プラーダのお薦め品
●人物、種族紹介
プラーダ 古の悪魔族。別名、美術品を収集する悪魔。
メレオカーン カメレオン型の魔物。通称メレオ。
ネットタートル メレオの飼育場で共生している陸亀の魔獣。
五村新道。
五村とシャシャートの街は転移門で繋がっているが、その転移門が渋滞するので対策として計画されている新しい道のことだ。
かなり前から進行しているので一部は完成しているのだが、実は最近まで一部のルートが決まっていなかった。
俺としては、ルートなんてまっすぐ引けばいいと思ってしまうのだが、世の中というか世界には地形の起伏というものがある。
真っ平な場所のほうが珍しいのだ。
そして、荷馬車が通ることを考えると道幅や勾配に気を使わないといけない。
結果、ぐにぐにと曲がった道になる。
道幅を確保しつつ、急な勾配を避けるとそうなるのも仕方がないか。
ん?
それだけじゃない?
適度に水場もないといけない?
そうか、荷馬車は馬が牽引する。
馬の給水場がいるのか。
それも必要だけど、もっと必要なのが休憩場?
五村新道が完成しても、それなりの距離になるので通行中は一泊か二泊することになる。
宿泊もそうだけど、安心して休める場所がないと、道を使ってもらえないと。
なるほど。
転移門の渋滞を緩和する目的のためにも、使ってもらえる道を作らないとな。
しかし、そうなると休憩所に人を配置しないと駄目じゃないか?
近隣のエルフの里に声をかけて、手配はすんでいると。
そうか。
さすがだな。
ヨウコの秘書たちは、とても優秀だ。
ちなみに、五村新道のルートが最近まで決まっていなかった理由は道を作るのが難しい場所で、迂回か強行かで迷っていたからだ。
なので俺が強行を決め、ルートが決まった。
道を作るのが難しい場所は【万能農具】が頑張った。
魔王国の王都に用意されたオークション会場に、俺は足を運んだ。
オークションの出品物をチェックするためだ。
もともと、出品物は商隊を組んで各地をまわる前に決まっている。
商隊が各地をまわるのは、オークションにこういった物が出品されますよと、参加者を集めるためだからな。
しかし、商隊が各地をまわると……
「実はちょっと資金に困っていてな。
オークションがあるなら、ぜひ出品したい物が……」
と、各地の貴族や商人から頼まれ、出品物を預かることが多々あるらしい。
ほんとうに多々あるらしい。
商隊が出発する前より、出品物が倍になっているからな。
見て回るのが大変だ。
そして、俺を呼んだプラーダ。
彼女の話は、この増えた出品物のなかに買ってほしいものがあるとのことだった。
プラーダの個人的な趣味嗜好で求めている物が大半だが、俺に有益なので薦めている物もあるそうだ。
トラブルじゃなくてよかった。
無駄使いはできないが、役に立つならしっかりと落札するぞ。
「役には立つかはわかりませんが、有益ではあると思います」
……一緒じゃないか?
「ニュアンスが違う感じです」
ニュアンスか……
まあ、かまわない。
それで、プラーダに渡す報酬は、プラーダの個人的な趣味嗜好で求めている物を落札する、ってことでいいんだよな?
「さすが村長!
大金持ち!」
ははは。
全部は落札できないから、厳選するように。
「二十個に絞ります!」
三つまでだ。
「そんなぁっ!
この一年、頑張ったのに」
そのぶんの報酬はちゃんと出てるだろ。
「村で役に立つのを選びますので、十個まで。
ね?」
かわいく言っても駄目。
「じゃあ、数じゃなくて金額で上限を!
入札は自分でしますから」
……そうだな、オークションだから、どれぐらい払うことになるかわからない。
金額で上限を決めたほうがいいか。
「やった!
それで、どこまで出してくれます?」
そうだな……
オークションに出品される物には、出品者が落札希望額や、最低落札希望額を提示している物もある。
以前のオークションの出品物より、桁が一つ二つ多い。
しっかり準備して行うオークションだから、高額商品が扱えるのかな。
それらを参考に考えると……
金貨、百枚ぐらいでいいか?
「十分です!
