新しいルート
●人物紹介
アサ 四村のマーキュリー種の一人。ウルザたちのお世話係。
アース ウルザの土人形。ウルザたちのお世話係。
メットーラ 混代竜族。ウルザたちのお世話係。
五村道と呼ばれる道がある。
五村から南西に向かって進み、シャシャートの街まで繋がる道だ。
五村に転移門が設置されるまでは唯一外部と繋がる道だったので、かなり大事にされた。
現在も拡張と整備が行われ、交通量も多い。
そしてもう一つ。
五村から南に進み、そしてシャシャートに向かう五村新道。
こちらはまだ建設中。
一応、資材輸送用の道は開通しているけど、一般開放はまだ少し先になる。
五村道があるのだから、五村新道は不要ではと思われるかもしれない。
俺もそう思った。
しかし、一本の道ではその道が使えなくなったときの影響が大きい。
それゆえ、迂回路がほしいと言われると頷くしかない。
実際、転移門と五村道では現在の物流を受け入れきれず、渋滞が起きている。
新たな道は住人の要望でもあった。
それゆえの五村新道。
さらに五村新道は物流を助けるというコンセプトを重視してルートを決めているので、五村道と比べると少し早くシャシャートの街に到着できると思われる。
そうなると五村新道に人が集まり、五村道は使われなくなりそうだが、対策はできている。
鉄道、もしくは木道計画だ。
五村道には鉄道か木道を通すことを考えている。
これで……将来的にどうなるかはわからないが、例えば人は五村新道で、物は五村道の鉄道か木道と使い分けられたらいいなと思う。
まあ、五村新道は近々に開通予定だが、鉄道か木道計画はまだまだ計画段階。
実際、五村のなかを走る予定の新木道計画のほうが優先順位が高い。
……
似たような名称が多いな。
このあたりも、どこかで一度整理したいものだ。
さて本題。
転移門に関して。
一般には王都からいくつかの村や街を経て、シャシャートの街、そして五村に繋がっている転移門が解放されている。
この転移門により、王都からシャシャートの街、シャシャートの街から五村が強固に繋がり、経済を大きく発展させている。
詳しくは知らないけど、発展させているらしい。
シャシャートの街にいるミヨがそう言ってた。
その転移門は、ルーが作ったものだ。
だから材料があれば量産ができる。
ただ、転移門がどこにでも作られるとなったら、国境とか前線とかが関係なくなる。
敵国をいたずらに刺激することになるので、対外的には遺跡から発見したということにしている。
新たに設置するのは難しい……
そう思われていたのだが、魔王から増やしてもかまわないと言われた。
魔王国内の経済の活性化に使いたいそうだ。
対外的にはかまわないのだろうか?
戦争をしない相手を気にして、使えるものを使わないのは変?
そ、そうなるのか?
