保存状態のよい多目的人型機動重機が」
か、可能性としてはたしかに……
「幸い、このあたりはプギャル伯爵が寄り親をしている貴族の領地です。
各種委任状が揃っていますので、探索に行っても問題ありません」
……
け、検討しよう。
「よろしくお願いします!」
秋の収穫と武闘会があるから、最速でも冬になってからだろうけど。
ここ最近は多目的人型機動重機に力を入れているが、冬への備えもしっかりしないといけない。
油断すれば酷いことになる。
急に大雪になったり、大吹雪になったりするからな。
屋敷はもちろん、作業小屋や牛や馬、山羊や鶏などの飼育小屋をチェック。
保存食を作ったり、薪の備蓄をしたりもしないといけない。
個人的に、倉庫が備蓄で一杯になるのは嬉しい。
食料とかは腐らせないように使っていかないといけないけどな。
冬服?
ザブトンの子供たちが冬服も用意しないといけないと、俺を採寸する。
こう言ってはなんだが、俺はかなりの衣装持ち。
俺の衣装専用の部屋が屋敷に何ヵ所もあるんだが……
やたらと肌にピッタリな生地を持ってくるな。
関節部の柔軟性に頭を悩ませているし。
あ、関節部だけ材質を変えることで動きを制限しないわけね。
へー。
じゃなくて、これってパイロットスーツのインナーじゃないか?
冬になると冬眠するから今のうちに作っておきたい?
股間部は脱着式にするから、恥ずかしくないと言われても……わかったわかった。
いつも世話になっているからな。
正式にパイロットスーツを発注しよう。
俺がそう言ったら、パイロットスーツ作りに参加するザブトンの子供たちが増えた。
あ、ザブトンも参加するのね。
よろしく頼む。
大樹の村で、飛行船が建造された。
飛行船トロワローズ号を参考にしたが、同型ではなく、かなり小さい飛行船だ。
浮遊ガスを満載したラグビーボール型の気嚢は、トロワローズ号にある三つの気嚢のうちのもっとも小さい気嚢をさらに一回り小さくした感じだ。
トロワローズ号の客室部は四階建てのビルみたいな大きさだったが、新造の飛行船の客室部は大型の車ぐらいの大きさ。
操縦する一人が座る部分と動力部、あとは小さな倉庫だけだからな。
五村で飛行船を製造するときのサンプルとして、機能の説明ができればいいと割り切ったからだ。
だから操縦者の交代や、積載量は考慮されていない。
それがよかったのか悪かったのか、試運転で新造の飛行船はかなりの高速性能を発揮した。
「動力はトロワローズ号より小さいですが、客室部という重りを減らしたからでしょう」
地上から観測する山エルフが、そう説明してくれる。
「あの速度なら、飛行する魔獣や魔物から逃げられる……か微妙なところですね」
新造の飛行船はかなりの速度で移動しているが、それは飛行船と比べて。
天使族や万能船が追いかけたら、普通に追いつく。
「護衛は……天使族のみなさまに一緒に飛んでもらうか、ザブトン殿のお子さまを乗せるぐらいしか手がありません」
ザブトンの子供たちは嫌がらないだろうけど、大半が冬眠するぞ。
「天使族のみなさまも、トロワローズ号の運行に多く関わってもらいますしね」
安全な場所でしか飛行できないな。
「そうですね」
そういった状況で……あの新造の飛行船、どうやって五村に運ぶんだ?
五村で飛行船のサンプルにするつもりだったんだろ?
「……」
トロワローズ号に比べて小さいとはいえ、飛行船は飛行船。
客室部は大型の車サイズだが、気嚢はその何倍もの大きさだ。
転移門では運べない。
たぶん、始祖さんやビーゼルの転移魔法でも無理だろう。
ガスを抜いても一緒。
気球じゃないんだ。
気嚢部分は萎んだりしない。
「そ、村長から、手の空いているドラゴンにお願いしてもらえませんか?」
わかった。
そうしよう。
「あと、村長のほうから万能船に……」
わかっている。
新造された小型の飛行船に対し、万能船はどう接するか悩んだ。
俺としては新しい妹でいいと思うんだけど、なぜか自分の子という方向に進み始めている。
手遅れになる前に、なんとかしよう。
ちなみに、試運転で小型の飛行船を乗り回しているのは、万能船の船長をやっているトウ。
多目的人型機動重機には興味がないけど、飛行する物を乗り回すのは好きみたいだ。
楽しそうでなにより。
でも、ユーリや魔王が地上で順番待ちをしているから、そろそろ降りてきてほしいかな。
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