どこに運ぶ?
前話の最後のほう(呪い返しのあと)、ちょっと加筆修正しました。
オークションの落札品。
四村の武装と王国戦士関連は大樹の村に。
ルーやティアが頼んでいた落札品も、大樹の村に。
それ以外のものは、プラーダ美術館の倉庫にしばらく置いておいてもらう。
「展示に使っても?」
プラーダの確認に、俺は問題なしと許可を出す。
もともとオークションで衆目にさらされた品だ。
隠す必要はない。
四村の武装はどうしよう?
四村に戻す?
それとも、温泉地に持っていく?
ヨルの判断に任せよう。
「………………………………」
めちゃくちゃ悩んでいる。
「あの、確認ですが」
なんだ?
「四村に武装を戻したとして、私の職場が変更になったりは?」
その予定はないが……
四村で武装の管理をする仕事がしたいなら、考えるぞ。
「あ、いえ、それはありがたいのですが……温泉地は温泉地で魅力がありまして」
温泉にいつでも入れることか。
「いえ。
武装を使う機会が多いことです」
……
「死霊騎士やライオン一家、新入りのアシュラと連携してそれなりに激しく戦える環境……捨てがたいです」
そ、そうか。
「温泉地には、私の家や武器庫もありますし……」
武器庫を許可した覚えはないんだけど?
「失礼。
名目上は私の私物倉庫です」
そうか。
あとで監察に入らせてもらおう。
「そんなっ!」
そんなじゃない。
危ない物があったら困るだろ。
「大丈夫です。
ちゃんと管理してますから!」
危ない物がないとは言わないんだな。
「武器は危ない物なので」
だよな。
「無駄に集めたわけではありません。
温泉地の防衛に役立っています!」
わかったわかった。
ただ、管理は万全に頼むぞ。
鍵を二重にするとか、倉庫を頑丈にするとか。
とくに子供たちが持ち出さないように。
「もちろんです」
返事はいいんだよなぁ。
それで、武装はどこに運ぶ?
もう少し悩むか?
「いえ、決めました。
温泉地に運びましょう」
わかった。
王国戦士関連は、大樹の村の……どこに置こう。
「村長。
それらは四村で管理しますよ」
ベルが提案してくれる。
そうだな、任せる。
「はい。
それとキッシンリーの村に、飛行船に関係する物が残っているかもしれません。
これらの回収もしたいのですが」
あー、あの村に関してはもうちょっと待ってくれ。
ビーゼルから、エイプリーたちの処罰が確定してからにしてほしいと言われているんだ。
「そうなのですか?」
村には襲撃に参加していない者が残っているからな。
エイプリーたちに話を通してもらわないと駄目だが、そのときに処罰が確定していないと変な誤解を生んでしまう。
「誤解ですか?」
物を出さないとエイプリーたちの罪が重くなる……みたいな感じに。
「たしかにそうですね。
わかりました」
あと、エイプリーの妻のメイに、四村にある整備槽を使わせてやってほしいんだが。
「村長の指示ならば従います」
あー……気持ちよく貸せないなら、断ってくれてかまわないぞ。
「い、いえ。
失礼しました。
ミヨからも言われていましたので、整備槽を使わせることに異論はありません」
そうか。
「ただ、四村で使用させることには抵抗がありますので、整備槽を五村に運びたいと思います」
四村には入れたくないと?
「そうではなく……整備槽にいる者がキッシンリーを見て暴れると困るので」
恨まれてるなぁ。
「キッシンリーとは時間をかけて和解していきたいと思います」
わかったが、無理はしないようにな。
「承知しました。
ありがとうございます」
飛行船の修理をしつつ、夏の日を満喫中。
ルーやティアが楽しそうでなにより。
そういえば飛行船は、万能船みたいに規制されるのかな?
ドースに聞くと、大丈夫とのこと。
「普通に飛んでおるからな」
そうなのか?
「魔王国では珍しいが、ほかの国ではそれなりに」
へー。
見てみたいな。
ドースから話を聞いていると、横からライメイレンが補足してくれた。
「現在、実用されている飛行船は十隻ほどです。
各国の王族などが占有しているので、そうそう飛んでいる姿を見ることはむずかしいですね」
そうなのか?
「古い時代に製造されたものを使いまわしているだけですから」
なるほど。
俺たちが製造することに問題は?
「ありません」
それはなにより。
「ところで村長」
どうした?
「ヒイチロウが飛行船に興味を持っています」
ヒイチロウに限らず、子供たちは飛行船に興味津々だ。
修理が終わって安全が確認されたら、ちゃんと乗せるよ。
「一番乗りは?」
さすがに危ないだろ?
たぶん、俺も乗せてもらえない。
自力で飛べる人が優先される……って、ヒイチロウは飛べるか。
あー、でもほかの子たちとの兼ね合いがあるからな。
ヒイチロウとグラルだけ乗れても駄目だろう。
申し訳ないが、やっぱり一番乗りはなしだ。
「仕方がありませんね」
ヒイチロウには俺が駄目だと言ったと伝えてくれ。
「いえ、私のほうからやんわりと言っておきます」
そうか。
そういえばヒイチロウのブローチ作りはどうだ?
