四村の生活スタイルの変化
●登場人物紹介
ベル 四村に住むマーキュリー種の代表。
もうそろそろ春になってもいいと思うのだけど、まだ冬が続く気配。
そんなふうに俺が思っても、春になるときは突然だからなぁ。
ニュニュダフネに聞くのが確実だ。
「もうちょっと冬」
うむ。
浮遊庭園による土地の拡張により畑面積が大きくなった四村。
大きくなる前から、四村では冬もそれなりに農作業をしている。
四村は魔法のフィールドに囲まれ、常に安定した環境なのでビニールハウスみたいなものだ。
まあ、ビニールハウスの中ほど暖かくはないので常夏ではないけど。
常春ぐらいの環境かな。
この四村で、ちょっとした問題が二つあった。
一つは水問題。
浮遊庭園の一部を貯水用の水槽仕様にしているのだが、予想よりも減りが早いらしい。
減りが早いと言っても今すぐ枯渇するほどではない。
ただ、数年に一回ぐらい給水すれば大丈夫かなと考えていたのに、年に二~三回の給水が必要となりそうなぐらいだ。
拡張した畑での水の消費量が多かったのだろうか?
「いえ、畑で使う水は計算内で収まっています。
水不足の原因は生活スタイルの変化です」
四村に確認に来た俺に、ベルが説明してくれる。
「城の部屋で暮らしていた悪魔族や夢魔族ですが、浮遊庭園によって家を持つことができました」
うん、それは俺も推奨した。
城内は狭くないが、部屋の中での集団生活では窮屈なことも多いだろうから。
希望者には家を用意した。
「それなりの数が城から出て家を持ちましたが、半数は城に残りました」
住む場所の変化は、なかなか受け入れられないからな。
仕方がない部分だ。
「家を持った者と、持たない者で格差がありますよね?」
そうだな。
しかし、そのあたりは四村の村長代行のクズデンや夢魔族の取りまとめ役が調整しているんじゃないのか?
ベルやゴウも頑張ってくれたと聞いている。
「はい。
調整しました。
その一環として残った者たちの生活向上を考え、城内の浴場を開放しました」
浴場?
そんなのがあったんだ。
「四村……太陽城は本来、王族の別邸ですので」
浴場ぐらいはあって当然か。
しかし、四村を見回ったときに見覚えがないが……
「これまでは畑になっていましたので」
あー、なるほど。
浮遊庭園で土地が増えたから、城内にあった畑を適度に移動させたんだった。
それで浴場が復活したと。
ああ、その浴場が水不足の原因か?
「大きな一因です。
当初は五日に一回ぐらいの使用を考えていたのですが、悪魔族も夢魔族も浴場を気に入り、ほぼ毎日使用しています。
とくに夢魔族は本来の奇麗好きを発揮し、美貌を磨くことに力を入れています」
夢魔族って奇麗好きなんだ。
「畑仕事に影響が出ないようにはさせています」
ま、まあ、あまり厳しくしすぎないように。
「はい。
それで、浴場の件なのですが……その、別邸とはいえ、王族用なので無駄に広くて大きくて、水の消費量が大きいのです」
そうなるのか。
「そして、城内での浴場の稼働を聞いた家を持った者たちが、城外に集合浴場を造りまして……さらに水の消費量が」
家を持った者に、城内の浴場を使わせるのは難しいのか?
格差をなんとかするための浴場だからな。
「いえ、水の消費量に気づいて、城内の浴場を使ってもかまわないと知らせたのですが、城内に残った者が代わりに城外の集合浴場に行くようになってあまり効果がなく」
ふむ。
「それでですね、本人が奇麗になったら、次は衣服や住居も奇麗にしたくなりませんか?」
洗濯と掃除にも水を使うと。
「はい。
ゴウなんかは城壁の清掃をすると水を大量に使いまして……城の濾過装置を全力稼働させているのですが、どうしても水の消費量が抑えきれず」
ま、まあ、城は奇麗になったと思うぞ。
ぴかぴかだ。
それに、万能船に水槽仕様の浮遊庭園を持たせて水を運ぶことで、給水体制もなんとかなっている。
水を汲む池か湖を探すのは一苦労だけど。
同じ場所で汲み続けるのは迷惑だからな。
海水を汲んで濾過する方法もあるが、それをするには水槽仕様の浮遊庭園を増やさないといけない。
まあ、非常時のことを考えると、水槽仕様の浮遊庭園を増やしたほうが安全か。
ルーに言っておこう。
「すみません。
よろしくお願いします」
もう一つの問題。
覚えているだろうか。
太陽城が四村になったころ、悪魔族たちが総出で庇っていたトカゲ型の魔物のことを。
そう、カメレオンみたいな魔物。
あのときは小さい女の子の体で隠せるぐらいの大きさだったが、現在は全長が五メートルぐらいになっている。
急に大きくなったな。
「これも生活スタイルの変化かと」
これまでは城内の牢で飼育していたのであまり変わらなかったが、飼い主の少女が城外に出たのでそれに同行。
広い場所で飼育したことで、このサイズになったらしい。
……
なったらしい。
なったのなら仕方がない。
えーっと、問題はサイズだけかな?
