表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
880/980

メレオカーンの飼育係


 こんにちは。


 私はコリンコリン=ルーサルース。


 ルーサルース子爵家に嫁いだ魔族の女性です。


 コリンコリンとかわいらしい響きの名は子供のころは気に入っていたのですが、孫まで持つ年となると少し似合わなくなり、親しい人にはコリンと呼んでもらっています。


 コリンコリンも嫌いではないのですけどね。


 孫?


 ええ、孫からもコリンと呼ばれていますよ。


 もちろん、呼び捨てなどはさせません。


 ちゃんと、コリンお姉さまと呼ぶように教えています。



 さて、私のことを少しだけ。


 私は息子や娘たちの手がかからなくなったあたりで、仕事を求めました。


 魔族の女性は、子育てが終わると仕事をするものです。


 幸い、結婚前から知り合いであるシルキーネさま、現在はクローム伯爵夫人の誘いで、伯爵夫人の手がけるバブル商会で働けることになりました。


 それから百年ほど。


 現在はバブル商会の生産部門の一つを任されています。


 そうです。


 バブル商会の経営しているアフロディ美容品店の主力商品、メレオカーンから採取した体液を使って生産された美容品を主に取り扱っております。


 と言っても、ほぼメレオカーンの飼育係みたいなものですけどね。


 クローム伯領にある小さい森をメレオカーンの飼育場とし、そこで三十人ほどの女性の部下と一緒に十二頭のメレオカーンのお世話をしております。


 メレオカーンは体がかなり大きい魔物ですが、温厚な性格をしていますので、お世話はそれほど大変ではありません。


 また、本来なら体液の採取は難しい作業なのですが、私たちは苦労しません。


 私たちが食事を与えていることをメレオカーンたちは理解しているので、とても協力的です。


 なにも問題はありません。


 そう言えればよかったのですが……


 問題が三つほどあります。


 一つ目の問題は、私たちの飼育しているメレオカーンを狙う存在があること。


 昔、メレオカーンの体液が美容品に利用できることが有名になり、メレオカーンが乱獲された時期がありました。


 クローム伯爵夫人がメレオカーンの絶滅をうれいて保護をしたのですが、その保護したメレオカーンを狙う不届き者がいるのです。


 許せませんね。


 なのでやってきた者には、その行いを後悔するように徹底して痛めつけております。


 ええ、私たちが。


 そこらの者に負けるほど、やわな鍛え方はしておりません。


 魔族の女性は強いのです。


 ですが、いつ狙われるかわからないので、気を張り続ける必要があり、とても面倒です。


 問題です。


 二つ目の問題は、メレオカーンの繁殖ができないことです。


 保護できたメレオカーンの大半が雌だったのです。


 メレオカーンの雌はその姿が美しいことで人気があり、生け捕りにされることが多いのですが……


 雄は人気がないのでその場で討伐されます。


 温厚とはいえ、体の大きいメレオカーン。


 生け捕りは危険をともないますからね。


 あと、メレオカーンの持つ魔石はそれなりに大きいので、それを狙われたのもあるでしょう。


 私たちが保護できた唯一の雄のメレオカーンは高齢で、体液の採取は可能でしたが繁殖活動はできませんでした。


 繁殖ができないと、将来的にメレオカーンは絶滅となってしまいます。


 とても問題です。


 そして三つ目の問題。


 唯一の雄であるメレオカーンは、老衰で三十年ほど前に亡くなりました。


 残念ですが、寿命です。


 どうしようもありません。


 部下たちや雌のメレオカーンたちとともに、丁重にとむらいました。


 それから数年後。


 雌のメレオカーンたちに変化がありました。


 雌のメレオカーンたちは無気力になり、これまで出していた体液の量が減ったのです。


 無気力になった理由はわかっています。


 いままで高齢とはいえ雄の視線がありましたが、それがなくなったからです。


 そして、新たな雄との出会いが、ほぼ絶望だと理解していることです。


 どうして理解したかと?


