エイプリーたちの移動手段
エイプリーたちと話をした。
あ、いや、疑問を聞いた感じだな。
キッシンリーの一族は、ほかにもいるのか?
「俺たちは、俺とメイ、あと娘の三人だけだ。
あ、いや、失礼。
三人だけです」
口調はいつもどおりでかまわないぞ。
「そうもいきません。
いろいろと失礼しました」
いえいえ。
「ほかの者は、反乱が起きたときにバラバラに逃げたのでわかりません。
明確に捕まって処刑されたとかの情報はなかったかと」
そうか。
無事だといいな。
「はい」
あー、そういえば娘の名前は?
「カレンです。
優秀ですよ」
夫婦と言っていたが、人工生命体は子を作れるのか?
「有機体には子を産む機能があります。
ただ、俺たちは親子という設定です」
設定か。
「統治に際して、独身だと既婚者の気持ちがわからないとか難癖をつけられるので。
ですが、妻や娘にたいしての愛情はちゃんとあります。
メイが妻で、そしてカレンが娘でよかった」
そのメイだが……あまり喋らないな。
人見知りなのか?
「それは、その……有機体の調整不足です。
フォーグマに俺たちの整備槽を渡すと言いましたが、その整備槽はかなりガタがきていまして」
なるほど。
「フォーグマの有機体はどれも万全でした。
しっかり稼働する整備槽があるのでしょう。
できればその整備槽を借りられたらと思うのですが……恨まれていますから」
口添えはするけど、タイミングをみてだな。
「よろしくお願いします」
あと……そうそう、ベルが移動手段を気にしていた。
村からどうやって移動したのかって?
「ああ、それは飛行船です」
……
飛行船?
「ええ、空を飛ぶ船といいますか……大きな袋……気嚢と呼ばれる場所に空気より軽い気体を詰めて浮遊し、小型の推進力で移動する船です。
速度はそこまでではないのですが、地形を無視して進めますので」
おおおおっ!
まさに飛行船!
それで王都まで?
近くにあるのか?
「い、いえ、途中でトラブルがありまして不時着しました。
トラブルの原因は整備不足です。
ずっと使わず、隠していた飛行船ですので。
ただ、不時着した場所が運よく五村まで一日ぐらいの距離でした」
五村から転移門を使って王都に来たわけか。
「転移門の渋滞さえなければ、オークションにかけられる前に追いつけたのですが……」
そ、それはすまなかった。
「えっと、なぜ村長が謝るので?」
あそこも俺の村だから。
「……」
五村でも、渋滞のことは重くみて対策を検討しているから。
うん。
飛行船。
大樹の村と四村を繋ぐ移動手段として山エルフたちと作ろうとしていたが、万能船の完成により中断となっていた。
無理に作る必要はないと。
たしかにその通り。
性能的にも万能船のほうが上。
理解はしている。
理解はしているが、飛行船はいいものだ。
乗ったことないけど。
その飛行船をさっそく見にいった。
場所は五村から東に歩いて一日ぐらいの場所。
隠しているが、大きいので上空からはすぐに発見できた。
おおおおおおおっ、飛行船だ。
すごい!
帆船の帆を巨大な気球を内包した細長い形は……なんだっけ?
あ、気嚢か、気嚢に変えた形。
その気嚢は三つだな。
大きいメインの気嚢を挟むように左右にサブの気嚢がある。
左側のサブの気嚢は完全に萎んでしまっているし、メインの気嚢も気体が少し抜けたような感じだ。
整備不良によるトラブルがあったと言っていたが、気嚢から気体が漏れたのかな?
無事なのは右側のサブの気嚢だけ。
プロペラに繋がる動力らしき部分は、不時着時に火が出たらしい。
たしかに焦げ跡がある。
ここで動かすのは怖いな。
つまり自力では飛べない状態。
だが、大丈夫。
ハクレンがいる。
「これを持って帰ればいいの?」
そうだ。
頼む。
大樹の村の競馬場に運んでもらえるか。
「任せてー」
ドラゴン姿のハクレンが、飛行船を抱えて浮遊する。
その姿は……なんだろう、抱き枕を抱えているドラゴン?
かわいい。
ふふふ。
このエイプリーたちが使っていた飛行船。
俺がもらった。
いいのだろうか?
いいらしい。
現状のエイプリーたちでは、この飛行船を村に戻すのもむずかしいし、修理もできない。
放棄するしかないそうだ。
なので、俺が娘の記憶体を取り戻した報酬としてもらうことになった。
強引に奪ったんじゃないぞ。
こちらで修理できる可能性とか、ちゃんと伝えたし。
それでもどうぞと言われたから、受け取っただけ。
……まあ、少しもらいすぎだと思うから、今後のエイプリーたちの生活を支援することにはなるだろうけど。
エイプリーたちの娘の記憶体を奪った貴族の子も、ちゃんと事情を説明してエイプリーたちと話し合えば、この飛行船を譲ってもらえたかもしれなかったのにな。
あー、でも、普通の村にこんなのが隠されているとは思わないか。
大樹の村に戻ると、万能船が拗ねていた。
横になって拗ねていた。
わかっていたことだ。
なので大丈夫。
ちゃんと考えている。
万能船よ。
よく聞け。
飛行船は……お前の妹だ!
俺の言葉に、万能船は雷に打たれたかのような衝撃を受けていた。
あ、ハクレン、雷の演出はいらないぞー。
危ないからやめようなー。
万能船の機嫌は直ったが、今度は早く修理しろとプレッシャーをかけてきた。
まあ、万能船が重機のように修理を手伝ってくれるのでかなり楽になっているけど。
修理の総指揮は俺……ではなく、四村のベル。
飛行船の知識はあるそうだ。
キッシンリーの持ち物を直すのはとちょっと抵抗されたけど、飛行船の実物を見て気が変わったらしい。
この飛行船の元の持ち主は、王族だそうだ。
「エンブレムや装飾が外されていますので、これもたぶん売り出されたのでしょう。
うう……哀れな。
かならず直してみせます」
やる気になったベルを中心に、ルーとティア、ハイエルフ、山エルフ、天使族が協力して修理を行っている。
俺も手伝えるところは手伝っている。
飛行船が飛ぶところ、見たいからな。
おっと、夏場で暑いから長時間の作業には注意だぞ。
野外作業する者は帽子を被るように。
あと水分補給を忘れるなー。
氷の魔物が作業現場の各所に大きな氷の塊を置いてくれた。
ありがとう。
壊れた動力部を、山エルフたちが分解していた。
大丈夫か?
もとに戻せるのか?
記録は取っている?
それならいいが……
力任せは駄目だぞ。
「村長」
なんだ?
「これらの部品、木製で複製品を作ってもらえないだろうか」
かまわないが、必要か?
「研究に使いたい。
知らない概念の構造がたくさんあるからな。
ふふふ」
楽しそうでなにより。
「この飛行船を直したあとは、自作での飛行船を作りたい」
いいねぇ。
期待している。
感想、いいね、ありがとうございます。
誤字脱字指摘、助かってます。
これからも頑張ります。