多目的人型機動重機と夕食
ロボットは、多目的人型機動重機と呼ばれるものらしい。
ベルがそう教えてくれた。
そして横にいるヨルが……
「名はジークフリートです」
「勝手に命名するのはやめなさい」
ペシッとヨルの頭を叩くベル。
普段よりも乱暴なのは、急に呼ばれたからかな。
いや、ヨルがリアや山エルフたちを倒したからだろう。
ベルはヨルを連れて、めちゃくちゃ頭を下げて回っていた。
まあ、幸いにして怪我というか……いつもの訓練で作っている負傷ぐらいなので、リアや山エルフたちも怒ってはいない。
リアなんかは、今度の訓練にヨルを誘ったぐらいだ。
ヨルも本気で叩きのめしたわけではないだろうしな。
でも、罰は与えないと示しがつかないので、秋にやる予定の試射を延期とした。
それを伝えたら、ヨルは目に見えて落ち込んだのだが……
「では、試射は冬にするということですね!
わかりました、それまでに撃てる武装を増やしておきます!
もちろん、弾もたくさん作りますよ!」
すごい勢いで立ち直った。
めげない。
強い。
多目的人型機動重機のジークフリートは、ハイエルフたちの手によって作られた専用のハンガーに吊るされた。
ハンガーの設置場所は、まだ正式ではないが競馬場の南側。
いつまでも競馬場に置いておけないからな。
専用のハンガーに吊るされたジークフリートは、山エルフたちによって各部品が外され、分解され、動かない原因を調べられる。
一応だが、燃料切れが原因ではないのは確定している。
ヨルが燃料を投入したからだ。
危ないことはやめてもらいたい。
なんだかんだ言って、ジークフリートは骨董品。
しかも、整備もされずに捨てられていたもの。
そんなものにいきなり燃料を補給したら、燃料が原因で爆発炎上する危険もあるだろうに。
「いえ、機動重機の液体燃料は不燃性ですよ」
ヨルはそう言う。
……
不燃性で、どうやってエンジンを回すんだ?
「エンジン?
えっと、主動力はネマル式魔石動力でして、液体燃料は動力魔石の活性化剤みたいなものです」
……
「簡単に言えば、液体燃料はジークフリートのご飯です。
ご飯は爆発しません」
そ、そうか。
わかりやすい例え、ありがとう。
液体の燃料はガソリンのイメージが強く、そっちに引っ張られたようだ。
思い込み、駄目。
俺はジークフリートを骨董品と言ったが、実は状態は驚くほどいいらしい。
普通はボロボロ……朽ちて形を維持していることも難しいらしい。
そんな状態なので、持ち運ぶこともほぼ不可能。
しかし、目の前のジークフリートは飛行船にぶら下げて持ち帰ってくることができた。
輸送中に部品の落下や破損はなかった。
保存する魔法?
いや、ゴミ捨て場にあったことを考えると、そういった魔法がかけられていたとは思えない。
また、かけられていたとしても、百年以上……推定千年以上となるとあまり意味がない。
百年ごとぐらいに保存の魔法をかけた?
ゴミ捨て場にあるものに?
あまりにも不自然だ。
なので、ベルはジークフリートの発見時の様子の聞き込み調査を行っている。
なにかあるかもしれないと。
ちなみに、なぜベルが聞き込み調査を担当しているかといえば、ヨルには任せられないからだ。
ヨルを行かせるぐらいならとベルが立候補してくれた。
助かる。
だが、どうして残していくヨルを俺に張りつかせたのだろう?
