試掘旅行の準備
夕食後。
各種族の代表を集めた場でプラーダの地図の説明。
採掘できるハウリン村の者たちを借りて試掘に行く話をした。
移動手段は飛行船。
俺も一緒に行くつもりだ。
「待って待って待って」
ルーに止められた。
俺が行くことに反対だろうか?
……
違うようだ。
では、なぜ止めたのだろう?
「地図のここ。
ここに、なんて書いてあるって?」
剣魔水晶だ。
「こっちは?」
銀魔水晶。
「で、ここが?」
炎魔水晶で、こっちが獣魔水晶。
目的は、ここの羽魔水晶なんだけど……
「羽魔水晶はどうでもいいの。
このデザインの箱が大きいほど、採掘量が多い可能性があるわけね?」
そ、そうみたいだぞ。
「あなたはちょっとここに座ってて」
え?
俺を少し離れた場所の椅子に座らせて、ルーは手を挙げた。
「重要さがわかる人、集合!」
ティアとマルビットがすごい顔をしてルーの前に行き、ひそひそと相談を始めた。
そして、飛行船の新しい航路が提案された。
羽魔水晶だけでなく、ほかの鉱物も試掘したいようだ。
それならそう言ってくれたらいいのに。
反対なんかしないぞ。
……ん?
剣魔水晶は、大勢を一度に強化する魔法に使う?
だからどこの軍でも剣魔水晶を求める?
剣魔水晶をめぐって、大きな国同士が戦争したこともあるぐらい?
あ、その国は両方、滅んだんだな。
なんにせよ、剣魔水晶は放置できる物じゃない。
使う使わないは置いておいて、回収しておきたいと。
なるほど。
そして銀魔水晶は、小指ぐらいの大きさでも献上した平民が貴族になった話もあるぐらいに希少で貴重?
多くの魔法の素材に適しているから求める人が多く、過去に銀魔水晶をめぐって大きな事件が何度も起きていると?
そ、そうなのか。
炎魔水晶は、魔法使いが最後に求める最高級品?
えっと……どういう意味?
あ、高級すぎて手が出ないけど、死ぬまでには一回は手にしたい品ってことね。
炎魔水晶を利用した杖は、あらゆる魔法を強化する力を得ると。
へー。
それで、獣魔水晶は、サイズを問わずに獣人族の信仰の対象になるぐらいに大事にされていると?
使い道は?
召喚術に適していると。
伝説だけど、獣人族が獣の神を召喚した?
神を召喚って大丈夫なのか?
真偽は不明?
だから伝説なのね。
なんにせよ、羽魔水晶なんて掘ってる場合じゃないと言われても……
試掘の目的は、浮遊ガスを生成するために必要な羽魔水晶を探すこと。
それを忘れちゃ駄目だと思うんだ。
あと、地図に書いてあるだけで、ほんとうにあるかはわからないからな。
それを調べるための試掘だ。
見つからなくても、がっかりしないように。
とりあえず、試掘に行くことは認められたようだ。
さて、移動手段となる飛行船。
客船時代の定員は運行スタッフと客員を含めて八十人となっている。
実際はもっと乗せられるのだが、設置されているベッドの数が八十人分だったので、定員が八十人になったのだろう。
この飛行船が移動中の宿泊所になる予定なので、今回の試掘に行くのは定員の八十人まで。
そして、ハウリン村からは採掘できる者を十人、借りることになっている。
なので、残りは七十人。
……
まあ、七十人も連れていかない。
絶対に必要なのは、運行に三人。
ずっと飛ばすわけではないが、夜の当直を考えて三交代制を採用。
なので九人は必要。
これは山エルフたちが立候補してくれた。
修理にも立ち会ったし、試験飛行でも何度か担当してくれた。
問題はないだろう。
次に料理人。
移動中の食事を管理してもらう。
これには鬼人族メイドが三人、同行してくれることになった。
もう少し増やしてもいいと思うけど、鬼人族メイドは村で多くの仕事をしてくれている。
三人も同行してくれることに感謝だな。
客船として運行するわけではないので、客室乗務員や医療スタッフは不要。
ただ、人手はあったほうがいいということで、リアを代表としたハイエルフが五人、同行してくれる。
同行中のハイエルフたちには、鬼人族メイドたちの補佐をお願いした。
そして、船長役の俺と副長役のルー、ティア。
まあ、俺は飾りでお客みたいなものだ。
メインはルーとティアで、試掘の様子を見ていろいろと判断することになっている。
あと、俺の護衛としてガルフ、ダガ、レギンレイヴの三人と、飛行船の護衛として天使族が十人、同行してくれる。
最後に。
現地にいるであろう魔獣や魔物に対抗するため、クロの子供たちが三十頭とザブトンの子供が五十匹ほどが一緒に来ることになった。
これでメンバーは決定!
