武闘会 一般の部
武闘会の最中、村は完全お休みになる。
と言っても、仕事はある。
村の全体の警護に、クロの子供たちやザブトンの子供たちが頑張ってくれている。
お祭り中に魔物に襲われでもしたら、興醒めだ。
感謝しつつ、彼らの好物を差し入れておく。
武闘会に参加する者たちの食事を作る者も必要だ。
個人的にはアルフレートやティゼルの世話もしなければならない。
ドースを始めとした来賓も居るわけだし、武闘会に出るだろうが、文官娘衆と鬼人族メイドたちには悪いが頑張ってもらう。
もちろん、俺も頑張る。
武闘会の手伝い、料理の手伝い、そして来賓のお相手。
「村長。
紹介します。
私の父です」
さっそくユーリから、見知らぬイケメン中年を紹介された。
ユーリの父というと……
「魔王?」
「うむ。
余がガルガルド魔王国の魔王である。
ふははははははははははは」
おおっ。
魔王っぽい。
「お父様。
もう少し、フランクに」
「ユーリのパパです。
よろしく」
「あ、はい。
よろしくお願いします」
豹変する魔王に少しビックリしたが、その後の挨拶で魔王のことはユーリのパパさんと呼ぶことになった。
話した感じ、普通のパパさんだ。
「やあ。
村長、突然来て悪かったね」
「いえいえ」
「お祭りは昔から好きでね。
楽しませてもらうよ」
始祖さんとは、その後の挨拶でやんわりとルーとの間に二人目を希望された。
「ハクレンは迷惑を掛けていないかね」
「ははは。
普段通りだと思いますよ」
俺の返事に、ドースが満足そうに微笑んだ。
観戦者たちはなんだかんだと食べる系の手土産を持ってきてくれたし、マイケルさんからは観戦できないことの悔しさを綴った手紙と共に、海産物の差し入れが届けられている。
お祭りの時の差し入れは食べ物が基本なのだろうか。
覚えておこう。
そして、手土産や差し入れに感謝しつつ、見知らぬ食材と格闘する。
「村長。
料理も大事ですが、そろそろ始めないとどこかで暴走しますよ」
「わかった」
「それでは第一回、大樹の村武闘会を行います!」
俺の開幕の合図に、聞いていた者たちが大きな声で応える。
その声の震動に、俺は少しビビッてしまった。
「それでは、一般の部を行います」
一般の部の司会進行は、グランマリア。
俺がするという話もあったのだが、遠慮させてもらった。
俺には料理の手伝いという重要な任務があるからだ。
とか思っていたら、特別に用意された舞台近くの席に座らされた。
ドースたちが来た時、貴賓席っぽい場所が必要と思って観客席スペースの一部を改造した時、村人に言われて作ったスペースだ。
村長席だったのか。
そして、村長として、そこで見ているようにとのことだ。
料理の手伝いは、なぜか始祖さんとドライムの奥さんがやっていた。
器用にジャガイモやニンジンの皮を剥いている。
申し訳ない。
俺は色々と諦め、意識を一般の部の試合に向ける。
一般の部は、クジによる対戦。
連戦は基本的に行わない。
ルールは、相手に敗北条件を与えることで勝利となる。
敗北条件は複数。
頭のハチマキを取られる、切られる。
ギブアップを宣告する。
ダウンして、十カウント以内に起き上がらない。
舞台以外の場所に接地するリングアウト。
審判から、戦闘続行不能と判断される。
以上の五つ。
なので、主な勝利の方法は、相手の頭のハチマキを奪うか、舞台から押し出すことになると予想する。
最初、他の者たちが考えていたルールは、相手を戦闘不能にするかギブアップさせれば勝利というワイルドなものだったので、ルール追加で少しマイルドにした。
また、大前提ルールとして、武器は最大二つまで。
試合開始前に相手に見せ、布を巻くなどのダメージを軽減させる処理を行わなければならない。
防具は自由。
魔法も自由。
また、これはお祭りであって殺し合いではないので、相手を死亡させてしまった場合は即座に失格敗北、さらに重いペナルティを加えることになっている。
ペナルティの詳細は伝えていない。
下手にペナルティの詳細を伝えると、居ないとは思うがその程度なら構わないかと考える者が出ても困るからだ。
俺の中の常識では、相手を死亡させるまではやらないと思うが……戦いに酔うというか、興奮することはあるからな。
喧嘩慣れしていないと、その辺りは油断できない。
審判の判断に期待しよう。
審判のハクレンが舞台に上がった後、グランマリアから最初の対戦者が発表される。
第一試合は、獣人族の娘と、文官娘衆の一人だ。
双方共、普段はスカートだが今はズボンを着用している。
俺がそう推奨しておいた。
獣人族の娘は両手に短めの短剣を持ち、文官娘衆の方は普通の剣と盾を装備している。
「始めっ!」
ハクレンの掛け声で、舞台の上で戦いが始まり、それを取り囲む村人や観戦者たちの興奮が高まっていく。
応援は自由だが、相手を罵倒する系は駄目と事前に伝えているので今のところは綺麗な声援だ。
試合は、あっと言う間に終わった。
まずは獣人族の娘が身を低くして突撃、文官娘衆は盾でそれを防ごうとしたところで、獣人族の娘は右前に転がるかのような勢いで移動。
文官娘衆は剣を右手に持っているので、そこから遠ざかる形で横を取った。
だが、剣からは遠ざかったが、盾は目の前にある。
俺はその後、どうするのかと思ったら、獣人族の娘は足を伸ばして盾の下に見えている文官娘衆の足を引っ掛け、転ばせようとした。
文官娘衆は足を引っ掛けられ、体勢が崩れはしたが転ぶまではいかなかった。
獣人族の娘が伸ばしている足を盾で殴り、ヒット。
獣人族の娘が足を引きながらまた右前に向けて転がる。
それを見て、文官娘衆は思い切って身体を右側に回し、転がる獣人族の娘を迎え撃つ形で剣を振るった。
獣人族の娘も負けず、両手に持つ二本の短い剣を振るった。
そしてハチマキが舞う。
転がった分だけ身体と頭が低い位置にあった獣人族の娘のハチマキに、文官娘衆の剣が当たって飛んだようだ。
獣人族の娘の振るった二本の短い剣は、文官娘衆の脇腹をとらえていたが、布を巻いてダメージを軽減しているのでダウンさせるほどではなかった。
「決着!
そこまで!」
ハクレンが試合を止め、相手のハチマキを落とした文官娘衆の勝利を告げた。
会場から歓声が上がった。
「今のは思い切りましたね。
一瞬とは言え、相手に背中を見せるのですから」
グランマリアが今の一戦の解説をしながら、互いに今後のための注意点を伝えていく。
うん、俺には無理な仕事だな。
俺は俺の仕事をする。
勝利した文官娘衆が、俺の前にやってくる。
俺は彼女を褒め、そして勝利者として褒賞メダルを一つ、渡した。
文官娘衆は褒賞メダルを満面の笑みで受け取った後、苦痛で悶え、フローラが慌てて治癒魔法を使った。
獣人族の二本の剣が脇腹に当たったのは、ノーダメージではなかったようだ。
いや、痛いなら我慢しなくていいからな。
先に治療を受けよう。
こんな感じで一般の部は行われた。
幸いにして、大きな怪我人は出なかった。