夏の日と講義
昼過ぎ。
大樹の村のプールサイドに、目隠しをした水着姿の天使族が立っていた。
その手には木刀。
それだけを見ればスイカ割りなんだろうなと思うが、近くにスイカはない。
スイカの代わりにあるのは、ポンドタートルたちの魔法で作られた水球。
大玉のスイカぐらいのサイズの水球だ。
その水球が、目隠しをした水着姿の天使族に向かう。
一つだけではなく、無数に。
一方向からだけでなく、前後左右に上空からも。
かなりの速さで。
だが、目隠しをした水着姿の天使族は慌てずに木刀を振り、全ての水球をぶつかる前に叩き潰した。
遠くで見守っていた子供たちが拍手する。
俺も拍手した。
「少し濡れてしまいました。
拍手をいただくほどでは……」
水着姿の天使族は目隠しを外しながらそう言うが、同じことをしてビショビショになったガルフがいるからなぁ。
あ、ガルフがもう一回やると向かって目隠しをした。
……
ポンドタートルたちの水球にもてあそばれているな。
「どんな形であれ、魔法で作られた物は魔力をまといます。
その魔力を感じるのです」
水着姿の天使族がアドバイスしてくれたが、駄目だったようだ。
最初の一つ二つの水球は潰せるんだがな。
「どうしても耳に頼ってしまう……」
水球の動きを耳で察するだけでも、すごいと思うぞ。
水着姿の天使族が子供たちとプールで遊んでいる。
その姿を見ながら、さきほどの木刀の扱いを思い出す。
彼女、剣聖のピリカより強かったりしない?
俺のつぶやきに、ガルフが頷く。
天使族は長寿だから、なにかに打ち込むと達人になると。
なるほど。
そして、あの腕前をもってしても天使族最強じゃないのか。
天使族最強のティアって、すごいんだなぁと改めて思った。
普段はため池や用水路にいるポンドタートルたち。
夏になると、何頭かはプールに移動。
そして、プールの水質を維持しつつ、流れるプールの水流を作ってくれている。
とても助かる。
さっきみたいに、遊びに付き合ってもくれるしな。
収穫したてのキャベツを差し入れよう。
水が汚れないように、プールサイドに上がって食べるんだぞ。
水が汚れてもすぐに綺麗にする?
そういう問題じゃないんだ。
子供たちが真似したら困るしな。
わかってくれて、ありがとう。
特別に、大きいキャベツを渡そう。
ん?
ははは、大丈夫だ。
ちゃんとため池や用水路にいるポンドタートルたちにも、差し入れるよ。
遠慮せず食べてくれ。
ポンドタートルたちにキャベツを差し入れて回ってプールサイドに戻ったら、ザブトンとザブトンの子供たちが作った水着のファッションショーが行われていた。
参加者は子供たちに天使族、鬼人族メイド、獣人族の女の子たち、文官娘衆。
新しい水着の発表ではなく、改良の発表が中心のようだ。
新作の水着は春ぐらいに発表しているからな。
実際に夏場、使ってみての改良らしい。
布が一枚、増えたり減ったり程度の変化しかしていないのだが、印象が大きく変わる。
華やかでいい。
ちなみにザブトンは、水着を機能美の結晶と評価している。
シンプルゆえに奥が深いと。
それゆえ、パレオ等のファッションアイテムは邪道とまでは言わないけど、あまりいい顔をしない。
それはわかるんだが、俺の水着にはマントがあるんだよなぁ。
もちろん、泳ぐときはマントを外すし、すぐに外せるような機構になっているんだけど。
短パン水着にマントは、その……えっと、前衛的すぎると俺は思う。
着てるけど。
夕食時。
……
夏はたしかに暑いが、大樹の村はそこまで蒸し暑くはない。
そして屋敷のなかは、室温を調整する魔道具があるし、氷の魔物が頑張っているので暑いということはない。
逆に涼しいぐらいだ。
だから、水着で生活するのはよくないと思う。
子供たちが真似をする。
俺は水着姿でうろうろする一部の天使族や獣人族の女の子たち、文官娘衆に注意した。
鬼人族メイドたちを見習いなさい。
彼女たちはしっかりとメイド服を着こんでいる。
夏用の生地が少し薄いやつだと思うけど、ロングスカートを死守しているのはさすがだ。
スカート丈はもう少し短くても涼し気でいいと思うけどな。
ああ、単純にミニスカにしろってことじゃなくて、膝上ぐらいの丈だ。
足を出すのがなんだったら、そのスカートにシースルーのロングスカートを合わせる感じとか。
あー、私服ならそれでもいいけど、メイド服としては派手過ぎると。
なるほど。
まあ、着たいものを着るのが一番だな。
水着でうろうろするのはあれだけど。
せめて一枚は、なにか羽織ってほしい。
しかし、なんで水着なんだ?
