洋菓子店出店計画
洋菓子店出店計画。
以前から、五村ではケーキやチョコレートの取り扱い店を増やすことを求められていた。
たしかに五村では、ケーキやチョコレートはクロトユキか青銅茶屋の二店でしか食べることができない。
その二店は人気で常に満席なうえ、ケーキやチョコレートは数量に限りがあるので競争が激しい。
五村ではケーキやチョコレートは、食べたいときに食べられるものではないそうだ。
「いや、普通はそうでしょ。
たぶん貴族の家ぐらいじゃないかな。
いつでも食べられるのって」
ルーがそう言う。
ケーキの材料の小麦はともかく、牛乳や卵は牛や鶏を飼っているようなところ以外、そうそう手に入らない。
砂糖はそれなりに高級品。
チョコレートにいたっては、原料のカカオがもともと流通していない。
このあたりでは四村で栽培しているものだけだからな。
つまり、待っていても洋菓子店は増えない。
なので五村の要請で、俺が出店することになった。
場所!
牛乳や卵などを運び入れやすいように、五村の麓。
庭付きの一軒家が四つほど建てられる広大な敷地が選ばれた。
大通りに面した立地なのだが、道以外はまだなにもない。
これから発展する場所だ。
この場所はヨウコの指定だから、周囲になにが建つか決まっている気がする。
建物!
厨房のことを考え、防火対策をしたレンガ造り。
内部は、厨房と材料を置くための倉庫、そして従業員の寮が占める。
お持ち帰り販売専門なので、販売スペースは小さめ。
……の予定だったが、商品の焼き上がりを待ってもらうためにテーブルと椅子を置くスペースがそれなりに広く確保されている。
たぶん、お茶の販売とかしちゃうんだろうなぁ。
クロトユキや青銅茶屋と差別化したいんだけど。
え?
商談スペースが必要?
必要かなぁ?
偉い人が来たときの応接室も?
いや、お持ち帰り販売専門だぞ?
なぜ応接室が?
ないと絶対に面倒なことになる?
二階建ての予定だったが、三階建てになってしまった。
ケーキ職人!
クロトユキでケーキなどの作り方を学んだ従業員が十人。
職人の代表となるのは元エルフ帝国の皇室厨房で料理人見習いをしていた女性。
「頑張ります!」
そう言っているが、料理人見習いならクロトユキに残ったほうがいろいろな料理に手を出せるんじゃないのか?
「いえ、ケーキ作りを中心に頑張ります」
そ、そうなの?
「はい。
私はケーキを作るために生まれてきたのです」
えーっと……ほどほどにね。
販売員!
こちらもクロトユキで鍛え上げられた接客担当が五人。
「「「「「ケーキ、ケーキ、ケーキ、ケーキ!」」」」」
士気は高そうだ。
空回りしないことを願う。
店の売上次第で人員の追加を予定。
店長!
……
あ、やっぱり俺が店長なのね。
別にこだわらないんだけどなぁ。
店長代理!
俺に代わって店を管理運営する人!
大樹の村にいる天使族から希望者を募集。
厳正で公平な殴り合いの……失礼、根回しの……失礼、抽選の結果。
獣人族の女の子の一人が就任することになった。
天使族から希望者を募集したはずなのになぜだろう?
天使族は補佐に回るそうだ。
オープニングからしばらくは補佐は五人体制で。
店長の補佐だけでなく、販売員の補佐もやってもらう予定。
商品!
メインはホールを八等分したピース売りのケーキ。
将来的には多数の種類のケーキを用意するつもりだが、オープニング直後はイチゴのショートケーキ、複数の果実を使ったフルーツケーキの二種類に絞っての販売を考えている。
価格はショートケーキは中銅貨十枚、フルーツケーキは中銅貨十二枚。
クロトユキや青銅茶屋で提供しているケーキ類よりは高い価格設定だが、これでも原材料を考えると格安になる。
ただ、やはり住人には贅沢なご褒美としての商品になるだろう。
あと、ケーキ以外にクッキー、ビスケット、チョコレートなどを販売予定。
チョコレートは小さい箱に入れた固形のもので、価格は中銅貨五百枚で販売することになっている。
そう、中銅貨五百枚。
一瞬、高いかなと思うけど、カカオの取引価格を考えるとかなり格安。
超格安。
自分のところで生産していないと出せない価格。
なので、販売個数は超限定。
一日、一つしか用意しない。
だったら出さないほうがいいんじゃないかとも思うが、それでもいいから出してと強く願われているから。
しばらくはこれで様子を見よう。
店名!
俺が店名を考えることになった。
クロとユキの名を冠したクロトユキがあるので、ルーとティアの名を冠して“ルーティア”、もしくは“ティアール”とかを考えたが、ルーとティアから反対された。
そういったのは孫娘とかにおいておくように、だそうだ。
ルーの息子とティアの娘を結婚させるのか?
違う?
そうじゃなく、親しい人の名をもらうのは普通と。
へー。
とりあえず、駄目だと言われたのでやめる。
リアやアンなども同様。
となると……
ザブトンはどうだろう?
洋菓子店ザブトン。
いいんじゃないかな?
そう思ったけど、ザブトンが駄目だと示した。
ザブトンの名は自分だけのもの。
そうか……
そうだよな。
すまない。
店にザブトンの名を使うのはやめよう。
では、最終手段。
俺の名を使うか。
洋菓子店ヒラクでは直接すぎるので……
ヒラ、ヒラ……ヒラタロウ!
洋菓子店ヒラタロウ!
これで決まりだ!
発表したら、微妙な空気になった。
その名は子供用にとっておけと。
そうですか。
結局、妖精女王がやってきて決めた。
「洋菓子店フェアリーフェアリ」
いい店名だ。
でも、たぶん洋菓子店フェアリーと呼ばれるんだろうなぁ。
村長「子にヒラタロウの名は使えないと思うんだ」
ルー「どうして?」
村長「だって、最初は洋菓子店の名だって知られたら、子供がかわいそうだろ」
ルー「そうなるとルーティアとティアールも駄目よね」
村長「そうなるなー」
ルー「悪い名じゃなかったのに」
村長「すまない。不用意なことをしてしまった」




