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キッシンリーの事情

●登場人物紹介(四村のマーキュリー種)

ベル 四村のマーキュリー種の長。巫女風。

ヨル 温泉地の転移門の門番。秘書風。兵装担当。


フタ 五村の転移門の門番。占い師風の魔法使い。

ミヨ シャシャートの街に在住。イフルス代官の秘書っぽいことをしている幼女メイド。

ヒー 五村の武官。

ロク 五村の文官。

ナナ 五村の密偵。村娘っぽい姿。


●今回は出てこないけど登場しているフォーグマ

アサ 現在はウルザに同行中。執事風。

ゴウ 四村村長補佐。中年執事。

トウ 万能船の船長。

イレ 撮影隊の隊長。



 夜中。


 ビーゼルの屋敷にお邪魔した。


 迎えてくれたビーゼルに、急な来訪になって申し訳ないと謝る。


 仕事とかあったんじゃないか?


「いえ。

 実は、さきほどまでプギャル伯と会っていたのですが……急に体調不良で帰られましたので。

 問題ありません」


 そうか。


 プギャル伯爵には以前のこともあるし、娘のこともある。


 どこかでちゃんと挨拶したかったが、タイミングがあわないな。


 残念だ。


「プギャル伯も残念に思っているでしょう。

 お気持ちだけ、お伝えしておきます」


 ビーゼルにそう言われながら、屋敷の離れに案内された。


 ここは急な来訪者を迎える場所で、常に手入れがされているらしい。


 今回のような場合には、とても都合がいい場所だ。


 それを知っていたからフラウは、ビーゼルの屋敷を勧めたんだろうな。


「もちろんです。

 ここは私にとって実家ですから」


 フラウはそう言いながら、屋敷にいる警備の者たちに指示を出していた。


 あ、危ないから遠くに行ってもらう指示ね。


 危なくはないと思うけどなぁ。



 そして、その離れの広間の中央に置かれたソファーに座らされたキッシンリーを名乗る男。


 それと、その横に座る女性。


 女性はキッシンリーの妻だそうだ。


 近くで隠れて俺たちとのやりとりを見ていたらしい。


 俺は気づかなかったが、ガルフやダガはその存在に気づいていた。


 そして、強いことも。


 それゆえ、キッシンリーが現れたときに問答無用で捕まえに動かなかったそうだ。


 なるほど。


「ああ、すまない。

 キッシンリーはフォーグマと一緒で、一族の名だ。

 俺はエイプリー。

 こっちの妻はメイだ」


 エイプリー=キッシンリーと、メイ=キッシンリーね。


 自己紹介をしてくれたなら、こちらも自己紹介をする。


 俺はヒラク、ヒラク=マチオ。


 大樹の村を代表とするいくつかの村の村長をやっている。


 で、こちらから……


 この屋敷の主人、ビーゼル……ビーゼル=クローム伯爵だ。


 魔王国の四天王の一人でもある。


「ビーゼルです。

 よろしくお願いします」


 その横がビーゼルの娘のフラウレム。


「フラウレムです。

 フラウとお呼びください」


 フラウの横にいるのが、天使族の長のマルビット。


「よろしくね」


 その横にいるのが、知っているかもしれないが、ベル=フォーグマとヨル=フォーグマ。


 ……


 二人はにらむだけで、挨拶しないみたいだ。


 えっと、悪魔族のプラーダ、ブルガ、スティファノ。


「どういった目的でオークションの品を狙ったかは知りませんが、覚悟してください」


「あ、私は無関係です。

 存在しないものとして扱ってください」


「同じく私も無関係です。

 無視してかまいませんよ」


 あーっと、向こうにいるのが俺の護衛をしてくれている獣人族のガルフ、リザードマンのダガ、天使族のレギンレイヴ。


 こっちは目礼だけだな。


 警戒は解いていない。


 で……


 君たちの後ろにいるのが、右から……フタ=フォーグマ、ミヨ=フォーグマ、ヒー=フォーグマ、ロク=フォーグマ、ナナ=フォーグマだ。


 うん、どうやって連絡したのか、フタたちがやってきていた。


 ミヨやヒー、ロク、ナナが来れるのはわかるが、フタは五村の転移門の門番をやっている。


 門番はどうしたんだ?


