表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
926/978

閑話 ギスカール将軍


 私の名はギスカール。


 ギスカール=クロックホック。


 魔王国の将軍の一人として、それなりに有名だと自負しています。




 さて、私は村長一行が正門を抜けるのを見送りました。


 ……


 村長一行の姿が見えなくなるのを確認し……


 後ろに控えている部下に声をかけます。


 どうでした?


「練習不足でした」


「もう少し時間をかければ、スムーズに人文字を形成できると思います」


「村長の読解力が高くてよかった」


「馬たちは頑張った」


 ……違います。


 そういうことが聞きたかったのではなく、事前に私に言ってましたよね?


 村長の実力を知りたいと。


「え?

 そんなこと、言いましたっけ?」


「言ったかな?」


「言ったのは、戦いはなにも生み出さない。

 平和が一番とかなんとか……」


「それだ!」


 それだ! じゃない!


 そんなこと、聞いた覚えがない!


 いつもいつも戦わせろ戦わせろとしか言わないでしょうが!


 そして、今回も思いっきり威勢のいいことを言ってましたよね?


「覚えがないなぁ」


「いつの話ですかな?」


「なにか記録が残ってます?」


「きっとギスカール将軍はお疲れなのでしょう」


 ……お前ら、並びなさい。


 ぶっとばします。


 あ、逃げるんじゃないっ!




 夜。


 要塞後方街にある指揮官屋敷の一室で、私は鎧を脱いでソファーにもたれます。


 事前にブリトア侯やクローム伯だけでなく、魔王さままでが直々にやってきて、村長と敵対するならかばわないとまで警告されていました。


 つまり、関わらないのが最善。


 なのに、部下たちがどうしても一目見たいと言うから、挨拶する場を作ってもらったというのに……


「ですが、ギスカール将軍も見たかったのでしょう?」


 私の副官が話し相手になってくれるようです。


 彼女は現場にはいませんでした。


 敵が来ることはないと知っていても、要塞の指揮官を不在にするわけにはいきませんからね。


 彼女にお願いしていました。


「それで、村長はどうでした?」


 そうですね、温厚そうな人でした。


「ああ、それで騒ぎがなかったのですか。

 私は絶対に揉めると思ってましたよ」


 ですよね。


 今回、挨拶の場に連れて行ったのは騒ぎを起こしそうな者ばかり。


 クローム伯はそれに気づいたでしょう。


 怒っていました。


 クローム伯には悪いことをしたと思っています。


 しかし、私は騒ぎを起こそうとしたわけでも、村長に対して害意があったわけでもありません。


 騒ぎを起こしそうな者たちに村長を見せ、今後の騒動を抑えようと考えただけです。


 魔王さまによる勝利宣言は多くの者に好意的に受け入れられていますが、一部の兵士には不評なのです。


 もっと戦わせろと。


 末端の兵士が言うなら頼もしいと思うのですが、部下を率いる者たちが言うのは危険です。


 だからこそ、村長の来訪を利用させてもらいました。


 魔王さま、ブリトア侯、クローム伯が気をつかう村長。


 可能なら手合わせを願い、その強さを見せつけてもらう。


 それで騒ぎを起こしそうな者たちを黙らせる。


 それでも黙らなかったら?


