春から夏に
主人公の姓名を逆に書いてました。
すみません。
修正しました。(2025/04/20)
俺の名はヒラク。
ヒラク=マチオ。
大樹の村の村長をやっている。
と、少し前までは自己紹介していたのだが、最近は少し変えている。
大樹の村を代表とするいくつかの村の村長をやっている、にだ。
これまで、ほかの村の村長の自覚がなかったのかと言われると、そんなことはないと反論する。
なにせ、なんだかんだとそれぞれの村の村長として仕事が舞い込んでくるからな。
ただ、大樹の村以外は、いつかはほかの人が村長になるだろうとの遠慮があって言わなかった。
そのあたりをルーやティアに指摘された。
何十年も先のことなんだから、気にする必要はない。
逆に、大樹の村以外の村が不安になるから、もう少し村長であることをアピールするようにと。
なるほどと思ったので、改めた。
まあ、ときどき間違えて前の自己紹介をするだろうけど、許してほしい。
ところで、何十年も俺が村長なのか?
……
そのようだ。
嫌なわけではない。
各村に愛着もあるしな。
うん、頑張ろう。
大樹の村は春の収穫を終え、夏を迎えた。
夏になっても、俺の生活はあまり変わらない。
畑仕事と見回り、そして各村からの陳情や案件の処理。
明確に夏だからと変わったのは、天気がいい日の昼食後は、子供たちが元気にプールに向かうのを見送ることぐらいかな。
夏の畑は作り終わっているので、基本はまったりのんびり。
今日もいくつかの案件の処理が終わったので、和室でまったり座ってのんびりとお茶をしている。
その俺の膝の上には、ハクレンの産んだ双子の妹のほうであるヒミコが座っている。
ヒミコは生まれてまだ二年と少しぐらい。
生まれた当初は自身の能力を扱い切れず、周囲を真っ暗にしていたが、最近はあるていどのコントロールができるようになったらしい。
それゆえか、年齢を感じさせない落ち着きと風格がある。
親馬鹿だろうか。
いや、まるで俺の膝の上に座るのが正当な権利であるかのような、たたずまい。
堂々としている。
そして手に持つのは、俺の作った積み木。
それを積むわけではなく、個々の積み木の平面の平らさを見比べ、もっとも平らな積み木を探している。
俺には、それにどんな意味があるかわからないが、いまのヒミコにとっては大事なことなのだろう。
すごく真剣だ。
そんなヒミコを慈愛の目で見守る悪魔族の助産師と、ヨウコの娘であるヒトエ。
……
悪魔族の助産師は普段からヒミコの世話をしているのでわかるが、ヒトエは?
ヒトエは最近、ヒミコの姉としてふるまっていると。
そうか。
ヒミコはまだ小さいから、よろしく頼むぞ。
ちなみにだが、ハクレンの産んだ双子の兄のほうであるヒカルは、ドースが連れまわしている。
と言っても、屋敷のなかだけだが。
ヒカルもまだ小さいからな。
さすがのドースでも、外に連れ出して行こうとはしていない。
あ、一度連れ出そうとしてハクレンに叱られたと。
なるほど。
っと、ハクレンがヒミコを回収に来た。
ヒミコはお昼寝の時間のようだ。
悪魔族の助産師がヒミコを抱きかかえ、ヒトエがそれについていく。
ああ、またな。
挨拶できて偉いぞ。
……しかし、ヒミコよ。
もう少し抵抗してもいいんじゃないか?
ちょっと膝の上が寂しいんだが。
夕食。
夏なのでさっぱりした料理が出ることが多い。
多いのだが、思い出したように鍋料理が出る。
夏なのに?
「リクエストがありまして」
俺の前に鍋料理を運んできた鬼人族メイドが、食堂の隅に置かれている魔道具をみる。
室温を調整する魔道具だ。
あの魔道具のお陰で、室内は夏でも快適だ。
だから鍋料理でも困ることはない。
ないのだが……
ああ、リクエストしたのはドワーフたちか。
鍋料理でお酒が飲みたいんだな。
「あと、春の終わりに収穫した白菜などの葉物を、早く食べてしまいたいので……」
なるほど。
【万能農具】で季節を無視して作物を作れるけど、収穫後は関係ないからな。
夏場は傷みやすい。
そして、ドワーフたちと鬼人族メイドたちの思惑の一致が、この鍋料理か。
いや、文句があるわけじゃない。
夏バテで胃がやられているわけでもないしな。
俺はつねに健康。
【健康な肉体】ありがとう。
鍋料理、どんとこい。
ちょっと食べすぎたかな。
そう反省しつつ、まったりとしていると十人の天使族がやってきた。
彼女たちは六竜神国に移動するので、その挨拶だ。
実は少し前、六竜神国から手伝いがほしいと要請があった。
手伝いの内容は、正統ガーレット王国との交渉。
天使族は分裂前のガーレット王国を指導していた立場であり、その事情を知る者がいるのといないのでは話の進み具合が違う。
納得の要請だ。
六竜神国にはルィンシァがいるけど、彼女はティゼルの教育目的だからな。
交渉の手伝いをさせられないのだろう。
天使族の長であるマルビットは要請に応え、なんだかんだ言ってあまり働かない三十人ほどを送るつもりだったのだが……
抵抗された。
大樹の村から離れたくないと。
そして、彼女たちは精力的に働きだした。
普段からやっている上空警備は続けつつ、鬼人族メイドたちの手伝い、子供たちの教師役、文官娘衆たちの補佐、資材の管理、各村への空輸、豆腐職人への弟子入りなどなど。
あとは、せめて離れるとしても五村にと、ヨウコの手伝いや神社の手伝いを始めた。
とても助かっている。
評判もいい。
これに困ったのはマルビットだったが、ガーレット王国になんだかんだと愛着のある天使族たちが立候補し、目の前の十人に決まった。
挨拶が夕食後なのは、彼女たちはこれから五村に移動し、夜通し宴会の予定だからだ。
せめてこれぐらいの役得はほしいとマルビットに頼み込み、酒肉ニーズの席を予約していた。
酒代の一部は、こっちからも出している。
明日は二日酔いで倒れるので、彼女たちの出発は明後日になる予定だ。
俺は彼女たちの移動の無事と、向こうでの活躍を祈る。
十人はガーレット王国関係の話がまとまったらまたこっちに戻ってきますと、力強く宣言して五村に向かった。
翌日の昼すぎ。
ゴロウン商会から、オークションは予定通り開催すると連絡をもらった。
予定通りなら、夏のなかほどでの開催だ。
オークションの手伝いをしている古の悪魔族のプラーダからの手紙も届いており、開催前に出品物のチェックに来てくださいと書かれていた。
あと、いくつか話すこともあると。
……
トラブルの話じゃなかったらいいんだけどな。
いや、プラーダだからお金の話かな。
報酬を増やせとか。
そういうことなら、ありがたいのだが……
まあ、あれこれ気にしても仕方がない。
会ったときにしっかり考えることにしよう。
そう思いながら、俺は左右にやってきたクロとユキを撫でた。