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ごめんなさい


 ビーゼルの領地にあるメレオの飼育場から少し離れた場所にある大きな断崖。


 高さは……五十メートルを超える。


 六十メートルぐらいかな?


 その断崖には高い滝があった。


 水量も多く、なかなかの轟音を響かせて下の湖に落ちている。


 絶景だ。


 その滝と落下地点の湖を一望できる場所に椅子が用意され、俺はそこに座った。


 そう指示されたからだ。


 そして待つこと数分。


 悲鳴とともに滝の上から落下する、縄で縛られたシルキーネさんを見ることになった。


 なんだこれ?


「この地方で伝統になっている謝罪の意を示す儀式です」


 ビーゼルが説明してくれた。


 なるほど。


 しかし、俺には処刑に見えるのだけど?


「謝罪です」


 そ、そうか。


 えーっと、シルキーネさん、水面に出てこないけど大丈夫か?


「安全面は確保されています」


 どうやって確保しているのだろう?


 疑問に思ったところで、シルキーネさんが水面に浮かんできた。


 気絶しているようで、ビーゼルが慌てて救助に向かった。



 シルキーネさんの奇妙な行動の原因はメレオだ。


 雌のメレオたちは籠城をやめたが、雄のメレオを離そうとしていない。


 つまり、雄のメレオを返す算段がついていない。


 シルキーネさんが俺が到着するまでになんとかしようとしたけど、駄目だった。


 その結果が、あの儀式。


 俺としては謝罪は不要なんだけど、返す約束を守れなかったことへのけじめは必要とダガとガルフに言われた。


 あ、ダガよ。


 謝罪の儀式なんだから、簡単に真似して飛び込むのはよくないと思うんだ。


 回転とかひねりは見事だけど。


「これ、縛られた状態でやるのは怖いです」


 だろうね。


 俺は真似したいとも思わない。


 ガルフも真似しないように。


 ええって顔をしないの。




 シルキーネさんがまだ回復しないので、メレオの件はおいておいて別件の様子をみる。


 俺の護衛をしているハクレンのもとに、近隣の大型魔物がやってきていた。


 まずはワイバーン。


 ワイバーンはハクレンの前に着陸しようとしたのだろう。


 ただ、あまりにも着陸速度が速かったので、五回ぐらい地面を転がった。


 転がったまま、頭を下げた。


「このあたりをまとめている者です。

 私はどうなってもかまわないので、妻と子だけは」


 命乞いだった。


 続いて、大型の……なんだろう?


 ライオンと猪を一緒にしたかのような四つ足の獣。


 この獣は木々をなぎ倒し、一直線でハクレンの前に来て腹を見せた。


 そして……


「この森を治める者です。

 私はどうなってもかまわないので、一族は見逃してください」


 命乞いだった。


 でもって、シルキーネさんが落ちた水面の端のほうで、頑張って陸に上がろうとしている巨大な魚。


 顔だけで俺の身長より高い。


 顔はナマズっぽいけど、体のところどころに甲羅のような鎧がついているからナマズじゃないんだろうな。


「こ、このあたりの水辺を統べる者です。

 わ、私は、どうなってもかまわないので……た、卵だけは……」


 意気込みは買うが、無理をするな。


 エラ呼吸だろ?


 水に戻れ。


「し、しかし……」


 いいからいいから。


 ハクレン、かまわないよな。


「かまわないわよー」


 だそうだ。


 巨大な魚は湖のほとりに戻った。


 ついでになるが、ワイバーンと獣も巣に帰るように。


「なにもしてないのに、勝手に来られても困るのよねー」


 そうだよな。


 ……


 どうしたワイバーン。


 言いたいことがあるなら聞くぞ。


「そ、その、以前、ハクレンさまが来られたとき、挨拶に来なかったことを理由に攻撃された魔獣がいまして」


 ハクレン?


「む、昔のことだから」


「なにがあっても駆けつけろ。

 でないと一族ごと滅ぼすと言われておりました」


「い、家出中。

 荒れてたときの話だから」


「なのに勝手に来られても困ると……私はどうすれば妻と子を守れるのでしょうか」


 すまなかった。


 ハクレン、謝罪。


「ごめんなさい」


 次からは、来なくても大丈夫だから。


「あ、ありがとうございます」


 まだ帰っていない獣も、次からは来なくて大丈夫だぞ。


 ハクレン、謝罪。


「ごめんなさい」


 畔で待機している巨大な魚にも。


「ごめんなさい」


「そ、その、川の水を上がらせたりはしないんですね」


 しないしない。


 って、ハクレン、そんなことしたの?


