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閑話 五村の歩き方


 私の名はルシデル。


 魔族の女よ。


 つまらない村に生まれ、つまらない暮らしをしていたところ、運命の出会いがあったの。


 そう、ホルラン。


 隣村の工房で働いていたところを見かけて、一目惚れというやつね。


 積極的に交流して、なんとかホルランを口説くことには成功したけど、両親の説得に失敗した。


 私のところも、ホルランのところも。


 まあ、ホルランは五男だから、なにも財産を引き継げないからね。


 私の両親が反対するのはわかる。


 でも、ホルランの両親が反対するのはどうなのかしら?


 わざわざ五男に嫁ぎたいと言っているのだから、認めてくれたらいいのに。


 ホルランの兄である次男、三男、四男が結婚していないからと断られたわ。


 そして、次男はどうだと言われたけど、ホルランがいいと断った。


 それからは無為な時間が過ぎたわ。


 私がどう頑張っても、変化がない。


 ホルランも頑張ってくれたけど、手ごたえがない。


 このまま結婚できないのかと思っていたところで、村を出て行ったラングホー兄ぃから手紙が届いた。


 兄ぃは、どうやら成功したらしい。


 結婚をして、大きな家を買ったと。


 そして妻が妊娠し、家の管理がおぼつかないので手伝ってほしいと頼ってきた。


 私はこれだと思ったわ。



 私はホルランを連れ出し、兄ぃのいる五村を目指したわ。


 私の両親や、ホルランの両親にはなにも言ってない。


 どうせ言っても反対されるしね。


 家を出ていって問題ないなら、結婚を認めているはずだわ。


 一応、書き置きは残してきたけど。


 無駄に騒ぎを起こしたいわけじゃないからね。


 私の両親が納得するかどうかは別だけど、兄ぃのいる五村まで追いかけてはこないでしょ。


 村ではある程度の権力があるかもしれないけど、他所ではそうじゃないからね。


 あとは五村の村長が、私たちをやっかい者とみなければいいのだけど……


 まあ、このあたりは五村に到着してから兄ぃと相談ね。


 兄ぃはかばってくれるだろうけど、五村に迷惑をかける気はない。


 五村から出ていけと言われるなら、さっさと出ていこう。


 うん。


 ホルランと一緒なら、どこでだって生きていけるわ。




 そして私は兄ぃのいる五村に到着した。


 ……


 兄ぃの嘘吐き!


 村じゃないじゃん!


 でっかい街じゃん!


 出入りする門の審査、しっかりしてたし!


 あと、あの転移門ってなに?


 人生で一番、驚いたわ!


 でもって兄ぃの家。


 大きい、広いとは手紙に書いてあったけど、ここまで大きい家とは思わなかった。


 なにこれ?


 貴族さまのお屋敷にしては小さいけど、平民の家にしては大きすぎる。


 街の長の家?


 これ、ひょっとして兄ぃが建てたの?


 いやいや、それなら兄ぃは建てたと自慢するはず。


 となると、ほんとうに買ったのだろう。


 こんな大きな家を。


 すごい!


 そして、期待するわ。


 広い部屋を。


 部屋をもらえるって書いてあったからね。


 家では狭くてジメジメした倉庫の一角が私の部屋だったけど……


 憧れのちゃんとした部屋!


