春に向けての準備
万能船に関してドースとの約束部分を追記しました。(20241104)
シルキーネさんは、これまでなんどか大樹の村に来ているが、頻度は高くない。
年に一回、来るか来ないかだ。
領地経営が忙しいらしい。
しかし、最近はほぼ毎日のように来ている。
精神の療養だそうだ。
いや、迷惑とかじゃないんだ。
ただ、ここにはその精神にダメージを与えた天使族がいるのだけど、いいのかなと?
ああ、ここには孫のフラシアがいるから。
それと、村の住人に美容品の使い方を説明するためにも来ている?
そうか。
メレオの繁殖に関する交渉で、シルキーネさんの店が扱っている美容品の一部が大樹の村に譲渡されたからな。
シルキーネさんがわざわざ説明に来てくれているのか。
助かるよ。
ん?
代わりにと言うわけじゃないけど、マルビットがシルキーネさんが連れてきたメレオの飼育担当者を引き抜こうとしているから、それを止めてほしい?
あのメレオの飼育担当者、飛び膝蹴りでマルビットをダウンさせたらしいから、それで気に入ったのかな。
マルビットも意外と武闘派だ。
わかったわかった。
そう簡単に引き抜ける人じゃないだろうけど、マルビットのほうは止めておくよ。
それより、孫のフラシアがやってきたぞ。
教育の成果だな。
昔のフラシアはシルキーネのことを「ねーたん」と呼んでいたのだが、いまは「シルキーネお姉さま」になっている。
まあ、細かいことは言わない。
魔族は外見と年齢が合わないからなぁ。
物陰で見ているビーゼルは「ビーゼルじーじ」から「ビーゼルおじいさま」になって、ちょっと残念そうだが。
四村のメレオを、ビーゼルの領地にあるメレオの飼育場に輸送することになった。
四村のメレオを飼育している悪魔族の女の子は、一か月ほどメレオを村の外に出すことに賛成してくれた。
一応、条件として絶対に戻すことと、一頭ぐらいは子供が欲しいとの要望があったが、シルキーネさん側はそれを快諾。
どうやって輸送しようかの話になった。
当初はドラゴンに乗せて運ぶ案が強かったのだが、メレオがドラゴンの背に乗るのを嫌がった。
まあ、仕方がない。
飼育下にあるとはいえ、ドラゴンの怖さに抗えないのだろう。
怖くはないんだけどな。
無駄にストレスを与えるのはよろしくないので、次案の万能船で輸送することになった。
万能船は死の森から出さないとルーがドースに約束したと思ったが、約束したのは造船に関してのみ。
実はどこに行くのに使っても問題はない。
ただ、見せびらかすと造ってほしいと言われて騒ぎになるので、死の森から出さなかっただけだ。
ドースのほうもそれを理解しているので、万能船を外で使っても叱られたりはしない。
それに死の森から出さない約束があるとしても、抜け道がある。
死の森の定義が曖昧だからな。
目的地を一時的に死の森と名称すれば、約束を破ったことにはならない。
しかし、こっちは逆にドースを怒らせる。
そういう詭弁はよろしくないということだ。
約束には誠実に。
ドースたちのところにいる古の悪魔族も、そうすべきだと言っていた。
俺もそうすべきだと思う。
さて、万能船が遠出すると四村が孤立してしまうのだが、連絡は城の通信機能で可能。
四村がやってきたときの映像通信だな。
四村からしか通信は開けないが、開いたあとはなぜか双方向通信。
連絡さえ受ければ、ドラゴンたちに頑張ってもらうことで物資の輸送は可能だ。
万能船がしばらく不在でも、なんとかなるだろうと判断した。
ちなみに、ドラゴンたちに頑張ってもらう物資の輸送。
最初はハクレンかラスティに頼もうと思っていたのだけど、ヒイチロウがやりたいと手を挙げてくれたので任せることになった。
ライメイレンが監督してくれるし、グラルも同行する。
危険はないだろう。
ヒイチロウのやる気も十分。
……
問題は、物資の輸送があるかどうかだな。
万能船が遠出する前に、困らないように多めに輸送したから。
急な状況の変化でもなければ、四村が物資を求めることはないだろう。
四村で収穫した物を運ぶとしても、そのころには万能船が戻ってからだろうし……
タイミングを見計らって、なにか輸送する仕事を作ったほうがいいのかなぁ。
ライメイレンと相談しておこう。
もうすぐ春!
春!
ふふふ。
【万能農具】が活躍する季節!
待ち遠しい!
