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新しい美術館と落札品

最後のほう、ちょっと加筆修正しました。2025/05/29


 五村には美術館がある。


 あるのだが、麓に新しい美術館が建てられた。


 大きくて広い余裕のある展示室。


 その倍の広さを誇る展示準備室。


 展示準備室の十倍の広さを誇る倉庫。


 展示室、展示準備室、倉庫の空調は魔道具で管理され、室温、湿度がつねに一定で保たれる。


 大型や重量のある美術品の搬出入を考え、サイズ別の扉がいくつも設置されており、移動を助ける台車や小型のクレーンも完備されている。


 この新しい美術館は、いまある美術館への不満を解消した形のものだ。


 いまある美術館は、展示室は立派だが、搬出入が手間で、展示準備室は狭く、倉庫もそこそこだった。


 そして美術館に劇場を併設したため、騒々しい。


 観覧料も無料なため、ただ屋根のある場所で休みたい者も多かった。


 そんな美術館の運営に関わったプラーダが、遠慮がちに五村の村長代行であるヨウコに改善案を提出したのだが、そのヨウコが……


「ならばいっそプラーダの理想とする美術館を考えてみよ」


 と言って考えさせた美術館。


 それがこの新しい美術館だ。


 建てている最中、プラーダはオークションの品を紹介する商隊に同行していたので、プラーダとしては五村に戻ってきたら理想の美術館が完成していた状態。


 そのプラーダに新しい美術館の館長を命じたら、これまでにない綺麗な姿勢で永遠の忠誠を誓ってきた。


 収集は予算内でやってくれよ。


 あと、向こうの土地は倉庫の拡張スペースの予定だ。


 足りなくなったら困ると思ってな。


 確保しておいた。


 な、泣くな。


 泣くんじゃない。


 これから大変だぞ。


 館長なんだから、スタッフとか統率してもらわないといけないし。


 ああ、スタッフの採用もプラーダの仕事だ。


 試験内容もプラーダが考えていいけど、手加減しないと一人で管理することになるぞ。


 展示内容も自由だ。


 好きに企画していい。


 収支?


 文化を守るのに、そういったのは考えない。


 観覧料も無料は駄目だとわかったから、マナーを守ってもらうための最低限だ。


 中銅貨一枚か二枚と思っている。


 美術品の補修管理に金がかかるのもわかっている。


 これは遠慮なく使え。


 建物の修繕費は五村が負担する。


 だからと言って乱暴に扱ってくれるなよ。


 人件費に関しては、そちらの裁量で決めていいが、監査は入らせてもらうぞ。


 高すぎても安すぎても問題だからな。


 それが面倒なら、人件費は五村に任せてくれてもいい。


 ヨウコの許可はもらっている。


 芸術家の保護に関しては、五村に任せてくれ。


 ああ、芸術家だけでなく、いろいろな分野での保護を始めている。


 金にならないからと放り出すと、文化が育たないからな。


 ん?


 俺が悪魔族全盛期に生まれていたら、王にすべく全力を尽くした?


 えーっと、誉め言葉と思っておこう。


 あー、グッチを倒す方法とか言わなくていいから。


 聞いちゃ駄目なやつじゃないか、それ?


 グッチはお前がここで働くことに賛成してくれたんだから。


 グッチにも感謝しなさい。


 あと、大事な話があった。


 この新しい五村美術館だが、プラーダ美術館と命名したい。


 名を使って大丈夫か?


 五村美術館は前からあったほうを示すからな。


 ああ、あそこは潰さない。


 美術品の展示場所としてはいまいちでも、五村の名所にはなっているからな。


 防音設備を強化する。


 ただ、倉庫等は拡張できないから、プラーダ美術館の倉庫を使う。


 立場的には、五村美術館はプラーダ美術館の別館扱いだな。


 五村美術館の展示企画もプラーダ美術館で主導してくれ。


 任せて大丈夫か?


 よし。


 頼んだぞ。


 プラーダは、さっそくスタッフを集めると、古い友人たちに連絡を取り出した。


 ……


 え?


 フリーのいにしえの悪魔族って、まだいるのか?


 古の悪魔族だからって、全員がドラゴンに仕えたわけじゃない?


