閑話 オータットは考えるのを止めた 後編
遅くなってすみません。
私とグルベルは、ギィーネルとダンダジィの結婚式と披露宴に参加することになった。
……
結婚式と披露宴の存在は知っている。
ただ、馴染みがないので、なにをどうすればいいかわからない。
準備は不要?
移動するけど、集団で行動するから大丈夫?
そうだな、妹夫婦や友人夫婦たちも一緒だと心強い。
言われたままに動くとしよう。
頼んだぞ人の子。
魔王国の王都で、懐かしい者と顔を合わせた。
何年ぶりだろうか。
姉の娘、オージェスだ。
姉からは、私の若いときと同じようなことをしていると聞いている。
姉をあまり困らせるんじゃないぞ。
気持ちはわかるがな。
それで、魔王国でなにをしているんだ?
役目じゃないよな?
生活費を稼ぐために働いている?
……
少しなら融通するぞ。
いや、大丈夫ならいいんだが、無理はするなよ。
困ったらちゃんと言うんだぞ。
姉には黙っておいてやるから。
オージェスの友人たちも久しぶりだな。
オージェスのこと、よろしく頼むぞ。
お前たちも金に困っている……わけではないのだな。
ならばよい。
しかし……
オージェスやその友人たちは、私たちを案内する人の子や天使族の娘、吸血鬼の子に、どうしてああも丁寧に接しているのだ?
ハクレンさまやマークスベルガークさまの知り合いだからというのはわかるが、あまり低く接すると混代竜族が軽くみられてしまう。
もう子供ではないわけだし、そのあたりにもそろそろ気を使うべきだと思うのだが?
いや、小言はまたにしよう。
いまは移動の途中だ。
目的地は、大樹の村だった。
大樹の村のことは知っている。
混代竜族でも危ない死の森の真ん中にある村で、神代竜族の新しい住処だ。
回覧板に書いてあった。
そう、回覧板。
混代竜族のあいだで、情報を共有するために使われている。
数年に一回ぐらいしか来ないけど、こういったのがないとなかなか情報が入らないから助かっている。
そして、その回覧板には大樹の村に不必要に近づかないようにと書いてあったのに、ダンダジィはそこで結婚式と披露宴をするのだろうか?
するらしい。
すごいな。
うん、すごいとしか言えない。
とりあえず、目立たないようにしよう。
オージェスたちもこっちで……裏方として働く?
働くのはいいことだが大丈夫なのか?
あまり勝手なことをしたら、叱られると思うのだが?
わかったわかった。
村の者の言うことをよく聞くんだぞ。
ああ、まだ言いたいことがあるのに行ってしまった……
心配だ。
目立たないようにはしたいが、やることはやらないといけない。
村の長への挨拶だ。
種族は人のようだが……
混代竜族は愚かではない。
死の森の真ん中にある村の村長が、ただの人であるはずがない。
わかっている。
ですので、ギラルさま。
見張らなくても大丈夫ですよ。
いや、たしかに若いころには迷惑をおかけしましたが……
そちらの女性は?
え?
ギラルさまの奥さま?
お、お初にお目にかかります。
マークスベルガークさまの縄張りで働いている炎竜族のオータットです。
いえ、ギラルさまには昔、魔黒竜の称号を頂こうとお世話になっただけで、ええ、あちらにいる……右から二番目が私の夫のグルベルです。
以後、よろしくお願いします。
あはは。
あ、村の長への挨拶もその調子で?
わ、わかりました。
村の長との挨拶を終えたが、ギラルさまとグーロンデさまは解放してくれなかった。
「お前たちを疑うわけではないが、この村に初めて来た者はトラブルを起こしやすいからな」
たしかに初めて来ましたが……
吸血鬼の始祖や原初の悪魔族、インフェルノウルフの群れとかがいるここでトラブルを起こそうとは思いませんけど。
救いとしては、私の妹や友人たちも一緒なこと。
寂しくはない。
あ、マークスベルガークさまがおられるのでしたら、挨拶しないとまずいのですが。
「あれも来ておる。
わかった、呼んでこよう」
え?
そんな、こっちから行きます。
「動くとトラブルになる。
ここで待っておれ。
グーロンデ、頼んだぞ」
ギラルさまの奥さま、グーロンデさまは私たちの見張りですか。
そうですか。
ま、まあ、逆らう気はない。
大人しく待っておこう。
グーロンデさまの足元にいるオルトロスの子も、私たちがどこかに行かないように健気に見張っているしな。
ふふふ。
かわいいものだ。
癒される。
ギラルさまに連れられたマークスベルガークさまに挨拶していると、人の子がやってきた。
人の子はギィーネルとダンダジィの結婚式のため、いろいろとやっているようだ。
ご苦労。
そう言いたいのだが……
ギラルさまもマークスベルガークさまも、オージェスと同じように妙に人の子に丁寧に接しているように感じる。
人の子は、どういった立場なのだ?
ただの知り合い……ではないよな。
さすがの私でもわかる。
わかるのだが、詳しく聞いていいものなのか?
