全天候型拠点防衛砲
●人物紹介
ヨル 四村(太陽城)のマーキュリー種。現在は温泉地の転移門の門番。
武器好き。黙ってれば美人。秘書っぽい感じ。
クロヨン クロとユキの子供。最初に産まれた四頭の一頭。チェスや将棋が得意。
俺はヨルの私物倉庫を称している武器庫を監察するため、温泉地に向かった。
温泉地なので護衛はクロヨンを代表とするクロの子供たち三十頭ほど。
帰りは温泉に入ってから戻るとしようとか、のんびり考えていた。
温泉地にいるヨルに案内され、私物倉庫に。
……
連鎖式爆炎弾や連鎖式氷結弾が、かなりの数あるな。
ちゃんと管理してくれよ。
あと、たくさんの投石機とバリスタと呼ばれる大型の弩が綺麗に解体状態で並んでいるが……
数が増えていないか?
ヨルが自作したのか?
すごいな。
あ、これか。
なるほど、よくできているじゃないか。
新しい工夫もみられる。
山エルフたちが対抗しそうだ。
ん?
奥にある厳重な扉のロッカーはどうなっている?
「見せないと駄目ですか?」
一応な。
ヨルが恥ずかしそうにしながらロッカーを開けてくれた。
ロッカーのなかは棚になっており、その棚にはボウリングボールぐらいの大きさの石が綺麗に並べられていた。
それぞれの石の下には小さなクッションが敷かれているから、大事にされているのがわかる。
これは……
あ、いいんだいいんだ。
どれが投石機で投げやすいとか説明しなくても。
うん、いい形だな。
自分で見つけたのもあれば、削ったのもあると。
そうかそうか。
愛情たっぷりだな。
ああ、取り上げたりしない。
これはこのまま保管していていいぞ。
大事にしような。
温泉に入って、まったり。
温泉から出たら、死霊騎士やライオン一家、アシュラと交流。
問題なくやっているようでなにより。
ヨルが言っていたが、魔獣や魔物の襲撃って多いのか?
あー、やっぱりそれなりにあるのか。
でも、定期的にクロの子供たちやザブトンの子供たちが集団でやってきて追い払ってくれている?
そうか。
クロヨンが誇らし気に頭を差し出してきたので、よしよしと撫でる。
あと、ドラゴンが温泉に来ると勝手に逃げると。
なるほど。
これは褒めたほうがいいのか?
悩むな。
さて。
実はヨルの私物倉庫の監察はサブ目的。
本命は、オークションで落札し、温泉地に運び込まれた太陽城の武装だ。
武装のほとんどが動かない。
必要な部品が欠落していたり、故障していたりと、かなりの整備と調整が必要と判明している。
秋にやろうとしている試射は延期かなと俺は予想していた。
しかし、ヨルは努力の人だった。
一つだけだが、動くようにした。
人が乗り込めるサイズの大きな球体ボディ。
その球体ボディの左右に配置された機関部から伸びる長い砲身と、その機関部に弾丸を供給する巨大なドラム缶。
戦艦かなにかに装備されている対空砲みたいだと感じた。
その対空砲には太く短い四つの足があるので、低速ながらも自走できるのだろう。
この武器の名は、全天候型拠点防衛砲ダイダロス。
弾はあるらしく、ならば撃っているところを見てみたいと俺が希望したので、三方を高い土手で囲まれた場所で撃ってもらうことにした。
俺はこれを見にきていた。
ダイダロスが狙うは土手の一面の真ん中。
そこに木製の的を用意している。
距離は……二百メートルぐらいかな。
「いいんですか?
ほんとうに撃っても?」
かまわない。
「これで試射はやった。
もう撃たせないとか?」
言わない言わない。
そこまで意地悪じゃない。
「撃っちゃいますよ」
ああ、やってくれ。
「……ヨル=フォーグマ。
全天候型拠点防衛砲ダイダロス、試験射撃を開始します!」
ヨルはそう言ってダイダロスの乗り込み口を開き、乗り込んだ。
即座に砲身が動き、的を狙う。
「村長。
村長を最上位指揮官に設定しました。
最終確認です。
発射許可をいただけますか」
ダイダロスから聞こえるヨルの声に、俺は許可すると返事した。
俺としては左右の砲から一発ずつの射撃かなと思っていたんだが、違った。
連射だった。
何発撃ったかはわからない。
ドンッドンッドンッという感じで左右の砲を交互に撃つのが二~三分ほど続いた。
いや五分ほどか?
時間感覚が狂う、すごい振動と轟音だった。
俺の護衛をしている若いクロの子供たちが、慌てて俺を取り囲んだぐらいだ。
そこは立派だが、あれを向けられたらどうしようって顔を俺に向けるのはどうなのかな。
まあ、そんな顔をするな。
あれは、どうしようもない。
と思ったけど、クロヨンや年長のクロの子供たちは落ち着いている。
あれぐらいなら、なんとでもなる?
音ほど威力はない?
ダイダロスの攻撃によって、的の背後にある土手が大きく削られているんだが?
それでも敵ではないと。
弾も叩き落とせると。
頼もしいな。
そして、万が一、弾が届いたら危ないと温泉地や村と無関係な方向に射撃してもらってよかった。
何発かは弾が森に飛び込んだみたいだから、森にいた魔獣や魔物が大騒ぎだ。
すまない。
一部の魔獣や魔物が温泉地に攻撃してきたが、死霊騎士やライオン一家、アシュラが防衛している。
助かる。
クロヨンたちも援護してやってくれ。
一部は俺の護衛として残す?
ああ、かまわない。
頼んだぞ。
そしてヨル。
どうした?
射撃が終わってから動きがないが?
