飛行船の航路と運行スタッフ
〇修正 2025/06/08
ハウリン村に領主がいない → ハウリン村には領主がいる
〇登場人物紹介
ギィーネル 混代竜族。六竜神国の代表。
メットーラ 混代竜族。ダンダジィの名で混代竜族最強だった。ギィーネルと結婚。
ロベルト 吸血鬼。ギィーネルの部下にして友人。フローラの知り合い。
ナーシィ 人。獣人族ガットの妻。
ナート 人。ガットとナーシィの娘。
学園長 魔族。魔王の奥さん。ユーリの母。
シルキーネ 魔族。フラウの母。
ルィンシァ 天使族。ティアの母。
リグネ ハイエルフ。リアの母。
試掘によって、浮遊ガスを発生させるための羽魔水晶はたくさん手に入った。
商会に頼んでいた特大サイズの羽魔水晶は不要になったけど、そのまま注文を継続。
ベルの仮説が正しければ、使い道が増えるからな。
それに、商会も急に注文中止は困るだろう。
幸いにして村の資金は潤沢だ。
こういったところでケチるのはよろしくない。
注文を途中で取り止めない依頼主、という信頼を買っていると考えよう。
浮遊ガスの確保に成功したので、飛行船の運行方法を決めたい。
まあ、あまり遠くにやると万能船が寂しがるので、当面は大樹の村とハウリン村の交易を中心にやってもらいたい。
ただ、大樹の村とハウリン村の交易量だと一月に一回ぐらいでも多い。
なので、いずれはハウリン村からほかの村や街へと航路を繋げたいのだが、問題がある。
交易が可能な村や街には、それを管理している領主がいる。
領主がいない大樹の村や、領主はいるが独立して交易ができるハウリン村が特殊なのだ。
……
どうしたアルフレート。
大樹の村やハウリン村の領主は俺?
いやいや、大樹の村はともかくハウリン村を領地にした覚えはないぞ。
変なことを言っちゃ駄目だ。
試掘隊が聞いたら、気を悪くしてしまう。
それより、アルフレート。
始祖さんの国に行かなくていいのか?
収穫は終わったのに、ずっといる気がするんだが?
気が重い?
文化の違いに困惑している?
うーん、俺としては無理なことをする必要はないと言いたいが、親としては甘やかしてはいけないところだろう。
ここはビシッと……
母親に相談するようにアドバイスしておいた。
これは逃げではない!
適材適所!
話を戻して、領主がいる村や街との交易は、事前準備というか相談が必要。
勝手にやると揉める。
おもに税で。
最大の障壁なんだよなぁ。
税。
経済がわかっている領主なら安くしてくれるんだけど、わかってないところは儲けの半分を寄越せとか平気で言ってくるらしい。
物々交換だから儲けはないと言うと、交換した物を半分、置いて行けとか。
無茶苦茶な話だが、複数の文官娘衆から聞いたことなのでほんとうなのだろう。
文官娘衆たちの意見では、魔王直轄領の村や街ならそういった心配もないのでお薦めだそうだ。
では、そういったところに航路を定めたとしよう。
次の問題がある。
領空侵犯だ。
そういった概念はないのだろうけど、領地の上空を勝手に飛ぶと文句が出る。
場合によっては通行料を払えと言ってくる。
面倒。
そして、飛んでないのに飛んでいたと難癖をつけて通行料を求めてくる。
とても面倒。
そういった面倒を避けようとすると、航路も限定される。
どうしたものか。
悩んでいたら、ビーゼルがやってきた。
そして、魔王国での無制限通行証を渡してくれる。
これは?
「プギャル伯が村長に渡すため、根回しして獲得したものです。
ご活用ください」
ええっと……
ちょっと前から、プギャル伯爵の準備が良すぎる気がするんだが……
予知能力があったりするのか?
「そういった能力を持っているとは、聞いたことがありません」
そ、そうか。
まあ、これはありがたく受け取っておこう。
「ありがとうございます。
それと、こちらが交易に関しての免税を記したものです。
魔王国内での交易にかかる税は、全て免除されます」
これもプギャル伯爵が?
