試験報告と調査報告
夕食後。
天使族の運行スタッフ代表から、単独運用の試験の報告が行われた。
運行に問題はなし。
護衛に関しても、飛行中は問題なし。
落下した多目的人型機動重機を回収する際に戦力不足となり、ザブトンの子供たちやスアルロウに救援を求めたことが問題となった。
もちろん、ザブトンの子供たちやスアルロウが助けたことが問題なのではない。
救援を求めたことも、自身の戦力を把握できていると評価されている。
意地を張って被害が出てからより、的確な判断だったと言える。
問題とされているのは、地上の魔獣や魔物に対しての戦力不足。
今回は落下物の回収だったから、落下物を諦めて上空に逃げる手段が残っていた。
しかし、不時着した場合と考えると戦力不足は困ると。
なるほど。
しかし、常にザブトンの子供たちやスアルロウに乗ってもらうわけにはいかないだろう。
「スナイプスパイダー数匹でかまいません」
スナイプスパイダーはザブトンの子供たちの進化系で、その大半は洋菓子店フェアリーフェアリの護衛をしている。
今回の試験にも数匹、同行してもらっていた。
「一匹でも十分ですが、それだと休憩ができないと思いますので」
そうだな。
わかった。
ただ、ザブトンの子供たちを飛行船に常駐させるかどうかは、ザブトンの判断次第だ。
ザブトンに聞いてみるよ。
「よろしくお願いします。
それと、航路が決まれば、その航路に沿って地上の魔獣や魔物の討伐を定期的に行えば、安全性は増すと思います」
それはそうだな。
しかし、勝手に討伐隊を送ることはできない。
航路はプギャル伯爵やその関係者の領地を通ることになるだろうから……
航路を決める前に、プギャル伯爵に相談するとしよう。
討伐隊が行けるか行けないかが、航路を決めるときに重要になるかもしれないからな。
……
「どうされました?」
いや、最近こういったことを考えると、プギャル伯爵から手紙とか委任状を預かったビーゼルがやってきたからな。
さすがに毎回ではないか。
そう思ったら、食後のお茶を楽しみつつ俺との対談を待っていたユーリが手をあげた。
「すみません。
プギャル伯爵の関係領内での戦力の運用に関する委任状を預かっています」
その委任状を俺に届けるため、ユーリは昼前に大樹の村にやってきたそうだ。
運悪く、俺は多目的人型機動重機を回収するためにライメイレンに乗って出かけたから会えず、そのまま村に残っていたらしい。
待たせてすまない。
そして委任状、助かる。
プギャル伯爵に礼や返事は……
「不要とのことです」
いつもどおりか。
わかった。
俺はプギャル伯爵からの委任状を、俺の背後に控えていた鬼人族メイドに渡して話を戻す。
討伐隊の派遣に、大きな問題はなくなった。
俺は天使族の運行スタッフの代表に、航路が正式に決まれば定期的に討伐隊の派遣を行うことを伝えた。
「よろしくお願いします」
単独運用の試験の報告は以上。
天使族の運行スタッフの代表は俺に一礼し、少し離れたテーブルで待っているスアルロウのところに向かう。
護衛の代表をしている天使族もいるから、飛行船での行動に関しての評価をするのだろう。
俺が受けた報告だと、叱られることはないはずだ。
頑張れ。
次はベルから調査報告を受ける。
ベルはまず、帰還が遅れてしまったことを謝罪した。
その点は多目的人型機動重機を落とすというトラブルがあったのだから、仕方がないんじゃないかな。
「いえ、持ち帰るのは二機ではなく一機と強硬に主張していれば……ヨルに流された自分が許せません」
そ、そうか。
思いつめないようにな。
それで、劣化していない原因はわかったのか?
今回、ベルが飛行船に乗ったのは多目的人型機動重機の保存状態がよかった原因を調査するため。
持ち帰った四機も動くことから劣化していない現象は確認できたのだろう。
「はい。
やはり、羽魔水晶が原因のようです」
ベルは羽魔水晶が捨てられていた場所、羽魔水晶が採取できる採掘場、羽魔水晶が採掘できない採掘場などを調査し、多目的人型機動重機やその関連部品の状態を確認。
「詳しくは後日、資料を提出しますが……
簡単に言えば、周囲に羽魔水晶が多いほど劣化が抑えられています」
なるほど。
「キッシンリーの飛行船が現在も運用に耐えられる状態なのは、飛行船の近くに羽魔水晶があったからかもしれません」
考えられるな。
「隠していたときの状況を詳しく聞きたいと思います」
キッシンリー夫妻はミヨのところにいるんだ。
好きなタイミングで聞きに行ってくれ。
「ありがとうございます」
それで、持ち帰った四機の多目的人型機動重機はどこにあったんだ?
関連部品も?
俺が行ったときは、羽魔水晶を含む鉱石が捨てられている場所にジークフリートがあったが……
「底です」
底?
「はい。
羽魔水晶を含む鉱石が捨てられている場所の底に横穴がありました。
そのなかに」
横穴?
