披露宴 その一
夕方。
「ギィーネルとメットーラの結婚を祝い、乾杯!」
披露宴が始まった。
場所は村の屋敷の一階ホールと中庭。
用意された多数のテーブルの上には、大量の料理と酒が並んでいる。
席は、ギィーネルとメットーラが座る主役席だけが決められており、あとは自由。
どこに座ってもいいし、立って食べてもかまわない。
まあ、いつもの宴会と同じだ。
参加者は……結婚式に出席できなかった各村の住人も加わって、かなりの大人数になっているけど、めでたいメットーラの披露宴だから問題なし。
祝う人は多いほうがいい。
春になったばかりなので新鮮な食材が少し不足気味だが、鬼人族メイドたちの努力で料理に見劣りはない。
村の食事に慣れていない混代竜族たちは、夢中で食べている。
ただ、ギィーネルは料理に興味がありそうだが、新郎なのであまり食べるタイミングがない。
いろいろな人にお祝いの言葉をもらっているからな。
あとで食べられるよう手配しておこう。
会場の中央にそびえる……えっと、七段……いや、八段重ねのウエディングケーキは、妖精女王や子供たちが大興奮で取り囲んでいる。
試作品のケーキを何度も食べていたと思うけど、本番はまた別なのか。
一応、ケーキは新郎新婦が最初に食べるものだと言ってあるので、まだ手は出していないが……
披露宴の進行をしてくれている文官娘衆に、ケーキを早めに食べられるように頼んでおく。
あと、普段は屋敷の中庭を気ままに闊歩している鶏たち。
今回の披露宴のために中庭の端に移動してもらっているので、披露宴のあとでなにかしらのご褒美を与えないといけない。
まあ、葉野菜でいいと思うけど……
しかし、鶏たちは鬼人族メイドや獣人族の女の子たちには従順だなぁ。
俺が端に移動してくれと言っても、なかなか聞いてくれないのに。
余談ではあるが、今回の結婚式と披露宴。
ドースを代表としたドラゴンたちが費用を持つことになっている。
俺としては不要と言ったのだけど、祝いの席への支払いなので遠慮なくと返されたので、遠慮なく請求するつもりだ。
まあ、祝儀価格として相場よりかなり安くなるだろうけど。
さて。
賑やかな披露宴の会場の一角で、ヨウコとニーズがドースを相手に説明をしていた。
結婚式での神の声に関してだ。
実は神代竜族が数を揃えて咆哮するのは、神への緊急連絡、非常警報。
転じて、世界の終わり、終末世界の始まりの咆哮となる。
そういった咆哮を不用意に行わないために、神代竜族は不必要に集まるなとなっていたわけで……
代々神代竜族に言い伝えられているはずが、ドースの代では「不必要に集まるな」ぐらいしか伝わっていなかった。
「とにかく、人の姿であるなら集まっても問題はないとのことだ」
「ですが、ドラゴンの姿のときは注意してください」
ヨウコとニーズは神から連絡があって、神代竜族が警報のことを忘れているから説明に行ってほしいと言われたそうだ。
狐や蛇の神ではなく、格上の神から。
だからか、二人はちょっと疲れた顔をしている。
まあ、説明が終わったなら披露宴の食事でも楽しんでくれ。
説明を受けたドースは……
あまり気にしていなかった。
知らなかったんだし、やったものは仕方がない。
次から注意しよう。
今回は神の声が聞けてラッキー。
悪いのはちゃんと伝えなかった先祖。
そういうスタイルだった。
なので普通に酒と料理を楽しんでいた。
細かいことは気にしない。
ドースに限らず、ハクレンやラスティもそういったところがある。
つまり、神代竜族はそういった存在なのだろう。
それでいいのかな?
本人たちがそれでいいとしているので、それでいいのだろう。
今回の件、ヨウコとニーズの話では咆哮の警報を受けた神たちはびっくりして大騒ぎだったらしい。
問題にならないのだろうか?
新郎新婦を祝ってくれたし、問題はないのかもしれないが……
話は変わるが、氷の魔物。
彼は神の声が聞こえるなか、ほとんどの者が動けないのに動けていた。
なぜか?
慣れていたから。
そう、氷の魔物は、神代竜族が神を呼ぶところに何度も遭遇していた。
いつのまに?
冬、麻雀をやっているときに。
雰囲気を変え、神と交信していたらしい。
主にドース、ギラル、ドライムが。
「捨て牌から相手の手役を読む手伝いをしてもらった」
「三、五の跨ぎ捨てに対し、一の安全性と四、七の危険性の考察を……」
「細かいことを考えず、聴牌即リー、全ツッパが意外と強いときもある……とか」
神を相手に、なにを相談しているのかな。
そして氷の魔物が慣れたということは、かなりの頻度で交信したんだな?
俺は気づかなかったけど、毎回、結婚式みたいな感じになったのか?
「いや、もっと規模の小さい形です。
人の姿でしたし、こう……捨て牌に悩んでいるときに、“神よ”と助けを求めたら、向こうが応えてくれた感じで。
最初は私も驚きましたが、回数を重ねると雑談するようになりました」
氷の魔物が教えてくれる。
なるほど。
しかし、神と交信していたのなら、そのときに咆哮のことが話題にならなかったのだろうか?
まあ、神も伝わっていないとは思わなかったか。
……まてよ。
氷の魔物が慣れたのなら、ドースたちも慣れていたのでは?
あのとき、なぜ動かなかったんだ?
ギラルやドライムも。
なぜ神の声が聞こえたのかはわからないけど、なにかしらやらかしたことはわかったので、じっとしてたと。
なるほど。
これが神代竜族か。
ハクレンの一族だと、実感した。
「え?
それはないんじゃないかな?」
ハクレンからのクレームが入ったので、訂正しておく。
神代竜族の血は濃いなぁ。
ドースと雑談してわかったことだが、ドースが神と交信するきっかけになったのは五村の神社。
信仰心が増えて喜んだ神々が、交信しにくくなった聖女より交信しやすい神代竜族に応じるようになったそうだ。
ドースもドースだが、神たちも簡単に応じないでほしいものだ。
しかし、披露宴が終わったら祭壇を作って謝っておこう。
騒がしてすみませんと。
とりあえず、今は披露宴に集中。
最初の共同作業として、ギィーネルとメットーラが八段重ねのウエディングケーキに入刀する場面だった。
もちろん、そんな習慣はこっちの世界にはないので俺の入れ知恵だ。
メットーラは、共同作業の部分をかなり喜んでいたな。
入刀が終わると鬼人族メイドたちの手によってケーキが切り分けられ、披露宴にいる者たちに配られる。
妖精女王と子供たちは、こっちのケーキが大きい、あっちのケーキのほうがフルーツが多いと賑やかだ。
しかし、八段重ねとはいえ、披露宴にいる全員には渡せないのではないかと思ったら、六段重ねのウエディングケーキが四つ、登場した。
足りなくなるのは予想済みらしい。
これでお代わりすることが可能となり、妖精女王と子供たちは大喜びだった。
ケーキが嬉しいのはわかるけど、この場ではギィーネルとメットーラの結婚を喜んであげてほしいなぁ。