怖いのは技術流出だけど、転移門を作れるのはルーだけ。
実物を手に入れても、いまの人族では解析に数百年はかかるだろうとの予測なので、問題はないとのこと。
しかし、だからと言っていきなりあっちこっちに設置はできない。
そんなことをすれば、経済の活性化ではなく、経済の混乱をもたらす。
だから少しずつ、年月をかけて設置していきたいそうだ。
その方針に反するが、魔王からとあるルートへの転移門の設置を急ぎ要望された。
それは魔王国の王都の西にある要塞から、ティゼルが作った六竜神国を繋ぐルート。
魔王国の対外交渉を六竜神国に任せるのだから、連絡を密にしなければならない。
移動に時間がかかるのはよろしくないと、転移門の設置が求められた。
「なにかあるたびに、混代竜族が飛んでくるのも防げるし……」
慣れると思うぞと言ったけど、心臓が弱い者もいるからと言われた。
なるほど。
さすが魔王。
住人のことを思いやっている。
転移門の設置場所が王都ではなく要塞なのも、万が一の防衛を考えて。
使用頻度はそう高くないだろうけど、一方通行にしたいので行き専用と帰り専用の二組の転移門を設置してほしいそうだ。
そして、転移門を新たに設置できると知ったヨウコとミヨから、五村とシャシャートの街を繋ぐ転移門の追加の設置が求められた。
シャシャートの街の北側に転移門があるので、今度は東側にほしいそうだ。
こちらも一方通行にしたいらしく、行き専用と帰り専用の二組の転移門が必要。
五村新道を作っているが、やはり転移門の速さにはかなわないからな。
ともに設置の準備を進めている。
一方。
大樹の村の関係者のみに解放されている転移門は、大樹の村のダンジョンから温泉地と五村に繋がっている。
そして、最近になって、五村から五村の麓に建設された洋菓子店フェアリーフェアリの地下が繋がった。
さらに、五村から魔王国の王都の学園の敷地内、アルフレートの家の地下と繋がっていた。
……
アルフレートの家の地下には、実はかなり前から繋がっていた。
正確には、アルフレートたちが学園に行った直後ぐらい。
ルーはルーで学園に行くアルフレートのことが心配だった。
できれば様子を見に行きたい。
なにかあったときに、すぐに逃げて帰れるようにしたい。
ルーがそう思い、極秘に転移門を設置したそうだ。
この転移門の存在を知っているのは、アルフレートたちと一緒に学園に行ったアサ、アース、メットーラの三人のみ。
アルフレートやウルザ、ティゼルには伝えていない。
伝えると、親元を離れて学園に行った意味がほぼなくなるからと。
俺に内緒だったのはいいとして、魔王や学園長にも内緒だったのはどうかと思うぞ。
そして、そのアルフレートの家の地下の転移門。
グラッツの問題の解決にとルーが転移門の存在を俺に報告し、グラッツに利用許可を出すことになった。
グラッツの問題。
ここ最近のグラッツは、ロナーナとの時間を大事にするため、職務がおろそかになっていたらしいからな。
魔王やビーゼル、この前講義してくれた参謀次長もそれを心配し、俺に助けを求めてきた。
以前にも似たことがあって、ロナーナが五村のヨウコ屋敷で寝泊りすることで解決したと思っていたのだ……
どうしてかと調べたら、シャシャートの街と五村を繋ぐ転移門の渋滞が原因だった。
渋滞によりロナーナに会う時間が減っているのに、仕事時間を増やす選択はグラッツにはなかった。
グラッツは職を辞す覚悟だった。
だが、魔王たちは認めず、困っていた。
そこで、王都の学園と五村を繋ぐ転移門。
一般開放されていないので、グラッツ専用とも言える状態。
これにより、極端なことを言えば、グラッツは学園に行けばロナーナに会える。
グラッツは喜んだ。
ロナーナも。
よかった。
でも、勝手に転移門を設置していたルーには軽い説教をしておいた。
アルフレートを心配する気持ちはわかるからな。
……
こんなこともあろうかと……って言いたかったと。
あー、その気持ちもわかるけど、それを聞く事態には遭遇しなくてよかった。
余談だが、俺は洋菓子店の地下に設置した件で、相談がなかったとヨウコには叱られている。
すまなかった。
ところで。
ルーの作る転移門は、距離の問題があるのではなかっただろうか?
それゆえ、短距離転移門と呼称していたと思ったが?
距離の問題はすぐに解決できた?
ただ、対外的に危険視されるから公表していなかったと。
魔王はそのことを?
知らないけど、気づいている?
だから、学園に転移門を設置していることを教えても驚かなかった?
そっか。
さすが魔王だ。
後日。
アルフレートたちに秘密で設置された転移門が使いやすい場所にあるわけがなく、毎日使うには少し不便。
また、毎日来られても迷惑。
なので、学園の敷地内にグラッツの個人宅が学生の家という名目で建築され、そちらに転移門が移動することになった。
転移門の門番として、ザブトンの子供が数匹、グラッツの家に派遣されることになる。