試掘開始
●文字修正 2025/06/05
光信号→発光信号
万能船と飛行船での通信手段は、手旗信号か発光信号。
手旗は二本の旗の上下などで文字を伝える方法で、発光信号は光のありなしで、モールス信号のように文字を伝える方法。
どちらもそれなりの送信技術と、受信技術が必要となるので、素直に飛べる天使族が往復したほうが早かったりする。
飛べる種族って、便利だな。
そんなことを思いながら一日を終え、翌日の昼過ぎ。
地図で記された剣魔水晶があるであろう場所に到着。
開けた場所に飛行船と万能船が降下し、クロの子供たちとザブトンの子供たちの一部が周辺警戒に飛び出す。
あまり遠くに行くなよ。
迷子になったら、迎えに行くから目立つ場所にいるように。
俺の心配に対し、夕飯前には戻ってくると返事。
大丈夫かな。
そして、周囲の安全を確認後、ハウリン村から借りた十人……試掘隊と命名。
試掘隊が調査をする。
予定ではここで一日。
明日、銀魔水晶と炎魔水晶が記された場所で試掘。
明後日が、獣魔水晶が記された場所で試掘。
最後に目的の羽魔水晶が記された場所で試掘となる。
本来、試掘は一日とかで終わるものではなく、一ヵ所で半年から数年ぐらいかけるものらしい。
さらに試掘する場所も簡単に決めず、鉱脈が露出している場所を探したり、近くの川などに流れ出た物を探したりして、ありそうな場所を絞っていく。
掘るのは最後の手段だそうだ。
だから今回の調査では掘らず、周辺を調査して採掘跡などを探すことを重視している。
しかし、万能船や飛行船には試掘用の道具も積み込んでいる。
なぜか?
「ここ、このあたりが怪しいわ」
「いえ、こっちのほうが怪しくありませんか」
俺が掘るからだ。
ルーとティアに指示された場所を【万能農具】で掘る。
出入りしやすいように斜め下に向かって。
適当な深さに達したら、あとはルーとティアに任せる。
俺はどれが目的の鉱物か知らないからな。
あ、調べているあいだにこっちを掘るのね。
わかった。
二十カ所ぐらい掘って、日暮れ。
クロの子供たちやザブトンの子供たちが狩った魔獣や魔物を飛行船の貨物室に放り込み、野外で夕食にする。
焚火を囲んでちょっとキャンプみたいだ。
飛行船のなかで食事をしてもいいのだけど、それだと万能船に乗っている試掘隊と交流ができないからな。
「かなり古い採掘跡を三カ所、見つけました。
どこもかなり深く掘られてますので、今日の調査だけでは不十分です。
できればもう一日、滞在をお願いします」
採掘跡は坑道掘りで、内部に魔獣や魔物がいたら危ないのでクロの子供たちやザブトンの子供たちが先行。
さらに内部でいくつも分岐があり、迷わないように印をつけたり、ロープを張ったりしていたら調査終了の時間になってしまったらしい。
いきなり予定が狂うな。
しかし、ルーとティアはその提案に乗り気。
なにせ、俺が掘った穴から極小サイズだが剣魔水晶や小サイズの銀魔水晶を含んだ鉱石が出ている。
ほかにも希少な鉱物を含んだ鉱石が何個か。
調査は無駄にならない可能性が高い。
そうだな。
ヒイチロウにも渡したいし、俺としても一日ぐらい延びるのはかまわないと思う。
「ありがとうございます。
あと、その……」
なんだ?
