キッシンリーの後始末
とりあえず、エイプリーたちの娘に関しては、なんとでもなることが判明。
事情を説明すれば、ヒイチロウもグラルもこちらに渡してくれるだろう。
ライメイレンも、娘を取り戻したいと言えば強く抵抗はしないと思う。
代わりとなる物は、なにか用意しないといけないだろうけど。
エイプリーとメイの身柄は、ビーゼルに任せることになった。
エイプリーたちの事情はわかったが、オークション会場を襲撃するという騒動を起こしたことに関しては罪に問われるだろう。
捕まった者たちも同じ。
これは魔王国の裁きを待つしかない。
領主が無法を働いた場合に訴える体制はあるのだから、短気を起こさずにそちらを活用してほしかったと言いつつも、娘がさらわれたら短気を起こすのもしかたがないとビーゼルは同情的。
……訴える体制、あるのか?
「もちろんです。
でなければ、各地で勝手をする領主が増えますので」
なるほど。
そういえば、今回の騒動の領主ってナーシィに関係する人?
ナーシィはヒュマ村の出身で、ハウリン村の村長の息子であるガットに嫁いだが鉱山咳で戻され、ハウリン村とヒュマ村の関係が険悪になる事件があった。
「ええと、揉めたあと、ガット殿に改めて嫁いでそのまま村長の村に移住した者でしたね。
いえ、あそことは無関係の領地の話なので……無関係?
直接の関係はなかったはず……えっと、親戚関係がどうなっているかあとで調べます。
プギャル伯に聞けばわかるはずなので」
よろしく。
「ナーシィ殿に関係があったら庇います?」
あー……口出しはしないよ。
魔王国の判断に任せる。
「承知しました」
ただ、キッシンリー夫妻とその支援者たちに関しては……
「そちらも承知しております」
ビーゼルは、エイプリーとメイを取り囲むフォーグマたちを見た。
「ひゃっはー、新鮮な文官だ!
囲め囲め!
逃がしませんよー!」
とくにミヨが欲しがっている。
罪を償ったあとはシャシャートの街に……彼らは彼らで村があるから、無理は言えないけどなぁ。
ああ、そうだベル。
整備槽がどうこう言ってたが、それに関してはどうする?
必要ならそれを出させることで減刑とか頼んでみるぞ。
「いえ、整備槽は太陽城に人数分以上あるので、大丈夫です。
キッシンリーのものは不要です」
そ、そうか。
「ただ、記憶体に入っている人工生命体が思ったより多いようなので、そのあたりは協力していければと思います」
そうだな。
今回のオークションでも落札している。
記憶体から動けるように体……有機体に意識を移すには、その整備槽がいるらしい。
実際に動けるようにするかは、ベルたちと相談してからだけど。
「そうでした。
村長、彼らの整備槽には興味はありませんが、彼らの移動手段には興味があります」
移動手段?
「はい。
彼らの村がハウリン村やヒュマ村の近くと考えると、王都に来るのが早すぎます。
五村かシャシャートの街から転移門を使ったとしても、なにかしらの移動方法があるのではと」
あー……そうなるか。
わかった。
そのあたりも聞いておこう。
話がまとまったので、大樹の村に戻る。
深夜だったけど、ビーゼルの屋敷から馬車で学園の敷地内に移動。
転移門を使って五村で、解散となった。
ここから大樹の村に戻る者は大樹の村に。
五村に残る者は五村に。
ちなみにオークションで落札した品は後日、ゴロウン商会から引き渡される予定となっている。
なのでいまの俺たちは手ぶらだが……
エイプリーの娘の記憶体は、ライメイレンたちが襲撃騒動があっても、きちんと回収して持って帰っていた。
記憶体は一抱えできるほどの大きさの透明な涙型ガラス。
正確にはガラスではなく魔水晶の一種だそうだが、まあ細かいことは横に置いておく。
ライメイレンはこの記憶体になにかあるとは感じていたが、ヒイチロウとグラルが欲しがったのだからと気にしていなかった。
ドラゴンはそういったところが大雑把だ。
そして、記憶体はライメイレンからヒイチロウに、ヒイチロウからグラルに渡された。
今現在、グラルはそれを抱えて寝ているそうだ。
……
い、言いにくいなぁ。
仕方がない。
ハクレン、助けてー。
翌日。
いろいろあったが、最終的に記憶体はグラルからヒイチロウに返され、ヒイチロウから俺に渡してもらった。
ヒイチロウとグラルには感謝だ。
わかっている。
記憶体に代わるものを用意しよう。
ヒイチロウが手作りする?
