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洋菓子店フェアリーフェアリ 前編


 私の名はロロネ。


 獣人族の女です。


 そうです、小さいころに大樹の村に移住した獣人族の一人です。


 大樹の村では、牛や馬の世話を中心に畑仕事のお手伝いをやっていました。


 不満のない生活です。


 あ、いえ、村長の子を授からないのは不満と言えば不満ですが、慌ててはいません。


 セナさまやほかの獣人族が産んだ子の世話で、母性は満たされています。


 まあ、もう少し子の数が欲しい、できれば自分の子が……とは思いますが。



 そんなふうに日々を暮らしていたら、なぜか五村の洋菓子店の店長代理に就任することになりました。


 五村にある店の店長代理となれば、五村に常駐することになるでしょう。


 大樹の村を追い出される?


 慌てて、なぜ私がそうなったのかを調べました。


 天使族のみなさまが動いたようです。


 なるほど。


 そして私が選ばれたのは、セナさまが天使族に推薦したようです。


 セナさま!


 そんなに私のことが嫌いですか!


 そう怒鳴ってしまいましたが、セナさまは怒らずに説明してくれました。


 嫌っているわけではなく、村の外に出して問題ない人材として推薦したと。


 つまり信頼!


 信頼しているからこそ選んだのだと。


 おおっ……す、すみません、セナさま。


 セナさまからそのように信頼されているのに、私ったら早とちりをして。


 私はその信頼に応えるべく、全力で頑張りますよ!


 でも、できれば事前の相談が欲しかったです!


 それと質問があるのですが、洋菓子店とはなんでしょう?


 どういった物を扱うお店なのですか?



 洋菓子とはお菓子の総称で、村長が決めたお菓子の分類だそうです。


 ケーキやクッキー、プリンなどが洋菓子で、お団子やお餅が和菓子だそうです。


 分類する必要があるのでしょうか?


 村長が決めたのですから、必要なのでしょう。


 今はわからなくても、いつかわかるはずです。




 五村の洋菓子店。


 店名はフェアリーフェアリ。


 ここが私の職場。


 ……


 大きいですよね。


 そして周囲には道しかないという環境。


 お店、ここでやって大丈夫でしょうか?


 お客さん、来ますかね?


 ま、まあ、頑張ります。



 洋菓子店の建物はできていますが、まだ開店はしていません。


 準備に力を入れるのが村長のスタイルです。


 なので、開店は夏ぐらいを計画しています。


 ええ、夏です。


 いまじゃありません。


 明日でもありません。


 だから並ばないでください!


 開店はまだまだ先ですから!


 お客さんが来ない心配はしなくてよさそうです。




 えーっと、お客さまに迷惑をかけないように、施設設備の動作確認や衛生確認を行います。


 この洋菓子店の建物には、贅沢な設備が多く採用されています。


 まずは、自動で開閉する魔法扉。


 扉の前で人を感知すると自動で開き、人がいなくなると閉まる仕組みの扉です。


 急に扉が開くとびっくりするので、扉はガラス製です。


 すごい贅沢です。


 この魔法扉、人を感知する部分をルーさまが担当し、扉の開閉の仕組みを山エルフのみなさまが担当していました。


「扉の開閉速度を調整するのが難しかった。

 村長の求める安全性を追求するため、何枚のガラス扉を割ったことか……」


 私が初めてここを訪れたとき、設備の説明をしてくれた山エルフさんが、疲れた顔で満足そうに教えてくれました。


 次に、二階や三階、そして地下へ移動するための階段。


 なんと階段が動くのです!


 階段の一段目に乗れば、自動で上や下に行けるという素晴らしさ!


 ……


 すみません、初めて乗るときはちょっと怖かったです。


 いまは慣れましたけどね。


 この階段は村長が発案し、仕組みを山エルフのみなさまで製作。


 動力はルーさまとティアさまが担当したと聞いています。


 続いて、同じように二階や三階、そして地下へ移動するための箱!


 これは四村の浮遊庭園と同じですね。


 箱やお皿に乗って、上下に移動するのです。


 こっちは怖くありませんでした。


 そして魔法照明。


 スイッチ一つで、明るくしたり暗くしたりできます。


 しかも、照明が天井の高い場所にあっても大丈夫。


 便利。


 さらには魔法の空調箱!


