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のんびりした日と報告


 春の中ごろ、昼過ぎ。


 天気がよかったので、俺は中庭で折りたたみ式のアウトドアチェアを広げ、背もたれの角度を調整して寝転がる。


 クロとユキも俺の座る椅子の左右に陣取り、揃って欠伸あくびをして伏せた。


 少し前にやった大樹の村でのメットーラの結婚式と披露宴で、いろいろと忙しかったからな。


 ぴーーひょろろろろー……


 久しぶりにのんびりした時間だ。


 おっと、猫もやってきた。


 ああ、ひざ……じゃなくて腹の上に乗りたいのか?


 かまわないぞ。


 宝石猫はどうした?


 お気に入りの場所で昼寝中か、そうか。


 娘たちは……姉猫たちは虎のところね。


 あいかわらずだなぁ。


 妹猫たちは?


 ザブトンの子供たちと一緒に屋敷の中をパトロールしている?


 へー。


 ん?


 娘たちのパートナーをそろそろ真剣に考えたい?


 あー、そうだな。


 しかし、前にやったお見合いは失敗だったろ?


 カツアゲ現場みたいな状況になったじゃないか。


 前は雄猫が一匹だけだったから駄目だった?


 雄猫の数を増やせばなんとかなる?


 ほんとうにそう思っているのか?


 あ、目をそらした。


 自分でも信じられないことを提案するのはよくないぞー。


 娘たちが心配なのはわかるけどな。


 まあ、今度、魔王にでも頼んで相手を探してもらおう。


 姉猫たちは虎にべったりだけど、妹猫たちなら可能性はあると思うぞ。


 ん……猫がこっちをじっと見て、本当に可能性があると思うのかと問うてきた。


 ……


 俺はそっと目をそらした。


 ぴーーひょろろろろー……



 ちなみにだが、この「ぴーーひょろろろろー……」は、ハイエルフによる鳥の声帯模写せいたいもしゃだ。


「練習しました」


 うん、なかなか上手だ。


 しかし、「ぴーーひょろろろろー……」はトンビの鳴き声。


 トンビはタカ科なので猛禽もうきん類だ。


 だからだろう。


 縄張りを荒らされたと思った同じ猛禽類のわしが、のっしのっしと歩きながらトンビを探している。


 鷲なら飛んで探すべきだと思うが、その顔は真剣だ。


 あれ、どうしよう?


「つ、次は小鳥にします」


 そうだね、それがいいと思う。




 夜。


 食後、いくつかの報告を受けた。


 まずはガットから。


 以前、五村で買い集めた鉄鉱石を処理するため、ガットたちは大きい炉……高炉でいいのかな。


 高炉を作って大量の銑鉄せんてつを生み出していた。


 銑鉄はそのままでは質の悪い鉄なので、さらに手を加えて鉄の質をよくしていくのだが、ガットたちは大量の鉄鉱石を処分することを優先した。


 高炉の火を落としたくなかったのと、五村の倉庫問題を気にしたからだろう。


 お陰で、買い集めた鉄鉱石のそのほとんどが銑鉄になった。


 のだが……


 一部が銑鉄にならなかった。


 買い集められた鉄鉱石の中に希少な貴金属が含まれており、それに気づかず高炉に放り込んでしまったので一部の銑鉄が変化してしまったのだ。


「すみません」


 いやいや、謝ることじゃないぞ。


 希少な貴金属が含まれているなんて、誰も思わないだろう。


「いや、そうでもなくてですね……」


 そうなのか?


「はい。

 鉄鉱石に鉄以外が含まれていることはままありまして……

 いつもならちゃんとチェックして溶かしているのですが」


 今回は?


「大量の鉄鉱石に加え、初めて作った高炉の性能にテンションが上がり、ついうっかり」


 うっかりね。


 次からは注意するように。


「はい。

 すみませんでした。

 それでその……」


 ガットは、少し離れた場所にいるルーに視線を送る。


「希少な貴金属を普通の鉄と結合させてしまったことにご立腹のようでして……その、すみません」


 わかったわかった。


 ルーは俺がなだめておこう。



 次の報告はビーゼルから。


 ビーゼルの領地にあるメレオの飼育場に、繁殖のために向かった四村の雄のメレオに関して。


 そろそろ帰ってくる予定だったが、少し遅くしたいとのこと。


 理由は、繁殖行為ができなかった雌のメレオがまだ何頭かいるから。


 全部と繁殖行為をする必要はないのだが……


「食っちゃ寝だったメレオたちが、夜中にこっそりと繁殖ダンスの練習する姿に飼育員たちがほだされてしまったようで……もう少しだけチャンスがほしいと」


 あー、四村のメレオが嫌がっていなければ、かまわないんじゃないか。


 飼い主である四村の悪魔族のも、飼育員さんに任せるという話になっているし……


 そういえば四村のメレオの健康状態は?


「シルキーネからは、問題ない。

 元気にやっていると聞いています」


 それはよかった。


 そっちのメレオたちは?