邪魔とは言わないが、隙あらばジークフリートに乗ろうとするんだが。
ベルの反対を押し切って、俺がジークフリートの名を認めたことに対する抗議かもしれない。
夕食。
出てくる料理は見慣れたものだが、いつもと少し味が違う。
今日の料理は、試掘中に狩った魔獣や魔物の肉を使っているからだ。
「クセがあるけど、悪くはないわね」
ハクレンは問題なし。
「うーん……」
ラスティは肉の硬さが気になるようだ。
たしかに、いつも食べている兎肉に比べると、硬いか。
だが、食べられないことはない。
細かく切ってくれているしな。
「美味しいよ」
子供たちは喜んで食べてくれた。
よかった。
まあ、明日からはいつも通りに戻るんだけどな。
それなりの量を持ち帰ったのだけど、その大半が五村に運ばれた。
今日の食事で使ったから、大樹の村にはもうほとんど残っていないだろう。
「冒険者ギルドは喜んでいた。
見慣れない魔獣や魔物が多くあったからな。
可食部や調理方法の調査、あとは解剖しての資料作りは順調だそうだ」
ヨウコがそう言いながら、今日の料理を食べる。
「……野性味が強いな」
ヨウコの評価は厳しい。
ああ、そうだ。
魔獣や魔物を狩った場所は、教えなくて大丈夫なのか?
「うむ。
それを教えると、試掘での成果が無駄になるであろう。
場所は秘密にしておくべきだ」
それでいいなら助かるが。
「助かっておるのはこっちだ。
気にするな」
まあ、俺は五村の村長でもあるから。
「ふふふ。
その通りだな。
適度にこちらにも顔を出すように」
夏の収穫と秋の畑仕事が終わったら顔を出すよ。
そろそろ、収穫の時期だ。
さて。
いまさらなのだが……
我が家というか屋敷での食事に、アルフレートが参加している。
始祖さんの国に行っているはずなのに。
最初は十日に一度ぐらい。
最近は五日に一度ぐらいのペースで、始祖さんの転移魔法に便乗して屋敷に顔を出すようになった。
学園に通っていたときより、顔を見ている。
なぜか?
始祖さんの国の食事が、アルフレートの口に合わないらしい。
言葉を濁しての表現は偉いぞ。
つまりは、不味くて食べられないと。
最初は頑張ったが、最近は見るのも辛くなってきたそうだ。
それなのに五日に一度で済んでいるのは、こっちに来たときに食材や調味料を持ち帰っているから。
自炊の腕が上がったと言っている。
あと、転移魔法を習得しようと始祖さんに学んでいるらしい。
頑張っているなぁと思う反面、こうも頻繁に戻ってくるのはどうなのだろうとも思う。
このままでいいのだろうか?
まあ、本人がいいと言っているし、母親のルーや妹のルプミリナが喜んでいるからな。
あと、村の子供たちも。
だから、気にしないでおこう。
ところでアルフレートよ。
ヨルと固い握手をしているが、どうした?
ああ、ヨルがジークフリートの名を決めたと知ったのね。
それに感銘を受けたと。
……そうだな。
アルフレートもコックピットに入って出てこなかったもんな。
山エルフたちの邪魔をするのはよくないぞ。
わかっている。
ジークフリートはいいものだ。
なんとか、動くところがみたいものだな。
そうだ、ヨル。
山エルフたちが、液体燃料に関して質問があると言ってたぞ。
「樽に入れて渡しましたが?」
いや、どこから持ってきたのか知りたいんだって。
「あれは太陽城……いえ、四村の施設で生成しました。
私が持っていたのは四村の武装用です」
原料は?
空気から作り出しているわけじゃないんだろ?
「もちろんです。
太陽石……保温石を使ってます」
あれか。
「あれです。
村長の手配で保温石でいっぱいになった燃料保管庫。
ベルとゴウは毎日のように眺めてニヤニヤしているんですよ。
いやらしいと思いませんか?」
ははは、喜んでもらえてなによりだが……
ヨルの背後にベルがいるぞ。
俺の言葉と同時に放たれたベルの一撃を華麗に避けたヨルは、俺とアルフレートに優雅な一礼をみせ、全力で走って逃げた。
……
最近、俺のなかのヨルが、美人の秘書枠からトラブルメーカー枠に移動したように感じる。
気のせいであってほしい。
ベル「武器……武器にさえ関わらなければ、まともなんです」
村長「な、泣きながら訴えなくても……」
ゴウ「燃料メーターは常に満タンであってほしい派です」
ベル「半分を切ると落ち着きません」