「村長に掘ってもらいたい、怪しい場所がありまして……」
……明日、案内してくれ。
「ありがとうございます!」
翌日の夜。
見つけた採掘場は、痕跡から廃棄された場所と推測できた。
戦争や魔獣、魔物の襲撃による急な廃棄ではなく、秩序のある廃棄と思われる。
しかし、そうなると鉱物が残っていなさそうだ。
鉱物が残っているなら採掘場を放棄されたりはしないだろう。
「いえ、まだ採掘が可能でも採掘量で放棄にしたりしますから」
なので、採算を度外視すればまだ掘れることもあると試掘隊の一人がそう言う。
実際、採掘場の跡を掘って小さな銀魔水晶を含んだ鉱石をいくつか見つけている。
「採掘はギャンブルなところがありますから、損はさせないとは言い切れません。
ですが、勝ち目は高いかと」
採掘場が放棄された時代と物の価値が大きく変動していることもある。
負けにくいか……
まあ、判断は慌てない。
採掘するかどうかは、全ての調査を終えてから改めて考えよう。
「わかりました」
ところでなんだが、ここって剣魔水晶の場所だよな?
銀魔水晶のほうが採掘できてないか?
地図の誤りか、場所を間違えたかと思ったが、鉱物というのは単一で存在するほうが珍しいらしい。
地図には採掘量というか、含有量の多い物を代表として記しているだけではないかと。
つまり、ここで銀魔水晶が採掘できてもおかしくはないと。
「そうなります」
なるほど。
銀魔水晶と炎魔水晶が記された場所に移動。
別々の場所だが、近いのでその中間ぐらいに飛行船と万能船を停泊させている。
そして調査の結果。
「銀魔水晶の採掘場を発見しました。
こっちは完全に枯れていますね」
「放棄されたあと、別の勢力が徹底して掘ったと思われます」
そんなこともわかるのか?
「丁寧な掘り方をした場所と、魔法で乱暴に掘った場所がありましたので」
なるほど。
はずれか。
炎魔水晶のほうは?
「こっちも駄目ですね。
魔法で乱暴に掘られてます」
そうか。
残念。
獣魔水晶が記された場所に移動。
……
山が割れているな。
それも一つ二つではない、無数に。
「たぶんですが、あの割れ目に鉱脈があったのでしょう。
山の割れ目が線で繋がります」
そうだな。
山の割れ目を沿うように、三本の線が見える。
その三本の線が鉱脈があった場所と……
素直に考えれば、ここらあたりにもあるのでは?
一本の線の先……山のない場所を俺は示す。
「残念ですが、途中で地層がズレてますので」
駄目か。
「はい。
ただ、ズレを予想した場所がこっちのこのあたりになりまして……」
おおっ。
「試しに掘ってみましたが、岩盤がかなり硬いです。
持ってきた道具が三つ、駄目になったうえに成果がありません」
試掘隊の言葉に、ルーとティアが俺の背中を押した。
わかった。
頑張る。
宿泊を一日延長。
ありそうな場所を徹底して掘ってみた。
かなり深くまで。
ルーとティアの魔法で呼吸に問題はない。
しかし、なにも見つからない。
「地層を考えると、このあたりのはずなのですが……」
まあ、地層の変化は平面ではなく立体的だからな。
予想がはずれることもあるさ。
「すみません」
俺と試掘隊は諦めたが、ルーとティアが粘った。
「こっち。
このあたりの石の色が、さっきの山に似てる」
「ですね。
ここをまっすぐ掘ってみてください」
はいはい。
頑張るよ。
ルーとティアが諦めるまで、頑張った。
結果。
…………………………
獣魔水晶の鉱脈らしきものを見つけた。
周囲と地層が明確に違う。
定期的に獣魔水晶を含んだ鉱石が見つかる。
ただ、見つけた獣魔水晶のサイズは小さい。
大きくても小指ぐらいの大きさだ。
銀魔水晶や風魔水晶、羽魔水晶などを含んだ鉱石も見つけているが、こちらもあまり大きくはない。
そんな場所を、ルーとティアが土魔法で強引に採掘していく。
なるほど。
こうして掘り尽くされるわけか。
感想、いいね、ありがとうございます。
誤字脱字指摘、助かっております。
これからも頑張ります。