「雌のメレオたちは元気になりすぎて、抑えるのが大変だと言っていました。

 四村のメレオに負担をかけるわけにはいきませんから」


 そうしてもらえているなら、助かるよ。


 四村のメレオは万能船で迎えに行く手筈になっていたが、戻りが遅くなるお詫びにビーゼルが転移魔法で運んでくれるそうだ。


 ビーゼルの奥さんであるシルキーネさんは、ビーゼルの手をわずらわせるのを嫌っていたが、今回は仕方がない部分だと割り切ったのだろう。


「頑張る雌のメレオたちに、シルキーネも絆されたようで」


 ま、まあ、頑張っている姿には心が動かされるものだ。



 最後の報告者はヨウコ。


 ヨウコに抱きついていたヒトエが、狐の姿になって座っている俺の膝に乗ってきた。


 よしよし。


「白鳥レースは順調。

 オデットとオディールも、村の住人と仲よくやっておるようだ」


 そうか。


「水質の維持に来てくれたポンドタートルも、問題なくやっている」


 うんうん。


「当初はポンドタートルを狙う愚か者が何人かいたが、最近は聞かんな」


 それはよかった。


「警備隊にいるハイエルフの子らは、頑張っているようだ」


 リリウスたちか。


 警備隊に迷惑をかけていなければいいんだが。


「未熟者が迷惑をかけるのは仕方があるまい。

 許容できん内容ならこちらに報告が入るが、いまのところはない。

 安心せい」


 そうだな。


「問題があるのは親のほうだな。

 警備隊の訓練を見張るハイエルフが何人か確認されている」


 あー……見張るというか見守っているんだな。


 近い場所でか?


「遠距離でだ。

 だから、警備隊にはほぼ気づかれんのだが……」


 ヨウコが天井を見ると、ザブトンの子供たちが降りてきた。


「こやつらが見つけて、どうしたものかと相談を受けておる」


 遠くから見守らず、警備隊の訓練に参加してもらうのはどうだ?


 というか、最初はそうしていたんじゃないのか?


「ハイエルフの子らが嫌がってな」


 うーん、親が一緒だと嫌がる年頃か……いや、村から出たいと頑張っているのに、親がべったりだと困るか。


 しかし、それだと親の見守りは続く。


 ……


 放置するしかないのでは?


「悪意を持った者が同じようなことをしたときに困る。

 明確にハイエルフだとアピールしてくれたらいいのだが、見張って……いや、見守っているときは髪や耳を隠すらしくてな」


 リリウスたちにバレないようにか。


 ……わかった。


 俺のほうから、見守り方法を改善するように言っておこう。


「頼む。

 それと、転移門の通行量の件だ」


 転移門で渋滞する件か。


「対策として人や小型荷物の移動は昼、大型荷物の輸送は夜にまとめることにしてみたのだが……」


 駄目だったのか?


「いや、ある程度の渋滞の解消にはなった。

 ただ、シャシャートの街が対応に困っている」


 どこに困っているんだ?


「夜の大型荷物の移動だ。

 五村では問題ないが、シャシャートの街で夜に大型の荷物を運ぶことができない。

 防犯の都合だ」


 ああ、なるほど。


 この世界の夜は想像以上に暗い。


 そんな状況で大きな荷物を持って運んでいたら、怪しいか。


「シャシャートの街は転移門の近くに大型の荷物を置く集積所を作ったが、今度はそれを取りに来た者たちで渋滞ができるらしくてな」


 荷物の受け取りはそれなりに手間取る。


 トラブルを防止するために、確認をおろそかにはできないしな。


「ミヨからまだ文句は来ておらんが、対策をせねばな。

 ということで、五村とシャシャートの街を繋ぐ道の整備を強化する」


 わかったが、その道はすでに何度か整備しているだろ?


「しておるがさらにだ。

 大型の荷馬車が横に八台ぐらい並べる道にしたいと、五村の文官は言っておる」


 荷馬車が八台?


 かなり広い道になるな。


「将来的に、木道か鉄道を通すのであろう?

 そのあたりも考えてだ」


 おおっ。


「あと、道中の宿泊場所を強化だな」


 道を広く整備し、通る荷馬車の数を増やしたいわけだからな。


 安心して休めるように、できるだけ頑丈にしてやってくれ。


「わかった。

 定例外の報告はそれぐらいだ」


 ヨウコがそう言って俺の膝の上にいるヒトエを見ると……


 ヒトエは静かな寝息を立てていた。


「むう。

 今日はヒトエを風呂に入れたかったのだが……」


 起こすのはかわいそうだ。


 明日の朝にでも、鬼人族メイドに頼んで入れてもらおう。


「わかった。

 ヒトエを部屋にまで頼めるか?」


 それぐらいかまわないぞ。



 ヨウコは風呂に向かったので、俺はヒトエを起こさないように抱えてヨウコの部屋に。


 扉の開け閉めやヨウコの部屋までの案内は、氷の魔物がやってくれた。


 氷の魔物はウルザが迎えに来るまでもうしばらく大樹の村にいることになったのだが、なにかしら仕事をしなければと俺の従者みたいなことをしてくれている。


 そつなくこなすので俺は助かっているし、誰も文句を言わないので受け入れられているのだろう。


 ウルザが迎えに来たとき、俺が引き止めてしまう心配が少し出てきた。


 どうしよう。





宣伝。

異世界のんびり農家、書籍18巻が2025年1月31日、発売予定です。

よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
↓王都であったやん?暗殺未遂事件が
ウルザを主人公とした話を書いてくれたりしないかなぁ…外伝的な感じで農家とは別物として。
見守るハイエルフA「リグルに対して何かと世話を焼こうとするエルフがいるのですが、どうしましょう?」 リゼ「訓練の量を倍にしろ」 見守るハイエルフB「ラテのスケジュールを聞きたがるエルフがいるのですが、…
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