 そこにホルランといれるなら。


 ふふふふふ。


 兄ぃの奥さんがどんな人だって、仲よくやってみせるわ。


 追い出されたりするもんですか。




 私が兄ぃの家で働きだして十日ほど。


 当面は兄ぃの奥さんの手伝いだけど、兄ぃからは家政婦ハウスキーパーみたいな役割を期待されているので頑張ろうと思う。


 兄ぃの示してくれた給金に文句はないしね。


 兄ぃの奥さんはいい人だから、揉めるとかはなさそう。


 でも、家庭を守る立場だと考えると少し押しが弱いかな。


 もっと気が強くてもいいと思うのだけど、まだ結婚したてだからかもしれない。


 ホルランとも仲よくしてくれるけど、兄ぃの奥さんもホルランも必要以上に近づかないように気を使っている。


 近づくときも、できるだけ私をともなって。


 まあ、当然よね。


 変な噂が立ったら、お互いに不幸だ。


 ホルランが気を使える人でよかった。


 そのホルランも、兄ぃの紹介でそろそろ仕事を始める。


 なんでもかんでも兄ぃを頼りにしてしまうけど、それは仕方がない。


 兄ぃを頼りに来たわけだしね。


 でも、いつまでもそれじゃいけない。


 兄ぃの奥さんが無事出産して、子供が大きくなったら追い出されるかも……


 この広さの家だから大丈夫か。


 いやいや、油断は駄目。


 頑張って兄ぃに頼りにされ、追い出したくても追い出せないぐらいの存在にならないとね。



 ああ、そうそう。


 私とホルランは教会で結婚の報告は無事に終えている。


 これで私とホルランは誰がどう文句を言っても夫婦!


 やったね!


 そして、実家を黙って出てきたことを兄ぃに相談したら、いくらかのお金を家に送ってくれることになった。


 そのお金で、私のことは自由にしてやってほしいと頼んでくれるそうだ。


 ただ、実家で読み書きができるのは私だけで、その私がここにいるのだから手紙ですませることはできない。


 さらにお金がかかるが、兄ぃは文字の読める冒険者に代読を込みで依頼してくれた。


 え?


 ホルランの実家にもその冒険者は行くの?


 なにからなにまで、お手数をおかけします。


 兄ぃには頭が上がらない。


 あ、あとは五村の領主さま……領主さまじゃなかった、村長だったわね。


 その村長に私のことを伝えておくべきかなって思うのだけど……


 うん、万が一、向こうから文句が出たら村と村の喧嘩になるかもしれないじゃない。


 迷惑をかけちゃうでしょ?


 かけちゃうのかな?


 喧嘩にならないぐらいの差があるけど。


 警備の人を困らせるだけかな?


「どっちにしろ、報告はするよ。

 お前の言う通り、万が一は怖いからな」


 村長と知り合いなの?


「ははは。

 俺はそこまで偉くない。

 大工ギルドの長に頼んで、村議会に経緯を報告するだけだ」


 それで、私たちが追い出されたりは?


「それぐらいで追い出されるなら、この村の住人は半減以下だよ」


 それは安心していいのかしら?


「安心していい。

 ただし、五村の利益になるように働き、不利益になるような行為はしないように」


 もちろんよ。


 ああ、それで五村の不利益にならないようにするため、ちょっと聞きたいことがあるのだけど。


「なにをだ?」


 教会に聖女さまがいたのだけど、寄付とかしたほうがいいの?


 その場合、どれぐらいの額を納めるのが一般的?


「寄付?

 寄付は余裕があるときに、余裕のある額をすればいい。

 寄付額の多い少ないで文句を言われたりはしないさ」


 そっか。


 実家の村とは大違いね。


 で、その聖女さまが教会で新しいお菓子、団子だんごを売っていたのだけど。


「正確には教会に併設された売店だ。

 団子は人気でかなり並ばないと買えないが、結婚の報告に行ったなら特別に販売してもらえただろ?」


 うん。


 おいしかった。


「俺や妻の分まですまないな」


 いえいえ、それぐらいはお世話になっているのだから当然。


 で、団子ってなに?


 初めて食べたんだけど。


「詳しくは知らない」


 知らないのかー。


「美味いのがわかっていれば十分だろ。

 それで聞きたいことは終わりか?」


 まだまだあるわよ。


 えーっと、警備隊に剣聖がいたのだけど?


「本物だぞ」


 うん、それはわかる。


「なぜいるかって?

 いたいからだろ?

