遊戯場計画
●登場人物
万能船 ルーが作った帆船型の飛行船。腕を出し入れできる。
トウ マーキュリー種。万能船の船長。
万能船は荷物を全て降ろしたあと、専用ドックから抜け出し、近くの森で横転した。
なにをしているのか?
わかっている。
万能船は拗ねていた。
帆船の見本なら、ここにあるだろうと。
いや、俺としては万能船は改造帆船で普通の帆船とは違うから。
見た目は一緒でも、内部の構造は全然違うじゃないか。
偽装用に、ちゃんと水に浮くぞと言われても……
わかった。
すまなかった。
俺が悪かった。
シャシャートの街の帆船を見る前に、万能船を見させてもらうよ。
嫌々見てほしくない?
そんなことはないぞー。
ぜひ、見せてください。
お願いします。
俺の全面降伏で、万能船は機嫌を直して専用ドックに戻ってくれた。
よかった。
船長のトウからも、注意された。
船といえば、万能船でしょうと。
いや、ほんとうに申し訳ない。
ん?
船といえば万能船だが、それはそれとして帆船を造るなら案がある?
いや、造る予定はないぞ。
山エルフたちも、本物を建造する気もないだろうし。
取りあえず、見てほしいって……細かく描かれた設計図だな。
トウが描いたのか?
三本マストで、サイズも大きく、全長が六十メートルは……ガレオン船だな。
で、この見覚えのない装備は?
飛行機能か?
「残念ながら飛ばすとドラゴンがうるさいので、この船は飛ばせません。
ですが、浮遊装置をいつでも装備できるように空間は作っています」
この中央にある不自然な空き部屋は、それか。
じゃあ、この装備は?
「防御設備です」
へー、どんなふうに使うんだ?
「そりゃ、船を壊そうとする相手に向けて発射する感じで」
それって武装だよな?
「設計上、防御設備となっているから防御設備です」
言葉遊び的な?
「予算を通すときのテクニックです。
あと、外交的にも大事なので」
な、なるほど。
とりあえず、この設計図は山エルフたちに渡しておこう。
本物は無理でも、模型は作ってくれるかもしれない。
それでいいか?
「それでかまいません。
模型が身近にあれば、船に興味を持つ者が増えますので」
なんだ、それが目的だったのか?
「ええ。
万能船がもう一隻あれば、遊覧などに使えてアピールできるのですが……」
たしかにな。
まあ、大樹の村は海から遠い。
住人が触れ合う船といえば、万能船ぐらい。
それゆえに、帆船の見本とされなかったことに万能船が拗ねたんだよなぁ。
気をつけよう。
以前、作った、メダルを投入してメダルを落とすゲーム台。
メダルがないから、中銅貨を入れてやっていたあれ。
そう、ヨウコやマイケルさんが夢中になってしまったあれだ。
破滅者を出しそうな雰囲気を感じたのでお蔵入りにしていたのだが、メダルを落とすゲーム台は山エルフたちによって改良が続けられていた。
一人台、複数人台、メダルタワー追加機能、スロット的な機能、ジャックポット機能などのゲーム性の追加。
自動演奏の魔道具も組み入れ、射幸心を煽る音楽も流れる。
明かりを灯す魔道具も組み込まれ、派手に点滅していたりする。
炎を出す魔道具を装備した台もあったりする。
……
自主的に改良するぶんには問題ない。
個人で楽しむぶんにも。
屋敷の一部屋がそういったメダルを落とすゲーム台だらけになっても、子供の立ち入りを禁止にしただけで気にしなかった。
しかし、作ったら多くの人に見てもらいたい、使ってもらって感想を聞きたいと思うのは普通の感情。
山エルフたちは大量の褒賞メダルを持って、どこかに設置できませんかと相談に来た。
実際はどこかにではなく、五村がいいですと言っていたが。
俺としては、設置するのはかまわない。
駄目なのはメダルの代わりに現金……流通している硬貨を使う点。
これをなんとかしないといけないと思う。
そういうことで、ゲーム台専用のメダルを作ることになった。
幸い、五村には大量の鉄がある。
それを使えば……
「中銅貨より高いとは言えませんが、価値があると一緒では?」
ぐぬう。
「メダルを作るのでしたら、真鍮製をお薦めします」
真鍮は銅と亜鉛の合金だ。
「どちらも、ゴロウン商会で入手できます」
そうか。
となるとメダル作りだが……
「お任せください。
五村の工房で大量生産できます」
そうなの?
「プレス機がありますので」
そ、そうか。
えーっと……
「村長には、メダルのサイズの決定と、デザインを考案していただければと」
わかった。
「あとは五村のヨウコさまへの説明をよろしくお願いします」
うん、頑張る。
メダルのサイズは中銅貨と混同しないように、中銅貨よりちょっと大きめ。
デザインは、片面はデフォルメした狐。
もう片面は、デフォルメしたインフェルノウルフ。
原寸大の木製サンプルを作って、山エルフに渡したら翌日にはメダルの量産が開始された。
なかなか綺麗だ。
ヨウコへの説明だが……
ヨウコは以前、メダルを落とすゲーム台に夢中になったので、設置を渋った。
危険だと。
だが、ヨウコの尻尾が揺れているのを俺は見逃さなかった。
なんとかヨウコの許可をもらい、メダルを落とすゲーム台を設置する遊戯場の建設が決まった。
場所は、麓の新たに切り開いているところ。
少し歩いたところに、洋菓子店フェアリーフェアリがある。
そこに遊戯場が建てられた。
即座に。
……
早すぎないか?
山エルフばかり活躍させるわけにはいかないと、ハイエルフたちが頑張った結果?
