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五村の働き口案内

　五村は村と呼ぶには無理があるほど発展している。

　誰がどう見ても街だ。

　だが、村だ！

　村と言ったら村！

　そこに疑問を挟まないように！

　いや、たしかに昔は五街と言っていた人もいたけど、その数は少しずつ減っていったんだ。

　五村は五村でいいと。

　そう、村ということに誇りを持ったんだ！

　逆に五街は恥ずかしいと！

　……

　すまん。

　嘘だ。

　呼び方にこだわらなくなっただけ。

　もともと五街と言っていた人、言いたがった人たちは、親族とかに連絡するときに「村」より「街」のほうが都合がよかったからだ。

「村に移住した」、よりも「街に移住した」のほうが安心させられるしな。

　だけど、「街」と言ってアピールする必要がないほど五村は有名になった。

　なので五村は「村」だ。

　そんな主張をする俺は魔族の男。

　名は……たいした者ではない。

　適当に案内係とでも呼んでくれ。

　仕事は五村の職業斡旋所で働いている。

　おっと、職業斡旋所は非正規（モグリ）じゃないぞ。

　ちゃんと五村の認可を受けてやっている正規の職業斡旋所だ。

　五村に移住してきた者に、働き口を紹介する。

　それが俺の仕事だ。

　さて。

　五村は目に見えて発展している。

　いまだ発展中ともいえる。

　だから働き口は多い。

　人気なのは、大工だな。

　大工は常に不足している。

　大工として働ける技術を持っているなら、絶対に大工になるべきだな。

　個人で工房を構えてもいいし、すでに活躍している工房や集団に所属するのもありだ。

　ちゃんと紹介するぞ。

　大工としての技術はなくても、重い物を運べるだけでそれなりの賃金を得られる。

　体の大きい種族だったら、なおさらだ。

　家を建てるとき、体が大きいと役に立つからな。

　興味があるなら、言ってくれ。

　次いで人気なのはウェイトレス、ウェイター。

　チップをもらって客と店の仲介をする仕事だ。

　実力次第でいくらでも稼げる。

　ただ、人気のある店はそれなりの信用がないと雇ってもらえない。

　信用ってのは、ちゃんと働くかどうか、迷惑をかけないやつかどうかだな。

　身元を保証する人がいないと雇ってくれないところもある。

　当然だな。

　それと、店によってはチップの受け取りを禁止して、賃金を払う店もある。

　例としては、ラーメン店とかだ。

　そう、あのラーメン通りにある店。

　美味いよな。

　ただ、ラーメン店は雇ってくれやすいけど、厳しいぞ。

　賃金を払っているわけだからな。

　いい加減な仕事をする者はすぐに解雇される。

　クロトユキ？

　あそこも紹介できるけど、試験がある。

　多くの人が働きたいって希望している人気店だからな。

　だから年に一回か二回、試験をやっている。

　希望するなら試験があるときに知らせるぞ。

　そうそう、青銅茶屋は試験はない。

　店長代理の面接だけだ。

　まあ、あそこは少し特殊だから、合わないと長続きしないけどな。

　あと人気なのは……運搬（うんぱん）系だな。

　そう荷物を運ぶ仕事。

　五村は小さいとはいえ山にできた村だからな。

　坂が多く、なにかしら物を運ぶのも大変なんだ。

　それを手伝う仕事だ。

　やることは荷物を運ぶだけ。

　人気になるのもわかるだろう？

　さらに足が速かったり、重い荷物を運べるとなると商会に重宝されるぞ。

　うん、商会に就職することも可能だ。

　夢があるだろ。

　ただ、やっぱり甘い話ってのはなくてな。

　運搬系はある程度、五村に詳しくないと仕事にならないんだ。

　どこそこに運べって言われても、それがどこか知らないと無理だろ？

　複数人で運ぶときはなんとかなっても、一人で動けないとなるとな。

　だから、人気なんだけど移住したての者には紹介しにくい働き口なんだ。

　稼ぎたいならゴミの回収や処分をする仕事なんかどうだ？

　やりたがる人は少ないが、必要な仕事だから賃金がいい。

　管理しているのが五村だから、支払いもスムーズだ。

　体が小さいなら下水用のトンネル清掃とかもあるぞ。

　そう、トンネルに潜って掃除するんだ。