 メレオカーンは優秀です。


 現状を把握する頭脳は持っています。


 そして、喋ることは無理でも、私たちの言葉を理解することもできます。


 雌のメレオカーンたちが雄と出会えないのじゃないかなと予想していたところに、私の部下の一人が迂闊うかつにも、野生のメレオカーンがほぼ絶滅状態であることを言ってしまったのです。


 その結果が、無気力になった雌のメレオカーンたち。


 気持ちはわからなくもないのですが、体液の採取量が年々減っているのは大きな問題です。


 このままでは絶滅する前に、体液を使った商品は販売できなくなるでしょう。


 困りました。


 そんな問題を抱えている私たちのもとに、クローム伯爵夫人が朗報ろうほうを持ち込んでくれました。


 若い雄のメレオカーンがいるという情報です。


 しかも、その若い雄のメレオカーンも、繁殖相手を探していると。


 なんたる幸運!


 まるで私たちを救うために現れた救世主!


 おっと、慌ててはいけません。


 クローム伯爵夫人、失礼ですが詐欺さぎの可能性は?


 私たちの飼育するメレオカーンの情報は秘匿ひとくし、外部にはらしていませんが、知られればそういったこちらに好都合な話でなにかしら狙ってくる可能性もあります。


 クローム伯爵からの情報?


 雄のメレオカーンを飼育しているのはクローム伯爵夫人の娘さんの嫁ぎ先だから、詐欺の可能性はない。


 ……


 失礼しました。


 ぜひとも、繁殖相手に私たちのメレオカーンを。


 なんでしたら、私も同行させていただきたく。


 ……え?


 同行には、糞尿ふんにょうまみれる覚悟が必要?


 ふっ。


 私が何人の息子や娘を育てたとお思いですか。


 糞尿ごときでひるんだりはいたしません。





 まさか自分の……げふんげふん。


 お風呂、気持ちよかったです。


 さすがクローム伯爵夫人の娘さんの嫁ぎ先。


 いろいろなところに高級品が使われていて、驚きます。


 怖そうな人は視界に入れません。


 怖いので。


 インフェルノウルフも見なかったことにします。


 怖いので。


 私の目的は雄のメレオカーンのみ。


 見せてもらいました。


 空飛ぶ船とか、浮いている城とか、いろいろと言いたいことはありますが……


 無骨な見た目!


 いぼいぼのある皮膚に、少し大きめの頭部!


 そして……クローム伯爵夫人と私はメレオカーンをひっくり返し、雄型生殖器を確認。


 間違いなく雄!


 そして若い!


 やりました。


 では、私は飼育環境の確認と飼育者の指導をします。


 クローム伯爵夫人は、繁殖のための条件交渉をお願いします。


 わかっていますね?


 メレオカーンの体液を使った商品だけでバブル商会が成り立っているわけではありませんが、現在のクローム伯派閥に所属する方々の妻やお嬢さまのお気持ちを強く繋ぎとめている大事な商品です。


 物陰で応援されているクローム伯爵の派閥で騒動を起こさないためにも、絶対に繁殖は成功させる必要があります。


 今回のような奇跡はもうありません。


 ですので、ある程度の譲歩はいいでしょう。


 繁殖後、孵化ふかした個体の半数までは譲りましょう。


 問題はメレオカーンの体液を使った商品です。


 類似品の販売は困ります。


 バブル商会の取り扱う商品より高級でも下級でも困ります。


 メレオカーンの体液を使った商品はバブル商会だけが取り扱えるのが望ましい決着です。


 クローム伯爵夫人は無能ではありません。


 見た目は子供でも、頼れる経営者です。


 理想の決着はわかっているでしょう。


 交渉経験も多く、たいていの相手なら手玉に取れます。


 ですが……今回の交渉相手は娘さんの嫁ぎ先。


 ある程度の配慮はしなければいけないでしょう。


 このあたりは私が口出せる部分ではないのでお任せします。


 頑張ってください。




 まさか交渉相手に天使族の長が出てくるなんて。


 ずるい。


 ひどい。


 クローム伯爵夫人、大丈夫ですか?


 生きてますね?


 クローム伯爵、見守っていないで伯爵夫人を抱っこして、よしよししてください。


 よしよしです。


 抱っこは強めで。


 私は交渉を引き継ぎます。


 それで交渉はどこまで……あ、これまでの記録ですか、助かり……めっちゃ押し込まれている!


