王都のオークション
●登場人物紹介
フラウ ビーゼルの娘。
マルビット 天使族の長。キアービットの母。
ベル 四村のマーキュリー種の代表。
ヨル 四村のマーキュリー種。兵装担当。現在、温泉地勤務。
ブルガ 古の悪魔族。現在、ラスティの子らの世話係。
スティファノ 古の悪魔族。現在、ラスティの子らの世話係。
ラナノーン ラスティの娘。
ククルカン ラスティの息子。
王都で開かれているオークションの最終日の昼。
俺は王都にいた。
グラッツが使っている転移門を使ったので、移動は楽。
かなり楽。
王都にいるトラインの様子を見ることもできたので、よかった。
そして、チーム《オークションで落札し隊》と合流。
《オークションで落札し隊》のリーダーはプラーダ。
メンバーはフラウ、マルビット、ベル、ヨル。
あと、プラーダのブレーキ役に、ブルガとスティファノ。
この《オークションで落札し隊》はオークション初日から参加し、欲しい物をほぼ全て落札している。
そう、ほぼ全て。
今回のオークションでは、二種類の形式が採用されている。
入札形式と競売形式だ。
入札方式とは、個人が金額を書いて入札。
最終締め切り日までに、もっとも高い値を書いた人が落札するスタイル。
競売形式はオークションでよくイメージされる、いわゆる競り。
落札希望者が値を競って、最終的にもっとも高い値を提示した人が落札するスタイル。
《オークションで落札し隊》は、入札形式ではいくつか逃したらしいけど、競売形式では狙って落とさなかった物はないそうだ。
大暴れだな。
どれぐらいお金を使ったんだ?
……あれ?
期待したほどお金を使ってないな?
いや、それなりに使ってはいるけど。
えーっと、まずは兵装関連。
二十二点の落札だな。
かなり落札額が抑えられている。
「知らない人からすれば用途のわからないオブジェですから。
競ってくる人がおらず、ほぼ底値で落とせました」
フラウがそう言うと、ヨルが怒った。
「なぜあの兵装の価値がわからないのか!
見る目がなさすぎる!」
いや、競って入手できなくても困るだろ?
喜ぼうよ。
で、これらは使えるのか?
「整備すれば使えます!」
整備しないと駄目なんだな。
「私が整備できますので、大丈夫です。
お任せください」
ヨルが胸を張る。
整備に必要な物も落札しているらしく、問題はないらしい。
兵装関連はわかった。
えーっと、人工生命体の王国戦士関連は?
「こっちは、少し調査をしないと動かすのは怖いですね」
ベルがそう言って、資料を渡してくれる。
王国戦士関連での落札は六つ。
兵装に比べて値が張るのもあったようだ。
「入札方式でいくつか出てたので、確実に落とすために高めに入れましたから」
なるほど。
「あとは、魔王に提出したリストのものをいただければ」
そうだな。
今回のオークション、魔王による貴族への資金援助の側面がある。
それゆえ、いくつかの品が適正価格以上の値で取引されることになっており、俺たちをそれに巻き込まないために事前にこちらが落札したい品のリストを魔王に渡している。
なので、《オークションで落札し隊》が落札しているのは魔王が関係しない品となる。
そういえば、魔王側の落札は上手くいっているのか?
基本、魔王側は最低額の入札であとは自由競争に任せる予定だったが、俺たちがリストに載せた品は俺たちに適正価格で販売するため、落札しなければならない。
魔王側が落札するとわかっていたら、競って値を上げようとする者が出るんじゃないか?
「大丈夫ですよ。
そのあたりは事前に調整されてます」
マルビットがそう言って、入札方式の品のプレートを指差す。
品名が書かれているプレートだが、これがどうしたんだ?
マルビットは黙ったまま、プレートの端に目立たないようにある印を指差した。
知っていれば見つけられるが、知らないと見落とす印だ。
「魔王が関わっている印です。
だれがどの金額を入れても、魔王が最高値で買うはずです」
それはずるいんじゃないか?
「ずるいですよねぇ。
そして、その最高値があまりにも相場からかけ離れている場合は、取引中止になります」
あー、そういう対策なのね。
「はい。
ですので、リストの品はほぼ手に入るかと」
そのあたりは、あまり心配はしていないよ。
ただ、手に入れるのに無茶をさせてないか心配になっただけだ。
えーっと、あと落札したのが、本のまとめ売りとか、古代の資料とか魔道具、美術品など合わせて百六十点ほど。
多いなぁ。
それで、ブルガ、スティファノ。
プラーダは大人しかったか?
「大人しかったと思います?」
「そう思ったのなら、なぜそう思ったのかの根拠を教えてほしいですね」
ブルガたちは笑顔だが、怒気があった。
……すまなかった。
今日で最後だから。
ククルカンには、二人が頑張っていたと言っておくよ。
「絶対ですからね」
「ラナノーンさまにも言ってほしいです」
わかったわかった。
そしてプラーダは、つねにスキップだ。
機嫌がよさそうでなにより。
このまま全てプラーダたち《オークションで落札し隊》にオークションを任せたかった最終日の今日。
俺はプラーダに呼ばれた。
参加したい気持ちがあったので、のこのことやってきたが……なぜ呼ばれたのだろう?
「シークレット商品が出るんです」
プラーダがそう言うが、シークレット商品も事前にゴロウン商会やダルフォン商会に見せてもらっただろ?
