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夏の収穫と多目的人型機動重機


 大樹の村の夏の収穫が始まった。


 警備、子守、牛や馬、山羊や鶏などの世話などをのぞき、村の住人たちの作業は収穫が最優先となる。


 ダイコンの畑はドライムに任せた。


 ジャガイモ畑も、ザブトンやザブトンの子供たちに任せる。


 あ、試掘隊はいいんだ。


 鉱石から必要な鉱物の抽出に集中してくれ。


 ガットもそっちでいいから。


 アルフレートも、手伝ってくれるのは助かるけど、始祖さんの国に行ってもいいんだぞ。


 ヨルは……温泉地の転移門の門番に戻ってもらいたいのだが?


 収穫に関しては、ヨルよりもアラクネたちのほうが役に立つから。


「役に立たないからとやらないでいると、成長は見込めないと思います」


 素晴らしい姿勢だ。


 なにかやらかしたわけじゃないよな?


「いろいろと迷惑をかけたので、労働で返そうとしているだけです」


 それなら門番に集中してもらいたいが……


 手伝いたいという気持ちをむ。


 わかった。


 では、収穫した物を運ぶ仕事を頼む。


 畑に入った者が収穫物をかごや箱に入れるから、その篭や箱を畑の横にある荷馬車にまで運んで積む仕事だ。


 やれるな。


「頑張ります!」


 よし。


 頑張っての失敗はかまわない。


 だが、食べ物を扱っているということを忘れないように。


 頼んだぞ。


「はい!」


 収穫は大きな問題もなく順調に進み、十日ほどで終了。


 そして村は秋を迎え、俺は秋の収穫に向けての畑仕事を頑張った。





 一通りの畑仕事が終わったので、やっと時間が取れる。


 あ、いや、五村のヨウコに呼ばれていたり、シャシャートの街のミヨに呼ばれたりしているから、あまり時間はないんだけどな。


 当面の興味は、多目的人型機動重機アーティ・ホース


 収穫の手伝いを終えた山エルフたちの手によりジークフリートは解体され、現在はハンガーに吊るされながらも頭部や四肢が外され、バラバラになっている。


 ヨルはジークフリートのそんな姿を見たくないと涙を流したが……


 山エルフたちの質問や疑問には喜々として答えていた。


 ヨルがそれでいいなら、いいんだ。



 ベルは多目的人型機動重機を使ったことはないが、知識はあった。


 予想通り、多目的人型機動重機はベルたちと同世代の物らしい。


 なので、ベルに多目的人型機動重機のことを聞いた。


 ヨルじゃないのは、ヨルに聞くと歪んだ情報が入ってきそうだから。


 信用していないわけじゃないんだ。


 別の意味で信用しているから聞かないだけだ。


「では、村長。

 私の知っている限りですが」


 よろしく頼む。


「多目的人型機動重機は、さまざまな用途で使用することを目的とした乗り込み式の重機です。

 おもに魔法の力が低い者が、それを補うために使っていました」


 ふむ。


「人の手では難しい建築土木作業の現場で、活躍しました。

 また、一部は軍でも利用されました」


 強そうだからな。


「いえ、戦いませんよ。

 陣地構築がメインです」


 え?


「兵としても使えますが、役に立つとは言いがたいわけでして」


 そうなの?


「あれだけの大きさなので、一定の強さはあります。

 ですが、殴ったり蹴ったりは非常時の攻撃手段でして、そういったことは基本的にしません」


 えー。


「手は部品が多いですし、足はバランスの問題がありますから」


 殴ったあとは物が持てなくなるし、蹴ると高確率で転倒してダメージがあると。


「そういうことです。

 ですので、多目的人型機動重機が戦う場合、武器を持つのが基本となりまして、その強さは持つ武器によります」


 あの大きさだから、いろいろな武器を持てて便利なんじゃないのか?


「多目的人型機動重機に持たせて強い武器なら、陣地に設置しても強いわけで……」


 え?


 あ、あー。


「多目的人型機動重機に持たせないと運用できない武器というのは、ほぼありません。

 棍棒とかハンマーなどの単純な打撃武器だけです。

 それ以外の武器……たとえば射撃武器などを多目的人型機動重機に持たせても、弾の補給や整備が面倒になることのほうが多いです」


 い、いや、待て。


 手があるんだから、自分で弾の補給はできるだろ?


 面倒にはならないと思うが?


「射撃武器の弾の補給には慎重さが求められます。

 理由はわかりますか?」


 まあ、爆発の恐れがあるからだろ?


「そうです。

 なのに、それを多目的人型機動重機にさせるのですか?」


 ……武器を持って撃つわけだよな?


「ただ撃つのと、弾の補給はまったく違う作業です」


 撃つのは狙ってスイッチを押すだけ。


 弾の補給は安全装置を作動させて、保護(カバー)を外し、弾を正しい位置に入れてと、いくつもの工程があると。


 そういったのって工程を単純化したりしないのか?


 ワンタッチで弾倉だんそうを交換するとか。


「弾倉……弾を詰めたものですよね?

