閑話 オータットは考えるのを止めた 前編
私はオータット。
炎竜族のオータット。
大地竜族のグルベルの妻だ。
炎竜族と大地竜族は、混代竜族とまとめて呼ばれることが多い。
まあ、呼ぶ側からすれば炎竜だ大地竜だの違いは些細なことなのだろう。
呼ばれる側の私たちにしても、些細なことなので気にしない。
その混代竜族は、地上における生物の頂点の一角。
とても強い。
人や魔族に負ける混代竜族の話はあるが、その場合も人が千の単位で数を揃えての話だ。
一対一なら、人を相手に負けることはない。
古き時代に生きた悪魔族なら、それなりにいい勝負をするだろうが……
あれらは混代竜族に喧嘩を売るほど愚かではないからな。
混代竜族が負けるとしたら、同じ混代竜族が相手のときだろう。
それぐらい混代竜族は強いのだ。
だが、世の中は非情だ。
上には上がいる。
精霊王、原初の悪魔族、崩壊する影、万海の王、吸血鬼の始祖……
数えるのはやめよう。
悲しくなる。
だが、そういった上の上で無視できないのが神代竜族。
神代竜族は半分、神の領域にいる竜族だ。
同じ竜族でも種として格が違う。
ああ、同じだと言えば不敬なうえに、傲慢とお叱りを受けてしまうだろう。
挑もうとすら思わない相手。
その神代竜族に仕えるのが、混代竜族の立場だ。
幸いなことに、神代竜族はむちゃなことは言わない。
いや、混代竜族に接してこないと言えばいいのかな。
いくつかの役目を混代竜族に与えるだけで、基本は放置だ。
放置されることに憤りを覚えることもあるが、ありがたくもある。
神代竜族は遠くにあって崇めるもの。
近づいちゃ駄目。
平穏に生きるための秘訣だ。
ある日。
久しぶりに妹や友人たちと顔を合わせた。
妹はオーワメアー。
友人はハイフリーニアルスとラクトロイ、それとダンダジィ。
私たち五人は若いころ、それなりに暴れていた。
いやー、若かった。
大人たちに迷惑ばっかりかけていたと、思い出しては反省する。
いまはそれぞれ落ち着いた。
私とオーワメアー、ハイフリーニアルスとラクトロイは結婚。
ダンダジィは神代竜族のライメイレンさまのところに働きにいったからな。
あれ?
なんでダンダジィはここにいるんだ?
ライメイレンさまのところはいいのか?
無視しないで返事してくれよー。
私たちの仲でしょ。
ほら、何度も殴りあったじゃない。
一回も勝てなかったけど。
いやー、ダンダジィは強かったねぇ。
あははは。
ん?
どうした妹よ。
現実逃避はそれぐらいにして、正面を見ないと危ない?
えー、そう言われてもー。
見ちゃいけない気がするのよねー。
それでも見ろ?
仕方がないなー。
ちらっ。
……
………………
神代竜族のハクレンさまとグラッファルーンさまが戦っていた。
ドラゴンの姿で。
ああ、凄い振動。
巻き込まれたら死ぬなぁ。
あれ?
いや、一回死んだはず。
状況を思い出す。
ちょっと前にハクレンさまとギィーネルが戦っていた。
もちろん、ドラゴンの姿で。
そしてギィーネルが一方的にぼこぼこにされ、力尽きて倒れた瞬間にダンダジィとグルベルたち男衆がハクレンさまを止めに入った。
当然、ドラゴンの姿で。
でも、ハクレンさまは止まらなかった。
ダンダジィとグルベルたち男衆を尻尾でまとめて払い捨てた。
その光景を見る前に私を含めた女衆も動き、ドラゴンの姿でハクレンさまを攻撃したけど反撃を受けて……
死んだと思ったけど、生きてる。
怪我の痕跡がない。
私の姿はこの地に来たときのままだ。
ほかの者も。
グルベルやギィーネルも治っている。
人の子が治した?
どうやって?
人の魔法で治すなら、何人も集まらねば……
世界樹の葉?
馬鹿を言うな。
世界樹は朽ちた。
もうないのだ。
残っている世界樹の葉をかき集めても、ここにいる者たちをすべて治す量はない……はずだけど、目の前に実物があるなら、信じるしかないな。
えーっと、ありがとう。
助かった。
それで、なぜハクレンさまたちは戦っているのだ?
二人とも戦いを楽しんでいる様子。
少なくともグラッファルーンさまが、ハクレンさまを止めようとしているわけではないのはわかる。
久しぶりに全力を出せそうだから出しているだけ?
それで周囲の地形が……
整地も兼ねているのでかまわないと。
なるほど。
人の子はおおらかだなぁ。
そして、やはり神代竜族には近づいてはいけない。
適度な距離感が大事。
あと、グルベルが動いたとはいえ、よく私はあれに攻撃できたなぁ。
そこだけは褒めたい。
理由はともかく、ハクレンさまを攻撃したので、その償いとして土地の整地や城の改修を手伝った。
天使族の娘や人の子の指示を聞くのは抵抗があるが、ハクレンさまの指示なので受け入れている。
ただ、ギィーネルの手伝いに関しては拒否だ。
私とグルベルは、マークスベルガークさまに任された役目がある。
それを放置するようなことはできない。
もちろん、マークスベルガークさまの許可があるのであれば、協力するのはやぶさかではない。
許可があるのであればな。
ふふふ。
マークスベルガークさまの住む山に挑むのは、人の身では難しいぞ。
天使族の娘でもだ。
吸血鬼の子は……どうだろうな。
まあ、やってみることだ。
うまくすれば話を聞いてくれるかもしれんぞ。
……
家に帰ればなんとかなる?
なるわけなかろう。
ハクレンさまと知り合いかもしれんが、マークスベルガークさまを舐めるなよ。
怖いお方なんだぞ。
え?
奥さんを大事にするいい竜?
マークスベルガークさまが?
……あ、そうか!
マークスベルガークさまの奥さまは、ハクレンさまの妹。
ハクレンさま繋がりで、知り合いか!
いや、お知り合いでしたか。
ははは。
おっと、今日はあちらの川の拡張でしたね。
頑張ります。
ギィーネルの手伝いに関しては、マークスベルガークさまから直接の指示をいただければ承りますので。
古き時代に生きた悪魔族 グッチなど古の悪魔族。
原初の悪魔族 ヴェルサ(魔神がいた時代の悪魔族)
更新、お待たせしました。
前後編になってすみません。
後編、急ぎます。




