要塞とギスカール将軍
●人物紹介
レギンレイヴ 天使族の長老。村長の護衛をやってる。
俺は六竜神国と繋ぐ転移門の設置場所を確認するため、魔王国の王都の西にある要塞に向かうことになった。
案内してくれるのはビーゼル。
同行者はルーとティアに、俺の護衛としてガルフ、ダガ、レギンレイヴ。
あー、実のところ確認に必要なのはルーだけなので、俺がルーの同行者だな。
そして、要塞。
魔王国軍の最大防衛拠点。
正式な名称は定められていないが、一般的にガルガルド要塞と呼ばれている。
ただ、俺としては、こう……コンクリート作りの無骨な感じをイメージしていた。
だって要塞だもの。
実際に見た感じは……綺麗な街並みの大きな街だった。
「ここは後方の補給基地ですので。
要塞機能は、もう少し先の山間に点在する形になります」
ビーゼルが説明してくれる。
ここの補給基地から、各要塞に物資を搬入していると。
そして、ここの要塞は一応、最前線。
そこで長期間の任務に就くのは兵士にとって大きなストレス。
それを緩和するためにも、後方の安全な場所は必要と。
見れば街の端に多くの商店が並んでおり、なかなかの賑わいだ。
「まあ、いまは半分の半分もいませんけどね」
そうなのか?
「ええ。
駐留数を減らしている最中です。
軍は金喰い虫ですから」
それでも、畑を作らせたりはしているんだろ?
王都と要塞のあいだには、広大な畑が広がっている。
戦いがないときは、普通に畑仕事をしていると聞いたが?
「全員ができるわけではないので」
なるほど。
五村の講義で教えてもらった、多種族国家の軍ということか。
それで、ここに案内してくれたってことは、ここに転移門を設置するのか?
「ああ、いえ。
ここではありません。
転移門は要塞の向こう側にしないと万が一に対応できませんので」
それじゃあ、なぜここに?
俺の疑問に答えるように、向こうから軍馬に乗った一隊がやってきた。
完全武装だ。
数は……百人ぐらいかな?
後ろのほうが見えないから、もっといるのかもしれない。
そして彼らは、俺の少し前で停止し、整列した。
馬から降りているので、交戦の意思はないのだろう。
でもって代表者らしき豪華な全身鎧を着た者だけがこちらにやってきて、フルフェイスの兜を脱いで敬礼。
「お待ちしておりました!」
うん、綺麗な敬礼だが……相手を間違っているぞ。
それは俺じゃなく、ビーゼルにするものじゃないのか?
あ、俺で間違いないのね。
うん、ゴール、シール、ブロンの父です。
実際には父親ではないが、父親代わりだ。
名乗ることに躊躇はない。
あー、以前、学園で決闘騒ぎのときに……ご迷惑をおかけしました。
代表者はギスカールと名乗った。
要塞に駐屯している軍の総指揮官で、要塞長も兼任している将軍だそうだ。
つまり、ここで一番偉い人だな。
ビーゼルがここに来たのは、彼に会うため。
理由は……
「正門の通過を許可する!」
この許可。
面倒だとは思うが、要塞は軍の施設。
転移魔法の使用の有無に関わらず、近くで作業をするなら許可をもらう必要があるそうだ。
「事前に許可をもらおうとしたのですが、ギスカール将軍が村長にどうしても挨拶したいと。
挨拶させてくれないと許可を出さないとまで言いまして……」
俺に?
俺が確認すると、ギスカール将軍が強くうなずいた。
「私はパレードには参加しなかったからな。
一度、会っておきたかった」
そうなの?
「ブリトア侯の話では、とても優れた村長だそうで」
ブリトア侯……ああ、グラッツのことね。
グラッツが持ち上げるのは、ロナーナの件があるからだと思うぞ。
「いやいや、それだけではないでしょう」
それぐらいだぞ。
「ふふ。
そうですか。
ところで……」
ギスカール将軍が目線で、後ろにいる兵士に合図を送ったと思ったら。
整列していた兵士たちが、組体操を始めた。
あ、組体操じゃないな。
あれは……
文字?