プールから出るとき、シャワーを浴びるだろ?
そのあと普通、着替えるんじゃないのか?
食後にまたプールに行く?
日は落ちたぞ?
明かりを照らして、幻想的な雰囲気でプールか。
……よくわからない。
危ないんじゃないか?
泳ぐわけじゃない?
雰囲気とお酒を楽しむだけ?
駄目とは言わないが、お酒を飲んだらプールに入るのは禁止だからな。
溺れられたら困る。
明日にでも、どんな感じだったか教えてくれ。
ん?
俺も参加すればいい?
あー……遠慮しておこう。
夜遊びすると、ルーやティアに叱られる。
食後。
妖精女王が怒りながらやってきた。
バニラ味のアイスが甘くないらしい。
一口もらったが、たしかに甘くない。
鬼人族メイドが言うには、料理に使うために作った甘くないアイスだからだそうだ。
そう説明しても、甘くないアイスなんてありえないと妖精女王は怒った。
まあまあ、怒るな怒るな。
甘くないなら、甘さを足せばいいんだ。
甘さといえば砂糖だが、アイスはバニラ味。
ならば、ここは蜂蜜だろ。
たっぷりかけて、これなら大丈夫じゃないか?
よし、機嫌がなおった。
よかった。
ところでなんだが……
今日の夕食にデザートはなかった。
希望者だけに出すとしても、鬼人族メイドたちが妖精女王に出すアイスを間違えたりはしないだろう。
となると、妖精女王の手にあるアイスはどこから?
わかっている。
勝手に持ち出したんだよな?
駄目だぞ。
そして、自分で甘くないものを持ち出して怒るのもどうかと思う。
……
かわいい顔をしてごまかすのは止めるように。
翌日。
五村の遊戯場は、しばらく試験営業を続けることになった。
問題点や改善すべき点を多く指摘されているからな。
正式な営業はまだまだ先になりそうだ。
そんな報告を受けながら、俺は五村の村議会場に向かった。
村議会場の大きな会議室では、これから講義が行われる。
講師は、魔王国軍の偉い人。
偉い人なんだよな?
魔王国軍の参謀次長とか言ってたから。
まあ、それがどれぐらい偉いかはよく知らないけど。
そして講義を受けるのが、俺と息子であるリリウス、リグル、ラテ。
俺がこの講義を受けるのは、講師に頼まれたから。
ぜひ聞いてほしいと。
直接ではなく、魔王とビーゼルからの伝言でだ。
魔王とビーゼルも、俺に聞いてほしそうだったので参加することにした。
しかし、講義の内容は魔王国の軍制。
軍制って、軍の在り方というか……軍をどう統制するかとか、どう兵を集めるかの話だよな?
リリウスたちが聞きたいって言ったのだろうか?
そして、なぜ、この講義内容を俺に聞かせたいのだろう?
子供たちに変なことを教えていたら止める役か?
まあ、聞いてから判断しよう。
ちなみに、会議室の端のほうにグラッツがいるけど、彼は「素人質問で恐縮ですが……」と言いながら専門的な質問をする役だそうだ。
普通に質問するのは駄目なのだろうか?