 私が叩きのめすだけです。


 ですが大丈夫でしょう。


 ブリトア侯から、村長は神代竜族を妻に持つ者と聞いていましたので。


 お伽噺とぎばなしかなと疑ったのは、懐かしい思い出です。


 魔王さまやクローム伯にそれとなく聞いてみましたが、笑いながら肯定されただけでした。


 さらに、妻は二頭だそうです。


 なので、事実なのでしょう。


 そんな方に命がけで手合わせを願わねばならない、私の心境を考えてほしいものです。


 そう思って村長を出迎えに行ったら、吸血姫ルールーシーと殲滅天使ティアがいました。


 あとで知りましたが、その二人も村長の妻だそうです。


 お手合わせを願うプランを即座に陳情プランに変更したのは、自分で言うのもなんですが英断でした。


 軍を率いてならともかく、一対一の手合わせで吸血姫ルールーシーや殲滅天使ティアに勝てる気がしません。


 そして、そんな二人を妻にしている村長。


 魔王さまが気をつかうわけです。


 連れて行った騒ぎを起こしそうな者たちも、私のプラン変更にしっかり対応していました。


 あれだけ事前に強気なことを言ってたのに、すごい変わり身です。


 事前の打ち合わせもなかったのに、しっかりと要望を伝えたことには私も驚きました。


 とくに馬。


 うん、すごかった。


 馬を含め、彼らは村長の力量を見切ったわけではないでしょうが、なにかあることを感じ取ったのでしょう。


 それができない末端の兵士は勝手に勝負を挑んで、護衛に倒されていましたが……


「護衛にあの武神ガルフがいたと聞いていますが?」


 ええ、噂のとおり、強かったですよ。


 武神ガルフに、それに並びまさる猛者ダガ。


 さらには天使族のレギンレイヴ。


 護衛というには過剰すぎる戦力でした。


「村長は無理でしょうが、彼らだけでも軍にスカウトするのは?」


 無理でしょう。


 それに、誰と戦う気です?


「あー、たしかに相手がいませんね」


 あと、予想はしていると思いますが、今後は軍が縮小されます。


 ここの駐留数を減らしているのは、その第一歩です。


「各地に派遣して、そのままということですか?」


 放り出したりはしませんけどね。


 軍でしか生きられない者もいますから。


 縮小はゆっくり、徐々(じょじょ)にです。


「私も再就職先を考えたほうが?」


 私や貴女は辞められませんよ。


 そういうことになっています。


「そうですか。

 まあ、実家に戻るより軍のほうが居心地がいいので助かります。

 あ、そういえば村長になにを陳情したのです?」


 要塞後方街ここと王都を繋ぐ転移門の設置。


 あと、要塞後方街に五村の店がほしいと伝えました。


「いけそうですか?」


 わかりません。


 クローム伯を怒らせてしまいましたので、後押しは期待できませんし……


 ブリトア侯に、後押しをお願いしてみましょうか。


「駄目だったときは、長期休暇を申請しますので。

 私、将軍と違って、ここに赴任ふにんしてから王都にすら行けてませんよ」


 私だって、常にここですよ。


 王都に行けたのも、決闘に参加してほしいとブリトア侯に呼ばれたときだけで。


 去年のパレードには呼ばれもしませんでした。


 楽しかったと話に聞くだけです。


「そういえば、その決闘で呼ばれたとき。

 すぐに終わったのに、なかなかこっちに戻ってきませんでしたよね?」


 それはどうしようもないでしょう。


 行きはクローム伯の転移魔法で一瞬でしたが、帰りは送ってもらえませんでしたから。


「送ってもらえませんでした?

 クローム伯の転移魔法を断ったのではありませんでしたか?」


 ……


「馬や馬車も断りましたよね?」


 えーっと、たしかその件に関して、私は謝って終わった話だと認識していますが。


「ええ、謝ってくれました」


 では……


「そのとき、次は私が行く番だからと言ってましたが……いまだに行けてません」


 あ、あはは。


 なおさら転移門には期待ですね。


 陳情が通ることを祈りましょう。


「駄目だったときは、長期休暇の約束をお願いします。

 少なくとも半年ほど」


 貴女が半年も不在だと、いろいろと困ります。


 許してください。


「では、ブリトア侯の後押し、強くお願いしておいてください」


 が、頑張ります。




 私の名はギスカール。


 魔王国の将軍の一人です。


 将軍、将軍と持ち上げられても、将軍が一人でやれることなど限られています。


 とくに副官には助けられています。


 ……


 ブリトア侯!


 助けてください!


 お願いがあります!




ギスカール「助けてください」

グラッツ 「そう言われても、こっちはこっちでいろいろと村長に迷惑をかけているからー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>……お前ら、並びなさい >ぶっとばします 結局最後は「肉体言語」、「拳で語れ!」になるのですね(笑。 本当に魔王国は”実力主義”の社会です(笑。 それにしても、天使族もそうですけれど・・・本気で「…
範馬刃牙の主要メンバーの戦闘を見たモブみたいで笑った 初期と比べてどんどん面白くなってるから後20年は続けてくれ!
2025/05/20 20:58 やっと追いついた!
この世界、基本的に腕っぷしがモノをいう世界だから、強者に対した時の烏合の変わり身は流石だな(笑)。<生存戦略(^_^;)?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