 ありますよ」


 なら……


「弾倉に弾を詰めるのは、誰がやっていると思います?」


 …………多目的人型機動重機が、ちまちまと弾を詰めているわけじゃないのは想像できた。


「さらに、多目的人型機動重機はあの大きさですからね。

 敵には狙われますし、整備もハンガーを作らないとまともにできません」


 兵として使うには不便と。


「素直に武器に足をつけたほうが、安価で強力なんです」


 そ、そっか……


「それに、多目的人型機動重機を兵として使うには、強力なライバルがいます」


 ライバル?


「ゴーレムです。

 従順で力持ち。

 無駄に大きくする必要もなく、状況によっては独立行動も可能。

 そしてなにより低コスト」


 ゴーレムかぁ。


「かたや、多目的人型機動重機は製造にも維持にも高コストがかかります。

 さらに性能を万全に発揮させるにはベテランの乗組員が必要」


 それを兵として戦場に出すのは効率が悪いと。


「後方で陣地を構築しているのが一番なんです。

 ゴーレムだと細かく指示しないと駄目ですが、多目的人型機動重機には誰か乗っていますからね。

 複雑な構造の陣地も作れちゃいます」


 なるほど。


「以上のことから、私としては多目的人型機動重機を重要視しなくてもよいのではないかと提案します。

 ヨルのことを考えてでしたら、手を引いていただいても」


 あー、いやいや、それだけじゃないから。


 多目的人型機動重機に使われている技術とかは、勉強になっている。


 それに建築土木には向いているんだろ?


「そうですけど……

 わかりました

 強くは言いません」


 すまないな。


「いえ。

 それと、あとは余談というか……多目的人型機動重機が活躍していた時代の話ですが」


 ?


「多目的人型機動重機は兵としては有効ではありません。

 ですが、なぜか妙に多目的人型機動重機に魅了される者たちが一部いまして」


 ヨルの同類か。


「やたらと多目的人型機動重機の高性能化を目指したり、魔法の力が十分にあるのにわざわざ多目的人型機動重機に乗ったり、多目的人型機動重機同士での戦いをみせる闘技場が開催されたりしていました」


 おおっ。


「多目的人型機動重機専用の武器の開発もされていましたし、理解には苦しみますが実際に戦場で使った記録も多数残っています。

 ですので、探せば多目的人型機動重機専用の武器が見つかる可能性はあります」


 そうか!


「ただ、どこまでいっても趣味の範疇はんちゅうで、コスト的には見合いません。

 金喰い虫です。

 ヨルが喜ぶ運用をすると、お金がどんどん減りますので注意してください」


 わ、わかった。


 注意しよう。


「まあ、私も懐かしい多目的人型機動重機が活躍する姿を見てみたい気持ちはあります。

 専用の武器に限らず、関連するものをなんとか見つけて動いてもらいたいですね」


 そうだな。


 まあ、そういった物を見つけても保存状態が問題なんだが……


 そういえばジークフリートの保存状態のよさに関してなにかわかったか?


「聞き込みの結果をまとめ、ある程度の仮説を立てました」


 どのような仮説だ?


「周囲にあった羽魔水晶が関係しているかと」


 羽魔水晶が?


「はい。

 羽魔水晶を含む鉱石に囲まれていたのが原因で、劣化を防止できたと考えます」


 なるほど。


 そうだとすると、羽魔水晶の価値があがるな。


「はい。

 ただ、羽魔水晶にそのような効果があるとは聞いたことがありませんので、あくまで仮説です。

 それ以外の原因が現地にある可能性は十分にあるかと思います」


 となると、羽魔水晶の研究と、現地調査が必要だな。


「羽魔水晶の研究に関しては、ルーさまに相談しております」


 わかった。


 じゃあ、現地調査だが……行ってみるか?


「よろしいので?」


 飛行船の単独運用の試験も兼ねて、どこかに飛ばそうと思っていたんだが、ジークフリートのあった場所になりそうなんだ。


 ジークフリートを発見した場所に、関連するパーツがあるかもしれないから連れて行けとヨルに催促されてな。


 残念ながら、俺はしばらく五村やシャシャートの街に行かないといけない。


「つまり……ヨルを連れて、多目的人型機動重機のパーツがあるかもしれない場所に行けと」


 頼む。


「……ほんとうに村長はヨルに甘いですね」


 そ、そうか?


 そんなことはないと思うんだけどな。


「いえ、甘いです」


 いやいや、俺はベルにも甘いと思うぞ。


「だといいのですが。

 ……わかりました。

 私も保存状態のよさの原因は調べたいですから」


 すまない。


 頼んだぞ。





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― 新着の感想 ―
風化をふせぐ…希ガスか。というか普通にヘリウムか
村長巨大人型兵器で無くてスコープドッグサイズで我慢しましょう、あんなの誰がどう考えても一歩踏み出すだけで乗員は酷い目に遭うの確定しているからね。 でっ肩の装甲を赤く塗る。
もはや異世界はしょり農家だなぁ・・・
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