 からっぽにはしていないんだろ?


 いつも頼んでいるアラクネのアラコは、温泉地の転移門の門番をヨルに頼まれているだろうから……


 ちょうどやってきたロナーナに頼んだ?


 ロナーナが門番で動けなくなると、グラッツが怒らないか?


 グラッツも来たので二人で門番をやっていると。


 いいのか?


 ま、まあ、早く終わらせれば大丈夫か。



 えーっと……


 話を進めようとしたら、ベルに止められた。


 まずはフォーグマとキッシンリーの関係を俺に説明したいと。


 なるほど、聞きましょう。





 ごほん。


 ベル=フォーグマです。


 説明させていただきます。


 少し昔の話になりますが……


 私たちが生まれた時代の王国には、人口減少抑制ビーナス計画という、人工生命体ホムンクルスを活用する計画がありました。


 簡単に言えば、人手不足を人工生命体で補う計画です。


 最初は簡単な仕事をする労働者を増やしていきましたが、徐々に高性能な王国兵士や王国戦士が製造されていきます。


 その有用性は大きかったのですが、指揮する者の力不足が指摘され……まあ、簡単に言えば王族が無能と判断されたのです。


 さすがにそれではよろしくないと、王族をサポートする王族守護者マーキュリー計画が始まりました。


 そうして生まれたのが、私たちフォーグマ一族です。


 これで王族は安泰と思われたのですが、どうせなら王族のサポートではなく、王族の仕事を代わりにする者を用意すればいいのではないかとのたまった馬鹿……失礼、王族がいまして。


 その発言をもとに始まったのが、王国執政官ポセイドン計画です。


 ただ、王族守護者マーキュリー計画で造られた私たちフォーグマ一族が当時の最高性能というか、予算を無視して個々に尖がった性能を求めたものでして……


 フォーグマ一族を超えようとしたのですが、結果的にはフォーグマのとがった性能をマイルドにして統合したものになったのがキッシンリー一族です。


 それだけなら敵意はなく、私たちの同郷で同胞と言いたいのですが……


 キッシンリー一族は、造られた目的通りに王族の代わりに政務を行ったのですが、最終的に王族は不要ではないかと判断し、王族から政権を奪ったのです。


 許されざる敵対行為です。


 王族がそれを望んだとか、喜んで政権を渡したとか、どうでもいいのです。


 王族守護者である私たちが、それを許さないということです。


 しかも、その後……五十年後ぐらいに反乱がおきて国が滅んでいるんですよ。


 許せると思いますか?


 あ、いや、国が滅んだことに関してはそこまで怒っていません。


 仕方がない部分もありますからね。


 許せないのは連中、私たちの性能が尖りすぎたゆえに使いにくいからって太陽城に押し込めておきながら、ろくに働かない予算の無駄使い一族って罵倒して、予算を削減してきたことです。


 絶対に許せません。





 つまり、キッシンリー一族は……


「新鮮なキッシンリーだ!

 囲め囲めっ、逃がすなっ!」


 ということか。


 ……


 新鮮なキッシンリーってなんだ?


 あ、囲むのはやめてあげなさい。


 泣きそうになっているから。


 プラーダも一緒になって囲むんじゃない。


 前にプラーダが原因で襲撃があったの忘れてないよな?


 ミヨ、ソファーを蹴るのはやめるんだ。


 ソファーに罪はないから。


 あと、そのソファーはビーゼルのだから。


 たぶん、高いぞ。


 高級品だ。


 ああ、違う。


 直接、蹴れって指示したわけじゃない。


 ほら、無抵抗なんだから。


 話が進まないから、やめてやれ。


 マルビット、ニコニコしてないで止めるのを手伝うように。


 フラウ、ビーゼルと一緒に逃げるんじゃない。


 俺一人に任せるな。


 収拾がつかないから。



 少しバタバタしたけど、なんとか落ち着いてくれた。


 よかった。


 お茶が美味しい。


 えーっと、それで……エイプリーとメイは、ベルたちに話があるんだな。


 俺たちは聞いて大丈夫か?