「む、昔、昔にね。

 でも大丈夫。

 あとでグラッファルーンと一緒に暴れて、水量は戻ったはず」


「別の川と繋がっただけで……縄張り争いが激しくなりました」


 ハクレン、もう一回。


「ごめんなさい」


 俺も一緒に謝ろうと思ったけど、俺が謝るとハクレンが不機嫌になるので謝らない。


 心の中で、すまなかったと謝っておいた。




 そうこうしているとシルキーネさんが復活したので、ビーゼルの転移魔法でメレオの飼育場に移動。


 改めて、雄のメレオの意思を確認する。


 雄のメレオは、四村の飼い主のもとに帰りたい。


 しかし、雌のメレオたちと離れたくない。


 どうしたものかと悩んでおり、結論を出せないそうだ。


 ふむ。


 ちなみにだが、雌のメレオたちを一緒に連れて帰るのは難しい。


 輸送手段だけでなく、四村の環境が産卵に適していない。


 また、浮遊庭園で拡張された四村とはいえ、体の大きいメレオの多頭飼育は難色を示されるだろう。


 さらに今後、繁殖していくことを考えると四村では土地がどうしても足りない。


 かといって土地のある場所、例えば五村の周辺などに、一からメレオの飼育環境を用意するのは時間がかかるうえに現実的ではない。


 メレオの保護と繁殖を考えると、雌のメレオたちはこの飼育場にいるのが最適と結論が出ている。


 なので、雄のメレオが帰るか残るかの話なのだが……


 雄のメレオは悩みに悩んだ末、俺に任せてくれるそうだ。


 自分では結論を出せないと。


 そんな雄のメレオの説得で、雌のメレオたちも俺の判断に従うと約束もしてくれた。


 なるほど、ならば帰る一択だ。


 まったく迷わなかった俺に、雌のメレオたちが文句を言うが怒らないでほしい。


 まず、雄のメレオが帰る帰らないの話と、君たちが離れたくないという話は、別々の案件だ。


 一緒に考えるからややこしい。


 雄のメレオが帰るのは事前の約束があるので、これは履行しないといけない。


 そうじゃないと、この飼育場の信頼がなくなる。


 雄のメレオの意思で残ったとしても、四村の飼い主からすれば返してもらえなかったということになるからな。


 今後のことを考えても、雄のメレオが嫌だと言っても一度は帰らないといけない。


 そして、離れたくないことに関しては……


 決定権はいろいろともらっているけど、俺が決めちゃいけないことだ。


 四村にいる雄のメレオの飼い主と、この飼育場にいる雌のメレオたちの保護者が決めることだ。


 まずは雄のメレオが飼い主と話し合い、どうしたいかを考えて決めるように。


 そのあとで、一緒にいたいならどういった形で一緒にいるかを考える。


 これが一番じゃないか?


 雌のメレオたちにはつらいかもしれないが、雄のメレオがまたここに来れるかどうかはその話し合いの結果次第だ。


 雄のメレオが説得すると信じて待つように。


 飼い主と話し合ったうえで雄のメレオが飼育場に来ることになったら、できるだけ早く移動できるように俺も協力しよう。


 どうだ?


 俺の話に、雄のメレオは覚悟を決めたようだ。


 うん、よしよし。


 わかってくれて嬉しい。


 雌のメレオたちは……別れを惜しんで……いるわけじゃないな。


 透明になる体液を雄にこすりつけて、隠している。


 ……お、往生際が悪い。


 ま、まあ、よかったら籠城事件など起こさないか。


 だが、俺の判断に従うんだろ?


 そういう約束だ。


 諦めるように。


 雄のメレオが出発するまでは、自由にしてていいから。



 飼育場にあるそこそこ大きい屋敷。


 ビーゼルはシルキーネさんが泊まるための別荘と言っていた。


 その屋敷にある応接室で、俺はビーゼルと雄のメレオを連れ帰る方法を相談する。


 少しでも早く移動する方法はないかと。


「メレオを箱に入れず、自分で移動してくれるのでしたら……日数は短縮できます。

 ただ、それでも何泊かはせねばならず、途中の宿泊場所の確保が厳しいかと」


 なるほど。


 メレオを入れる箱は、メレオの宿泊施設代わりでもあるからな。


 そのあたりを用意できないと、メレオの安全を確保できないか。


 うーん……


 となると、あれか。


 ビーゼルが転移魔法で移動するだけして、夜はハクレンに乗せて運んでもらう。


 ビーゼルが回復したら、またビーゼルの転移魔法を使うと。


 強行軍になってしまうけど、これなら移動し続けるから宿泊施設の必要はない。


 いい考えだと思ったのだけど、ハクレンが待ったをかけた。


「メレオは私に乗れるの?

 乗れないから船で運んだんじゃなかった?」


 そういえばそうだった。


「でも、私に乗れるなら一日かからずに村に戻る方法があるわよ」


 そうなのか?


「ふふふ。

 任せなさい……と、いいたいけど、荷運びに使っている木の板がないと、ちょっと危ないわね」


 荷運びに使っている木の板……大型のテーブルみたいな背負子しょいこか。


 ふむ。


 とりあえず、雄のメレオに確認しよう。



 確認したら、雄のメレオはハクレンに乗ると言った。


 少しでも早く、飼い主と話し合いたいそうだ。


 うん、わかった。


 それじゃあ、俺は……ハクレンが背負う大型のテーブルを作るか。


 シルキーネさんに、このあたりで伐採していい場所を聞かないとな。


 ああ、ダガとガルフにも手伝ってもらうぞ。


 すまないがビーゼル。


 作業してもかまわない場所をシルキーネさんに確認してもらえるか。


「承知しました。

 作業にはここの飼育員もお使いください」


 ああ、頼りにさせてもらうよ。


「それで、その……」


 なんだ?


「その作業は今日中に終わりませんよね?」


 そうだな。


 材料の集まり具合にもよるけど、最速でも明日か明後日じゃないかな。


 あ、泊まっても大丈夫か?


「そこは大丈夫なのですが……その、村長。

 大樹の村のみなさまには、日帰りすると言っていたと思うのですが」


 そうだが、一度、戻ってまた来るのも手間だろ。


 ビーゼルによる転移魔法での移動も、それなりに大変だった。


 何度もというのは気がひける。


「……………………て、手紙を書いてください。

 大樹の村宛に。

 私が届けますので」


 いいのか?


「私一人でしたら、一度の転移魔法での移動距離が伸びますので」


 ……わかった。


 手紙を書こう。


 予定が変更になって、ごめんなさいと。





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よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
ハクレンさん、やらかしすぎwww
ハクレンとグラッファルーンがお互いに 昔の話をするかもしれないと 言い争いしてた一部ですね。 ハクレン目線とグラッファルーン目線で 三話×二人分行けそうです。 ライメイレン、 ライメイレンのおばあちゃ…
元ヤンのハクレンさんもかわいい
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