絶対に競り落とします!」
プラーダは小躍りして喜んだ。
ちょっと予算が大きかったかな。
しかし、俺は今回のこのオークションで金貨を千枚ぐらい使ってほしいとゴロウン商会のマイケルさんや、村の文官娘衆から依頼されている。
村に貯め込んでしまっている金貨を、少しでも外に出さないといけないからだ。
だが、【万能農具】を使ったとはいえ、正当な取引で得たお金だ。
できるだけ意味がある物を買いたい。
……
まあ、自分で言うのもなんだが、俺の物欲は少ないと思う。
基本、自分で作るからな。
金貨千枚は無理っぽい。
ならばと、俺は護衛として同行してくれているダガ、ガルフ、レギンレイヴに、欲しい物があったら遠慮なく言ってほしいと頼んだ。
「ありがとうございます」
「ですが、護衛に集中しなければなりません」
「お気持ちだけで」
やんわりと断られてしまった。
プ、プラーダのお薦めの品に期待するとしよう。
「村長に薦めたいのは、まずはこれです」
プラーダが俺に薦める品。
まずは俺の背の倍はある、大きな水晶柱だった。
迫力があって綺麗だが……
なんだこれ?
どうすればいいんだ?
庭に置いて飾るのか?
「それもいいと思いますが……この水晶柱に人工生命体が入っています」
人工生命体?
……ベルやゴウたちみたいなマーキュリー種?
そういえばゴウも最初は水晶に入っていた。
あれか?
「詳しくは知りませんが、たぶんそうかと。
あ、でも、ここに入っているのは王族守護者じゃなくて、王国戦士です」
ジュピター?
ジュピター種ってことか?
マーキュリー種の親戚?
あ、いや、それよりも生きてるのか?
「たぶん。
いまは休眠状態ですね」
ならば落札してベルたちに見せよう。
知り合いかもしれないしな。
「ですが、このままでは活動状態にはできませんよ」
そうかもしれないがベルたちなら、なんとかするだろ。
するよな?
「わかりません。
ですが、あちらにある品をご覧ください」
プラーダが指差したのは……なんだろ?
壊れた柱時計?
文字盤はないけど。
歯車のようなものが、不規則にある目的のわからない機械だな。
「これ、ジュピター関連の品です」
……つまり?
「これがあれば、起こして会話することも可能かと」
おおっ!
なんて都合のいい!
「都合のよさは、続きます」
?
「向こうにある品を」
これはわかる。
人間サイズの人形だ。
なにでできているかはわからないが、汚れ具合から遥か昔の品だろう。
年季を感じる。
顔は……残念ながらボロボロ。
体形で男女の区別はつかないが、人形が着ている服で女性だろうと推測できる。
腕は四本か。
だけど、三本は途中で砕けている。
足は長いが……片方は歪んでいるな。
この古い人形。
つまり、水晶柱に入っているジュピターの体ってことか?
「本人の物かどうかは知りませんが」
なるほど。
わかった。
この三つは、落札候補に入れておこう。
落札希望額的にも無理がないというか……安いしな。
よほどの金持ちと競合しない限りは、確実に落札できるだろう。
で、さっき言ってたが、このジュピターは役に立たない可能性があるのか?
ミヨみたいとは言わないまでも、文官仕事をしてくれるならとても役に立つと思うのだが?
「起こしてみないと性格や性能はわかりませんから」
まあ、そうだな。
「ですが、マーキュリー種たちを率いている村長なら、使いこなせるかと」
だから有益と。
「はい。
あ、お薦めの品はまだありますよ。
まあ、それらも役に立つかどうかは怪しいですけど」
有益な可能性があるんだな。
案内してくれるか。
「よろこんで」
余談。
出品物にメレオカーンの卵があった。
飛びつきそうになったが、直前で思い出した。
メレオカーンの卵は、ネットタートルの卵とそっくりだということを。
メレオの飼育場で見せてもらったからな。
たしかに、あのとき見せてもらった卵とそっくりだ。
俺には見分けがつかない。
まあ、落札候補に入れておけばいいか。
どちらの卵でも、メレオの飼育場に連れて行けばいいだろうから。
実際にオークションが行われるのは、もう少し先です。