勝負の結果
俺の名はスールカール=ジャンドール。
魔王国で生まれた魔族の男、今年で三十二歳。
ただの男ではない。
最強の男だ。
あ、いや、最強は言い過ぎだな。
最強を目指す男だ。
……
口だけの馬鹿な男だと思っただろ?
悪いが、俺が最強を自負……あ、いや、最強を目指す根拠がある。
スキルだ。
俺には【勝負の結果】というスキルがある。
これは俺が戦おうと思った相手との勝敗がわかるスキルだ。
簡単に言うと、通りかかりの男に俺が勝負を挑んだ……と想定する。
すると、勝敗の結果を見ることができる。
俺が勝って喜んでいる姿か、負けて倒れている姿。
もしくは、あまり遭遇したことはないが逃げている姿。
自分の視点じゃない。
自分の視点だと倒れていたら、なにがなんだかわからないからな。
少し浮かんだぐらいの位置にいる第三者の視点……で見ることができる。
負けた姿だとしても、絶望する必要はない。
結果は変えられる。
もちろん、そのまま戦えば結果通りなのだが、状況を変えればいい。
簡単なのは場所や時間だな。
勝負をしかけるタイミングで結果は変わる。
あとは、相手が武器を持っていないときとかは、俺が勝つ姿が見やすい。
そう!
俺はスキルを使って、勝てる相手とだけ勝負して勝ってきた。
卑怯?
スキルは俺のもの、俺の力だ!
それを使ってなにが悪い!
それに、苦労がないわけじゃない。
自分が勝つ姿を見るための努力は必要だ。
勝負をしかけるタイミングで結果が変わるんだ。
鍛え具合でも当然、結果が変わる。
だから体を鍛え続けているし、そこらの冒険者に負けない程度には剣を扱える。
武器もちゃんと整備しているし、質のいいものを揃えている。
ははは!
つまり、俺はいずれ最強!
最強の男だ。
そんな俺は、五村にやってきた。
村なのに街のような賑わいというか、えっと……発展具合にちょっと引いてる。
だ、だが、この程度でびびるわけにはいかない。
俺の狙いは、武神ガルフ。
このあたりで最強と言われるその男が、この五村によくあらわれると聞いたので足を運んだ。
とりあえず……五村に来たのだから、ラーメンを食べるか。
美味いらしい。
しかし、ラーメンを扱う店が多いな。
どの店にすべきか……
【勝負の結果】発動!
ふふふ、俺のスキルはあらゆる勝負に適用される。
どこで飯を食べるかも勝負だからな!
……
よし、この店が大正解っぽい。
おっと、便利と思ったかもしれないが、喜んでいる姿をわかりやすくしないといけないから、それなりに大変なんだぞ。
自分を観察するというわけのわかんなさだし。
日常生活がオーバーアクションになる弊害もある。
だが、まずい飯は食いたくないからな。
やめようとは思わない。
しかし……
なぜ俺はラーメンを食べただけで感涙しているのだろうか?
とある店に入ると、俺はなぜか女を崇めて出てきたり?
ラーメン女王ってなんだ?
とりあえず、感涙している店と、女を崇めて出てくる店は外した。
ラーメンは美味しかった。
ちなみにだが、【勝負の結果】は賭け事には使えない。
いや、使えるのだが勝った姿を見たことがない。
なにをどうやっても勝てない。
これは俺の運が悪いだけか?
それとも賭け事は勝負ではないのか?
なんにせよ、俺は賭け事には手を出さない。
負けるだけだから。
さて、腹も膨れたので目的を果たそう。
ガルフとやらはどこだ?
獣人族ということは知っているが……
まあ、適当に勝負を続ければ相手からやってくるだろう。
ほかの場所でもそうだった。
何人か倒せば噂になって、向こうからやってくる。
ふふふ。
楽しみだ。
とりあえずは……
そのあたりにいる冒険者を狙ってみるか。
よしよしよし。
勝てる。
そして勝った。
問題なし。
あ、いや、警備隊に注意された。
くっ。
戦う時間と場所が悪かった。
昼で、人通りが多いところだったからな。
まあ、相手を殺したりはしていない。
だから注意ですんだ。
俺はスキルを使って勝てる勝負をしかけるが、相手を殺したりはしない。
殺したほうが楽なんだが、殺すと不必要に恨みを買う。
旅を続けていても、その恨みを持った者と遭遇するかもしれない。
俺のスキルは不意打ちに弱い。
状況を選べないからな。
勝てれば問題ないのだが、スキルで負けるとわかっているのに戦わなければならない状況は、絶望しかない。
なので、そういった勝負をしかけられないように、もしくはしかけられても状況を選べるようにしておきたい。
だから俺は殺さない。
なに、最強までの道が大変なのは当たり前。
これぐらいの枷は甘んじて受け入れる。
ところで、目の前の警備隊はどれぐらい強いのかな?
【勝負の結果】発動!
えっと……状況から、瞬殺されたようだ。
かなり強い。
手練れだ。
あ、警備隊の隊長さんでしたか。
素直に注意を聞いておこう。
警備隊から解放された。
一安心。
だが、どうしたものか。
なんとかガルフと出会いたいのだが、警備隊と揉めたくはない。
まあ、慌てても仕方がないか。
俺は表通りの壁に寄りかかり、通りかかる者にスキルを使う。
ほぼ俺が勝つが、ここで俺が負ける相手は強者だ。
つまりガルフに近い者。
そう考えて手当たり次第にスキルを使っていく。
……
あれ?
結構な数、負けるんだが?
おかしいなぁ。
俺の体調が悪いのか?