 なんだったら席を外すが?


 ……席を外されるとボコボコにされるから、絶対にいてほしい?


 まあ、かまわないが。


 とりあえず、話し合いのメインはベルに担当してもらおう。


 俺は意見を求められたときだけ答えることにする。


「それで、どういったお話でしょう?

 私たちにも利益があると言っていましたが?

 簡潔にお願いします」


 ベルが話のきっかけを作る。


 まあ、ちょっとぶっきらぼうだが。


「オークションで迷惑をかけたのは謝る。

 俺たちの目的は、オークションに出品された俺たちの娘だ。

 生身じゃない、記憶体だ」


 記憶体というのは、以前のゴウのように巨大な水晶とかのことだ。


「俺たちは基本的に記憶体で生活している。

 体の維持が難しいからな」


 なるほど。


「ただ、記憶体は見た目は綺麗なオブジェだ。

 娘の記憶体としらない貴族が勝手に持っていってオークションに出品した。

 俺たちはそれを取り返そうとしただけだ」


 ああっ、最終日に持ち込まれたやつか。


「俺たちが競り落とせたらよかったんだが、競り負けて……

 俺たちの支援者たちが激高して、ああいった騒動になってしまった」


 ふむ。


 ベルが支援者について質問した。


「王国が滅んだあとも、俺たちは生きていかなきゃならんからな。

 魔族や獣人族をまとめて小さな村を作っていた。

 そこの住人だ」


 おお、親近感。


「俺たちは記憶体から生活のアドバイスをしていたんだが……まあ、その神さまみたいに扱われてな」


 そこには親近感がないなぁ。


「魔王国が領土を広げたとき、村は争う気はなかったから素直に支配下に入って、魔王国の貴族の領地の一部になったんだ。

 以後は貴族には税として兵を出していたんだが、戦争がなくなるから兵はいらん、金を出せと言われて……俺たちの村から金目の物を持っていくようになってな」


 ふむ。


「大事な物を渡したりはしないんだが、そこの貴族の馬鹿息子がこともあろうに娘の記憶体を勝手に持ち出して……」


 娘を奪われたのがいまから三十日ぐらい前。


 エイプリーとメイが娘の奪還を考え、記憶体から動ける体になったのが十日前。


 三日前に領主屋敷を襲撃したが手遅れで、娘はオークション会場に運ばれていたと。


 そこまで聞いて、ビーゼルが頭を抱えた。


 三日前、プギャル伯爵の関係者の領地で、領主屋敷襲撃事件が起きたとの速報が入っているらしい。


 ビーゼルはそのことでプギャル伯爵とさきほどまで話をしていたそうだ。


 あー、となるとエイプリーたちの村ってのは、ハウリン村とかヒュマ村とかの近くか?


 以前、揉めたときにそのあたりがプギャル伯爵の関係者の領地だと聞いた覚えがあるんだが?


 ヒュマ村と交易するぐらいの距離になるのね。


 へー。


 意外とご近所さんだ。


 そして、領主屋敷を襲撃して馬鹿息子を捕えたエイプリーたちはオークション会場に向かい、今回の騒動になったと。


 ああ、オークション会場にはその貴族の馬鹿息子が持っていた紹介状で入ったと。


 競り落とす金も、その貴族の馬鹿息子に出させるつもりだったのね。


 なるほど。


 まあ、同情の余地はあるが、このあたりは魔王国がどう判断するかだな。


 貴族有利の判定をするか、貴族を罰するか……


「お話が事実だとすると、貴族を罰して取り潰すでしょう。

 かばう理由がありません」


 ビーゼルはそう言って、魔王国の指示じゃないですよと俺に言ってくるが……いや、そんなことは思ってもいないぞ。


 そのことを責めるために、ここに来たわけでもないし。


 うん、フラウ。


 フラウがここにしようと言っただけだから。


 あー、ビーゼルの考えはわかったが、プギャル伯爵のほうはどうなんだ?


