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講義


 私の名はデリアン。


 魔族の男だ。


 魔王国軍で参謀次長をしている。


 参謀次長。


 ……正直、よくわからん役職だ。


 一応、ふんわりとした知識では、軍の指揮をするらしいのだけど……将軍となにが違うんだ?


 軍師との違いは?


 言葉から参謀長の次というのはわかるが、魔王国軍に参謀長はいない。


 参謀長がどういったものかも知らない。


 なのに、参謀次長を名乗る者は私を含め、四人いる。


 魔王国には、こういったよくわからん役職が多い。


 四天王とか中将とか大佐とか執政官とか。


 理由は知っている。


 魔王国が争っていた古の悪魔族や古代王国が使っていたのを、そのまま利用したからだ。


 あ、いや、少し違うな。


 感覚としては、なんか相手方が名乗ってる役職がかっこいいから、どういった役職かわからないけど真似して名乗ろう……だな。


 実際、相手方と交渉するとき、そういった役職を名乗るとそれなりに効果があったりする。


 もちろん問題だ。


 実際の役職と、周囲が認識する役職にずれがでるから。


 極端な例を出すと、一般兵士が大将軍を名乗っているようなもの。


 身内ならまだ笑えるが、外との交渉ではトラブルになりやすいというか、魔王国の役職が信用されなくなる。


 それは放置できないと、魔王国では古くから役職の整理が行われてきた。


 代表例は四天王。


 四天王は魔王の特別補佐役で、魔王の次に偉いとかなり初期に決まった。


 うん、よかった。


 ほか?


 あー、えっと、私の参謀次長がよくわからないままなところから察してほしい。


 うん、まだ整理されていない。


 いやいや、よくやっていると思うよ。


 のんびりしていると言うなら、実際にやってみたらいい。


「君の名乗っている役職、実情に合ってないから名乗るのを止めてね」


 もしくは……


「君の名乗っている役職に合わせて仕事を振るから、よろしく」


 って言える?


 先祖代々、その役職を名乗ってたりしてるわけだけど?


