カメレオンみたいな魔物の体液
四村のカメレオンみたいな魔物の体液を使い、透明になるマントが完成した。
マントを被ると、周囲から見えなくなる。
すごいマントだ。
欠点は、完全にマントを被ってしまうと外部の様子が見えないこと。
マントの内側を透明素材にしても、外部は見えなかった。
内部に光がないと見えないらしい。
向こう側が透けて見えるから同化ではなく透明だと思っていたが、実は高度な同化なのだろうか?
魔法、凄いというやつか。
しかし、完全に被れないとなると透明になるマントの効果は半減ではなかろうか?
「そのあたりを改良しようと思えばできないこともないけど……悪人の手に渡ると危ないから、このままかな」
……なるほど。
たしかに、透明になるマントは悪用できてしまうな。
量産するなら、しっかりと管理しないといけない。
……
量産するほど、需要があるだろうか?
透明になるマントを使って行動するには、頭もしくは目元部分を露出しないといけない。
逆に目立たないか?
「使い方次第よ」
パーティーとかで、頭だけ出して浮遊する頭部みたいな?
「それも面白いかもしれないけど、そうじゃなくて。
例えば誰かと戦うとき、普通のマントでも体の動きは隠せるけど、透明になるマントだったらマントの動き自体が隠せるでしょ」
頭以外の動きを隠せるのか。
「そう。
それに持っている武器も直前まで隠せるし」
なるほど。
「それにこの体液、匂いを抑える効果もあるみたいだから、包まってしまえば犬とかの追跡から逃れやすくなるわ」
そうなのか。
俺は近くにいるクロの子供に聞いてみると、たしかに匂いが薄くなるそうだ。
なるほどなるほど。
「この透明になるマントは数着用意して、リアたちにでも検証してもらいましょう」
そうだな。
森で狩りをするときにでも使ってもらおう。
カメレオンみたいな魔物のことも、少しわかった。
種族名はメレオカーン。
体長は雄雌ともに五メートルぐらいが最大。
透明になって待ち伏せして狩りをする魔物だ。
やっかいだが、その体液を求めて乱獲された過去があるらしい。
やはり透明になれるのは便利だからな。
「そうじゃなくて、この体液。
美容効果があるのよ」
ルーが説明してくれる。
「さっきも言ったけど、この体液は匂いを抑えてくれるの。
私は使わなくても変な匂いはしないけど」
そ、そうだな。
「体液をこっちの化粧液に混ぜて使うと、シミがとれるわ。
私にはシミなんてないけどね」
へー。
「こっちのパウダーに混ぜて使うと、肌に張りがでるわね。
私は使わなくても肌に十分な張りがあるわ」
へ、へー。
「浴槽に数滴落として入るだけで、ムダ毛が目立たなくなるわ。
私にはムダ毛なんてないけど」
えーっと。
うん。
撤退。
女子の美容関係の話に、口を出してはいけない。
「待って」
肩を掴まれ、撤退が阻止された。
「それで、この体液を一日にどれだけ採取していいのかしら?」
え?
「四村の独占はよくないと思うの」
そ、そ、そうだな。
独占はよくない。
わかった。
カメレオンみたいな魔物と相談して、採取量を考えよう。
「なるべく急いでね」
わ、わかった。
「それとだけど……」
まだなにか?
「あの魔物、乱獲されて絶滅っぽい状態になったけど、生き残ってるわよ」
そうなのか?
「ええ。
王族とかお金持ちとかが飼育しているわ」
王族?
お金持ち?
「美容効果があるから」
あー、なるほど。
それなら、ゴロウン商会に言えば手に入るかな。
カメレオンのような魔物の嫁。
いや、ゴロウン商会で飼育しているかもしれない。
期待したい。
マイケルさんが五村に来たとの話を聞いたので、会いに行ってカメレオンのような魔物メレオカーンの嫁探しを頼んでみる。
「残念ながら、メレオカーンはゴロウン商会では取り扱っておりません。
ですが、飼育している方を知っております」
おおっ!
交渉は可能か?
「私よりも村長から言ったほうが早いかと」
?
「飼育しているのはクローム伯……ビーゼルさまの奥さまであるシルキーネさまですので」
ビーゼルの奥さん?
つまり、フラウの母親?
「はい。
何頭か飼育しているはずです。
シルキーネさまの持つ商会で、メレオカーンの体液を利用した商品をいくつか取り扱っておりますので」
へー、そうなんだ。
フラウに聞けば早かったな。
「そうですね。
お力になれず、申し訳ありません」
いやいや、情報をもらえただけ助かったよ。
「いえいえ。
それでですね……その、メレオカーンが増えた際の体液の販売に関して」
あはは。
悪いけど、それはシルキーネさんとの交渉に絡むから。
シルキーネさんがメレオカーンの体液を商売で使っているなら、譲ってもらえる可能性は低い。
運よく繁殖を成功させているなら譲ってもらえるかもしれないけど、その場合でも商品化はしないようにとか制限をかけてくる可能性がある。
「そうですか……」
マイケルさんが交渉してくれるなら前向きに考えるけど。
「ははは。
あそこと交渉するのは、私では力不足です」
ゴロウン商会の会頭で力不足?
「ジャンルが違うと言えばいいですかね。
ゴロウン商会も美容関連の商品は取り扱っていますが、あそこは美容の最高峰みたいなところでして」
へー。
「金より美、というコンセプトを理解しているつもりなのですが、どうしても字面だけの理解のようでして。
本質を理解できていないと、交渉を断られているのです」
男性だからとは言いたくないが、美への追求は理解しにくい面があるのはたしかだ。
だったら、美に理解のある女性の従業員に交渉に行かせるのは?
「伯爵夫人の手がける商会への交渉に行かせていいほどの者は少なく。
客として商品を買いに行くのも厳しい状況です」
あれ?
一般販売してないの?
「値段が凄いので、ほぼ貴族専門みたいなものです」
なるほど。
しかし、お金で解決できるなら……
「そのうえで、取引はシルキーネさまの気に入った者とだけするという形でして」
お金で解決できないのか。
「あそこの美容関連の商品は、クローム伯の派閥をまとめる重要な贈答品にもなっていまして」
むう。
交渉、難しそうだな。
ま、まあ、ビーゼルやフラウに話を聞いてから、シルキーネさんと話をする場を作ろう。




