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征服王


 俺は人族の男。


 父王が戦場で倒れ、俺は十八歳で小さな国の王位を継いだ。


 それから十年。


 戦いの連続だった。


 我が国は小さいが、その大半が農地なので周囲から狙われるのだ。


 魔王国との戦いに備え、人族で争っている場合ではないと言っても聞いてもらえない。


 連中がそういったことを言うのは、我が国との戦いに負けたときぐらいだ。


 腹が立つ。


 しかし、幸いにしてというか俺には才があった。


 自分で言うのもなんだが、個人の武術はもちろん、軍を指揮する能力も高かった。


 負け知らず……とは言えないが、ほぼ勝った。


 そして、攻めかかってくる国を次々に滅ぼし、領地を広げてほどほどの大きさの国になった。


 ほどほどの大きさの国だ。


 大国を名乗るほどではない。


 大国はほんとうに大国だからな。


 そういった大国からの無理な要求を聞かなくてすむように、力をつけねばならん。


 今日も一つの国を滅ぼした。




「さすがは我が王!

 お見事です!」


手強てごわかったゴズラン国も、王の手にかかれば赤子のようですな」


「まさに征服王に相応しい武勇!

 我らも励まねばなりません!」


 我が国の王城で行われた勝利を称えるうたげで、我が国の将軍たちが笑顔で俺を称える。


 この将軍たちは、俺に追従ついしょうする小物みたいな感じを出しているが、実は小物ではない。


 戦場では戦鬼のごとく敵をほふる、周辺国に名を知られている猛者たちだ。


「相手の王だけでなく、王子や王女を戦場で捕まえられたのはよかったですな。

 領地の接収がスムーズでした」


 そうだな。


 捕まえたな。


「それで、かの者たちをどのように処分いたしますか?」


 処分?


「はい。

 どのように名誉の死を与えるのかと」


「こらこら。

 めでたい席でそういった話はよせ」


「そうだそうだ。

 ここで話題にすることはあるまい。

 ですよね、王」


 ……ふっ、連中は負けはしたがこの俺に正面から挑んだ。


 その点は認めてやらんとな。


「では?」


 我が国の役に立つのであれば、生かして使ってやろうではないか。


「おおっ、さすがは我が王。

 心が広い」


「ですな、ですな」


「しかし、そうなるとあの第三王女……

 逃げ出したことを後悔しておるかもしれませんな。

 我が王に仕えるチャンスを逃したのですから」


「戦場にも出ず、さっさと国から逃げ出したあの第三王女ですか」


「そんな者は我が王の役には立たん。

 勝手に野垂れ死んでもらったほうが楽ではないか」


「はははははは。

 おっと、我が王の杯が空いておる。

 誰ぞ、酒を持て」


「失礼しました。

 こちらをどうぞ。

 毒見はしております」


 俺が新しい杯を受け取ると、将軍の一人が乾杯の音頭を取る。


 それに合わせて俺が杯を軽く掲げると、宴は勝利を称える声で溢れた。


「我が王にも乾杯!」


「ははは、我が国は無敵なり!」


「しかりしかり、我が王がいる限り、我が国に負けはありません!」


 将軍たちの言葉に心が緩みそうになる。


 だが、油断はできん。


 そう油断はできんのだ。


 我が国を取り囲む状況は、好転してはいるがまだ安全ではない。


 それに俺は善政を敷くつもりだが、武力で領地を広げた。


 恨まれていることも承知している。


 そして、今回、逃げた第三王女には多いとは言えんが、少なくない者たちがついていった。


 俺の首を狙ってくるような者ではないが、油断はできん。


 今日、騒ぐのは許すが、明日より気を引き締めよ。


「はっ!

 我が国の栄光のために!」



 その日の夜。


 いや、深夜。


 明かりがこれでもかと灯された大きい部屋に、俺は足を運んだ。


 そして、そのまま流れるように頭を下げる。


 膝を折り、頭を床にこすりつける。


 そして全力の謝罪。


 大変、申し訳ありません!


 俺は微動だにせず、相手から声がかかるのを待つ。


 だが、声はかからない。


 もう一回、謝ったほうがいいか?


 そう思い、口を開こうとしたタイミングで声がかかった。


「王よ」


 はい、王です。


「今回の出兵の前に言ったこと、忘れましたか?」


 い、いえ、忘れてません。


 だからこうして頭を下げているわけで……


「今回の出兵の目的は?」


 ゴズラン王国の第三王女を中心とした文官たちの確保です。


「そうです。

 そうですよね。

 で、ゴズラン王国の第三王女は?」


 と、逃亡しました。


「文官たちは?」


 第三王女と一緒に逃げました。


「なのにゴズラン王国、滅ぼしちゃったんですか?」


 滅ぼしました。


「なんで?」


 あー、いや、その、流れで……


「なぜ国を手に入れたぁっ!

 これ以上は無理だって何度も何度も何度も何度も何度も言ってるでしょうがっ!」


 俺が頭を下げている相手は、中年の男性。


 爵位は男爵。


 仕事は、文官である。


 そして、ここは我が国の内政を司る場所。


 内務大臣室。


 彼はそこで働く一人だ。


 広い内務大臣室の大半は未処理の案件が書かれた書類や木板によって占められ、少ないスペースで必死に処理をする彼の同僚たち。


 彼らは死んだ目をしているが、手だけはすごい勢いで動いている。


「もともとが弱小国なんですから、弱小国の統治しかできないんです!

 なのにここ十年で領地が四倍以上って……どう考えても無理なんです!

 破綻しているんです!」


 その、弱小国ではなく、小さな国……


「くだらないプライドを持たない!