ハイエルフたちはいつも頑張っていると思うぞ。
あと、早くてもしっかり建っているなら、文句はない。
五村の住人にも手伝ってもらったから、雇用にもなっているし。
遊戯場の広さは、五十メートル×百メートルぐらいで、その半分ぐらいが二階建て。
一階が一般客用で、二階が貴族用らしい。
壁は厚めで、内部は二重構造。
周囲に音をまき散らしたりはしない。
この遊戯場の横に事務所を併設。
従業員の休憩室や更衣室を完備。
それで終わりかと思ったら、近くにお客用の食堂や宿も建築し始めた。
規模が大きくなっていないか?
大丈夫か?
ヨウコの秘書はお任せくださいと言っている。
ま、まあ、任せよう。
文官娘衆たちが遊戯場の従業員を集め始めた。
山エルフばかり活躍させるわけにはいかないらしい。
文官娘衆たちも頑張っていると思うぞ。
それに、山エルフばかりを引き立てているわけじゃないと思うのだが……逆らったりはしない。
頑張ってください。
整備員、接客員、警備員、魔法使い……
魔法使い?
なぜ?
あ、不正対策。
魔法でメダルや台を操作されるのを防ぐ目的と。
あと、動物使いや魔物使いなども警戒すると。
そういったことを考えないといけないのか。
いやいや、従業員集めは任せた。
頼んだぞ。
俺は俺で仕事があるから。
遊戯場ではお客にメダルを貸出し、遊んでもらう。
中銅貨一枚で、メダル三十枚を貸す予定。
基本、メダルを現金に交換することはできないし、させない。
現金と交換ができてしまうと、通貨になってしまうからな。
遊戯場からメダルを持ち出すことも禁止にする。
お客は所持するメダルを遊戯場に預けるか、交換リストに載っている物との交換をしてもらう。
俺はその交換リスト作り、交換用の品と交換枚数を決めることを任されて……違う?
俺が決めるのは交換レートだけ?
交換用の品を俺に決めさせたら、大樹の村の品が並ぶ?
たしかに、大樹の村の作物とかが頭に浮かんでいた。
それでは混乱を生むので、交換用の品はヨウコの秘書たちや文官娘衆が決めて集めると。
わかった。
それで俺が決める交換レートだが……
中銅貨一枚でメダル三十枚を予定しているから、これを基準にメダル百枚でどれぐらいの価値の品を用意するかだな。
…………
メダル百枚で、中銅貨一枚相当でいいんじゃないか?
計算しやすくていいだろ。
まあ、最初はこれで様子をみてくれ。
都合が悪ければ、変更しよう。
中銅貨一枚で貸し出すメダルの枚数でも調整できるし。
ヨウコが承認し、交換リストが発表された。
交換レートに応じた小物類や、提携店の商品交換札などが並んでいる。
あまり目立つ交換品はない。
「金持ちが大量にメダルを借りたら、どの交換品も手に入れることができるからな。
遊戯場としては利が出るが、それでは駄目であろう」
たしかにヨウコの言う通りだ。
「一日の貸出枚数を制限しても、人を雇ってしまえば済むからな」
なるほど。
「最初は人集めでとも考えたが、人を集めすぎても困る。
だから目立つ交換品は出さない」
わかった。
文句はない。
「うむ。
それで、この遊戯場の試験営業なのだが……」
ヨウコが日取りを決め、招待客だけの試験営業が行われた。
主な招待客は、村議会議員とか、商会の偉い人とかだ。
遊んでもらわないといけないので、招待客には無償でメダルを五百枚ほど貸した。
評判は……どうなんだろう?
最初は戸惑っていた。
「ここにメダルを入れて……ほう、なるほどなるほど」
「あそこにメダルが落ちると、チャンスなのだな」
「数字が動いて……揃うと大量獲得のチャンスと」
「ふむ。
メダルは最後にこのリストにある物と交換か」
そして、余裕を見せていたのだが……
時間が経過すると真剣になっていった。
「三百枚、追加だ」
「こっちも」
「数こそ力!
連続投入!」
「そこの御仁。
協力して、あのあたりを狙いませんか?」
「ぐぬぬ……あのタワーが崩せん」
「数が……揃わん!
なぜだぁっ!」
最後は、冷静な顔で意見や改善案を伝えてきた。
「閉店時間があるのはいただけませんな」
「もっと遊戯させてほしいです」
「席を確保する手段がほしいです。
ほかの客と揉めることが減りますよ」
「できれば席に座ったままメダルを交換したい」
「交換品に、こういった物があるといいと思うのだが……」
「室内音楽は、もう少し派手にしたほうがいいのではないかな」
「宿は建設中ですか」
「食事に関してですが、手軽なものを多く用意してもらえれば……」
「交換品に、我が商会の品を入れてほしいのですが誰と交渉すればよいでしょう?」
「子供の入店は規制すべきだろう。
あと、子連れの入店も」
「メダルを一枚。
記念に持ち帰ってもよろしいでしょうか?」
結構な数の意見や改善案が届けられた。
無茶なのもあるけど、貴重な意見だ。
参考にさせてもらおう。
評判……廃止や廃業を訴える人がいなかったから、よしとしておこう。
メダルの持ち帰りは……試験営業なので、一人一枚ですが記念にどうぞ。
本日だけですよ。
「よしっ!
タワーが崩れた!
いまがチャンス!」
マイケルさん、マイケルさん、もう閉店だから。
従業員の指示に従うように。
トウ 「こんな船いいな、できたらいいな」
万能船 「……(横になる)」
ヨウコ 「え? あれを設置するのか? また問題が増えるではないか」(尻尾ぶんぶん)
マイケル 「なに、このタワー……三重螺旋、特殊メダルもある。ぜ、絶対に倒さねば」
村議会議員「あの、ヨウコさまのサインとか握手券とか、ないのですが?」(交換リストを五度見)