 これは建物内……いえ、室内の温度を調整する道具で、全ての部屋に設置されています。


 従業員が寝泊りする部屋や食堂にもです。


 従業員に快適な環境を提供したいという村長の思いですね。


 それに応えるように頑張りたいものです。


 そうそう、温度変化が困るのは厨房と材料を保管する倉庫、そして完成した商品を置く販売スペースですが、そこには特別に大きい空調箱が設置されています。


 しかも壊れたときのことを考え、予備の空調箱まで。


 さすが村長、用心深い。


 販売スペースの横に、お客さまたちにお待ちいただく待機スペースがあるのですが、ここにはなんと音楽を奏でる魔法の楽曲箱が設置されています。


 待機スペースのお客さまの気を紛らわせるものなのでゆったりとした曲ばかりですが、なんと三十曲もあるのです!


 営業時間中は、この魔法の楽曲箱を動かし続ける予定となっています。


 あとは……


 厨房の施設や設備ですね。


 一定の熱を保持し続ける魔法の(オーブン)や、中の物を冷やす冷蔵庫、中の物を凍らせる冷凍庫、高速でかき混ぜる魔法の攪拌機(ミキサー)、入れた水がお湯になる魔法の壺、などなど。


 すべて使いやすい大きさで複数用意されています。


 この厨房では十人が交代で働く予定ですからね。


 複数ないと困るのです。


 そうそう、この建物には水道が完備されています。


 建物の上の貯水タンクの水が、建物内に張り巡らされたくだを通り、手元の操作で水を取り出すことができるのです。


 大樹の村の村長のお屋敷では当たり前にあるものなので、うっかりしていました。



 しかし、改めて見ても、立派な建物です。


 レンガ造りですが、要所に大きなガラス窓が使われているので中は明るく、外観に反して開放感があります。


 ガラス窓はもろいのではと思われるかもしれませんが、なにをどうしたのか硬いです。


 村長は強化ガラスと呼んでました。


 たぶん、魔法扉を作るときに開発されたのでしょう。


 レンガにもなにかしていると聞いていますが、なにをしているかは知りません。


 村長は常に火事に注意しているので、たぶん火事対策のなにかでしょう。


 そういったものが必要になる事態は避けたいですけどね。



 ……


 あの、まだ並んでいるのですか?


 開店はかなり先ですよ?


 大丈夫、野営の準備はしている?


 いえ、そういった心配ではなく……


 なにが貴方たちをそうさせるのですか?


 なにを取り扱うか、まだ発表していませんよね?


 なのに並ぶのは……


 え?


 貴方たちはゴロウン商会の関係者なのですか。


 あ、幹部?


 そ、それは失礼しました。


 ですがその、失礼ですが……


 ゴロウン商会のかたなら、なおさら並ぶ必要はないと思うのですが?


 目当てはチョコレートですよね?


 チョコレートは開店する前に三十個、お渡しすることになっていますよ。


 え?


 それが理由で並んでいる?


 並んで手に入れたという証拠作り?


 優先的にもらっていないといろいろ困るけど、優先的にもらったと宣伝すると今後が大変になる。


 あ、あー。


 ゴロウン商会は大きな商会ですが、大きな貴族に無茶ぶりされると困るわけですね。


 えっと、ご苦労さまです。


 並んでいる最中の手洗いは、あちらの従業員用を使っていただいてけっこうですので。


 はい、火を扱うときはあのあたりで。


 火事は困りますのでご注意を。


 では、頑張ってください。



 ゴロウン商会は村長の協力者。


 ときどき、なにか差し入れよう。






後編に続きます。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
開店前数ヶ月(笑)行列が発生(⌒-⌒; )。 この世界『甘味』を手にするのが難しいのか。
衛生管理って、大分大変なようで… 結構な頻度で検便しないと駄目らしい…(老人ホームの食事を提供する人だけ?) 手洗い・うがいだけで済まない衛生管理…
洋菓子店にエレベーターやエスカレーターが必要か? 元々持ち帰り専門を考えていたなら品数、種類そんなに無いだろうし 広大な店舗に十種類程度の商品って意味なくね
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