聞かなければよかったと後悔するんじゃないだろうか?
そんな気がするのでギラルさま、説明しなくていいです。
いいですってば。
無理やり聞かされた。
あの人の子は、ハクレンさまの義理の娘。
なるほど。
ただものではなかった。
オージェスはそれを知っていたのか。
ならば私に教えてくれてもいいものを……あれ?
ハクレンさまって、結婚していませんよね?
結婚を諦めて、人の子を養女にしたということですか?
「情報が古い。
村長がハクレンの夫だ」
……
は?
あの村の長が?
い、いえ、ただものではないとは感じていましたが……
「ハクレンが挑んだ勝負に勝って、嫁にしたらしいぞ」
ハクレンさまから挑んだ……えーっと、なにかの遊戯でですか?
「戦いに決まっているだろう。
槍を投げられて落とされたらしい」
落とされた?
つまり、ドラゴンの姿のハクレンさまと戦ったと?
そして勝った?
そんな馬鹿な!
あのハクレンさまですよ!
「気持ちはわかる。
だが、村長の力はたしかだ。
姪のグラッファルーンも、死ぬところだったと言っていたぞ」
……
「あと、ハクレンは子を産んでいる。
ヒイチロウ、ヒカル、ヒミコの三人だ。
ライメイレンがかわいがっているから、余計なことはしないように」
も、もちろんです……
「ついでに、グラッファルーンの娘、ラスティスムーンも村長に嫁いでいる。
子も二人。
ラナノーンとククルカンだ」
あ、さ、さっき、挨拶してもらいました……利発そうなお子さまたちで。
「そうか。
ヒイチロウは我が娘グラルが。
ヒカルはマークスベルガークの娘、ヘルゼルナークが狙っておる。
邪魔すると恨まれるから気をつけろ」
えっと……
この村の長は、がっつり神代竜族に取り込まれているということでしょうか?
「逆だ。
こっちが取り込んでもらっている」
……
「でもって、村長にはほかにも子がいる。
吸血鬼や天使族の子らが、それだ。
まだ力は弱いが……侮れん。
そして、その子らに手を出せば村長が怒る。
わかるな?」
あー……
わかります。
絶対に大人しくします。
「まあ口で言ってもわからんだろうが、安心しろ。
そのうちに理解できる」
いや、わかると言ってるじゃないですか。
「ははは。
いや、まだ理解できておらん。
その証拠に、ハクレンが負けたと言っているのに、村長と戦ったら勝てると思っておるだろ?」
え、あ、た、たしかに。
「警戒しても、普通の人にしかみえんからな。
性格も、畑に手を出さん限りは温厚だし」
……注意しておきます。
「なに。
さきほども言ったが、そのうちに理解できる」
だといいのですが……
ギィーネルとダンダジィの結婚式が行われた。
村の長がもっともいい席にいたけど、立場を考えれば当然だろう。
……当然か?
竜王のドースさまよりいい席ではないか?
ああ、駄目だ。
また村の長を軽くみてしまっている。
注意しているのに。
そんなふうに思いながら結婚式を眺めていたら、神代竜族のみなさまが揃って咆哮を行い、神の声が響いた。
びっくりした。
体が動かなかった。
だが、不快感はない。
とても貴重な体験だった。
そしてなるほど。
神の声が響いている最中も、村の長は平然としていた。
動く余裕がある。
なるほどなるほど。
気づけば披露宴の席だった。
私は考えるのをやめていたようだ。
あ、食事、美味しい。
お酒も美味しい。
お土産に包んでもらえないだろうか。
ケーキ、うーん、甘い。
六竜国が、六竜神国に名称変更?
かまわんかまわん。
あの声の神の姿?
あー、こういった雰囲気だと思う。
たぶん。
たぶんだぞ。
あ、それでちょっとすまないのだが……
うむ。
人の子はウルザで、天使族の娘がティゼル。
吸血鬼の子がアルフレートか。
おっと、ウルザさま、ティゼルさま、アルフレートさまだな。
覚えておこう。
「私はオータット。
奇襲戦法と変装の名人。
私のような天才策略家でもなければ、百戦錬磨の混代竜族のリーダーは務まらん」
「私はオーワメアー。
通称、フェイスガール。
自慢のルックスに男どもはイチコロさ。
ハッタリかまして、ドロワーズから古代兵器まで、なんでも揃えてみせるぜ」
「よぉ、おまちどう!
私こそがハイフリーニアルス。
通称、クレイジースネーク。
乗り物の操縦は天下一品! 奇人? 変人? だからなに?」
「ラクトロイ、通称マッチョ。
悪口の天才だ。
神代竜族にも言ってやらぁ。
でも、旦那にだけは勘弁な」
こういった(某有名海外ドラマの紹介風)のもありだったかなと考えつつ……
「私、リーダーじゃないから」
「旦那以外の男を誘惑するわけないでしょ」
「ドラゴンがなにに乗るのー」
「神代竜族に悪口って、無理無理無理」
無理だなと思った。
注)ここでの自己紹介は本編とは無関係です。