なのだが……万能船がついていくと頑張っている。
トウが四村への輸送の仕事はどうするんだと説得しているが、万能船が押しているな。
ついてくることになりそうだ。
まあ、飛行船だけより万能船も一緒のほうが安全だろう。
数日の予定だし、四村には先に荷物を運んでおけば大丈夫じゃないか。
そう万能船の味方をしたら、トウから万能船に甘いと注意されてしまった。
数日の予定とはいえ、飛行船には準備が必要だし、ハウリン村で借りる採掘できる人たちにも準備が必要。
とくに飛行船内の厨房設備。
本来なら各種の魔道具があったのだろうけど、エイプリーたちやその支援者が生きるための資金として売却されていた。
なので、それらは新しく設置しないといけない。
どうせ新しく設置するなら、使いやすい物をと厳選された魔道具が用意された。
洋菓子店関連で調理系の魔道具をいくつも作っていてよかった。
ただ、新しい魔道具に慣れる時間が必要と、鬼人族メイドたちから言われている。
使うのは問題ないだろうけど、大勢の食事を任される以上は完璧にしたいと。
俺も納得している。
そういった事情で、すぐに出発できるわけじゃない。
だから、出発までは村の住人を乗せて、森の上空を遊覧飛行してもらった。
子供たちは大喜びだった。
が……
まあ、最初の一時間ぐらいだな。
船内を探索し終わったら、退屈し始めた。
まったりや、のんびりを楽しむにはまだ若く、飛行船だと刺激が足りないのかもしれない。
空を飛ぶことも、ハクレンやラスティ、それに万能船に乗って慣れているしな。
まあ、何人かは船長席が気に入っていたようだが。
ハクレンやラスティも飛行船に乗ったが、移動速度が遅くていまいちのようだ。
「寝てても目的地に進むのはいいけどね」
「つねにゆっくり動いているような感覚がちょっと……」
飛行船に馴染んだのは、天使族とハーピー族。
「空中での休憩場所として、最適です」
「このまったり感。
いいですね」
「私、ここに住みたい」
きゃっきゃと喜んでいる。
ドワーフやリザードマンは飛行船や外の景色より酒に夢中だな。
わかっていた。
ハイエルフは……
「移動手段としては、ありですね」
「昼の移動より、夜に上空に避難するという使い方がいいのでは?」
「上空からの監視を任務とするなら、下が見える窓がもう少しほしいですね」
「動力音がどうしても気になります。
もう少し静かにならないものでしょうか。
これでは奇襲に使えません」
えーっと、最後のは誰だ?
飛行船を使って奇襲する気はないぞ。
第一、どこを奇襲するんだ。
敵対しているところはないはずだぞ。
気嚢や客室部に迷彩塗装をするように提案しても、採用しないからな。
飛行船の名。
もともとはマルグルー号と呼ばれていたそうだが、これを改名することになった。
俺としてはもとの名でいいじゃないかと思うが、エイプリーたちが飛行船を不当に確保した可能性というか……ほぼ確実に不当に入手しているので、もとの名を使い続けるのは問題を引き寄せるのではないかとベルが心配した。
たとえば、生き残っているキッシンリーの一族が奪還に来るとか。
エイプリーたちが生き残っていたのだから、ほかにもいないとは言いきれない。
だから、本格的な運用の前に名を変えようという流れだ。
俺としてもトラブルは避けたいので、改名に抵抗はしない。
では、新しい名はどうするのか?
いつもなら村の住人から希望を募り、クジで決める。
今回もそれでいいじゃないかと思うのだが、これに抵抗があった。
大事な名だから、議論して真剣に決めようと。
万能船がそう強く主張した。
……
議論はちょっと面倒だったので、万能船に名を決めていいぞと任せた。
以後、万能船は書物を読み漁っている。
万能船は自分では書物を開けないし、ページを捲れないので、トウが開いてページを捲っているけど。
妹に、良い名を与えたいらしい。
頑張れ。
あ、トウも。
うん、頑張って。
それと、急かすようで悪いが、できれば試掘に行く前には決めてほしい。
頼んだぞ。
トウ 「名まで考えたら、それは妹ではなく娘では?」
万能船「……」
トウ 「すみません。万能船がドックに立てこもりました……」
村長 「変なことを言うからー」