心配するより応援
アルフレートのことを村のみんなに相談した。
ハクレンを送り込んで、村の力を見せつけたら解決するということでまとまった。
……
えーっと、世の中のお父さん、お母さんの苦労がわかった。
経験豊富な祖父母のありがたさとか。
相談できる者がいるって大事だな。
うん。
あ、リアたちよ。
俺がハクレンを送り込みそうにないからって、リアたちを送るわけじゃないぞ。
準備しないように。
天使族も。
久しぶりに暴れられるって、アップを開始するんじゃない。
クーデル、角は大切にしまっておきなさい。
ヨル。
ダイダロスやジークフリートの出番はないから。
第一、ジークフリートは動かないんだろ?
ダイダロスは、どうやって運ぶつもりだ?
万能船は出せないぞ。
遠いから。
でもって門番に戻れ。
改めて。
ハクレンを送るつもりはない。
まったく、ハクレンをなんだと思っているんだ。
しかし、俺の常識と世間の常識が違うことは認識している。
力を見せつけるのが解決策とするのは悪いことではないのか?
ルーは抵抗があったみたいだけど。
息子のためとはいえ全面戦争の狼煙をあげるには、向こうに知り合いが多すぎると。
なるほど。
……
力を見せつけたら全面戦争になるじゃないか!
駄目だろ!
だからこそハクレンで、最初の一撃で上下関係をわからせると?
初撃が大事と。
……
悪くないのかもと思ってしまった俺は、毒されているのだろうか。
いやいや、駄目駄目。
そんなことをすれば、ハクレンの評判が落ちるだろ。
そう言いつつも、こうも考える。
ハクレンだけじゃないなら、いいんじゃないか?
たとえば、ドースとかギラルとかに同行してもらうとか。
え?
いや、人間の国を征服するわけでも、人間を滅ぼすわけでもないぞ。
ただ、初撃が大事って言うから……
ドースとギラルって、そこまで暴れるの?
二人して腕相撲をしているイメージしかない。
あ、武闘会とかでは暴れてたか。
そうか。
あ、ライメイレン、ドースを差し出さないで。
グーロンデやオルトロスのオルも、ギラルを差し出さなくていいぞ。
ギラルが困っている。
気持ちは嬉しいが冗談だから。
いや、相談に乗ってくれてありがとう。
アルフレートは向こうに行かないわけじゃない。
戻って来る頻度が多くなっているだけで。
そのあたりを心配しながら数日。
アルフレートがまた戻ってきた。
今回は調味料を確保に来ただけなので、すぐに帰ると言っているが……
俺はアルフレートの送迎をしてくれる始祖さんに、アルフレートのことを相談してみた。
「あー、その……すまない」
いやいや、謝ってもらいたいわけじゃなく……
「まあ、その、なんだ。
向こうに行きにくくなっていることには、気づいていたんだが……問題とは考えていなかった」
始祖さんは、なぜ問題と考えなかったかを話してくれた。
「まず、ことの発端は……
アルフレートくんには向こうで生活するための身分を与えようとしたことかな」
そのあたりは聞いている。
なにかしら身分や立場を与えないと、家を借りることも難しいからと。
「寝泊りはフーシュのところに任せたから、家を借りる必要はないんだけどね。
だけど、なにをするにも身分は必要となる。
それで、最初は僕の曾孫ってことにしようとしたんだけど、それって教会の上層部にしか通用しなくて……」
始祖さんはコーリン教の宗主ではあるけど、現在のコーリン教の表向きの仕事はしていない。
どちらかと言えば裏向きの仕事が中心らしい。
なので、始祖さんの曾孫としたところで身分の保証が難しい。
具体的には、名乗るたびにコーリン教の本部に問い合わせが発生する。
でもって、コーリン教のお偉いさんである始祖さんのところに、その話が来るのに数日はかかると。
たしかにそれだと困るな。
「ならばフーシュの子にしようと思ったんだけど、フーシュの家庭環境は広く知られているから直接の子ってことにはできなかったんだ」
フーシュはコーリン教でそれなりの立場なので、家庭環境は有名らしい。
そこに急に子がいるという話にはできない。
できてしまうと、フーシュの政敵にめちゃくちゃ狙われてしまうらしい。
「それで、無難な貴族の子弟の身分を用意しようとしたんだけど……」
アルフレートが、それを拒否。
俺の息子でかまわないと言ったそうだ。
……
おっと、目から汗が……
「でも、それだと困るんだ。
魔王国にある死の森の真ん中にある村の村長の息子って言っても、誰も信じないから。
あ、五村でも一緒ね。
魔王国のどこそこの誰ってのは、確認できないから意味がない」
そ、そうか。
「だけど村長の息子でありたいという気持ちは無視できない。
だから、関係王国の王に身分を保証してもらうことにしたんだ」
ん?