俺の持っている武器が劣化しているとか?
いや、問題はなさそうだ。
こういったときは冷静に。
負けたときの状況を観察する。
自分の視点じゃなく、第三者視点だからある種の未来予知だ。
落ち着いて……一人目。
俺の武器は……壊れてない。
俺は……魔法かなにかでぶっ飛ばされたのか、姿を残していないのが怖いなぁ。
二人目。
細切れ?
俺はなにをしたんだ?
三人目。
消し炭?
この消し炭が俺?
四人目。
大空に飛ばされた感じ?
え?
なにこれ?
暗い?
星の世界?
え?
え?
ご、五人目。
俺は……地面に埋もれていると。
………………………………
よ、よし、通りかかった者に適当にスキルを使うのはよくない。
うん、よくない。
女性ばっかりだったしな。
ちゃんと目的意識を持たないと。
俺の目的は武神ガルフ。
獣人族の男だから……
男を狙う!
お、ちょうどいいところに弱そうな男。
いやいや、負けが続いていたからな。
ちょっと勝つところを見て気分転換というやつだ。
はははっ、スキル発動!
俺は槍に貫かれていた。
……槍?
どこから?
あれ?
周囲に槍なんてないぞ。
男は素手だし。
んん?
も、もう一回。
やっぱり槍に貫かれている。
どういうことだ?
魔法で槍を出して、それに貫かれたということか?
俺が油断しているところにそれをされたら、負けるだろうが……
いまはそれを意識している。
用心しているということだ。
なのに、何度見ても貫かれている。
……
す、すみません、そこのお方。
変なお願いをしますが、俺の剣をちょっと持ってもらえませんか。
はい、持つだけで。
すみません。
男に剣を持たせた状態でスキル発動!
俺は槍に貫かれていた。
なぜだ!
俺の剣をなぜ使わない!
それなりに高級品だぞ!
あ、す、すみません。
ありがとうございます。
持っていただいたお礼に、そこのお店で売っている串肉などをどうぞ。
男に串肉を持たせ、スキル発動!
俺は槍に貫かれていた。
知ってた。
くっ。
何者だ、この男!
獣人族ではないから、武神ガルフではないよな。
どうする?
《あ、あの、いいですか?》
だ、誰だ?
俺の頭の中に語りかけてくるのは!
《そ、その【勝負の結果】です》
なに?
いつもお世話になっています!
《あ、いえ、こちらこそ》
喋れたのか?
《えっと、いま急に覚醒したというか、覚醒させられたというか……》
?
《と、とにかく、あの人に手を出そうとしては駄目です。
土に還されます。
私も土になっちゃいます。
向こう、次は手加減しないと言ってます》
???
手を出すって、実際には手を出してないぞ。
《世の中、考えるだけでも駄目なことはあります。
これまで通り、勝てる相手にだけ勝負をしかけましょう》
勝てる相手にだけという部分を強調された気もするが、【勝負の結果】にはこれまでいろいろと助けられている。
その【勝負の結果】が、わざわざ覚醒して自我を持って注意してきた。
ここは引くとしよう。
むう。
この五村には、勝てない相手どころか、危険な人物が多いということがわかった。
スキルを使っていると、何人かに「ほどほどにするように」と注意されたしな。
大人しくしよう。
獣人族の男を見かけても無視。
どうせ武神ガルフじゃないだろうしな。
って、いい大人が持ってる武器は木の棒で、防具はなし?
……
近づかないほうがいいな、うん。
五村を離れることも考えたが、ここは飯が美味い。
離れがたい。
なので、余計なことをせず、自分を鍛えることに集中しよう。
ただ生活費を稼ぐ必要がある。
冒険者でもするか……
ん?
俺をスカウトしたい人がいる?
あ、警備隊の隊長さん。
まさか、俺を警備隊に?
違う?
預かっている子供たちを鍛えてほしい?
エルフの男の子が……三人。
彼らを鍛えるのに、俺ぐらいの強さがちょうどいいと。
ふふふっ。
甘くみられたものだな。
年単位の契約で、めちゃくちゃ報酬がよかったので引き受けた。
そしてわかった。
子供たちの周りにいるのは、俺を瞬殺したり消し炭にしたりした相手だ。
スキルが自我を持ってまで注意してくれた男や、スキルを使っていることを注意してきた者もいる。
あー、なるほどなるほど。
周りが強すぎて、ほどよい相手がいないのね。
で、俺がほどよい相手と。
不満だが事実!
もらった報酬分は、しっかり鍛えてやる!
しっかり俺についてこいよ!
あ、俺のことはスールと呼び捨てでいいから。
先生とか師匠と呼ぶのは止めて。
そんなふうに呼ばれると、不意に腕試しだとしかけてくる人がいるから。
実際、君たちの母親にしかけられたし。
君たち、ハイエルフならそう言ってよー。
君たちの母親、死ぬほど怖かったんだからー。
ともかく、俺と君たちは一緒に強くなる仲間。
そう、仲間。
頑張って最強を目指そう!
俺の名はスールカール=ジャンドール。
魔王国で生まれた魔族の男、今年で三十二歳。
最強の男を目指しつつ、武術の家庭教師っぽいことをしている。
結婚相手、募集中!
五村で一緒に生活しよう!
三人の男の子は、ハイエルフ(リア)たちの息子(リリウス、リグル、ラテ)です。
消滅はルー。
細切れはティア。
消し炭はラスティ。
宇宙はハクレン。
地面はレギンレイヴ(天使族の長老)。
スキルを注意したのはヨウコ、ニーズ。