プラーダの地図
●登場人物紹介
エルメ 古の悪魔族の一人。ヴェルサのメイドをしている。
羽魔水晶。
意外なところから情報がやってきた。
プラーダだ。
王都のオークションで落札したとある一枚の地図。
かなり古い地図で、地図に書かれている国名は全て使われなくなっており、実用性はほぼなし。
ただ、異文化的なデザインは見る者を楽しませる。
歴史的資料……いや、文化的資料としての価値が高いであろうその古い地図が、プラーダにより大樹の村に持ち込まれた。
最初に喜んだのは、ザブトンの子供たち。
異文化的なデザインを装飾に利用できないかと刺激を受けたようだ。
次はハイエルフたち。
懐かしい感じがすると、地図を気に入っていた。
できればよく見れる場所に飾ってほしいと。
天使族や獣人族の女の子たち、文官娘衆たちからの評判も悪くない。
だが、俺の評価は違った。
デザインよりも気になることがあった。
地図に書かれた国名。
大きな街の名もいくつか書かれている。
そして、どこにどんな鉱物が埋蔵しているかが書かれてあった。
……
え?
この地図って、資源分布図じゃないか?
風魔水晶とか、炎魔水晶、剣魔水晶、獣魔水晶、銀魔水晶などの文字がある。
羽魔水晶も。
デザインとなっていたのは大、中、小にわけられた採掘予想量の円グラフ? 箱グラフ? みたいなもの。
大事なのは、大の採掘予想量がされている羽魔水晶があること。
俺はプラーダを見る。
「昔のエルダードワーフが使っていたと言われる地図です。
鉱物を探していたと聞きましたのでお役に立つかと思いお持ちしました」
おおっ!
「私は詳しくは読めませんが、この村にいるドワーフたちなら活用できるのではないかと」
俺はドノバンを呼んだ。
プラーダは仕事があるからと、地図を残し素早く五村の美術館に戻っていった。
この地図を渡すためだけに来てくれたようだ。
ありがとう。
そして、やってきたドノバンに地図を見せる。
仕事中にすまない。
ちょっと協力してくれ。
「どうした?
いま、いい酒ができそうなところだったんだぞ……おお、懐かしい形式の地図だな」
読めるか?
これがどこか知りたいんだ。
「読めるが……書かれている国名が古すぎるな。
千年どころじゃないぞ。
二千年……いや、三千年前か?
縮尺もわからんし……ん?
あ、いや、この地形は……あのあたりか?
いや、あそこは大波で地形が変わった……いつだったかな」
ドノバンは地図を見ながら少し悩んだあと、援軍を求めた。
ほかのドワーフたちかなと思ったら違った。
ドノバンが呼んだ援軍は、古の悪魔族ヴェルサのメイドをしているエルメ。
エルメに聞くならヴェルサに聞いてもいいのではないだろうか?
もしくは、ブルガやスティファノとか。
ヴェルサは引きこもって本を書いていたから、世界のことなど知らん?
でもって、プラーダが詳しくないなら同世代のブルガやスティファノもわからない可能性が高いと。
なるほど。
エルメはヴェルサより若いらしいが、プラーダたちよりは遥かに年上らしいからな。
とりあえず、ドノバンの呼び出しに応じてくれたエルメに、俺は歓迎の証としてフルーツを盛ったパフェを差し出した。
「あ、美味しい」
そして聞く。
この地図に書かれている場所を探している。
わかるか?
「えーっと、大樹の村から北東に向かったところですね」
エルメがパフェを食べながら、地図をちらっと見ると大体の場所がわかったようだ。
「この地図の縮尺は……五万分の一ですね。
地図の大きさから、死の森ぐらいの広さが描かれています。
たしか、ここの端に描かれた街がエッデリという名の街になっていたはずです。
滅んでしまいましたが」
エッデリ?
知らない街の名だな。
それに滅んだ?
物騒だな?
詳しく教えてもらおうとしたら、ドノバンが知っていた。
「以前、アンデッドが大量発生したと言われたところだ」
以前?
アンデッド?