ダイダロスに近づいても大丈夫だろうか?
どうしたものかと思っていると、ダイダロスの乗り込み口がゆっくり開き、ヨルが出てきた。
「すみません。
気を失っていました」
気を?
大丈夫か?
内部は思ったより衝撃があるのか?
「いえ。
感動で」
……
「それより、どうです。
エネルギー弾は故障で撃てませんが、実弾ならこのように撃てます。
惚れ惚れしますよね」
あー、それなんだが……
的は綺麗に残っているぞ。
俺は目標だった木製の的をみる。
うん、残っている。
ヨルも見て確認した。
「あー、本来、ダイダロスは遠い目標に対しての射撃がメインで、近い距離だとどうしても……」
二百メートルは近くて狙いにくいと。
「運用計画では、実弾は複数機並べて一斉にばら撒く予定でしたので」
なるほど、命中率はあまり気にしないのね。
まあ、本来は四村……太陽城に設置されていた武装だと考えれば、長射程じゃないと意味がないか。
弾はもうないのか?
ダイダロスの周辺には、ダイダロスから排出された薬莢が大量に落ちている。
薬莢とは、鉄砲や大砲の弾を打ち出すための火薬などが詰められた部分なんだが、ここに落ちている薬莢は二リットルペットボトルぐらいの大きさだ。
「残念ながら……すべて撃ってしまいました」
となると、これはもう役立たずか?
オークションにはここに落ちているような空の薬莢はあったが、弾頭がついている物はなかったと思うが?
「いえ、弾はまた作ればいいだけです」
また?
ひょっとして、いま撃ったダイダロスの弾って手作りなの?
「ダイダロスがオークションに出品されているのを見つけてから、寝る前に少しずつ弾を作っていました」
すごい執念だ。
「構造は簡単ですよ。
弾頭は石を削ったものですし、薬莢は四村の缶詰工場で作れますしね。
そこにちょっとした仕掛けと火薬を詰め込むだけです」
そ、そうなの?
「足りない素材は、ゴロウン商会を頼りました」
あー、まあ、それはかまわないのだけどな。
弾薬やその材料の管理は、徹底するように。
誤爆とか怖いから。
「もちろんです。
さらに厳重にします」
頼んだ。
ところで……
「なんでしょう?」
俺は開かれたままのダイダロスの乗り込み口を指差す。
俺が乗り込んでも?
「弾はありませんよ?」
いや、撃ってみたいわけじゃなく、乗り込んだときの感覚を知りたいだけだ。
車みたいなものかなと思うし。
あと、なかに設置された椅子は手作りの皮製。
正規の椅子は、オークションで落札した段階ではなかったからヨルが作ったのだろう。
座り心地にも興味がある。
「…………」
駄目か?
「だ、駄目ではないのですが、いまはその……ちょっと」
?
「砲の排熱の影響で内部はかなりの高温になりまして……
本来なら排熱処理用や空調用の魔道具とかがあったのですが、これらは取り外されたようで」
つまり?
「私の汗の臭いとかがすごく残っています……」
失礼。
後日にしよう。
試射の日でかまわないぞ。
「わかりました。
そのときには射撃も体験していただければと思います。
弾は用意しておきますので」
ほどほどに頼む。
「ほどほどとは?」
えーっと、今回の射撃で何発撃ったんだ?
「二百と少しです」
じゃあ、二十ぐらいで。
「派手にいきましょう。
二千発で」
……
「大丈夫です。
作れます」
ダイダロスだけじゃなく、ほかの武装も試射するんだろ?
「します。
ですが大丈夫です。
作ってみせます」
……
「作れちゃうんです。
そして、作ったからには撃たねばと思うわけで」
拠点防衛には向かない思考だな。
ベルも苦労しただろう。
「よく喧嘩していたのは否定しません」
そうか。
まあ、弾数に関してはあとで話し合おう。
ほかの武装もチェックして、どれを直して試射するかも考えないといけないだろう。
「わかりました。
いくつかお薦めの武装があります。
試射の日までに直しますので、是非とも」
わかったけど、次は発射前に威力を聞くぞ。
安全のための土手を削るような武装ばかりだと困る。
「なにを言っているんですか村長。
そんなのばかりですよ」
……
試射を約束したのは、ちょっと早まったのかもしれない。
異世界 「SFは異世界の範疇」
のんびり「世界観を忘れちゃ駄目でしょ」
農家 「耕せってのは、砲撃しろって意味じゃないと思うんだ」
過去の太陽城
ヨル 「撃ちたいですねー、撃ちたいですねー、撃ちましょう!」
ベル 「残念ながら、敵がいません」
ヨル 「ならば敵を作りましょう」
ベル 「ヨル、貴女は疲れているようですね。休暇を命じます」
ヨル 「そんなっ!」
ヨルが目覚めたとき
ヨル 「あれ? ダイダロスがない? 私のダイダロスは?」
ベル 「売却されたようです。あと、あれは貴女のじゃありません」
ヨル 「…………………………」
ベル 「ヨル? 大丈夫ですか? あ、これは駄目ですね。整備槽にもう一回入れます!」
ダイダロスを入手した人
貴族A 「弾が手に入らん。使えそうな魔道具だけ取って売っちゃえ」
商人 「なにこれ? 椅子ぐらいしか価値がないよな」
貴族B 「歴史を感じるオブジェだ……」
ダイダロスの威力は、混代竜族に通用しない程度。古の悪魔族にも通用しない。ザブトンたちにも効かない。
ヨル 「せ、正規の弾頭が入手できれば……」
ベル 「それでも、それなりの魔法使いが放つ魔法のほうが威力はあるんですよねー」
ルー 「クロたちの角のほうが威力があると思うんだけど……」