「サイズはあまり問題ではありません。
問題なのは食事量です。
食べる物はありますが、その、労働もしていないのに毎日、二十人前以上を食べられるのは……」
なるほど。
四村の住人は頑張っているが、余裕があるとはまだまだ言えない状態だからな。
それじゃあ、もとの生息地に返すのはどうだ?
「私もそれがいいかなと思い、ミヨやヨウコさまに調査してもらったのですが……
どうもこの魔物、最後に目撃されたのが百年ほど前みたいなんですよね」
というと?
「ミヨとヨウコさまが調べた範囲では絶滅しているらしく、生息地と呼べる場所がありません」
おおう。
絶滅した原因は知らないが、太陽城にいたことで生き延びたということか。
たしか、この魔物。
城を攻略するために投げられた土に入っていた卵から孵化したんだよな。
ん?
問題の大きいカメレオンみたいな魔物がこっちを見ている。
爬虫類系特有の、感情がわかりにくい目だ。
だが、伝わる。
伝わってくる。
大きいカメレオンみたいな魔物の言いたいことが。
『嫁がほしいです』
…………………………………………
発情期のようだ。
えーっと、どうしたものか。
絶滅したらしい魔物を探すという難事を冒険者に頼まないと駄目かな?
『嫁がほしいです』
わかった。
頼んでやろう。
だが、あまり期待するなよ。
それと、この村にいるからにはなにかしてもらいたいのだが……
なにができる?
『わかりません。
ですが、僕の皮膚から出る体液がなにかに使えるのではないかと思います』
体液?
たしかにカメレオンの体は、少しヌメヌメしている部分がある。
その体液を少し手にとってみると……
俺の手が消えた。
え?
なにこれ?
慌てて自分の手をみると、俺の手はある。
ただ、体液が触れた場所が透明になっている。
不思議な状態だ。
ベルが慌てて水の魔法で俺の手を洗うと、もとに戻った。
……
もう一回、体液に触ってみると……
おお、消える。
洗うと元に戻る。
『僕はこの体液を使って、こう……』
カメレオンみたいな魔物は、少しずつ周囲の景色と同化……いや、透明になっている?
すごいぞ。
『ただ、長時間は無理です』
体調にもよるが、透明になっていられる時間は半日ほど。
……
半日は長時間だと思う。
あと、透明になっているときはゆっくりとしか動けないと。
なるほど。
待ち伏せで使う能力だな。
同化ではなく透明だが、カメレオンっぽい。
そして、考える。
いや、この透明になる体液の使い道のことではなく。
このカメレオンみたいな魔物の特性だ。
このカメレオンみたいな魔物の仲間が透明になれるのであれば、絶滅しているのではなくただ見つかっていないだけではなかろうか?
希望が見えた。
しかし、透明になれる生息地不明の魔物を探すのって、普通に不可能ではなかろうか?
絶望を感じる。
カメレオンみたいな魔物のパートナーを探すのは厳しい気が、ひしひしとする。
ま、まあ、マイケルさんに相談して冒険者に依頼は出してみるけど。
体液の使い道に関しては、俺じゃなく専門家に任せよう。
うん、ルーだ。
ルーに頼ってばっかりだな。
しかし、ルーなら使い道を考えてくれるだろう。
それで、このカメレオンみたいな魔物の食費を稼げることを願いたい。
「あの、透明になる体液の使い道となると、悪いことしか考えられないのですが」
俺もそうだけど、ルーならなんとかしてくれるに違いない。
うん、きっと。
遅くなりました。
なんとか更新ペースを戻していこうと思います。
よろしくお願いします。