 絶対に揉める。


 揉めちゃう。


 私だって、参謀次長を名乗らないようにって言われたら抵抗すると思う。


 わけがわからなくても愛着はあるもの。


 それに、私はこれでも魔王国軍全体を指揮するグラッツ将軍の副官。


 参謀次長の役職は、大きく間違ったものではない。


 と、信じている。


 信じているんだ。


 細かいことを指摘すると、嫌われるぞ。



 さて。


 役職のことなんて、どうでもいい。


 いまは目の前の講義だ。


 五村から魔王軍の説明をしてほしいと依頼され、開かれるこの講義。


 本来、そういった講義に私がでることはないのだが、私は立候補した。


 その代わりと言ってはなんだが、五村の……いや、大樹の村の村長に講義を聞いてもらいたいと伝えた。


 無理かなと思ったけど、大樹の村の村長に参加してもらえることになった。


 ありがとうございます、魔王さま、ビーゼルさま。


 さすがです。


 グラッツ将軍がこの場にいるのは想定外だが、大丈夫。


 ここに村長がいる時点で、私の目的はほぼ完了している。


 あとは簡潔に話すだけ。


 えーっと、講義をメインで聞いてくれるリリウスくん、リグルくん、ラテくん。


 わかりやすく教えるから、よろしくね。


 あ、いい返事。


 うん、がんばらせてもらおう。


 今回の講義内容は、魔王国の軍制に関して。


 魔王国の軍の在り方に関して、語らせてもらいたい。



 まず、魔王国には大雑把に二種類の軍が存在する。


 魔王国軍が雇用している正規軍と、貴族や族長が率いる領軍の二種類にね。


 正規軍は、魔王国が募兵して作られた軍。


 魔王国第一軍から第二十九軍、それに近衛軍を加えたのがそうなる。


 総兵数は二百万を超えるかな。


 彼らは常に兵士としての仕事をしている……と言いたいが、それは近衛軍と第一軍、第二軍、第三軍のみ。


 総兵数は三十万ほど。


 ちなみに、第一軍から第七軍は主力侵攻軍で、それ以外は各地を守る防衛用の軍になる。


 各軍で兵数が全然違うから、注意だぞ。


 近衛軍はほかの軍とは独立していて、魔王さまが直接指揮する軍になる。


 軍を動かすのは、とても大変なんだ。


 とくに臨戦態勢にない軍は、動かしたいと思ってもすぐには動かせない。


 何十日も前から準備して動かすものなんだ。


 それじゃ手が足りなくなって困ることがあるから、魔王さまが必要としたときにすぐに動かせる軍として近衛軍を用意したわけだ。


 魔王国軍では、近衛軍に所属するのは栄誉とされているぞ。



 そして、魔王国の貴族や族長が率いる領軍。


 こっちは貴族や魔王国に従う種族や部族が自領や縄張りで徴兵した兵で構成される軍だ。


 こちらの総兵数は三百万から五百万と言われている。


 幅があるのは、正確な数が誰もわからないから。


 だいたい、ふんわりとした感じでやってる。


 軍としてそれで困らないのか?


 困るよ。


 すごく困る。


 数がわからないと、どれだけ食料を用意したらいいかわからないからな。


 まあ、しかし、それは多く、とりあえず多く用意しておけばなんとかなる問題。


 魔王国軍には、大きな問題がある。


 それはなにか?


 魔王国が、多種族国家ということだ。


 それのどこが問題か、わかるかな?


 では、リリウスくん、どうぞ。


「えーっと、装備が統一できないことですか」


 素晴らしい。


 その通り。


 軍が多種族で構成されるので、装備を揃えるのが困難。


 槍一本にしても、それぞれの種族に適した槍を用意しないといけない。


 種族によっては、槍が持てないとかもある。



 ほかにもあるのだけど……リグルくん、どうぞ。


「歩く速度が違う」


 そう、それ!


 種族ごとに移動にかかる速度が違う!


 体の大きさが違うからね。


 歩幅は違って当然。


 それに馬や馬車に乗れる、乗れないもあるし、走るのが好きな種族……ケンタウロス族とかはめちゃくちゃ早く移動できるけど、ほかの種族がまったく追いつけないとかね。


 頭の痛い問題だよ。


 一ヵ所でじっとできない種族もいるしね。



 ラテくん、まだ問題はあるんだけど、わかるかな?


「あと……なんだろ? 言葉が違う?」


 惜しい!


 共通語が普及しているので、言葉の壁は薄い。


 共通語を話せない種族も、いるけどね。


 言葉が違うことをもっと大きくとらえて?


「えーっと、文化が違う?」


 それ!


 文化が違う!


 食べる物も違えば、睡眠時間も違う!


 一緒に行動するのが無理ってぐらい違う!


 とくに、戦いに対しての姿勢の違い!


 この違いが酷い!


 相手の数が多いと逃げたり、他種族がいると戦わなかったり、遠距離攻撃しかしたくないという種族がいれば、接近戦しかしないという種族もいる。


 これぐらいはまだ許容範囲。


 酷いのになると力の強い者の指示にしか従わなかったり、戦うなと言うのに相手に突撃したり、逃げろと言ったら突撃したり、一度戦い始めると疲れて寝るまで前進したり、戦闘中にお茶休憩する種族とか……


 いるのか?


 そんな種族?


 そう思われるかもしれない。


 だけど、いるんだ。


 いちゃうんだ。


 でもって魔王国軍なんだ。


 そういった種族がいるのって!



 こんな種族を集めて、まともな戦争ができるのか?


 普通はできない。


 でも、それをなんとかしなきゃいけなかったのが魔王国軍。


 人族が人族以外を全て滅ぼすと言って、しかけてきたからね。


 こんな状況でも、戦うしかなかった。


 では、どうしたか?


 それは徹底した交流コミュニケーションの重視!


