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ため池の畔(ほとり)

●人物紹介

フラウ    ビーゼルの娘。文官仕事を頑張っている。

マルビット  天使族の長。

ベル     マーキュリー種の代表。四村で働く。

ヨル     マーキュリー種。温泉地の転移門の管理者。


ブルガ    古の悪魔族。ラスティの侍女として大樹の村に来た。

スティファノ 古の悪魔族。ラスティの侍女として大樹の村に来た。

ラナノーン  ラスティの娘。

ククルカン  ラスティの息子。


プラーダ   古の悪魔族。別名、美術品を収集する悪魔。

ベトン    古の悪魔族。【病魔】のベトン。商隊の一員として活動中。


氷の魔物   ウルザの部下。名はアイス。


 オークションでお金を使いたかったが、予定が狂ってしまった。


 このままだと、金貨百枚ぐらいしか使えない。


 ほぼプラーダに任せたぶんだな。


 プラーダが狙っているのは貴族関連で増えた物ではなく、最初から用意されていた物だから。


 ……


 プラーダに、もっと任せるのがいいかもしれない。


 そうだな。


 そうしよう。



「プラーダさんに潤沢な資金を持たせたら、高値で落札しませんか?」


「絶対に競り落とすまで頑張りそう」


「降りないとなると、値が吊りあげられちゃいますよね」


 文官娘衆たちの意見。


 なるほど。


 では、どうしたら?


「プラーダさん個人に任せるのが不安なので、チームを組んでもらえればいいのではないでしょうか」


「プラーダさんの暴走を、チームメイトに止めてもらうと」


「あれ?

 それだとプラーダさんをチームに入れる必要ある?

 プラーダさんを関わらせず、チームに任せればいいのでは?」


「プラーダさん、美術品を見る目はたしかだから」


「そっか。

 じゃあ、誰とチームを組むかが問題だね」


「プラーダさんを止められるとなると……」


「誰?」




 チーム《オークションで落札し隊》が結成された!


 一応の名目上のチームリーダーはプラーダ。


 彼女が落札する品を決める。


 チームメンバーとして、大樹の村からフラウとマルビット、それと四村からベルとヨル。


 彼女たちが落札額の上限を決め、実際に落札する。


 そこにプラーダのブレーキ係として、古の悪魔族のブルガとスティファノが加わる。


 ブルガとスティファノからは「ラナノーンさまとククルカンさまのお世話があるんですよー」と抗議されたが、ラスティに休暇を兼ねて行きなさいと命令されて諦めてくれた。


 すまない。


 そして、いつもありがとう。


「まあ、オークションが開催している期間だけですから、かまいませんけどね。

 ですが、プラーダが本気になったら私たちじゃ止められませんよ」


 そうなのか?


「ええ。

 本気じゃなければ、どうとでもなるのですが……

 本気になられると、二人で囲んでも厳しいかと。

 なにせプラーダはグッチさまとやりあえますので」


 そっか。


 まあ、最悪の場合は逃げていいから。


 時間稼ぎに徹して。


「それでよろしいので?」


 ドースたちも顔を出すって言ってたから。


「……ドースさまたち?」


「……ドースさま以外にも?」


 ライメイレンも行くみたいだぞ。


 ヒイチロウとグラルを連れて。


「……」


「……じ、事前にプラーダに伝えておきましょう。

 そのことを。

 それだけでかなりのトラブルが減りますから。

 現場にはべトンもいるんですよね。

 そっちにも」


 スティファノがそう言うので、伝えておくことにした。




 オークションの開催日までまだ日があるので、村でのんびりする。


 夏なので、氷の魔物が大人気だ。


 涼しいからな。


 とくにクロの子供たちが、取り囲んでいる。


 氷の魔物もまんざらではない様子だ。


 そんな氷の魔物のライバルは、室温を調整する魔道具。


 氷の魔物は室温を調整する魔道具が動いているのを見ると、無表情でその魔道具のスイッチを切っている。


 ここは彼の縄張りだということだろう。


 まあ、涼しくなるなら氷の魔物だろうが、魔道具だろうがかまわないので誰もなにも言わないが。


 そういえば、ウルザは氷の魔物を引き取りに来ないな。


 いいのだろうか?


 そんなふうに考えていると、鬼人族メイドと子供たちがやってきた。


氷の魔物(アイス)さん。

 お願いできますか」


 鬼人族メイドが果物が盛られたカゴを差し出すと、氷の魔物はそれを受け取って果物を凍らせていく。


「すみません。

 助かります」


 凍った果実が盛られたカゴを受け取った鬼人族メイドは一礼し、戻っていく。


 それにスキップしながらついていく子供たち。


 凍った果実を使ったおやつを作ってもらうのだろう。


 うーん、ウルザが氷の魔物を引き取りに来ても、子供たちに抵抗されそうだなぁ。




 ある日の昼。


 ため池のほとりで、ポンドタートルたちが日向ひなたぼっこをしていた。


 平和だ。


 俺はそのポンドタートルたちの横、邪魔にならない場所にキャンピングチェアをセット。


 パラソルを差して、ほどよい日陰をつくる。


 チェアの背もたれを倒し、まったりタイムだと座ると、俺の腹の上になにかが乗ってきた。


 なんだと思ったら……


 父猫のライギエルだった。


 暑いんだから、わざわざ乗らなくてもいいんじゃないか?


 気にするなと言われてもな。


 まあ、かまわないか。


 氷の魔物が、俺の近くに氷の柱を作ってくれた。


 冷気がありがたい。


 これで、もう少し風が吹いていればなぁ。


 いやいや、それなら室内にいればよかったんだ。


 野外の。


 自然を楽しまなければ。


 氷の柱はいるぞ。


 それは知恵だ。


 知恵は認めよう。



 三十分ほどまったりしていると、誰かがやってきた。


 山エルフの集団だ。


 なにかかついでこっちに向かっている。


 なにか実験するのだろうか?


