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旅のあとかたづけ


 ビーゼルがわかりやすく不貞腐ふてくされていた。


 母親とは五村で会えたらしいが、仕事の邪魔だとあまり相手にされなかったらしい。


 さらにはその母親が五村で婦人会を作り、それなりにエンジョイしていることにも不満があるらしい。


 元とはいえクローム伯爵夫人。


 暇なら現クローム伯爵夫人であるシルキーネのことを手伝ってくれてもいいんじゃないか?


 相談できる者がいるだけで、全然違うんだが?


 いや、シルキーネはシルキーネで美容関係の仕事をしている。


 趣味でやっていると公言している。


 しかし、それも貴族社会での繋がりのためという側面もあるんだ。


 五村で婦人会を作っても、力がないだろうと。


 そう思ったら、婦人会のメンバーが魔王国貴族の重鎮の母親とか祖母とかで……


 ビーゼルがあまりにもぐちぐち言うから、フラウがフラシアをビーゼルの膝の上に乗せて黙らせていた。


 さすがにビーゼルも、フラシアの前で不機嫌な態度は取れないらしい。


 ふーむ。


 時々、誰かが俺の膝の上に子供を乗せてくるのは、そういった意図があるのだろうか?


 あまりぐちぐち言った覚えはないのだが?


「親子のコミュニケーションが足りないって、あなたが嘆いていたからでしょ」


 ルーがそう言う。


 そうか。


 いや、嫌なわけじゃないんだ。


 うん。


 親子の語らいは大事。


 なのだが、いまの俺の膝の上にはルーがいる。


「なにか問題でも?」


 いえ、問題ないです。




 ヴェルサの顔を見たので、メレオの飼育場の飼育員たちのサインをお願いする。


 忘れないうちにな。


 サインを書いてもらった本は、厳重な金庫にしまう。


「そこまで大事にしてくれるの?」


 いや、しっかりと鍵のかかる場所にしまわないと、ザブトンに叱られるんだ。


 子供たちの目に触れるからな。


 ヴェルサの趣味に口を出す気はないが、積極的に関わらせるのにも抵抗がある。


 無責任かもしれないが、成り行きに任せたい。


「そうだ。

 村長」


 ん?


 なんだ?


「ビー婆と知り合ったそうだな」


 あ、ああ。


 旅先……でいいのかな、そこで偶然。


「彼女はいち早く本を読みたいからと、挿絵を描き始めた猛者だ。

 文章の修正も指摘してくれるから、とても助かっている」


 そうなんだ。


「うん。

 その彼女は村長の親族になるそうだが?」


 ビー婆はフラウの曾祖母になるから、俺の親族で間違いないぞ。


「では、いつかはこの村に彼女を?」


 そうだな。


 ただ、誘ったのだけどあまり来たそうじゃなかったから。


「興味はあるだろうけど、ここには天使族が多いからな」


 ん、あー、そうか。


 ビー婆は魔族だ。


 しかも長生きしているとなれば、天使族とやりあっていた世代だろう。


 天使族にはしこりがあるか。


「この村の天使族が暴れないのは知っているだろうけどね」


 そのあたりの気遣いが足りなかったな。


「そういうわけで、無理やりに連れてくるのはやめてやってほしい」


 わかっている。


 嫌がっている者を無理して連れてきたりはしないよ。


 そう言う俺のそばに、ニコニコしながら近づいてくるクロの子供が一頭。


 若いから去年生まれの子かな。


 そして、そのクロの子供を追っていただろう鬼人族メイドが一人。


 鬼人族メイドがクロの子供を手招きするが、クロの子供は俺やヴェルサを盾にして拒否。


 クロの子供は俺を見て、嫌がっている者を無理やり連れていくのも駄目だよねと訴えてくる。


 うん、たしかに嫌がっている者を無理やりにどうこうするのはよくないな。


 だが、俺はクロの子供を捕まえ、鬼人族メイドに渡した。


 話が違うじゃないかという顔をされても困る。


 お風呂には嫌がらず入ってほしい。




 風魔ふうま水晶。


 ビー婆が埋もれた家で使っていた魔法の鉱物だ。


 場所によって青魔水晶とか、そら水晶とか呼ばれることもある。


 その風魔水晶、家にあるかなとルーに聞いたら、出てきた。


 特大、大、中、小、欠片、粉と。


 いろいろあるんだな。


「用途で必要とされる大きさが違うからね」


 粉なんて、なにに使っているんだ?


