披露宴 その三
●登場人物
ルィンシァ 天使族。ティアの母、ティゼルの祖母。
イレ マーキュリー種。三十代ぐらいの細身の男性。撮影隊のリーダー。
六竜神国。
当初は六竜国だったが、結婚式で神の声があったので急遽、“神”を追加して六竜神国となったそうだ。
なるほど。
しかし、疑問なのは“六”だな。
なぜ六なんだ?
俺は事情を知ってそうなウルザに聞いた。
ギィーネルと一緒に、あの駆けつけた四頭の混代竜族も手伝うからと。
ギィーネルと四頭……つまり、五頭だよな?
それだと五竜神国になるじゃないか。
あと一頭は?
メットーラか?
いや、メットーラを加えるなら四頭のパートナーたちのことは無視できないだろう。
となると十竜神国になるはずだが、そうじゃないということは……
なんだろう?
あれか、残りの一頭は国を応援してくれる人です的な感じか?
……違うらしい。
なんでも、国名の原案は十竜神国だったそうだ。
ただ、四頭とそのパートナーたちは、個々にそれなりの縄張りを持っているので国に常駐することは難しい。
交代で勤務する形で、滞在できる竜の最大数である六になったと。
なるほど。
しかし、そういった理由なら十竜神国でもよかったと思うが……
十竜神国を名乗っている国なのに、六頭で出迎えられると馬鹿にされたと思う者がいると。
たしかに、王族とか偉い貴族はそう思うかもしれない。
魔王国の代わりに人間の国々と対話するために作られた国だから、初手から相手を不快にさせるわけにはいかないか。
そういったところにまで気を使っての六竜神国ね。
ふむ、ちゃんと考えているんだな。
俺には気づかないことだった。
ん?
俺なら一声かけたら簡単に十頭ぐらい集まるから、気にするところじゃない?
いやいや、混代竜族の知り合いは少ないから、十頭は難しいと思うぞ。
その数少ない知り合いも、なにかお世話しているわけじゃないから、呼んでも来てくれないんじゃないかなぁ。
六竜神国とギィーネルが国王になる発表が終わったので、子供たちはおやすみ。
大人の四分の一ぐらいも、子供たちと一緒に戻って寝るみたいだ。
仕事があるからな。
残った大人たちは……宴会を続行。
無茶をしないように。
ギィーネルとメットーラは……適当なタイミングで会場から抜けていいからな。
披露宴に来てくれた者への感謝は言ったんだろ?
なら、かまわないさ。
自然に終わるのを待っていたら、数日はかかる。
ああ、宿に二人の食事と酒を用意しているから、持っていく必要はないぞ。
うん、ところでだが……
国王になる件、ティゼルかウルザが強制していないか?
発表はしたが、なんだったら俺から言って取り消させるぞ。
違う?
自主的に引き受けた?
メットーラの夫になるのだから、無職(縄張りなし)なのは見栄えが悪いと。
な、なるほど。
メットーラは縄張りがなくても気にしないと言っているが、そこは夫のプライド的なものだろう。
縄張りをなんとかしたいと相談されたメットーラがティゼルに言って、国王になることになったと。
本人が納得しているならいいんだ。
ああ、メットーラも支えるから大丈夫なんだろう。
わかっている。
ティゼルの世話係の件だな。
続けることは可能でも、これまでのようにつきっきりは難しいと聞いている。
こちらも新婚に無理をさせる気はない。
後任を探している最中だ。
そっちから推薦があれば聞きたいが……まあ、手が足りないと言ってたぐらいだからなぁ。
とりあえず、当面はルィンシァが行く予定になっている。
ああ、ティゼルの祖母だ。
ルィンシァが後任なら安心なんだけど、さすがに無理みたいでな。
無理な理由?
混代竜族が国王になるのだから、天使族がいたところで騒がれない?
そうなんだろうけど、マルビットを放置できないって。
うん、天使族の長のマルビット。
マルビットのほうもルィンシァがいないと困るから、短期間だと言われている。
まあ、後任に関しては、日を改めて話し合おう。
これまでご苦労さま。
助かったよ。
そして、改めて結婚、おめでとう。
俺はそう言って二人から離れ、披露宴の片隅で暗い顔をしている一団のところに向かった。
暗い顔をしている一団はイレを代表とする撮影隊だ。
彼らはドースからギィーネルとメットーラの結婚式を撮影するように頼まれた。
めったにないことだから、記録として残しておきたいと。
撮影隊は快く了承し、各種機材の整備と調整をし、何度も結婚式のリハーサルを行い、撮影に臨んだ。
撮影は問題なく順調に進んだのだが、神代竜族の咆哮が始まったあたりで撮影機材が全て動作を停止。
撮影機材の動作が戻ったのは、神の声が聞こえなくなってから。
当然、神の声は撮影できていない。
神の声は記録不可みたいな感じなのだろう。
そのあたりは仕方がないと撮影隊は理解している。
どうしようもないことだ。
撮影を頼んだドースも怒らないし、怒れない。
だが、結果として結婚式の一部が完全に欠落した撮影になってしまった。
「うう、メットーラさん、楽しみにしていたのに……」
期待通りの映像を残せなかったことに、撮影隊は落ち込んでいた。
披露宴の冒頭を撮影することで補填になるかと思ったのだけど、あまり効果はなかったようだ。
映像映えするように、フラワーシャワーとかしたんだけどなぁ。
夕方だったから、いまいちとか言わないの。
俺もそう思っているから。
フラワーシャワーは朝か昼にやることだった。
夕方なら……花火とかか。
花火。
……
爆炎が立ちのぼるシーンしか想像できない。
まあ、映像に残すなら見栄えがいいかもしれないが……爆炎は結婚式じゃないよな。
ヒーローショーだ。
まあ、演出は考えておけばいいか。
結婚式はまだやるだろ?
人の姿でだが、王都でもギィーネルとメットーラの結婚式と披露宴をやる予定になっている。
そっちは撮影の許可が出てない?
なんでだ?
会場が王城内だから?
そんな場所でやるのか?
すごいな。
ああ、いや、さすがに王城内は機密が多いだろうから、撮影許可は出ないか。
以前、トラブルに対応する魔王を撮影したときも、場所を限定されていたらしいしな。
俺が言っても駄目だと思うぞ。
なに、そっちは無理でも、また結婚式を撮影する機会はあるさ。
今回の結婚式、グラルとヘルゼルナークがキラキラした目で見てたから。
ヘルゼに関してはかなり先の話だが、グラルは……数年後?
いや、もう少し先か。
先であってほしい。
なんにせよ、結婚式を撮影する機会はあるさ。
だから、元気を出すように。
せっかくの披露宴なんだから。
いや、主役の二人は帰らせてしまったけどな。
料理と酒はまだまだある。
楽しんでくれ。
お待たせしました。