あー、たしかキアービットたちがアンデッドを潰したっていう。
「そこだ。
あのあたりにあった街の名がたしかエッデリだ。
この端の街がエッデリならば、地図の外になるが……このあたりにハウリン村があるはず。
大樹の村は、このあたりだな」
思ったより近い場所の地図だな。
俺が感心するとエルメが小さく笑う。
「いまのプラーダさんが、遠すぎて役に立たない地図を村長に渡したりしませんよ」
そうか?
プラーダは読めないと言っていたが?
「詳しくは読めないだけで、だいたいは読めていたはずですよ。
まったく素直じゃありませんね」
そ、そうなのか。
あとでプラーダに改めて礼を言っておこう。
とりあえず、場所がわかった。
喜ばしい。
ありがとうエルメ。
パフェをもう一杯?
かまわないぞ。
向こうで妖精女王が見ているからな。
一杯作るのも二杯作るのも同じだ。
あと、ドノバンも助かった。
わかっている。
今日の晩は盛大に飲んでくれ。
さて、地図の場所はわかったが、次の問題は羽魔水晶が地図に書かれた通りに埋蔵されているかだな。
すでに採掘されていて空っぽという可能性は十分にある。
露天掘りで大穴が空いていればわかりやすいのだが……
以前、キアービットに同行してアンデッド退治に向かった天使族たちに聞いたが、あのあたりにそういった痕跡はなかったそうだ。
あったのは廃墟となった街、エッデリだけと。
となると、地図の場所を試掘するしかないだろう。
あー、勝手に掘って大丈夫なのだろうか?
採掘権とかあったよな。
このあたりはどうなっているんだ?
わかる人に相談。
フラウ、ちょっといいか?
「さすがに誰が採掘権を持っているかなんてわかりませんよ」
そうか。
「ですが、エッデリの周辺なのですよね?」
ああ。
村から北東に進み、山を越えた場所にあるエッデリ。
そのエッデリからさらに北東に進んだ場所で採掘したいんだが……
「エッデリはたしか……魔王国軍が戦線を押し広げているときに接収した街だったはず。
その際、エッデリの周辺はどこかの貴族に渡されたと歴史の授業で教わったような……
すみません。
私だとそこまでです。
父に聞けばわかるかと」
いや、助かったよ。
ありがとう。
そして、ちょうどやってきたビーゼルに聞くことにした。
「プギャル伯爵ですね」
なら、プギャル伯爵に会って、採掘権の相談を……
「いえ、委任状を預かっております。
採掘権はお渡ししますので、自由に採掘していただいてかまいません。
採掘した物に関しての所有権も、すべて村長のものです」
え?
「今朝、プギャル伯が王都にある私の屋敷に押しかけてきて、そうなりました」
えーっと……そうなると、お礼を……
「お礼は不要です。
感謝しているなら、絶対にお礼はしないでほしいと言っておりました」
えー。
「採掘して古代の遺跡が出てこようが、金銀財宝が山のように出ようが、全て村長の物でかまわないそうです」
い、いいのかな?
「滅びた街を放置しておき、いまさらどのような顔で権利を主張できようか。
とのことです。
村長が利益を得ることを心苦しく思うのであれば、その利益は民に分け与えてほしいと」
……わかった。
そこまで言われたら、ぐだぐだ言わない。
ありがたく採掘権はもらおう。
試掘に問題はなくなった。
となると……採掘する人がいるな。
まあ、これはハウリン村に頼めばいいだろう。
現地までの移動手段は……修理した飛行船を使ってみるか。
羽魔水晶が手に入ったわけじゃないが、せっかく修理したんだ。
使わないともったいない。
もちろん、俺も飛行船に乗って現地に行くつもりだ。
昔ほど、俺が村の外に行くことに抵抗されなくなったからな。
ふふふ。
ちょっと楽しみだ。
羽魔水晶が手に入らなかったら?
残念だが浮遊ガスに代わる新たなガスの研究が進むまでは、飛行船には倉庫で休んでもらうことになる。
そうならないことを願う。
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これからも頑張ります。