「はい」
となると……飛行船での交易では、プギャル伯爵の領地を優遇しないといけないな。
「そういった配慮は不要と申しておりましたよ」
そう言うだろうな。
しかし、こちらが勝手に優遇しているだけだから気にしないように伝えてくれ。
「承知しました。
プギャル伯やその派閥の領地に関して、娘のフラウに伝えておきます」
すまない。
頼んだ。
さて、飛行船の航路に関しては目途がたった。
次は……
運行スタッフだな。
大樹の村とハウリン村を行き来するあいだは山エルフたちでいいだろうけど、それ以外の場所へ行くとなると専用の運行スタッフを用意しないといけない。
誰にしようかと村の会議で相談したら、後日に立候補があった。
天使族だ。
天使族は飛行船を受け入れていたので、悪くはないのだが……
天使族には飛行船の護衛を頼もうと思っていた。
そのあたりを素直に伝えると、護衛は護衛で天使族から立候補がいるらしい。
つまり、運行スタッフも天使族で、護衛も天使族と。
そういうことか。
「飛行船は天使族にお任せください」
運行スタッフに立候補してくれた天使族がそう言って頭を下げた。
ティアやマルビットの許可は?
「もらっています」
わかった。
かまわないだろう。
だけど、飛行船は今後、増える可能性がある。
それらの運行スタッフの育成も任せたい。
「承知しました」
天使族以外の種族でも受け入れられるのか?
「もちろんです。
ですが、最初は五村やシャシャートの街からスタッフを募りたいと思います」
そうだな。
天使族に理解があるほうがお互いに安心か。
そのあたりは任せる。
当面は大樹の村とハウリン村を行き来するだけだが、頼んだぞ。
「お任せください」
これで運行スタッフも大丈夫。
あとは飛行船を新しく造ることに関してだが……
主力となる山エルフたちの興味が飛行船から多目的人型機動重機に移っている。
当面は無理かなと思っていたが、山エルフたちは飛行船のことを忘れていなかった。
飛行船の建造ドックを五村に依頼する計画書が、山エルフたちから出された。
なるほど、大事なところは山エルフが担当するけど、そうでもないところは五村の職人に任せようという構想か。
「一隻だけなら全てやりますが、増える可能性がありますので」
そうだな。
少なくとも俺は二~三隻を考えていた。
必要に応じて増えるとなると、建造に関わる人を増やしておいたほうがいい。
計画書はヨウコに渡しておこう。
「よろしくお願いします」
夜。
夕食後、ルーがやってきた。
アルフレートのことで話があるらしい。
「あなたは父親として対応に迷っているのかもしれないけど、私も母親の初心者だからね」
そうだな。
ルーに任せれば大丈夫だと思ってしまった。
すまない。
「謝る必要はないわ。
でも、一緒に相談していきましょう」
うん。
「それでアルフレートのことなんだけど」
始祖さんの国での食事が合わないことは聞いている。
文化の違いに困惑しているとも言っていた。
「それが……」
ルーからアルフレートの事情を聞いた。
なんでも、村長になると言ったら周囲の者から笑われた。
フーシュを「フーシュさん」と呼んだら「フーシュさま」だろと教会関係者から注意された。
女性の……香水の匂いがきつくて注意したいけど、それはマナー違反と止められたと。
それじゃあ香水をプレゼントするのはどうだろうと考えたけど、それは求婚と同じだと止められたと。
なるほど。
止めてくれたのは?
フーシュの息子ね。
ああ、ルーの薬で回復した。
元気そうでよかった。
それでアルフレートだが……ひとつひとつは小さい問題だけど、それが積み重なって居心地が悪い感じか。
「食事が合わないのは深刻みたいよ」
それなんだが、始祖さんやフーシュは向こうと村の食事の差は知っているだろ?
アルフレートが行く前に何度か相談をしたが、そのあたりは指摘されなかったぞ?
「あー、二人は宗教関係者だから」
?
「過食、美食は控えなさいと言う立場なの」
あ、あー。
そうか。
あれ?
でも、こっちに来て食べているけど、それはいいのか?