あ、そうか。
そのまま底にあったら羽魔水晶を含む鉱石の重量で潰れる。
無事だったのは横穴にあったからか。
「はい。
四機の多目的人型機動重機は二号機、三号機、四号機、五号機と仮称しました」
一号機は……ジークフリートか。
しかし、羽魔水晶を含む鉱石はかなりあっただろ?
実際にどれだけの深さがあったかはわからないが、少なくともジークフリートが埋もれるのだから十メートル以上の深さはあったはず。
ジークフリートを発見したときの試掘隊の推測では、五十メートルぐらいあるのではないかと言ってた。
今回、調査に行ったメンバーだけだと、掘り返すのも難しいと思うが?
「そこはヨルの頑張りで……」
力技か?
「いえ。
飛行船を使って鉱石を運び出しました」
なるほど。
「あと、現地には羽魔水晶を含む鉱石……羽魔水晶がありますので、浮遊ガスを作って小さな気球で」
おおっ。
賢い。
「ザブトン殿のお子さまたち、天使族のみなさま、試掘隊の方々には、かなり手伝ってもらいました」
わかった。
俺からも感謝を述べておこう。
「よろしくお願いします」
調査作業員として行った、四村の悪魔族と夢魔族はどうだったんだ?
「もちろん、頑張りました。
ですが、それが今回の仕事ですので。
私のほうから褒めております」
そうもいかないだろ。
普段とは違う仕事をしてくれたんだから。
俺のほうからも感謝を。
「わかりました。
ありがとうございます」
で、最後になるが……その、ヨルはどうだった?
「頑張りましたよ。
ゴミ捨て場の鉱石を全部、掘り返すと言ったときは、どうしようかと思いましたが」
そうか。
「その気迫は、まるでそこに宝があるのをわかっている探検家のようで……」
事実、見つけたわけだしな。
「あの熱意を仕事に向けてもらえると助かるのですが」
そう言ってやるな。
本来の仕事をさせているわけじゃないんだから。
ヨルの本来の仕事は、四村での兵装管理。
しかし、いまやってもらっている仕事は温泉地の転移門の管理人という名の門番。
合わない仕事をさせてしまっている。
「気にしないでください。
文句を言っていますが、なんだかんだ気にいってやってますから」
そうなのか?
「ええ。
嫌なら身代わりを立てて逃げます」
身代わり……ああ、トウみたいにか?
トウは万能船の船長がやりたくてヨルを身代わりにした。
「そうです。
本来なら、そういったことはよろしくないのですが……」
いやいや、合わない仕事を無理に続けて潰れられても困る。
わかった。
ベルも我慢しないようにな。
「私はそれなりに自由にやらせてもらっていますから。
不満などありません」
それならいいんだ。
あー、それでそのヨルなんだが……
俺とベルは、少し離れた場所のテーブルに伏せているヨルを見る。
置いてきた二機の多目的人型機動重機を回収し、村に戻ったあとにダウンしたヨル。
目を覚ますと、多目的人型機動重機が動いていた。
ヨルは多目的人型機動重機を発見した場所でも乗ったそうだが、そこでは動かなかった。
動かない理由がわかったのですかと山エルフたちに詰め寄って聞くと、動かない理由はユーリが知っていた。
「こういった昔の物は、魔力が多すぎると動かないんです」
なので意識して魔力を抑えるか、抑えるためのパイロットスーツを着用すると。
ユーリはそう説明して、また多目的人型機動重機を乗り回した。
ヨルもなるほどと別の多目的人型機動重機に乗ったが、動かない。
まったく動かない。
天使族やハイエルフたちも駄目だった。
山エルフたちは……なんとか歩かせる程度に動かせた。
「パイロットスーツ!」
ヨルは叫んで関連部品を漁ったけど、見つからない。
見つかるわけがない。
そういった物よりも、多目的人型機動重機の部品を優先して持ち帰ったから。
向こうには衣類関連もあったが、まったく目をやらなかったらしい。
ヨルは嘆いた。
だが、幸運にも。
そう幸運にもザブトンの子供たちがデザインの参考にするために、衣類を一着分、持ち帰っていた。
それをルーが調べたら、着用者の魔力を抑える効果があるのでパイロットスーツだと判明した。
ヨルはザブトンの子供たちに頼み込み、そのパイロットスーツを借りて着用。
多目的人型機動重機に乗った。
しかし動かない。
なぜですかと叫ぶヨルと、だろうなぁと思う周囲の面々。
ヨルが着たパイロットスーツは男物で、ブカブカだったから。
パイロットスーツの隙間から魔力が漏れまくっているからだと、魔力に詳しくない俺でも簡単に予想できた。
そして、ヨルはテーブルに伏した。
さすがに、もう一回行きましょうと言うのは憚られたのだろう。
ベルが止めたのかもしれないが……
「しばらくはあのままで。
ここのところ、暴走していましたから」
……わかった。
まあ、タイミングをみてパイロットスーツを回収しに行くことになるんだろうなぁ。
ユーリ「なぜ魔力が多いと動かないかの説明は次回です!」