「順調そうですよ」
順調そう?
知らないのか?
「完成まで秘密だそうで」
なるほど。
珍しくライメイレンのそばにヒイチロウとグラルがいないと思ったら、そういうことか。
完成が楽しみだな。
「ええ」
エイプリーとメイ、それと彼らの支援者の処分内容が正式に決まったことを、ビーゼルがわざわざ報告に来てくれた。
事前の話通り、全員が労働刑。
エイプリーとメイは、ミヨの管理下でシャシャートの街で働く。
支援者たちはもといた村に戻り、税を納めるために働いてもらうと。
……
支援者たちに甘く感じるが、これはエイプリーとメイが彼らの罪を被ると主張したからだ。
そして、これまでアドバイスをしていたエイプリーとメイが不在になる。
なので、甘くはないだろう。
まあ、連絡は取れるらしいけどな。
あと、エイプリーたちの村は問題を起こした領主から没収され、魔王国直轄扱いとなるが……
だからって、その村のために魔王国から代官や文官が派遣されたりはしない。
代官や文官は数が足りないからだ。
なので管理は問題を起こした領主が代理で行う。
つまり、これまで通り。
ただ、エイプリーたちの村からの税を全て魔王国に納めなければならないので、問題を起こした領主は面倒だけ押し付けられた形になる。
まあ、これも罰の一部と言われたら、仕方がない部分だな。
しかし、これだと村も領主もやりにくいだろうに。
「そのやりにくさも罰のうちです」
ビーゼルが苦笑しながら言う。
なるほど。
しかし、それだとまた騒動が起きないか?
「起きれば起きたときです。
それに、村は魔王国の直轄領扱いですから、領主側からなにかすることはないかと」
領主側は大丈夫。
村側は……騒ぎを起こすメリットはないか。
「まあ、メリット、デメリットを考える余裕があるなら、騒動なんて起きないんですけどね」
そうだな。
「向こうの村の代表者は、なにかあったときの訴えかたなどを細かく指導されたようですし、大丈夫でしょう」
そうであってほしいものだ。
処分が決まった翌日。
ミヨに連れられたエイプリーとメイ、それと二人の娘のカレンが、五村で整備槽を使っていた。
メイだけでなく、エイプリーやカレン用にも用意してくれたようだ。
「エイプリーは一日、メイは十日ほどかかりそうです。
カレンは……様子を見ながら整備していければと」
ミヨの説明と方針に疑問はないが……
なぜ整備槽はプラーダ美術館の倉庫に設置されたんだ?
「ヨウコさまのお屋敷では迷惑ですし、管理できる広い場所があるのがここだけでしたから」
そうかもしれないが、ここに置かれるとプラーダに展示されるんじゃないか?
「プラーダさんには許可をもらっています。
ですが展示されても……かまわないんじゃないですかね」
……
人体展示はどうかと思うな。
環境はよくしておかないと逃げられるぞ。
「わかっています。
ここを選んだのは、防犯が強いからですよ。
カレンになにかしらの不安があると、エイプリーとメイの労働の質が落ちます」
なるほど。
「できればカレンは四村で人質にしたかったのですが……
ベルが言うとおり、整備槽にいるほかの者が暴れる危険性があるので断念しました」
人質は駄目だぞ。
「冗談です」
危険な発言はつつしむように。
あと、エイプリーが動けるようになったらでかまわないので、エイプリーたちの村に飛行船関連の物が残ってないか聞いてもらえるか。
「譲渡してもらうことが目的ですか?」
必要な物なら、そうだな。
「わかりました。
聞いておきます。
あと、修理した飛行船の航路に関してですが……」
なにかあるのか?
「シャシャートの街に発着場を作りますよ」
シャシャートの街から、転移門の無い場所にか。
「はい。
どうです?」
ヨウコからも似たような話をもらっている。
五村から、転移門の無い場所にと。
「五村ばかりずるいです。
シャシャートの街にも!」
ほかにも、文官娘衆たちから、大樹の村出発でハウリン村、そしてその周辺の村へって航路も提案されている。
物々交換船だな。
終点はエイプリーたちの村だった。
「ぐぬぬっ!」
だから修理した飛行船は無理でも、新造する飛行船なら大丈夫じゃないか。
「新造ですか?」
山エルフたちがやる気になっている。
ルーとティアも乗り気だ。
技術的に可能かどうかはこれからだが、不可能じゃないだろう。
まあ、時間はかかるだろうけどな。
「わかりました。
期待しますよ」
おう。
村長 「直轄地じゃなく、ほかの領主に任せるのは駄目なのか?」
ビーゼル「ほかの領主に加点があるわけではないので」
村長 「あー、そうか」
ビーゼル「さらに飛び地となりますので、領主同士の揉め事の原因になるかと」
村長 「なるのか?」
ビーゼル「通行時の税とか関所とか……」
村長 「なるほど」