 プライドで内政は改善しないんです!」


 すみません。


「どうしてこうなったのです!」


 そっちが内政できる文官を求めるから……


「ええ、求めましたよ!」


 それで探したら、ゴズラン王国の第三王女と、彼女が率いる文官たちが優秀だと判明しただろ?


 お前たちが欲しいと言ったんだぞ。


「だから戦争になったと?

 私は穏便な方法でと言ったでしょう」


 いやいや、俺は穏便に進めようとしたぞ。


 だが、我が国にもプライドはある。


 内政がボロボロだから手伝ってほしいとは言えんだろう。


「言いなさいよ。

 プライドなんて捨てて」


 捨てたらいけないプライドもあるんだ。


 で、とりあえず第三王女が我が国に来ればいいだけだから、俺は第三王女を妻として迎えたいとゴズラン王国に要望したんだ。


 側室にじゃないぞ。


 正妻としてだ。


 そう使者を送ったら、なぜかゴズラン王国が全面戦争の構えになってな。


 戦争を回避する努力はしたのだが、交渉は全て拒否されて攻め込んできたから、俺はどうしようもなく……


「……」


 なんだ?


「王よ。

 一つ、聞きます。

 答えてください」


 うむ、答えよう。


「貴方の年齢は?」


 今年で二十八歳になる。


「ゴズラン王国の第三王女は?」


 ……ん?


 あれ?


 いくつだ?


 ゴズラン王国の第一王子が……俺の一つ下だから、二十七だったよな?


 第二王女が二十五だったはず。


 じゃあ、第三王女は二十ぐらいか?


「七歳です」


 え?


「七歳ですよ!

 それを妻にって、人質として寄越せと言ってるも同然じゃないですか!

 そりゃ攻め込んできますよ!」


 え?


 七歳?


 でも、内政をやっているって。


「そういった人材だから、私たちは求めたんです!」


 あー……


「最悪、領地が増えても第三王女と文官たちが手に入ればなんとかなると思ったのに……領地だけを増やすとは」


 す、すまない。


 反省している。


 相手の年齢にもう少し興味を持つべきだった。


「ゴズラン王国の王族、殺してないですよね?」


 もちろんだ。


 殺すと第三王女が戻ってきても、交渉できなくなるからな。


「逃がしてください」


 え?


「逃がすんです。

 ゴズラン王国の王族たちを。

 そして、ゴズラン王国を復活させるのです。

 そうです。

 それしかありません。

 戦争をなかったことにしましょう」


 あー、いや、その……


「なんですか?」


 俺も領地を増やしたのに、第三王女を捕まえられなかったことを気にしてだな……


 その、こっちに戻ってくる道中、何度か見張りを薄くして王族たちが逃げる隙を作ったんだ。


「それで?」


 いまさら逃げ隠れせんと、全員残ってた。


「じゃあ、どこかに捨ててきなさいよ!

 さすがに捨てたら、もとの国に戻るでしょう!」


 二回、捨てたけど戻ってきた。


 俺は悪くない!


「王が悪いんです!

 第三王女以外は、内政なんか考えない馬鹿王族じゃないですか!

 どうするんですか、お荷物ですよ!」


 せ、戦争では使えるから。


 連中、なかなか手強かったぞ。


 第一王子の剣なんて、岩を砕いていたからな。


「その剣で、内政が改善するならやってみせてくださいよっ!

 本気の本気でどうするんですか?

 手に入れた領地、統治もせずに放置したら大国から叱責されますよ」


 た、大国だろうが打ち破ってみせる!


「残念ながら、大国ににらまれると我が国の経済がぐっちゃぐちゃになるだけで、まともな戦争に発展すらしません」


 えーっと……


 そ、そうだ。


 新しい領地は部下に褒美として配るのはどうだ?


「配ったとしても、管理はどうするんです?

 我々がするんですよね?

 だって、これまで誰も領地を経営していないんですから」


 弱小国だったから、配るほど領地がなかった。


 王家だけがやってた。


「わかりました。

 最終手段です」


 おおっ、なにか手があるのか?


「ゴズラン王国の真似をします」


 ?


「戦争をふっかけ、負けて相手に吸収されるのです。

 内政の強い大国を狙いましょう」


 ま、待て。


 負けて吸収された場合……俺はどうなる?


「お任せください。

 苦しまない方法をと歎願たんがんします」


 死ぬやん!


 俺、死んでしまうやん!


「王、方言がでてますよ」


 細かいことはいいから!


 嫌だぞ。


 俺、まだ死にたくない。


 結婚もしてないんだから。


「では、私たちは総辞職ということで」


 ごめんごめんごめん。


 それだけは許して!


 爵位もあげるから!


「いりません!」



 俺は人族の男。


 内政はからっきしだが、征服王と恐れられている。






まともな文官「ほら、国にお帰り」

捕まった王族「嫌だ。世話になる」



まともな文官「領地はいらないから、人材だけ確保して……」

将軍たち  「人さらいはちょっと……」



征服王   「穏便な方法ってなんだよ? どうすれば第三王女を手に入れられたんだよ」

まともな文官「将軍貸し出して、代わりに第三王女を借りなさいよ!」

征服王   「人の貸し借りって……」

まともな文官「十年ぐらいで返せるから。きっと」





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― 新着の感想 ―
弱小国を4倍に広げた稀代の征服王 内政がからきし過ぎて文官団に土下座は草なの 後、敵国も歯向かったは良いが、潔いなぁと思ったら 野にお帰りってしても2度戻ってくるとか もう、王様嫌だって1抜けたーっ…
政治のやり方がどっちもどっちすぎるw プライドか全て邪魔しよるw てか情報収集しっかりしなさい!w
強権使って捕まえた王族を勉強させて内政を頼んだらどうでしょう?
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