「簡単に言えば、国の一番偉い人の保証ということ」
な、なるほど。
「王がアルフレートくんのことを、魔王国にある死の森の真ん中にある村の村長の息子であると認めたら、少なくともその国では誰も文句を言えないからね」
たしかに。
そうだな、王に保証してもらうのは強いな。
「で、コーリン教の本部がある場所ってちょっと複雑で、三つの国が関係しているんだ。
一つの国の王だけに保証を頼むと残り二つから変に目をつけられるから、三つの国全部の王に保証をしてもらったよ」
え、えっと、お手数をおかけしています。
「いえいえ。
ところが、これで一安心と思ったところで、三つの国に身分を保証されたアルフレートくんを妬む人がでちゃって……」
妬む?
危ない人なのか?
「三つの国のそれぞれの王子。
年齢的にはアルフレートくんのちょっと上か、ちょっと下で……」
なんでアルフレートを妬むんだ?
身分を保証しただけで、褒めたとかじゃないんだろ?
「僕も不思議に思ったんだけど、部下の話だと……
コーリン教の上層部からの要請で、三つの国の王が揃って身分の保証をする者。
そんなの重要人物扱いになるでしょって」
王子たちと近い年齢のアルフレートがそんな扱いをされたら、王子たちも心が穏やかではないと。
「それで次の王になるつもりかと笑いたいけど、年齢が年齢だからね。
未熟で当然」
そうだな。
アルフレートもまだまだ未熟。
「そんななか、アルフレートくんを紹介するパーティが開かれて……
そこでアルフレートくんは王との問答で、村長を目指すって言っちゃったらしいんだよね」
おおっ、アルフレート……
「で、それを聞いたそれぞれの王子が笑っちゃったらしいんだ。
村長を目指すとは志が低いって。
もちろん、フーシュが絞めたらしいよ。
ぎゅっと。
物理的に」
え?
フーシュって、そんなに手が出やすかったの?
全然、そんなイメージがなかったんだけど。
「フーシュは、ルールーシーに恩を感じているからね。
そのルールーシーの息子であるアルフレートくんが笑われたら……
それぞれの王に、王子たちを庇うなら退位する覚悟で挑め、みたいなことを言っちゃったらしいよ。
もちろん、その場にいた僕の部下とかフーシュの部下とかフーシュの息子とかが止めて、ことなきを得たけどね。
あ、ちゃんと王子たちはアルフレートくんに謝っているから」
そ、そうか。
「この騒動で、重要人物扱いのアルフレートくんが、さらに重要視されちゃって。
それぞれの王や、その部下たちがアルフレートくんと繋がりをもとうと娘や妹を近づけるようになったのさ。
それで喜ぶアルフレートくんならよかったんだけど、そうじゃないから……」
あー。
「王子たちと揉めたこと。
見慣れぬ女性陣によるお茶会の攻勢。
そのあたりが原因で、アルフレートくんは向こうに足を運びにくくなっているんだと思ってたんだ。
だからそこまで問題とは考えなかった。
すまない」
なるほど。
たしかに、それなら問題とは思わないか。
アルフレートが遠慮している、という姿勢だもんな。
あ、フーシュは大丈夫なのか?
王子を絞めちゃったんだろ?
「そこは大丈夫。
コーリン教のほうが王家より上だからね」
そうなの?
「そうなんだ。
まあ、だからってなんでもかんでもできるわけじゃないけどね。
天使族と旧ガーレット王国の関係みたいなものさ。
コーリン教が三つの王家とその王国を導いている……みたいだよ」
みたいだよって、そこで一番偉いんだろ?
「僕が寝ているあいだにそうなっていたんだ。
僕の意思じゃないよ」
あー……そういうこともあるか。
「フーシュやコーリン教の話はまたにしよう。
いまはアルフレートくんの話だ」
あ、ああ、そうだな。
「さっき言った原因に加えてなんだけど、アルフレートくんは向こうで……
村長の息子ということを背負いすぎている気がする。
自分の行動で、村長の名に傷がつくことを恐れていたというべきかな」
……
「見慣れぬ場所で、そういった姿勢でいると伸び伸びできないだろ?
だから、これも足を運びにくくなっている理由だと思うんだ」
そうかもしれないな。
「それらを踏まえ……
前々から、村長からアルフレートくんに言ってもらいたいことがあったんだ」
俺が?
なにを言えばいいんだ?
