謎の家?
シルキーネさんが戻ってきた。
「……」
なにか言いたそうだ。
なんだろう?
「えーっと……まず、あの獣は?」
シルキーネさんは、メレオの飼育場の片隅で小さくなっている若い獣を見る。
あれはこのあたりを縄張りにする獣の子だ。
今回みたいにメレオの飼育場が襲われると困るから、護衛として働いてもらおうと思って待機してもらっている。
ここが大樹の村なら俺の独断でなんとでもなるが、シルキーネさんが管理しているみたいだからな。
ビーゼルでも許可が出せなかった。
「ここで生活するのですか?」
いや、獣には少し離れた場所に住んでもらうから、普段は目に入らないだろう。
食事の心配も必要ないと言ってた。
勝手になんとかするそうだ。
「報酬は?」
それに関しては、こっちに対しての謝罪が目的だから無料でかまわないのだけど……
ただ働きはよくないな。
報酬は俺がなんとかしよう。
「では、私どもは?」
ここが危ないときにやってくるから、一緒に戦ってほしい。
あと、誰かが獣を退治しようとしたら止めてほしいかな。
もちろん、獣が迷惑をかけたらこっちでなんとかする。
「……わかりました。
ビーくん……夫から雄のメレオがこちらで生活してくれると聞いております。
その護衛ということに」
助かる。
「次に……その、施設が少し様変わりしたようですが?」
メレオの飼育小屋を守るように防壁を見直したのと、傷んでいた施設を少し直した程度だ。
材料は前回、ハクレンの背負子を作るときのあまりだから手間もかからなかった。
そうそう、井戸は新しく二か所、掘っておいた。
掘ったら水がでる。
【万能農具】のすごさだな。
それと、あっちはメレオとネットタートルの食事用の畑をちょっと。
「ちょっとの広さではないと思いますが……」
そんなに広くないと思うけどな。
大樹の村にある俺の屋敷、二つぶんぐらいだ。
……
広いか?
しかたがない。
メレオやネットタートルたちが自分で世話や収穫をできるように、木々の間隔が広いから、畑も広くなってしまった。
飼育員たちに畑の世話まで頼むのはむずかしいだろうからな。
メレオやネットタートルが食べるものなんだから、自分たちで頑張ってもらおう。
今年は無理だろうけど、来年か再来年ぐらいには収穫できるはずだ。
ああ、もちろん、井戸や畑を作る前に飼育員の許可は取ったぞ。
井戸に関しては飼育員たちの希望だし。
「えーっと、メレオやネットタートルが畑の世話をできるのですか?」
本人たちはやると言っていた。
頑張るそうだ。
「……」
シルキーネさんはそうですかと笑顔で頷き、迎えにやって来たビーゼルのところに向かった。
あ、ビーゼルに抱きついてる。
ラブラブだな。
シルキーネさんが森で得た情報を聞きたかったけど……
あとにしようか。
俺とハクレン、そして若い獣はメレオの飼育場から少し離れた場所に移動。
若い獣の住処を作るためだ。
若い獣の希望を聞きながら、場所を定める。
洞穴がいいらしいのだが、なかなか見つからないので掘ることにした。
【万能農具】を使えばすぐだ。
まずは適当な斜面に生えている木々を切り倒し、木材に。
開いた斜面をさくさくっと掘って……
もう少し広いほうがいいよな。
若い獣も将来的には獣ぐらい大きくなるだろうし、パートナーを見つけることもあるだろうからな。
おっと、水場は近いほうがいいだろうから、このあたりを掘って……
食事は自分でなんとかすると言っていたが、果実のなる木があるのはかまわないだろう。
適当に数本……数十本?
いや、もっと多いほうがいいか。
「村長。
洞穴の床はもう少し硬いほうがいいらしいわよ」
ん?
そうか?
じゃあ、ペタンペタンと【万能農具】のハンマーで固める。
これぐらいでいいかな?
「いいみたい」
ところで、なぜ若い獣はハクレンを介して俺に伝えるんだ?
さっきまで直接、会話してたろ?
「大地を変化させる神と会話するのは怖いんだって」
大地を変化させる神って俺のことか?
違うぞ。
俺はただの人だ。
「ただの人は少しの時間でここまで森を変化させないんだって」
むう。
若い獣はメレオの飼育場での俺の活躍を見ていたはずなのに。
いまさらじゃないか?
「あそこは人の土地だから、簡単にできたのかなーって」
わかったわかった。
とりあえず、あまりかしこまらないように。
こっちが増長してしまう。
それで、だいたいの環境は整えたが、足りないものは?
遠慮しなくていい。
あー、視界確保のために、あそこにある小山を削ったほうがいいのね。
わかった。
ん?
小山を削っていると、なにか出てきた。
石造りの人工物っぽい。
「昔の家とかじゃない?」
かもしれないな。
掘ってみると、新築とは言わないが、しっかりとした家が出てきた。
大きくはない。
大人……老夫婦が二人で生活してそうな小さい家だ。
木製の屋根は腐食した形跡がない。
どうみても魔法がかけられている。
なにかあって埋もれていたのかな?
「入らないの?」
ほ、ほら、家は魔法で守られていても、なかの人は……あれだろ?
小山の近くに生えている木々を見ても、どう考えても昨日今日、埋もれたわけじゃない。
百年か二百年は経過しているだろう。
狩った動物ならともかく、人の死体を見たいとは思わない。
「んー、それじゃあ炎で家を燃やしちゃう?」
待て待て。
貴重な品があるかもしれないだろ?
「普通の家に、そんなものないわよ」
……たしかに。
貴重なものがあるようには見えない家だ。
しかし、外から燃やすと内部が見えて……
「そんなのが残るような炎じゃないけど……あ、じゃあ、あの煙突から中に向けて炎を吐けばいいんじゃない?
中から燃えるから見なくてすむわよ」
煙突はあるが……土が詰まっていたりはしていない。
これも魔法か。
「どうする?」
……よし、やっちゃうか。
「はーい」
ハクレンがそう返事をしたら、家の扉が内側から乱暴に開けられ……
「やっちゃうかじゃない!」
背の低い老婆が、箒を片手に怒鳴り出てきた。
ご存命……いえ、ご在住でしたか。
もうしわけない。
シルキーネ「話には聞いていたけど、常識が崩れる」
ビーゼル 「ようこそ、こちらの世界へ。いつまでも一緒だぞ」
村長 「死体、見たくない」
若い獣 「炎を吐いているところを見なければいいのでは?」
村長 「見てないとハクレンが拗ねる」
ハクレン「えへへ」
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