 俺やお前と一緒だ」


 そう言われると、なにも返せない。


 じゃあ、三騎士も同じなのね?


「三騎士?」


 白銀騎士シルバーナイト青銅騎士ブロンズナイト赤鉄騎士アイアンナイトの三人。


「ああ、あの三人のことか。

 同じだ。

 ここが嫌になれば、出ていくだけだろ」


 酒場で三人とその従者で飲んでいる様子をみたけど、絶対に出ていかない馴染み具合だったわよ。


「それは寂しくならなくて、いいことだな」


 元四天王の二人のおじいちゃんがいたけど……


「村の偉い人に、いろいろとアドバイスしている人たちだ。

 偉いんだぞ」


 そりゃ偉いだろうけど。


 あ、偉いといえばエルフ帝国の皇女さまもいたわね。


「元エルフ帝国の皇女さまだ。

 元を忘れるな。

 あと、皇女さまと呼ぶと嫌な顔をされるぞ」


 王姫さまは?


「そっちは嫌な顔はされないが、ユーリと呼んでくださいと言われるだろ?」


 うん、実際にそう言われた。


 だからユーリさまと呼ぼうと思ったのだけど……その……


「なにかあったのか?」


 ユーリさまの横に魔王さまがいたから。


 愛想笑いしかできなかった。


「あー、野球の試合があるからな」


 野球って、球を投げて打つスポーツよね。


 グラウンドだっけ?


 そこでやってる。


 魔王さまは、その野球のファンなの?


「いや、チームの監督をやっている」


 ……


「変な顔をするな。

 まあ、たしかにいろいろな人がいるが、お前が言った人たちは五村ではめったに暴れないから、そう怖がらなくていいぞ」


 そう言われても……


「この村。

 日によってだけど……吸血姫とか、殲滅天使とかいるぞ。

 あと、古の悪魔族とか、神代竜族とか」


 あー……


 どうりで、領主さま……じゃなくて、村長が伝説の九尾狐なわけだ。


「こらこら。

 ちゃんとヨウコさまと呼ぶように。

 あと、ヨウコさまは村長代行。

 なので代行さまでも可」


 わ、わかったわ。


 ヨウコさまで、代行さまね。


 となると、村長は別にいるのね?


「もちろんだ。

 ヨウコさまより偉いんだぞ」


 まだ見かけたことがないんだけど。


「あー、村長は希少種レアだからな。

 不定期だが、夜中に屋台を出していることがあるからタイミング次第で見ることができるぞ」


 屋台?


「美味いぞ」


 そ、そうじゃなくて……えーっと……自由なのね。


「妹よ。

 一つ、教えておく」


 な、なに?


「村長が危ないことをしていない限りは、見守る。

 村長が面白そうなことをしていたら、乗っかる。

 それが五村ここを楽しむコツだ」


 楽しむコツ。


 深く考えるなってことね。


「そうとも言う。

 できそうか?」


 だ、大丈夫よ。


 いろいろと常識が崩れたけど、なんとかするわ。


 私は胸を張ってそう返事をする。


 まだ十日ほどしか住んでいないけど、この五村はいいところよ。


 いままで住んでいた村とは比べものにならないぐらいに。


 だから、しっかりと馴染んでみせるわ。


 ああ、最後にもう一つ。


「なんだ?」


 ファイブくんって、何者?


 キレのあるステップで踊ってて、すっごい人気者だったんだけど。


「……会ったのか?」


 え?


 ええ、一緒に踊ったわ


 あと、握手してもらったわよ。


うらやましいっ!」





次回はホルラン視点で「閑話 五村の跳ね方」の予定です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
私が五村の住人だったら、毎夜ぶらぶらして大将(村長)の屋台に遭遇しようとするね。
ルシデル…えぇ子やのぅ…
ファイブくん! 知らない時に出会って一緒に踊れても、知ってからはなかなか遭遇できないのが「あるある」かも
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