おおっ、それはいいんじゃないか。
材料や道具はこっちで用意するぞ。
なにを手作りするんだ?
ブローチを作りたい?
オークションでいくつか見た?
手順はガットに教えてもらう?
そうかそうか。
俺からも頼んでおこう。
頑張るんだぞー。
……
あー、その、ヒイチロウよ。
わかっているな。
数を作るのは大変だろうけど……いや、俺のぶんではなく。
ほら、いつもお世話になっている。
そう。
うん、喜んでくれるから。
頑張れ。
あと、その……ほんとうに大変だと思うけど、母親のぶんも忘れちゃ駄目だぞ。
すまないが頼む。
日を改めて。
エイプリーたちの娘の記憶体をエイプリーたちに渡すため、王都に移動。
護衛はいつものガルフ、ダガ、レギンレイヴ。
あと、ビーゼルの屋敷に行くため、フラウも同行。
うーん、転移門で王都までが近くなった。
ビーゼルの屋敷に行って、離れで軟禁中のエイプリーたちに会い、娘の記憶体を渡す。
とても喜んでもらえた。
よかったよかった。
ビーゼルから、エイプリーとメイ、そしてその支援者たちの罪はそれなりにあるとされたが、罰は軽い労働刑になるだろうと教えてもらった。
襲撃したのに、それでいいのだろうか?
俺に気を使ったのか?
「いえ。
どちらかと言えば、領主親子の関係者に気を使った形でして」
?
「今回の件、子が勝手にやったことが原因ですが、領主である親の権威を使っての不正なので、親もそれなりの罪に問われます。
子への教育不足ですね」
そうなるか。
「こういった場合、一般的には問題を起こした子を家から追放し、家を守ろうとするのですが……
親は子を追放せず、庇いました」
庇った?
「ええ。
子の罪は全て親である自分にと」
おおっ、立派な親だ。
「まあ、子は今年で三十になるそうですけどね」
い、いくつになっても子は子ということだろう。
「そうですね。
そして、その子は親が日頃から金策に苦しんでいたのをみて、なんとかオークションに出せる物はないかと動いた結果があれでして……」
……方法は悪いが、親を思っての行動と。
「そのようで。
親は不正に入手した品と知らずにオークションに出品し、結果としては襲撃を呼びこんでしまいましたが……同情すべきところもあると判断され。
あと、プギャル伯が、子は知らないが親は悪いやつではないと減刑に動きましたので」
結果、領主親子の罪を減らすため、オークション会場への襲撃が大きな事件から小さな事件に変更になったと。
なるほど。
それで、刑が軽くなったわけか。
「人的、物的被害がほぼありませんでしたから。
大事にすることはないと、オークションの主催であるダルフォン商会とゴロウン商会からも減刑嘆願もあり」
……エイプリーたちを手に入れるため、ミヨが動いたのかな。
「最終的な領主親子への罰は、騒動に対する罰金と、一部領地……キッシンリー夫妻の村ですね。
そこが没収になります。
それで、かまいませんか?」
かまいませんかと聞かれても困るぞ。
口を出さないと言ったし。
「確認のようなものです。
それで、どうです?」
んー……あ、ナーシィはどうだった?
「表向きは無関係です。
親はヒュマ村の者になっていますから」
その言い方ってことは……
「裏向きでは、父親と思われる領主の弟の一人が、問題を起こした領主屋敷で働いていました」
なるほど。
まあ、ほぼ無関係だな。
今回の件で怪我とかは?
「いえ、戦わずに逃げたようで無事です」
そうか。
あとは……
襲撃されたオークションの主催には、なにかしらの補填が行われるのか?
「オークションを主催していた商会には、今回の罰金がそのまま渡されます。
ただ、罰金はそれほど高くならないでしょうから、魔王国から追加でいくらか支払われるかと」
わかった。
それなら俺から言うことはない。
それでいいんじゃないか。
「承知しました。
ありがとうございます」
ビーゼルはほっと安堵し、関係各所に話を通してきますと去った。
せっかく娘が来ているのだから、もう少しゆっくりしてもと、フラウはちょっと不満顔だった。
まあまあ、ビーゼルはなんだかんだと村に顔を出してくれるから。
「村ではフラシアにべったりなんです」
あはは。
そうだったな。
「私のときは、あんなにかまってもらった覚えはないのに」
まあまあ、男親なんてそんなものだと思うぞ。
俺はフラウの機嫌をなだめつつ、急いで帰ることもないかとエイプリーたちからいろいろと話を聞くことにした。
感想、いいね、誤字脱字指摘、ありがとうございます。
これからも頑張ります。