 俺はキャンピングチェアに父猫を置き、山エルフたちに向かった。



 帆船はんせんか。


 山エルフたちが担いでいるのは、二本マストのキャラック船の模型。


 サイズは大きく、全長は二メートルぐらい。


 船体から伸びるマストも、同じくそれぐらい。


 ため池で実験して、上手く浮いたら、プールに持って行って子供たちに見せると。


 なるほど、事前の実験は大事だな。


 沈むところを見せたら、船を怖がるようになるかもしれないし。


 しかし、サイズは大きいが、さすがに誰か乗るわけじゃないだろ?


 乗ったら上が重くなりすぎて転覆する。


 浮かべるだけか?


 俺の疑問に、山エルフたちが不敵に笑った。


 そして登場する拳サイズのザブトンの子供たち。


 まさか、ザブトンの子供たちが乗って操船するのか?


 おおっ、それはすごい!


 見たいぞ!


 俺がそう言うと、ザブトンの子供たちはまかせろと、一斉に海賊がしていそうなバンダナを装着した。


 赤、白、青、黒、緑となかなかカラフルだ。


 そして、山エルフたちがため池に浮かべた帆船に、乗り込んでいく。


 ザブトンの子供たちがマストに上り、帆を広げた。


 おおっ!


 ……


 …………


 そういえば、風がなかったな。


 誰か、風の魔法を使える人。



 山エルフの一人が屋敷に走り、風の魔法を使える人……ルーを連れてきた。


「私、それなりに忙しいんだけど」


 すまない。


「まあ、風ぐらい……こんな感じでいいのかしら?」


 ルーが風の魔法を使うと、ザブトンの子供たちが乗った帆船はため池の中央に向かってするすると進んだ。


 そしてため池の対岸に近づいたところでUターン。


 おお、向かい風でも帆を操り、右へ左へと帆船を傾けながら戻ってくる。


 すごいぞ。


 ん?


 さっきより帆船が……沈んでいるような……沈んでいる?


 ああっ、乗ってるザブトンの子供たちが慌ててる!


 浸水しているんだ!


 助けないと!


「村長、大丈夫です!」


 俺と同じように見ていた山エルフが、安心してくださいと笑顔を見せる。


 つまり、あれは……なにかしらの仕掛け?


 帆船は沈まない?


「いえ、想定外の浸水です。

 沈没はするでしょう」


 おいっ!


「ですが、大丈夫です。

 見てください!」


 沈みそうな帆船から、小さいボートが降ろされ、そこにザブトンの子供たちが乗って脱出している。


「乗組員全員が乗れるように、小型のボートを多数、搭載しています」


 おおっ!


 安全対策がちゃんとしている!


 それによく見ると、帆船に乗っているザブトンの子供たちはライフジャケットっぽいものを装着していた。



 よーし、集合。


 陸に上がったら点呼だ。


 ちゃんと全員、いるな?


 沈んだ帆船に取り残された者はいないな?


 見てたぞ。


 沈む船に残ろうとしていた者がいるのを。


 まわりの子が、無理やり降ろしてた。


 なぜ残ろうとした。


 船長キャプテンだから?


 馬鹿者!


 命は大事にするんだ。


 船はまた作ればいい。


 ……


 わかってくれたならいいんだ。


 あと、責任感を持つのが早すぎる。


 今回の実験が初めてだろ?


 船長だって、乗る前に決めた感じだったのに……


 いやいや、責任感を持つことは大事だけどな。



 沈んだ帆船はポンドタートルたちが回収してくれた。


 山エルフたちが、浸水箇所を調べている。


 浸水箇所を調べるのも大事だけど、あの帆船、浸水から沈没までが早すぎる。


 内部を区切ってないだろ?


 内部を区切ることで、浸水の被害を抑えるんだ。


 水密防壁というんだったかな。


 ああ、やっぱり。


 内部はおもりだけ。


 外側だけ真似まねたか。


 いや、それもすごいけどな。


 帆をちゃんと操作できる構造だったし。


 今度、シャシャートの街にある帆船を見せてもらおう。


 実は俺の所有する帆船が何隻かある。


 ゴロウン商会に預けて運用してもらっているから、自分の船って感じはしないけどな。


 実物を見ると、工夫している箇所がわかって勉強になると思うぞ。


 ああ、今度行こう。



 俺が山エルフたちを誘う様子を、キャンピングチェアで横になったルーが、父猫のライギエルを抱っこしながら見ていた。


 ……


 もちろん、ルーも一緒に行こう。


 うん。


会場    「防犯要員として子連れ……失礼、孫連れドラゴンがいます」

プラーダ  「騒ぎを起こしません。絶対に」

ベトン   「……(休暇届けを書く)」

ブルガ   「私たちがいる意味ってあるのかな?」

スティファノ「休暇をもらったと思えば……」


ラナノーン 「ブルガさんがいない……」(しょんぼり)

ククルカン 「スティファノがいない……」(しょんぼり)

ブルガ   「休んでる場合じゃない」

スティファノ「帰ります」

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― 新着の感想 ―
この欄外好きすぎる...ブルガ・スティファノにとっての念願、そして彼女らに大事にされていることがラナノーンやククルカンにもしっかり伝わっている...尊い
今では船長は船と運命を共にするのが船乗りとしての誇り云々となってますが、元々は船での貿易が盛んになった大航海時代に保険金の掛けられた貿易船を沈めたら責任云々でとても生きていけなくなるので、いっそ船と共…
>氷の柱はいるぞ。 >それは知恵だ。 >知恵は認めよう。 言い訳も知恵だ。 知恵は認めよう。(笑)
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