「んー……火かな」


 火?


「これを入れると燃えやすくなるのよ」


 あー、着火剤みたいな使い方か。


「これより燃えやすいのがあるから、あまり使われないけどね。

 ああ、土壁に混ぜたりすることはあるかな。

 地下室の壁とかに使うと、万が一のときに生存できることがあるんだって」


 万が一?


「生き埋めになったときとか」


 あー。


「気休めらしいけどね」


 いやいや、実績があるんだろ?


「それを証明する方法がないのよ。

 風魔水晶を混ぜた土壁じゃなくても生存することはあるから」


 うーん、なるほど。


 土壁に混ぜる程度の風魔水晶じゃ供給できる酸素量が少ないか。


 いや、ビー婆は風魔水晶は消耗品だと言っていたから、普段使いしているあいだに風魔水晶が効果を失ってしまっている可能性もあるな。


「地下室で作業する人は、中ぐらいの大きさの風魔水晶をお守りとして持っているから、そっちのほうが効果があるかもね」


 そ、そっかー。


 そうだよな。


 粉よりは中ぐらいの大きさのほうが、頼もしいか。


「それで、これをどうするの?」


 あ、いや、なにか作れないかと思ってね。


「完成したら、見せてもらえるわよね」


 もちろん。


 っと、本題を忘れていた。


 昔、空気を送る壺の魔道具を作ったことがあるだろ?


「空気を送る壺?」


 これぐらいの大きさの。


「……あ、ああっ、あれね。

 作った覚えがあるわ。

 でも、あれ、空気を送るわけじゃないわよ」


 そうなのか?


「あれは窓みたいなものなのよ。

 二つの壺の底に仕込んだ魔法陣同士で、勝手に空気が行き来するだけ。

 だから声を届ける装置として売ったのよ」


 へー。


 魔法の伝声管でんせいかんみたいなものか。


 ああ、だから壺なのか。


「ただ、短い距離しか使えないのよ。

 それだと直接声をかけたほうが早いってなって、なかなか売れなくて買い叩かれちゃったわ。

 その壺がどうしたの?」


 あ、いや、あれって二つで一つだろ?


「そうよ」


 片方、小山を削るときに、一緒に削っちゃったみたいで。


 作れる?

「いまなら、あれよりすごいのが作れるわよ?」


 いやいや、すまないけど同じので。


 ビー婆からそう言われている。


 強く。


 強く言われている。


 実際、家は掘り出されているから、もう使う必要がない。


 壊してしまったから同等のものを渡すというだけの話。


 使わないならお金で解決をとも考えたけど、金が欲しいわけじゃないと叱られた。


「わかったわ。

 壺さえ用意してくれたら、一日もかからないから」


 すまない。


 頼んだ。




 後日、五村にいるビー婆に壺を一組、渡した。


 機能は以前のものと同じ。


 間違いない。


「でも、壺は高級品だね?」


 ゴロウン商会に頼んだから。


「貴族屋敷の一番いい部屋に飾るような壺、外に置いとけないだろ!」


 受け取ってもらえたけど、叱られた。


 今後は部屋のあいだでの通話用に使うそうだ。





ルー「風魔水晶、生き埋め時に助かるけど……火災時には危ないって話もあるの」

村長「あー、燃えちゃうかー」

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― 新着の感想 ―
風魔水晶、潜水具に使えません?
村長が壺作れば…いや、祭壇に祀られるか
風魔水晶の粉、野外や暖炉で火力を一時的に強めたい時とかに使えるかな? あとは沸騰石代わりに使うとか。
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