ユーリの話と提案
魔王の娘、ユーリ。
彼女は魔王国管理員として、五村を拠点に各地で活動している。
魔王国管理員は魔王国の代官のいない街や村を管理するのが仕事。
なので、各地を移動している。
五村にいるときは、大樹の村に来て食事とかしているんだけどな。
いないときは半年ぐらい大樹の村に来なかったりする。
「収穫を手伝えず、申し訳ありません」
いやいや、そっちはそっちで仕事をしているんだ。
気にするな。
「ありがとうございます。
それと厨房馬車。
大変、助かっています」
厨房馬車とはキャンピング馬車の小型廉価版だな。
ユーリの提案で、魔王国軍に納入している。
巡回部隊用と聞いていたが……
魔王国管理員の護衛を兼ねて、巡回部隊も一緒に行動しているそうだ。
なるほど。
「五村やシャシャートの街での食事に慣れると、それ以外の場所での食事が辛くて……」
みたいだな。
アルフレートからも、そう言われている。
「そうですか。
そうそう、私が向かった先でウルザさんと会いましたよ」
ウルザと?
元気にやっていたか?
「元気でしたよ」
そうか。
まあ、それはそれで心配だが……
なにか問題を起こしたりはしていなかったか?
「………………」
なぜ微笑んだままなんだ?
「えっと……ウルザさんから連絡とか、来てたりは?」
来てない。
「そうですか。
では、その連絡をお待ちいただくのが……」
知っているなら教えてほしいんだけど?
心の準備はしたいし。
「えっと……城を落としてました」
……
「城を落としてました」
き、聞こえなかったわけじゃないんだ。
え?
城?
え?
「あ、城と言っても廃城ですよ。
廃城。
最新鋭の城とかじゃないです」
そうか。
そうだよな。
廃城ってことは、ほぼ城として防御能力がない城か。
「いえ……管理する者がいないだけで普通に城としての機能は残っています」
……
「そういった場所に盗賊とかが住みつくと面倒なので、巡回部隊が定期的に見回っていたのですが……見回りの隙をつかれてしまったようで」
盗賊が占拠したと。
「恥ずかしながら」
で、ウルザたちがその盗賊たちをやっつけたということでいいのかな?
「そうですね」
そうかそうか。
盗賊退治か。
危ないことをしているなぁ。
叱らないと。
人の役には立っているけどな。
そういった危ないことは専門の人にお任せするべきだと俺は思う。
……あれ?
でも、盗賊退治だと問題を起こしてないよな?
殴っちゃ駄目な人を殴ったりしたのか?
「いえ、それはないのですが……その、さっきも言いましたが、城を落としまして……」
うん、盗賊が不法占拠していたから、そこから追い出したということだろ?
「最終的にはそうなっています」
?
俺とユーリに、認識の違いがあるな。
えーっと。
「盗賊は千人ぐらいいました」
……
「ウルザさんたちは西側から城に火をかけて、東側から突撃して城を落としました」
つまり、千人の盗賊が籠っている城に突撃をしたと。
「そうなります。
管理する者がいない廃城ですが、だからと言って燃やしていいわけではなく……しかし、軍と言ってもいいほどの数の盗賊に占拠されていたわけなので、全てを盗賊のせいにしてうやむやにという方針で調整していました。
まとまればウルザさんから報告が入るかと」
……………………
「話題を変えましょうか」
うん、そうだな。
詳しくはウルザの報告を待とう。
あ、ウルザたちに怪我はないんだよな?
「ええ。
一切の怪我はありませんでした」
そうか、よかった。
あ、話題の変更を。
「ええと、そうそう。
プギャル伯爵なんですが、すごかったんですよ」
すごかったとは?
「王都に寄った私の前に登場するとき、三階くらいの高さの部屋から飛び出して空中でこう、くるくるっと何回も回転して……着地と同時に私に礼をし、委任状を預けてきましたから。
その迫力に、理由も聞かずに受け取ってしまいました」
そ、そうか。
前にプギャル伯爵がベトンさんと戦ったとき、武闘家みたいな戦いをしていたとプラーダやエルメが言っていたな。
すごく動ける人なんだなぁ。
仕事もできるみたいだし。
文官娘衆にいるプギャル伯爵の娘のクラカッセは、あまりプギャル伯爵を評価していなかったが……
仕事場と家庭で、見せる姿が違うのだろうか。
今度、クラカッセにプギャル伯爵のことを詳しく聞いておこう。
あ、そうだ、多目的人型機動重機。
魔力が多いと動かないんだって?
「ええ。
ああいった古い物は、その傾向があります」
どうしてなんだ?
「いろいろと理由があるらしいのですが……あれ、強そうですよね」
そうだな、強そうだな。
「その強いものが、外部からの魔法で操られたら困ると思いません?」
困るな。
「はい。
なので、外部からの魔力を受けつけないようにしているらしいのです」
なるほど。
悪意を持った者に勝手に操作されても困るか。
「一人で何十機も同時に操作とかですね」
あー。
「そして外部からの魔力に対処した結果、内部からの魔力の影響を強く受けるようになってしまったらしいです。
多目的人型機動重機の場合は、パイロットの魔力ですね」
影響を受けるとどうなるんだ?
「自我を持ったり、暴走するらしいです。
詳しくは知りませんが」
あ、そうか。
魔力で自我。
箱や、空飛ぶ絨毯。
あと、万能船がそうか。
それと暴走に関しては、ちょっと前に猫が暴走させた子供の玩具を思い出す。
「なので、内部……パイロットの魔力が多いと動かなくなる安全装置があるそうです」
そういった理由だったのか。
だから魔力が多いと動かないと。
そして、魔力が多い人でも動かすためのパイロットスーツか。
そんなこと、よく知ってたな。
かなり古い時代の話なんだろ?
千年とか二千年前の話のはずだ。
「古典によく出てきますから」
古典か……なるほど。
勉強家だな。
「いえ。
趣味が高じただけです」
多目的人型機動重機の操作ができたのは?
「それも古典に。
詳しく書かれてますよ」
古典……侮れないな。
「古きには学ぶことが多いです」
そ、そうだな。
「それでなのですが、古典には多目的人型機動重機同士の戦いが書かれていました。
五村でやりませんか。
私、パイロットやりますよ」
それは見てみたい気持ちもあるが……
まずは多目的人型機動重機の調査をしないと。
関連部品のほうも調べないと駄目だし。
「それが終わってからで、かまいませんから。
やりましょう」
わかったわかった。
ヨウコと相談しておくよ。
まあ、一回はやれるだろう。
二回目以降は問題の有無や評判次第だな。
パイロットスーツ、早めに回収に行ったほうがいいのかな。
ルーやティアも、パイロットスーツの魔力を抑える機能に興味を持っていたようだし。
ただ、羽魔水晶の劣化を抑える効果の研究もしたいと言っていた。
うーん、新しいことがいろいろとあって、悩ましい。
村長 「箱や空飛ぶ絨毯。あと、万能船がそうか」
死霊魔導師の剣「自我のある剣のクエンタン! クエンタンをお忘れか!」