「供されるのはいいのよ。
受け取らないほうが失礼だから」
なるほど。
「まあ、コーリン教は、過食も美食も健康を害さない程度にって感じで厳しくはないんだけどね。
それでも食事を不味いと言うのは憚られるんじゃないかな」
ふむ。
「食事に関しては、アルフレートに料理を教えるようにアンに頼んでおいたわ」
アルフレートも料理はできるが、レパートリーが豊富というわけではない。
子供だからと油などは扱わせなかったしな。
うーん、アルフレートが始祖さんの国に向かうとき、村から同行者をつけなかったのが悪かったかな。
ウルザやティゼルと離れたことで、助け合える者や、弱音を吐ける相手もいない。
「いまからでも、誰かつける?」
そうしたいが……誰がいる?
始祖さんの国のことをある程度は知っていないと、逆にトラブルを呼びこんでしまう。
始祖さんの国のことをある程度は知っていて、アルフレートの味方になってくれそうな者となると……
フローラとか?
「フローラなら任せられるけど、アルフレートのためにならないわよ」
そうか?
「忘れているかもしれないけど、向こうじゃフローラも私と同じぐらいの有名人だからね。
メットーラの結婚式で来たロベルトって吸血鬼の態度でもわかるでしょ?」
あー、そうだった。
そんなフローラを同行させても、アルフレートの勉強にはならないか。
となると……
一村の住人。
一村の住人は、フーシュの紹介で移住してきた。
もともと始祖さんの国の住人。
始祖さんの国を知らないということはないだろう。
しかし、一村の住人は数が多くないうえに、大半が子供を持っている。
頼めば行ってくれるだろうけど、頼みにくいな。
「そうね。
あとは、逆になるけど……向こうをまったく知らない人はどうかしら?
ガットの娘のナートとか」
向こうを知らない人を連れていっても、困るだけだろ?
負担が増えないか?
「それよ。
忙しくなれば、余計なことを考えないんじゃないかな」
なるほど。
でも、そういった目的なら、よその娘さんを使うのはよくない。
自分のところからと思う。
しかし、年齢的に行く許可を出せるのは……
「リリウスたちか、トライン、ヒイチロウになるわね」
リリウスたちは五村で勉強中。
トラインも王都で勉強中。
残るはヒイチロウ……ライメイレンが許すと思うか?
「あなたの子よ。
許してもらう必要はないと思うけど……」
強行すると、ライメイレンも一緒に行く気がする。
俺の予想だが、アルフレートにヒイチロウとライメイレンをつけた場合、次の日ぐらいに始祖さんが困った顔で駆け込んでくると思う。
「私は行った日の晩だと思う」
……
よし、同行者の話はなしだ。
アルフレートが同行者を求めたら、改めて考えることにしよう。
「そ、そうね」
アルフレートのことに関しては、俺たちだけでなんとかしようとせず、誰かに相談しよう。
「たとえば?」
ティアとかリアとかセナとか……
「私と同じぐらいの母親経験しかないけど」
ヨ、ヨウコとかマルビットとかライメイレンとか……
「ハクレンさんあたりをけしかけて、こっちの力を見せつけたら解決するとか言いそうじゃない?」
…………
ナ、ナーシィとか、ガルフの奥さん?
「その二人は頼れるけど、アルフレートのことになると一歩引くから」
学園長とか、シルキーネさんとかは?
「立場と考え方が貴族なのよねー」
いろいろな人の顔を思い浮かべるが、駄目だなと思う。
ああ、違う。
相談相手は母親に限る必要はない。
魔王とかビーゼルとかマイケルさんとか、男親でもいいはずだ。
「そ、そうね。
その通りよ」
広く相談相手を求め、頑張っていこう。
「ええ、頑張りましょう」
そういうことになった。
ライメイレン「私の信頼度のなさはいったい……」
ドース 「そりゃ、頭に血が登ってエルフ帝国を滅ぼしたからだろ」
ルィンシァ 「相談されるの、待ってました」
リグネ 「相談されるの、待ってました」
ルー 「ハクレンさんあたりをけしかけて(以下、略)」
ルィンシァ 「そんな非道なことはしません」
リグネ 「しません」
ルィンシァ 「自分が乗り込みます」
リグネ 「その通りです」
ハクレン 「最近、大人しくしているのに流れ弾が当たるのはどうしてかなー?」