 文化の違い、種族の違いを交流によって理解しようとした。


 そして、それぞれの文化を尊重しつつ、適切な配置と指示をするようにした!


 言うほど簡単なことではない。


 正規軍や領軍の指揮官は変化する。


 長く指揮官をする人もいるけど、戦争をしているんだ。


 死んだり負傷で交代することはよくあること。


 そして、同じ種族でも同じ行動をするとは限らない。


 大事なのはそのときの指揮官の性格。


 これを把握するために、魔王国軍の軍部上層は常に指揮官たちと交流を続けなければならない!



 私は村長を見る。


 ここまでのお話、ご理解いただけましたか?


 グラッツ将軍、質問時間はあとで取りますので黙っていてください。


 ご理解いただけたようで、ありがとうございます。


 ここで一つ、困った話があるのですが……


 とある将軍が、家庭が大事だと言って指揮官が集まる場に来ません。


 そういった場は食事会や飲み会と名目されていますが、大事な交流の場なんです。


 遊びではないんです。


 家庭が大事なのはわかります。


 私だって家庭が大事です。


 ですが、指揮官たちとの交流は仕事のうち。


 参加してもらわないと困るのです。


 魔王国軍を一番、上手く指揮できる将軍なんですから。


 そうです。


 グラッツ将軍のことです。


 ここ数年、ことあるごとに家庭が大事とさっさと帰ってしまって。


 魔王城での滞在時間も、かなり短く。


 指揮官たちも、知らない人に指揮されるのは嫌なのでグラッツ将軍との交流を求められるのですが、徹底して拒否していまして……


 なんでそれを村長に言うのかと?


 村長が妻を大事にしろと言ったとグラッツ将軍が……


 あ、はい。


 そうです。


 この件をお伝えしたく、来ていただきました。


 すみません。


 はい、よろしくお願いします。


 こちらは引き続き、リリウスくんたちに講義を続けますので……


 私の目的は達せられた。


 グラッツ将軍の職務放棄っぽい行動は、魔王さまやビーゼルさまも困っていたからな。


 これで改善してくれたらいいのだが……


 ああ、講義を脱線してすまない。


 次は徴兵に関して話をしよう。


 魔王国では、どのように徴兵しているかだ。




 私の講義は無事に終了した。


 リリウスくんたちの好奇心旺盛(おうせい)な姿勢は好ましいものだ。


 将来的には魔王国軍に入ってくれないかなぁ。


 無理だろうなぁ。


 グラッツ将軍は…………村長の説得があったのだろう、指揮官との交流を再開してもらえるようになった。


 とてもたすかる。


 指揮官たちからも喜ばれた。


 この調子でがんばってもらいたい。


 ただ、一点。


 気になるのが……グラッツ将軍が貴族学園に行くようになったことだ。


 いや、前々から貴族学園には顔を出していたけど、以前に増して行く頻度が増えた。


 ほぼ毎日だ。


 なんだろう?


 そこにグラッツ将軍の妻を呼んだのかな?


 そうなら、秘密にしなくてもと思うんだけどなぁ。





四天王A「四人集まらないっ! 四天王を名乗れないっ!」

四天王B「二人で名乗るのは……なんか違うか」


四天王は不人気だったので、隙を見て整理できた。



古の悪魔族でも、役職はいいかげん。

勝手に王とか大公爵とか軍団長を名乗る者多数。

覇王とかかっこいいのを名乗ると、ほかのが羨ましがって攻撃してきたりする。

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― 新着の感想 ―
でも仕事なら仕事として交流会名義で仕事時間に行ってほしい。と考える人もいるだろう。 つまり、交流が大切ということを理解させるための交流会を…(以下ループ)
そういう意図だったのかw くっそワロタwww
リリウスたちが「魔王国の軍制」の講義を受ける、と聞いた時はその”真意”が判らず、いろいろと勘繰ってしまいました。 更に村長まで、魔王やビーゼルからの伝言でその講義に参加する、と云うのも「何故だろう?」…
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