子供の玩具
大樹の村。
昼食を食べて自室でまったりしていると、珍しく宝石猫のジュエルがやってきた。
やってきただけでなく、俺の膝に乗るの?
ああ、かまわないかまわない。
よしよし。
ん?
な、なにぃっ、仰向けだと?
そこまで気を許してくれるのか。
ふふふ。
……
ちょっと怖いな。
うん、お前がそこまで甘えてくると、なにかあったんじゃないかと疑ってしまう。
なにかしたのか?
いや、お前はやらかさない。
そこは信用している。
父猫のライギエルがなにかやらかした場合は、俺がライギエルを叱ってからフォローに入ってくる。
つまり、やらかしたのは娘だな。
姉猫たちか?
それとも妹猫たち?
もしかして、両方か?
宝石猫のジュエルは顔を逸らしたので、俺はなにも考えずにジュエルをもふもふした。
鬼人族メイドに呼ばれ、向かった屋敷の一部屋が酷いことになっていた。
何者かが大暴れしたかのような……
いや、何者とぼかす必要はないな。
犯人は姉猫たちと妹猫たちだ。
計八匹で大暴れしたようだ。
その姉猫たちと妹猫たちは、鬼人族メイドの前で整列してうなだれている。
おっと、こっちを見て情けない声を出しても、助けられないぞ。
原因はなんだ?
妹猫たちが、虎にちょっかいでもかけようとしたのか?
それとも、姉猫たちがなにかしたのか?
全員が顔を逸らす。
母親のジュエルとそっくりだな。
鬼人族メイドが、原因を教えてくれた。
缶ジュースぐらいの大きさの木片?
そう思って掴むと、木片が変形して手足が出てきた。
尻尾も。
俺の手のなかで手足や尻尾をバタバタしている。
なんだこれ?
誰かが操作しているのか?
それとも、自律行動?
新しい魔法生物か?
「子供用の遊具です」
これが遊具?
そうなの?
動力はなんだろう?
勝手に動いているようにみえるのはすごいなぁ。
「詳しい仕組みは存じませんが、周囲の魔力に反応して動くそうです。
ルーさまが機構を作り、それを使ってヤーさまたちがこの形にしました」
へー。
子供たちには人気なの?
「人気です。
ですが、問題がありまして……」
問題?
「はい。
周囲の魔力に反応しすぎるのです。
強い魔力に反応すると暴走しまして」
強い魔力というと……
「ハクレンさまやラスティさまのお子さまたちです」
あー、ドラゴンね。
近づけると危ないので、この部屋に隠していたと。
だけど、それを猫たちが見つけ、暴走した玩具を追いかけて部屋がこうなったと?
「はい」
鬼人族メイドの返事に合わせ、猫たちが仕方がないじゃないかと合唱する。
猫の狩猟本能が刺激されてしまったわけだな。
この玩具はネズミっぽく見えるし……仕方がないか?
「猫たちはわざわざ玩具を探したのですから、仕方なくありません。
反省してください」
そ、そうだな。
反省するように。
「それで村長。
この部屋の修理なのですが……床や壁だけでなく、備えつけの棚やテーブルまでダメージがありまして」
大がかりな修理が必要だな。
柱は大丈夫そうだけど、一応は調べておくか。
わかった、こっちでなんとかしよう。
「すみません。
よろしくお願いします」
いやいや、俺の飼っている猫が原因だから……猫たちよ。
飼われているわけじゃないとか抗議するんじゃない。
まとまる話がまとまらないだろ。
ほら、反省のポーズ。
「手の空いている人を応援に呼びます」
ああ、頼んだ。
おっと、その前に聞いていいかな?
「なんでしょう?」
魔力に反応して暴走するなら、ルーはどうやってこれを作ったんだ?
「魔力に反応すると言っても、なんでもかんでも反応するわけでないようです」
そうなの?
「考え方としては、制御しきれていない魔力に反応している感じ……でしょうか?
いえ、詳しくは存じませんよ」
十分だよ。
「じゃあ、大人が持ったときしか正常に動かなくて、子供が持つと暴走すると」
「いえ、大人が持っても動きません。
魔力の制御の未熟な子供が持つと動きます」
……
俺が持ったとき、動いたけど?
「えーっと……」
まあ、俺は自分の魔力を完璧に制御しているとか思っていないから。
ただ、猫たちの魔力にも反応するんだな。
「普通は反応しません」
ん?
鬼人族メイドが、玩具を猫に近づけるが動かない。
あれ?
じゃあ、どうして暴走したんだ?
「この猫たちが、わざと魔力を与えて暴走させたようです」
……
もう少し長く、反省のポーズのままでいるように。
ちょっと短めです。すみません。