 そ、そうか。


 ベトンさんだって、ドラゴンに仕えてなかった。


 フリーの古の悪魔族はいるんだ。


 つまり、この美術館にそういった者が集まるのか。


「大丈夫です。

 私が管理します。

 迷惑はかけません」


 そ、そうか。


 うん、任せたぞ。




 プラーダ美術館は完成したが、開館はまだ先。


 展示物がほとんどないからな。


 お金をもらって見せる段階ではない。


 そして、そんなプラーダ美術館にオークションでの落札品が届けられたとの報告を受けた。


 ヨルが喜んで確認に行った。


 ヨルの仕事の代理をしてくれているアラクネのアラコ、すまない。


 今度、なにか渡そう。


 やはりジャガイモ料理かな。


 本人に聞いておこう。



 俺もベルと護衛を連れて落札品を確認に五村に移動。


 飛行船の修理があるけど、落札品の王国戦士ジュピター関係をなんとかしないといけないから。


「ヨルに任せても大丈夫だと思いますが?」


 ヨルは太陽城の武装に夢中だろ?


 王国戦士なんかどうでもいいとか言いそうだ。


 五村にいるフタ、ヒー、ロク、ナナにも声はかけたけど、ベルに任せるって。


「まったく……わかりました。

 同行させていただきます」



 プラーダ美術館は洋菓子店フェアリーフェアリが近いけど、ちゃんとヨウコ屋敷から馬車で移動した。


 急に俺が洋菓子店フェアリーフェアリから出てきたら、驚かせてしまうからな。


 帰りに洋菓子店フェアリーフェアリでケーキを買ってかえろうと思うが、まずは落札品。


 ……


 かなりあるな。


 広い展示準備室を埋めるように、並べられている。


 リストで見たら、それほどでもないと思ったんだけどな。


 大きい物が目立つ、太陽城の武装関連かな。


「王国戦士関連もあります。

 あ、これなんかはキッシンリーの言っていた整備槽です」


 大きな土台に突き刺された巨大なシリンダー?


「こちらは壊れているので動きませんが、修理を試みることは可能かと。

 最悪はパーツ取りに使います」


 なるほど。


 四村にもこれと同じようなのがあるのか?


「フォーグマの整備槽は特別製なので、形が違います。

 これよりも高性能なんですよ」


 そ、そうか。


「その高性能な整備槽でも、時間がかかっているのが残りのメンバーなのですが……」


 ははは、焦らなくていいからな。


「すみません」


 それで……ヨルはどこだ?


「あちらの武器のなかですね」


 武器のなか?


「攻撃時に内部に入って、操作しないといけないものですから」


 へー。


 四村の武装って、玉座から操作するイメージだったんだが違うんだな。


「手動にすることで、安全装置も兼ねているんです」


 手動にすることでの誤射は?


「記録上はありません」


 ……


「記録になければ、ないんです」


 お、おう。


 変な闇を感じる。


 深くは聞かないでおこう。



「充填機が壊れてる!

 絶対に規格に合わない魔石回路に接続された!

 許さんっ!」


 ヨルが怒りながら武器のなかから出てきた。


 オークションで展示されているときは、触れなかったらしいからな。


 いまわかったんだろう。


「雑な扱いをしたやつ、呪ってやる。

 王族守護者マーキュリー至宝しほうとまで呼ばれた私の呪い攻撃!

 食らうがいいっ!」


 あー、落ち着け。


 かなり昔の話だろ?


 死んでるんじゃないか。


「子孫は生きている可能性があります。

 愚かな先祖を持った不幸を嘆くべきです」


 こらこら、子孫は関係ないだろ。


 かわいそうなことをするな。


 俺が慌てると、ベルが止めた。


「村長。

 ご安心ください」


 どうするんだ?


「こうします。

 呪い返し!」


「ぎゃぁぁっ!」


 ヨルは足の小指をぶつけて、悶絶していた。


「ヨルが行える呪いはこの程度ですから」


 そ、そうか。


 ところで、呪いが返せるということは……


「全方位に呪いを放っていたので返せただけです。

 私が壊したわけではありませんよ」


 そうなんだ。


「ですが、過去に武装を適当に扱ったことがありますかと問われたら、否定はしません」


 な、なるほど……


 話題を変えよう。


 あー、ヨルって王族守護者の至宝って呼ばれていたのか?


「一応は」


 そうなんだ。


 その至宝は、あまりの痛さに転がりまわっているけどいいのかな?


「いいんです。

 では、確認していきましょう」


 ああ、頑張ろう。


 俺はベルと一緒に、落札品を確認し、仕分けていった。




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― 新着の感想 ―
理想の美術館を作るのはおろか 予備の土地、人民への芸術の開陳、管理運営のため潤沢な予算 更には、理想から外れるといえど、芸術の門戸を閉じたりもしないという まさしく絵に描いたような理想の上司だろうなぁ…
やっぱりプラダを着た悪魔が元ネタだろーな(笑)
村長って元々凄く長命だったような… 「健康な体」の影響で不老ではないが、物凄く老化がゆっくりだったはず
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