　賃金は驚くほどいい。

　ん？

　ああ、普段はスライムがやっているぞ。

　頑張っている。

　ただ、なにかあってスライムたちが働かなくなったら、どうするんだと村長代行が言ってな。

　スライムに頼らない清掃体制を模索しているんだ。

　だけど、なかなか志願者がいなくてな。

　もう一度言うけど、賃金は驚くほどいいぞ。

　ちょっと変わった働き口を紹介しよう。

　モデルだ。

　五村の地下商店通りが、ファッション通りと呼ばれているのは知っているか？

　知らない？

　それなりに有名なんだけどな。

　まあいいや。

　そこで新しいデザインの服が作られているから、それを着て五村内でうろつく仕事だ。

　そう、着て五村内で普通に生活すればいい。

　家に引きこもるのは駄目だぞ。

　新しいデザインの服を見せつけるのが仕事なんだから。

　だから、常に誰かに見られていることを意識してもらわないと困る。

　乱暴な態度とかは駄目だ。

　稼ぎはあまりよくないが、楽な仕事だろ？

　人によっては、新しい服をもらうことを報酬にする者もいるぞ。

　次は白鳥調教師。

　白鳥レースは知ってるな？

　その白鳥レースに出る白鳥を鍛える仕事だ。

　適当に鍛えればいいってもんじゃないぞ。

　白鳥の適性を見極め、必要な訓練を施してやるんだ。

　まあ、これは経験を積まないと難しいから、始めてすぐに稼げる仕事じゃない。

　それに、白鳥レースは賭け事だから誠実さが求められる。

　あと、白鳥を可愛がれないなら、向かない仕事だな。

　しかし、なぜか「俺ならやれる」と自信満々に調教師を希望する者が多くてな。

　ああ、もちろん断ってるよ。

　白鳥レースは五村や神社が絡んでいるから、変な者を紹介するとこっちが叱られるんだ。

　あと、変わった働き口となると……エキストラとかバックダンサーなんかあるぞ。

　エキストラは、映画に出演する仕事だ。

　そう、あの映画に出られるんだ。

　すごいだろ。

　おっと、主演じゃないぞ。

　そっちは厳しい練習と試験を受けて選ばれているからな。

　エキストラは主演たちを引き立てるための群衆（モブ）だ。

　セリフとかはほぼない。

　演技力もそんなに必要ない。

　棒立ちや過剰な演技は困るがな。

　主演たちを邪魔しない程度の演技力があればいい。

　報酬は……少ないが、記念にはなるぞ。

　うん、少ないんだ。

　金を払って出してくれって言う者がいるからな。

　高くならない。

　残念ながら。

　で、バックダンサーはファイブくんの後ろで踊る仕事だ。

　こっちは映画の主演並みに練習と試験が厳しい。

　だが、稼げる。

　人気が出たら独立して、ダンサーとしてやっていく将来性もあるぞ。

　あとは……そうだそうだ。

　変な働き口と言えば、大盛ラーメン免許認定員！

　一部のラーメン店で大盛が免許制なのは知っているか？

　その免許を発行するための認定書を出す仕事だ。

　以前は各店でやっていたんだけど、認定が大変だって外部に委託するようになったんだ。

　挑戦者が指定の大盛ラーメンを完食したのを確認して、認定書を渡すだけなんだから簡単な仕事だぞー。

　ラーメン店とも仲よくなれるから、新作メニューとか先に食べることができたりな。

　ただ、報酬は微々たるもんだけど。

　やりたがる人は意外といるんだ。

　ん？

　俺のなかで一番の働き口を知りたい？

　そう言われてもな。

　俺としちゃ、この職業斡旋をそれなりに楽しんでやっているから……

　まあ、親族に勧めるなら、農業だな。

　そう、農業。

　畑仕事。

　仕事は大変だけど、安定してるし、結婚もできるし、将来も安泰だぞ。

　いやいや、嘘じゃないって。

　ああ、あれか。

　どれだけ畑仕事を頑張っても貴族に税金で持っていかれるって思っているのか？

　大丈夫だ。

　五村の周辺にある畑は、ほぼ村長のものなんだ。

　そう、村長の畑を委託される形だ。

　だから税金のことを考える必要はない。

　不作でも助けてもらえるというか、基本の賃金が決まっているからな。

　畑の収穫量に応じて、その基本の賃金に上乗せって感じで払ってもらえる。

　安心だろ？

　それに村長関係の仕事になるから、五村に貢献している感じが強いって点も大きい。