披露宴 その二
俺ものんびり披露宴を楽しみたいが、なんだかんだと仕事がある。
披露宴にやってきた人との挨拶だ。
とくに初見の混代竜族や、その配下。
ラスティとグッチが補佐してくれたので、俺としては後ろで偉そうに頷き、最後に一言二言挨拶するだけだけど……それなりに数が多い。
「村長」
ん?
ラスティの横に、黒いフードで全身を覆った者がいた。
その後ろに、同じような者たちがいるから、その代表かな。
新郎ギィーネルに世話になっている……逆?
世話をしている一族ね。
なるほど、よろしく。
そして、ギィーネルとメットーラの披露宴に来てくれてありがとう。
俺が挨拶していると、横からヴェルサがやってきた。
黒いフードで全身を覆った者に気安く手を振っている。
知り合いなのか?
「三十七人の軍団長の一人よ。
一人にして万人、万人にして一人の影の種族。
後ろにいるのも同一人物みたいなものだから、一人に言えば全員に伝わるわよ。
普段は城を作ったりダンジョンを作ったりしているのに、こんなところまで来るなんて珍しい……ん?
ペラペラと語るな?
いいじゃない、敵対するわけじゃないんだし」
ヴェルサはそう言いながら、ウエディングケーキを食べている妖精女王や、テーブルの上でゆっくりと食事を楽しむフェニックスの雛のアイギスを見る。
黒いフードで全身を覆った者は少し考え、さすがにあれらは敵に回せんと両手を軽く上げて降参のポーズ。
「そういうことで、仲よくやりましょう。
あ、村長。
彼らのことは黒黒と呼んであげて。
いまはそう名乗っているみたいだから」
そ、そうか。
ヴェルサが黒黒を連れて行った。
しかし、軍団長かぁ。
けっこう出会う。
軍団長はあまり珍しくないのかもしれない。
ラスティとグッチは否定しているけど。
披露宴の食事に夢中になっている混代竜族の話題は、当然ながらギィーネルとメットーラのことが話の中心。
疑問に思うのは、結婚式での神の声はあまり話題になっていないこと。
なぜだろうとトーシーラに聞いたら、おおむね「さすが神代竜族」という結論で話が終わるからだそうだ。
なるほど。
つまり、一通り話し終わったあとだから話題になっていないのか。
疑問解消。
ところで、メットーラには妹が多いと聞いたが、結婚式や披露宴に出るのはトーシーラだけなのか?
トーシーラに限らず、メットーラの一族は神代竜族に仕えて各地で重責を担っているから、文化的に重要じゃない結婚ではなかなか集まれないと。
たしかにトーシーラも無理しないと参加できなかったからな。
あ、うん、ライメイレンにはもう一回、言っておくから落ち着こう。
大丈夫だ。
祝いの席だから。
メットーラのことを思っての行動だって、ライメイレンもわかってくれるよ。
ん?
ああ、両親や妹たちからは祝いの品が贈られているのね。
不仲と疑ったわけじゃないさ。
ただ、この機会にメットーラの妹たちに会っておきたいなぁと思っただけで。
それで……トーシーラ。
ずっと酒を飲んでいるけど大丈夫なのか?
祝い酒?
メットーラの結婚を阻止するのは諦めたからヤケ酒か。
違う?
祝い酒ね。
メットーラには早く子を産んでもらって、素敵な叔母として頑張るつもり?
まあ、次の目標ができたのならいいさ。
ただ、酒の飲み方には……いや、酒の量の心配はしていない。
乱暴な飲み方をしていると指導が入ると教えておこうと思ってな。
うん、混代竜族だろうが関係なく。
乱暴じゃなかったらいいんだ。
大酒飲みは歓迎されるよ。
始祖さん。
メットーラとはあまり絡みがないけど、結婚式ということで参加してくれた。
そこで聞こえた神の声。
反応がどうなるか心配だったけど……意外と冷静。
「ふふ。
神なら、なんでもいいというわけではないからね」
なるほど。
たしかにあのときの声は始祖さんが信仰する創造神ではなかった。
俺の知っている創造神と始祖さんが信仰する創造神が同じとは限らないが……声の主が創造神ではないと不思議とわかったので違うのだろう。
とすると、この神の想像図と発注書はなんなのだろう?
「声の主と思われる神の姿だよ。
声を聞いた者たちに聞き込みした結果、こういった姿ではないかと描いてみたんだ」
神の想像図は……なんと言えばいいのだろう。
清楚なんだけど、昔はやんちゃして暴れてましたみたいな女性だ。
なぜこんな想像図にと思わなくはないけど、妙にしっくりはきている。
わかった。
時間をみつけて彫っておこう。
春の畑仕事は落ち着いたけど、まだなんだかんだ忙しいからな。
ところでヴェルサはいいのか?
ずっと黒黒と一緒なんだが?
「ん?
たまには友人と語らう時間も大事だろう?
妻を縛ったりはしないさ」
へー。
「あと、彼……いまは黒黒だっけ?
まったく知らない仲じゃないしね」
そうなのか?
「ヴェルサを閉じ込める……失礼。
ヴェルサが執筆に集中できるように用意したダンジョン。
あれを作るとき、彼に手伝ってもらったんだ」
海岸のダンジョンか。
始祖さん一人で作ったのかと思った。
「さすがに一人であの大きさは無理だよ。
彼以外にもいろいろな人に手伝ってもらったと朧げな記憶ではそうなっている」
へー。
今回は披露宴で来てもらったから頼めないけど、どこかで大樹のダンジョンを見てもらおうかな。
なにかアドバイスをもらえるかもしれない。
披露宴は順調にというか……まあ、いつもの宴会のテンションで深夜に突入。
子供たちは寝るように。
大人たちも、ほどほどに。
ドラゴンたちは……暴れないように。
ハクレンやラスティに言ったんじゃないよ。
混代竜族の人たち、かなり飲んでいるみたいだから。
ん?
子供たちが寝る前に、発表?
そういえばティゼルが作っている国の名や代表を発表すると言ってたな。
この場では関係者は少ないから、王都で発表するときの予行演習みたいなものかな。
「新しい国の名とその代表をお知らせします」
魔法で大きくしたティゼルの声が披露宴の会場に届く。
「新しい国の名は“六竜神国”、その初代国王は今回の結婚式の主役、ギィーネルさん……ギィーネルさまになります!」
え?
国王を探しているとは聞いていたけど、ギィーネルがするの?
ドラゴンって、そういったことをして大丈夫なのか?
いや、混代竜族のオージェスたちは、魔王国で働いている。
国王をやっても問題はないのか。
俺が心配になって近くにいたドースたちを見ると、神代竜族たちは問題ないとの返事。
縄張りが、明確な国となるだけだと。
それに、神の後押しもあった。
神の後押し?
あ、神の声で言ってた応援するって、これのことか!
六竜神/国 の区切りで読んでいただければと思います。
命名理由は次回。