 関係者なら庇うんじゃないか?


 絶対に庇わない?


 そ、そうなの?


 プギャル伯爵は娘には甘いけど、部下には厳しいと。


 いいのか、それで?


 話が脱線しかけたので、ベルがわざとらしいせき払いをした。


「失礼しました。

 キッシンリーさまの事情はよくわかったのですが、それで私たちにどのようなお話が?

 さきほども言いましたが簡潔にお願いします」


「娘の奪還に協力してくれ。

 協力してくれるなら、俺たちが持っている整備槽を渡す。

 あんたたちも、整備槽には興味があるだろ。

 いまでは手に入らないからな」


 ベルは返事をせず、話を続けてくださいと微笑む。


「娘を落札したのは、若い婦人だ。

 子供を二人、連れていた。

 代理人を立てずに落札していたから、調べれば誰かはすぐにわかる」


「娘を返すための交渉を手伝ってほしいということですか?」


「……あれだけの額を提示する者だ。

 金では動かんと思われる」


「だから力でと?」


 ベルが最終確認をする。


「娘を奪還するためだ」


 ここまで聞いて、ベルは俺にどうしますと返事を聞いてきた。


 わかっていて、聞いてきた。


 わかっていて。


 ……


 あー、物騒なことはやめるように。


 ビーゼルも聞いているわけだし。


 あと、娘を落札したのは知り合いというか、ライメイレンだから。


 グラルにねだられたヒイチロウが、ライメイレンに落札してほしいと頼んだみたいで。


 ヒイチロウとグラルを連れたライメイレンに、力で挑むのは……危ないぞ。


 プラーダ、笑うのはやめてあげなさい。


 事情がわからないエイプリーとメイが困ってるから。





●フォーグマを順番に並べると(未登場含む)


ベル 四村のマーキュリー種の長。巫女風。


アサ 現在はウルザに同行中。執事。

ヒー 五村の武官。軽戦士。

ヨル 温泉地の転移門の門番。秘書。兵装担当。


イチ 未登場。

フタ 五村の転移門の門番。占い師風の魔法使い。

ミヨ シャシャートの街に在住。イフルス代官の秘書っぽいことをしている幼女メイド。

ゴウ 四村村長補佐。中年執事。

ロク 五村の文官。

ナナ 五村の密偵。村娘っぽい姿。

ハチ 未登場。

ココ 未登場。

トウ 万能船の船長。

イレ 撮影隊の隊長。

ツエ 未登場。


ハリ 未登場。





●時系列


娘、奪われる。(三十日前)

エイプリー、娘奪還のために移動できる体に。(十日前)

領主屋敷襲撃。(三日前)

オークションに参加して競るも負け、襲撃。(ついさっき)

ベルに協力要請。(現在)





ヒイチロウ   「ばーばが落札した! すごい!」

グラル     「さすがです、ライメイレンさま!」

ライメイレン  「ふふ」(ご満悦)


オークション側 「襲撃です。お逃げください」

ライメイレン  「あの程度で騒ぐ必要はありません」(きりっ)

ヒイチロウ   「でも、危ないよ。ばーばが怪我しちゃう」

ライメイレン  「わかりました、避難しましょう。はぐれないように手を繋ぎましょうねー」

ヒイチロウ   「はーい」


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― 新着の感想 ―
ベルのネタ元ってなんだろ? マーキュリーが刻絡みなのは解ってるんだけど… 朝昼夜…違うな。数字(十二進法)…違うな。 日付変更→0時→鐘→ベル なのかな? まさか、目覚時計→ベル だったりして?
206回で 『 この水晶石、正しくは名前があり、ゴウ=フォーグマという。  ベルに教えてもらった。  察するに姉弟?  太陽城の城主を補佐するために作られた人工生命体だそうだ。  ベル、ゴウを含めて…
ヒーって昼から来てたんだひーふーみーよのひーだと思ってた さらにミヨって3と4合わせてたんだね、4がヨルだと思ってた
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