 そして、この記録でわかる天使族の長の性格の悪さ!


 ええい、負けるものか!


 殴り合いならともかく、交渉なら引きませんよ!




 殴り合いにまで発展しましたが、なんとか話がまとまりました。


 ここの治癒魔法使い、優秀ですね。


 痛みはもうありません。


 天使族の長とも、ちょっとだけ仲よくなりました。


 殴りあった仲ですからね。


 ふふ。


 次はその顔に一発、入れたいものです。



 夕食をいただきました。


 冬場の食糧事情を考えて遠慮したのですが、クローム伯爵夫人の娘さんの嫁ぎ先はとても裕福だから気にしなくていいと言われたので甘えました。


 魔王さまが同席するのは予想外でしたが。


 それが気にならないぐらい、夕食は美味しかったです。




 クローム伯爵領にあるメレオカーンの飼育場に戻りました。


 私はクローム伯爵の転移魔法で移動できますが、雄のメレオカーンが体の大きさゆえに転移魔法で移動できず、ここに来るには少し時間がかかります。


 残念です。


 ですが、メレオカーンの繁殖期間は冬の終わりから春まで。


 タイミング的には悪くありません。


 あとは、こちらの受け入れ準備ですね。


 私の前には、体の大きなメレオカーンの雌が十二頭、整列しています。


 私が集めました。


 素直に整列して、そわそわしていることからある程度は話を聞いていますね。


 そうです。


 雄が来ます。


 若い雄です。


 はい、ざわつかない!


 話を続けますよ。


 向こうは繁殖に前向きです。


 だから、ざわつかない!


 もう話をやめますよ。


 ……そうです、静かに聞いてください。


 いいですか、向こうは遅くても二十日ぐらいでこちらに来るそうです。


 早ければ明日にでも到着が可能だそうです。


 なので十日後ぐらい……春になったら来ると考えてください。


 わかりますね。


 時間がありません。


 まず、ほぼ放置状態の縄張りをなんとかしてください。


 ゴミだらけですよね。


 水が溜まっているところもありますし。


 そんな場所で繁殖活動などできません。


 なんとかしてください。


 そして、体調の管理。


 肌荒れが酷いのに、放置していましたよね。


 とくにジョセフィーヌは偏食へんしょくが酷く、肌の色もくすんでいます。


 透明になって隠れても無駄ですよ。


 デジレ、マリーも隠れない!


 体液の無駄使いです!


 それより、自覚があるなら肌をみがきなさい!


 あと、雄を誘惑するためのダンスはちゃんと覚えていますか?


 踊れますか?


 全員、目をそらさない!


 本能に関わる部分でしょう!


 なんとかならないのですか?


 いえ、なんとかしなさい。


 向こうのやる気を増せとまでは言いません、向こうのやる気をがない程度には踊れるように。


 ……


 たしかに私は踊りを知っていますが、それをここで私に踊れと?


 見本が欲しいという気持ちはわかりますが……


 わかりました。


 貴女たちのためです。


 踊りましょう。


 ですが私にそこまでさせるのです。


 繁殖は絶対に成功させるのですよ!




 私の名はコリンコリン=ルーサルース。


 バブル商会で働くメレオカーンの飼育係です。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

コリンコリン=ルーサルース(ルーサルース子爵夫人)


バブル商会     会頭補佐(会頭はシルキーネ)

          クローム伯爵領特殊美容品(メレオカーン関連商品)生産部門 部門長


アフロディ美容品店 クローム伯領店店長補佐(実質店長だけど、店に常駐できないので補佐)


アポロ美容品店   特別顧問


アテネス美容品店  相談役(第二席)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

シルキーネの商会を実際に動かしている人だけど、本人的にはメレオカーンの飼育係の感覚。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
武闘会戦士の部優勝経験者であるキアービットの 母親に向けてはいけない全力の攻撃をかわして おちょくりながら反撃するマルビットと殴り会えるとか 並の盗賊なら勝てないわな。
この話めっちゃ好き笑 マルビットと殴り合えるなら騎士の部候補で武闘会に招待して欲しい笑
これで交渉が失敗に終われば、まさにバブル崩壊ダネ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