人文字を作っている?
《ほしい!
ここと王都を繋ぐ転移門が!》
俺が文字を読むと、ビーゼルが怒った。
「ギスカール将軍!
そういった陳情は控えてほしいと伝えたはずですよ」
「なにを言う。
これは陳情ではない。
訓練の成果を見せているだけだ」
ギスカール将軍が合図を送り、人文字が変化する。
《お願い!
ここにも美味しい店を開店して!》
人文字に馬も組み入れているのは芸術点が高い。
鍛えられているなぁ。
俺はそう感心したが、ビーゼルは違った。
「ギスカール将軍!
よく見たら人文字を作っているのって、軍の幹部たちじゃないですか!」
え?
一般の兵士だと思ったら、幹部だったの?
「最低でも百人を率いる部隊の長か副長です。
なにをやらせているんですか!」
ビーゼルが怒ると、ギスカール将軍は暗い顔をした。
「末端の兵士では、ああいった周囲との協調が必要なことってできないから……」
……
ビーゼルも暗い顔をした。
「あー……いえ、その……ご、ご苦労さまです」
「うん」
魔王国軍の大変さを見せられた。
とりあえず、陳情は受け取った。
持ち帰って検討させてもらう。
で……
俺が人文字を見ているあいだに、なにやら後ろで騒動があったんだけど?
ガルフ、ダガ、レギンレイヴが何十人かの兵士を相手に立ち回ったようだ。
いいのか?
「村長との挨拶の順番を決めていただけです」
ティアが説明してくれた。
ビーゼルもギスカール将軍も気にしていないから、問題はないみたいだな。
それで、挨拶の順番はどうなったんだ?
「全員、またの機会にするとのことです」
それでいいのか?
「かまいません」
ティアが断言した横で、ルーが補足してくれる。
「彼ら、村長が本当に強いのかって勝負を挑んできたのよ。
で、ガルフたちが村長と戦いたければ自分たちに勝ってからにしろって」
なるほど。
ガルフ、ダガ、レギンレイヴ、助かった。
挑まれたら困るところだった。
三人揃って、またまたーって顔をするんじゃない。
俺は弱いんだぞ。
改めて。
通行の許可をもらったので、転移門の設置予定の場所に移動。
山間の要塞の正門を抜けて、少し進んだ平らな場所。
なるほど、転移門を要塞から見張ることができる場所だな。
「転移門の警備所を作って囲みますけどね」
ビーゼルが転移門に付属する施設を建てる場所を説明してくれる。
転移門を管理する者や警備する者の宿舎や食堂、あとは荷物の一時的な預かり倉庫などだな。
ここの管理は魔王国に任せるので、俺がなにか言うことはない。
言うとしたら……
別件で一つだな。
「村長。
なにかあるなら、遠慮なく言っていただいてかまいませんよ」
そうか?
じゃあ、ビーゼルの言葉に甘えて……
俺は要塞を見る。
要塞の正面だ。
ここからならよくわかる。
要塞には巨大な悪魔の顔が作られていた。
なかなかの怒り顔。
要塞の正門は、その悪魔の大口になる。
なんで、あんなデザインなんだ?
すごく禍々しいぞ。
「……建築を担当した者が芸術家肌でして」
芸術家肌だったのか。
「はい」
要塞を使う人の感想は?
「要塞にいたら目に入らないので、気にしないことにしたようです」
そ、そうか。
まあ、敵には威圧感を与えて、いいんじゃないかな。
「敵がここまで来たこと、まだないんです……」
……
ちなみにだが、少し離れたところにある要塞は普通の城壁らしい。
「予算に限界がありますから」
予算を無視しない良識はあるんだ。
「無駄使いをしない良識がほしかったです」
やっぱりあのデザイン、無駄使いなんだな。
●人物紹介
ギスカール将軍 過去、ゴールたちの学園での決闘騒動にメンバーとして参加。
ギスカール将軍「長かった……初登場から、何年待ったか」
ヒタ治安隊隊長「私はいつだろう……」 ←彼も決闘騒動のメンバーとして参加。