「それが、期日後に無理やり品を持ち込んだ貴族がいるようで」
あー、俺たちの見てない品が出るってことか。
「はい。
実際、持ち込まれたのは昨日の夜中です。
オークション側も最終日でバタバタしており、私たちがチェックする隙がありませんでしたので」
それはほんとうに急だな。
オークション側も大変だろうに。
「事前に商品を出したいとは伝えていたみたいですけどね。
オークションで動いた金額を見て、慌てて追加の品を探してきたという感じだと思います。
なので期待は薄いですが、妙な予感がしましたので」
俺を呼んだと。
プラーダの妙な予感となると、期待できるか?
いや、怖いか?
まあ、オークションで落とすかどうかの判断を仰ぎたいということなので、なにかあるわけじゃないだろう。
のんびりと参加させてもらおう。
夜。
結論だけ言うと、最後にバタバタした。
ほぼ全てのオークションが終了した段階で、三十人を超える規模の襲撃があったのだ。
彼らの狙いはオークションに出されている品。
ただ、オークション会場には警備員がいるし、参加者もそれなりに護衛を同行しているので、簡単に奪われたりはしない。
あちらこちらで戦闘があった。
俺はガルフ、ダガ、レギンレイヴの護衛に守られ、安全な場所に避難して無事だった。
フラウ、マルビット、ベル、ヨルも俺と一緒に避難したから無事だ。
ただ、プラーダだけが美術品に傷がつくと怒り、襲撃者を迎撃するために動いた。
止めるまもなく。
あっというまに。
ブルガ、スティファノは俺にどうします? と判断を振ってきたので、プラーダの援護をお願いした。
危ないことはしてほしくないんだけどなぁ。
まあ、ブルガとスティファノの強さは武闘会で知っている。
大丈夫だろう。
そして捕まえた襲撃者たち。
その数は三十三人。
うち、二十七人をプラーダがぶっ飛ばして、ブルガとスティファノが捕縛した。
オークション側というかゴロウン商会とダルフォン商会からは、品は全て守れたと強く感謝されたが……
警備員で六人しか捕縛できなかったのはどうなんだろう?
え?
実際は三人?
もう三人は参加者の護衛が捕まえたと。
警備員の数、少なかったのか?
それともプラーダが警備員の邪魔をしてしまったとか?
違う?
プラーダが強かっただけ?
そ、そうか。
そのプラーダは、何人か逃がしてしまったと不満そうだったけど。
こっちが落札した品も無事だったんだ。
喜ぼう。
さて、捕まった襲撃者だが、いきなり死刑とかにはならない。
しばらくは拘束され、事情を調査される。
まあ、拘束や調査は魔王国に任せるので俺たちは口を出さない。
終わったことだと思っていたのだが……
終わらなかった。
オークション会場から、学園の敷地内に戻ろうとしていた俺たちの前に、男が立ちふさがった。
中年……三十代後半か、四十代前半。
小太り気味。
冒険者ではない。
どちらかと言えば商人のような感じ。
だが、稼いでいる雰囲気はない。
失礼だが、貧乏くじばかりを引いていそうな顔だ。
プラーダが、逃げた襲撃者の一人ですと言うとガルフ、ダガが剣を握る。
しかし、男は交戦の意思を示さなかった。
腰にぶら下げている剣に手をかけず、両手を肩の高さにあげ、降参を示す。
だが、だからと言って俺たちに捕まる気はないようだ。
一定の距離を保っている。
とくにプラーダから。
「話がある」
……
そう言われてもな。
残念ながら、こっちにはない。
さっさと捕まえるか、追い払うべきだろう。
もしくは学園の敷地内にまで逃げ込むか?
「ほんのちょっとだけでいいから、話を聞いてほしい」
えーでも、オークションを襲撃した人と仲よく話をしていると、こっちまで仲間と思われてしまう。
「捕まっても、仲間じゃないって言うから」
嬉しい言葉だが、それをどこまで信用できるものだろうか?
やはり、さっさと捕まえるか、追い払うべきだな。
うん。
「ま、待って。
そこの女の人たちに話があるんだ」
そこの女の人たちと男が指差したのはベルとヨル。
ベルやヨルの知り合い?
ベルとヨルは首を横に振っている。
だが、男は知り合いだと言葉を続ける。
「あんたたち、フォーグマだろ?
王族守護者の。
俺はキッシンリーだ」
男がそういった瞬間、ベルとヨルの雰囲気が変わった。
「キッシンリーですか。
そうですか。
では死にますか?」
「運がいいですね。
ちょうど貴方がたを殺せる武装を入手したところです。
整備後に、試射の的になってもらいましょう」
「待って待って待って!
交戦の意思はない。
あと、あんたたちに勝てるとは思ってないから。
話だけ聞いて。
あんたたちにも利益がある話だから」
ベルとヨルが、俺を見る。
見られても困るんだが。
……
わかった。
話を聞こう。
ただ、不審者を学園の敷地内には連れていけないから……
近くにあるビーゼルの屋敷にお邪魔することにした。
すまない、ビーゼル。
巻き込む気はないんだが、フラウからの提案で。
うん。
フラウがどうぞって言うから。
フラウ 「屋敷なら警備の兵もいますし、離れもありますから」
ビーゼル 「間違ってないけど……」
直前に帰ったプギャル「ぽんぽん痛い! 帰るっ!」
学園長 「学園内に連れて来なかった村長に十点!」