「なに、そう難しいことじゃないよ。
そして、それで問題は解決……とまではいかなくても、前進はするんじゃないかな」
翌日の昼。
屋敷の前。
いつも通り、アルフレートの出発を見送る場だ。
そこで、俺はアルフレートと向かい合う。
アルフレートよ。
出発の前に言っておきたいことがある。
「なんでしょう」
始祖さんから、向こうでの様子を聞いた。
なにやら、自分らしさを抑えているようだな。
「そ、そんなことは……」
アルフレート!
自分らしさを抑え込んだら駄目だ。
それだとアルフレートが行く意味がない。
「で、ですが……」
周囲に迷惑をかけてもかまわない!
自分らしく動くことが大事だ!
「……よろしいので?」
よろしい!
「ほんとうに?」
くどい!
「おお……」
アルフレートの姿が、少し大人になる。
大学生……いや、高校生ぐらいか?
「この姿!
この姿でも大丈夫ですか?
自分らしくと言われたのに、偽りの姿をまとうのは」
かまわないんじゃないか。
自分らしくというのは、姿じゃない!
心だ!
「で、では、この姿で高笑いしてもかまわないと?」
場を弁えればな。
どこでも高笑いはよくないぞ。
びっくりするからな。
「ポーズを決めても?」
場を弁えればな。
急に立ち上がったり、場所をとるポーズを決めるのは迷惑だぞ。
あれ、ビクッてなるから。
周囲の状況をみて判断するように。
「言いたいことを言っても?」
言いなさい。
「指摘するのがマナー違反になるとしても?」
かまわん。
だが、指摘はその場ではなく、別の場所でさりげなくだ。
その場で指摘すると、恥をかかされたと思う者もいるからな。
「腹が立つ相手は殴っても?」
暴力はちょっと控えよう。
まずは話し合い。
話し合いが大事だ。
それに、無礼に対して暴力はわかりやすいが、無礼なやつは恨みを持ちやすい。
無礼ゆえに自分が悪いとか考えないからな。
「つまり、殴ったら確実に止めを刺せと」
そうだけど、殴らないのが一番だ!
ただし、お前の命が危ない場合などは遠慮するな。
全力で叩きのめしてしまえ。
ルーたちの話では、初撃が大事だそうだ。
「……父よ。
感謝します。
このアルフレート、学びを終えるまではこの地に足を運びません!」
あ、それは寂しい。
できれば半年に一回。
もしくは一年に一回は戻ってきてほしい。
ほら、ルーも強く頷いているだろ。
定期的に帰ってきなさい。
「しかし、ウルザやティゼルは戻っていない様子。
なのに私だけが……」
アルフレートはアルフレートだ。
そういったことは気にするな。
「……わかりました!
では、ほどほどに戻ります!」
頑張るんだぞ。
あ、いや、違う。
頑張らなくていい。
お前らしくあれ。
俺の言葉に力強く頷いたアルフレートは、始祖さんの転移魔法で始祖さんの国に向かった。
……………………
あれでよかったのだろうか?
始祖さんから頼まれた、アルフレートに言ってほしいこと。
それは我慢するなということ。
だからあんな感じの応援になったんだけど……
いまさらながら、すごく不安になってきた。
い、いや。
息子を、アルフレートを信じよう。
大丈夫。
翌日。
始祖さんの転移魔法で、アルフレートが戻ってきた。
え?
どうした?
なにかあったのか?
「向こうで料理店を開きたいと思います!
なので食材を売ってください!」
えーっと、正式な取引になるなら文官娘衆に言うように。
でも、身内割引はするぞ。
それと、料理店をするなら人手は大丈夫か?
料理をする者だけじゃ駄目だぞ。
「大丈夫です!
従えました!」
……
誰を従えたのかな?
まさか揉めた王子たちじゃないよな?
聞くのがちょっと怖かった。
でも、元気なアルフレートをみれてよかったと思う。
村長 「毎回、始祖さんにアルフレートを送ってもらうのは悪いなぁ」
ルー 「じゃあ、転移門を設置する?」
始祖さん 「さ、さすがにそれは止めてほしいかな……存在がバレると混乱が起きる」
アルフレート「ふはははははははっ!」
フーシュ 「今後はそのキャラで行くと?」
アルフレート「その通り!」
フーシュ 「ちょっと前までやってた優等生キャラは?」
アルフレート「あれこそ偽りの姿! 父の許可もあるので今後は全力でいきます!」
フーシュ 「……わかりました。私もおつき合いさせてもらいましょう」
フーシュ息子「お、お母さんが変なポーズを決めてるっ!」