春の準備だが、普段から備えているので慌てる必要はない。
ただ、今回は春に一つ、重要なイベントがある。
結婚式と披露宴だ。
俺のではない。
メットーラの結婚式と披露宴になる。
ウルザやアルフレート、ティゼルのお世話をしてくれている混代竜族のメットーラ。
彼女はこの冬、許嫁と結婚した。
そう報告を受けている。
だから俺はドースたちに相談し、祝福の言葉と祝いの品を贈った。
だから、いまさら結婚式や披露宴をするとの話が来たときは、少しタイミングがズレているのではないかと思ったのだけど、どうもウルザたちが結婚式と披露宴をすることを勧めたらしい。
なんでも、最初は身内だけの小さい結婚式と披露宴をしたのだが、それが原因で次々とトラブルが舞い込んでいるらしい。
トラブルと言っても血生臭いものではなく、単純な色恋沙汰というか……
簡単に言えば、ウルザたちの世話をするメットーラのことが実は……という男性が、魔王国軍にそれなりにいたらしい。
そしてメットーラが結婚したとの話を聞き、相手は誰だ?
どんなやつだ?
強いのか?
と、メットーラの結婚相手と決闘騒ぎになることが数件。
魔王国軍とどこに接点がとも思うが、考えてみればウルザたちのそばには魔王国軍を率いるグラッツと一緒にいる機会が多い。
メットーラと会うこともあるか。
ちなみに決闘は、混代竜族のメットーラの結婚相手が人の姿で戦って無事に勝利している。
その様子は、メットーラから「うちの夫が凄いんですよー」と、普段からは考えられない惚気成分が多く含まれた報告書が届けられている。
この報告書、途中のセリフとかが妙にかっこいいので創作しているのではないかと思うのだけど、意外に文官娘衆たちからは好評だったりする。
なるほど。
普通の恋愛物でもいいのか。
今度、マイケルさんにそういった本を仕入れてもらおう。
内容はともかく、村に本が増えるのはいいことだ。
話を戻して。
ほかのトラブルとして、メットーラの結婚相手を心配してやってきた四頭の混代竜族の男たち。
その四頭とのあいだのトラブルは解決したのだが、その四頭の妻たちがメットーラのもとにやってきた。
妻たち曰く……
「うちの旦那をたぶらかすのは誰だぁ!」
「言い訳は不要。
拳で語りましょう」
「え?
ダンダジィ?
ダンダジィが結婚?
嘘でしょ?」
「ちょうどいい、ここで積年の恨みを晴らしてくれる!
それはそれとして結婚おめでとう!」
と、一対一での戦いが四度、行われた。
ドラゴン姿で。
詳細はメットーラの結婚相手からのシンプルな報告書で把握した。
うん、まあ、その……つまり「怖かった」ということだな。
その場から逃げなかっただけ、頑張ったと思う。
たとえ、腰が抜けて動けなかっただけだとしても。
……
こっちのトラブルはメットーラの結婚は関係ないよな?
なんにせよだ。
ウルザたちはメットーラが結婚したことをちゃんと広めて、トラブルを減らしたいらしい。
混代竜族とのトラブルは四頭で終わりだと思うが、ダンダジィを名乗っていたころの暴れっぷりを考えると、まだなにかあってもおかしくないとの判断。
自分だけ幸せになってと、怒り狂う混代竜族がいるらしい。
それらを静めるため、大樹の村で結婚式と披露宴を行いたいとのこと。
ここには竜王ドース、暗黒竜ギラルがいるからな。
二人に認められた結婚なら、どこからも文句はでないだろうと。
俺としては、メットーラにはウルザたちが世話になっているので、全面的に協力するつもりだ。
なので、この村での結婚式、披露宴の代金は俺が出す。
これぐらいはさせてもらいたい。
そして、大樹の村のみんなも協力してくれる。
と言っても、大樹の村でやるのはいつも通りの宴会なんだけどね。
結婚式っぽくするために、村の女性陣がいろいろと準備しているし、料理なんかも派手にしようと鬼人族メイドたちが試作を行っている。
ウェディングケーキの試作品には、妖精女王や子供たちが大喜びだ。
食べるのはかまわないが、本番でも同じ物がでるんだぞ。
飽きちゃわないか?
本番はもっと味がよくなっていると。
なるほどと思うけど、鬼人族メイドたちに聞こえるように言うのはやめてほしいなぁ。
ほら、やる気になってる。
メットーラの結婚式と披露宴は大樹の村だけでなく、ティゼルが国作りをしている拠点の村と王都の二か所でも大々的に行われる予定だ。
そうしてメットーラの結婚相手を紹介し、トラブルを防ぐとウルザからの手紙で連絡を受けている。
そうだな。
メットーラの結婚相手が混代竜族だとわかれば、勝負を挑む者は減るだろう。
ん?
あと、ティゼルが作っている国の名や代表をその場で発表するらしい。
おお、決まったのか。
でも、結婚式や披露宴を利用する形だけど、いいのかな?
主役のメットーラたちが納得しているならいいけど。
あとで無理を言っていないか、確認しておこう。
次回は春のお話になります。
よろしくお願いします。




